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発表を終えたマクーン王子が、その体に絡みついたアイリスとともに階段を下りていく。
何が起きたのか分からず、私は茫然と立ち尽くしながら、その姿を目線で追うことしかできない。
「見てよあの情けない姿。婚約破棄されて、ようやく顔に似合った結果になったんじゃない?」
「あの容姿で、恥ずかしげもなく王子の婚約者だなんて言ってたのが笑えるわよね。王子の嫌がるお顔に気付かなかったのかしら?」
「素敵ね、アイリス様は王子にぴったりだわ。これでようやく王子の幸せを願うことができる。もっと早くに、あの女の方から婚約を取り下げるべきだったのよ」
……婚約……破棄?
思考がままならない中で、口元を隠しながら私をこけ下す令嬢たちの言葉の中から、今の状況にふさわしい言葉が頭の中に浮かんでくる。
……なぜ……私が?
そんなのは簡単だ。私が醜いから。
王妃の役割には、次代の王や王女を産むことも含まれる。
愛されなければ、王妃としては不十分ということなのだろう。
……お父様は……この婚約破棄に納得しているの?
いや、それはないだろう。
お父様は今日、私を笑顔で送り出してくれたから。
……陛下は……この婚約破棄をご存じなのかしら?
真っ白なキャンバスに、疑問ばかり浮かぶ。
その答えを自分で推測しているのだからおかしな話だ。
でも、納得できないし、したくもない。
向こうに愛がなくても、私は愛し続けていた。
王妃として王子を支えるつもりだったし、そのための教育も受けてきた。国のために、王子のために、一生を捧げると誓っていたのに。
アイリスなんて、何もしていなかったじゃない!
容姿だけで捨てられるなんて許されるの?
そもそも、王子が私の容姿を不満に思っていたのは、今に始まったことではない。
一月前に、今日のパーティで私たちの結婚式の日程を発表すると打ち合わせもしていた。
そのときに言ってくれればよかっただけなのに。
こんな形で私を虐げる必要があった?
私……今まで我慢していたのね。
自分の中に、これほどの怒りが隠れていたなんて知らなかった。
「もう、終わりね」
一人、取り残された階段の上で、うつむきながら呟く。
何が起きたのか分からず、私は茫然と立ち尽くしながら、その姿を目線で追うことしかできない。
「見てよあの情けない姿。婚約破棄されて、ようやく顔に似合った結果になったんじゃない?」
「あの容姿で、恥ずかしげもなく王子の婚約者だなんて言ってたのが笑えるわよね。王子の嫌がるお顔に気付かなかったのかしら?」
「素敵ね、アイリス様は王子にぴったりだわ。これでようやく王子の幸せを願うことができる。もっと早くに、あの女の方から婚約を取り下げるべきだったのよ」
……婚約……破棄?
思考がままならない中で、口元を隠しながら私をこけ下す令嬢たちの言葉の中から、今の状況にふさわしい言葉が頭の中に浮かんでくる。
……なぜ……私が?
そんなのは簡単だ。私が醜いから。
王妃の役割には、次代の王や王女を産むことも含まれる。
愛されなければ、王妃としては不十分ということなのだろう。
……お父様は……この婚約破棄に納得しているの?
いや、それはないだろう。
お父様は今日、私を笑顔で送り出してくれたから。
……陛下は……この婚約破棄をご存じなのかしら?
真っ白なキャンバスに、疑問ばかり浮かぶ。
その答えを自分で推測しているのだからおかしな話だ。
でも、納得できないし、したくもない。
向こうに愛がなくても、私は愛し続けていた。
王妃として王子を支えるつもりだったし、そのための教育も受けてきた。国のために、王子のために、一生を捧げると誓っていたのに。
アイリスなんて、何もしていなかったじゃない!
容姿だけで捨てられるなんて許されるの?
そもそも、王子が私の容姿を不満に思っていたのは、今に始まったことではない。
一月前に、今日のパーティで私たちの結婚式の日程を発表すると打ち合わせもしていた。
そのときに言ってくれればよかっただけなのに。
こんな形で私を虐げる必要があった?
私……今まで我慢していたのね。
自分の中に、これほどの怒りが隠れていたなんて知らなかった。
「もう、終わりね」
一人、取り残された階段の上で、うつむきながら呟く。
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