とある転生令嬢の憂鬱

すずまる

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∽Ⅰ∽

初めてのお支度

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 アリアナが正式に王太子クリストファーの婚約者となって2週間ほど経ったある日、アリアナ付きの侍女が慌ただしく部屋へとやってきた。

「アリアナお嬢様!大変でございます!しょっ、招待状が届いております~!」

 普通に考えると貴族の娘なら大体11~13歳頃にデビュタントも済ませており、アリアナも12歳とそこそこ早めにデビュタントを済ませていたためお茶会はもちろん夜会にも何度か参加したこともあるのだからそこまで慌てる出来事ではないはずである。しかし届いた招待状の封筒に押されていた紋が王家のものだった為にアリアナを幼い頃から知っている侍女たちにとっては天変地異の前触れかとも思えるほどの衝撃を受けていたのだ。

「なんか、クリストファー殿下の婚約者として王妃殿下主催のお茶会に出席するように…ですって」

 アリアナが内容を伝えるとその場にいた侍女はキャーと歓喜とも悲鳴とも判らないような声を上げ、その声に廊下で掃除をしていたハウスメイドが何事かと近くにいた男性使用人を伴って部屋へと確認に来て、そこから事情を知った二人が屋敷中の使用人達に話を広めるまでに半日とかからなかった。

「なんだかみんな大袈裟じゃない?王太子の婚約者になったんだからこれからもこんなことはよくあるでしょう?」

 そうアリアナは言うのだが使用人達は一様に「お嬢様が王太子妃となるに相応しい、素晴らしい淑女であることは私達もよ~く解っております。しかし!お嬢様は一度想定外の事が起こったり自分が失敗やらかしたと思った瞬間から周りが見えなくなりご自分の中でどんどん最悪な事態を想像して落ち込んで帰って来るではありませんか!」などと言い切る。アリアナ自身はそこまで酷い状態にはなってないと思っているだけに使用人達が心配をしているということには思い至っていなかった。

*-=-*-=-*-=-*-=-*

 お茶会の数日前に王太子名義でドレスと宝飾品が届き、それと一緒に数名のメイドが派遣されてきた。彼女たちは王宮で働く針子達なのだそうで、贈られたドレスの微調整と共にアリアナのサイズを測りに来たらしい。それはもう頭の先から足の先まで全ての寸法を事細かく測られた。

「ぇ?頭?なんで……」
「アリアナ様はいずれ王太子妃となられるお方ですので、お帽子以外にも公式の場ではティアラなどを身に着けて頂くこともございます。時にはお迎えする外国の方の装いに合わせて頭に飾りをつける場合もございますので髪を下ろした状態と結い上げた状態での採寸が必要となっております」

「手首?腕輪なら大体のサイズでいいんじゃ……?」
「こちらはドレスや腕輪のみならず手袋や袖口の飾りのボリュームを決めるときにも必要となります。またやはり外国の中には手首にピッチリとした腕輪を着ける国もあり「ぁ、解りました……お願いします」」

「あ!?足首!?!?もしかして足首に飾りをつける国もあるのかしら?」
「仰る通りでございます。これらは同じ南方の国にある小国の文化ですので、少なくともわたくしが王家に仕えるようになってからは使ったことはございません。それでも『もしも』の時に慌てることのないようにしておくことも王族としての、また私達王家に仕える者としての義務だと思っております」
「……そうですね。たしか南方の小国ではあるけれど国同士の繋がりが深く大国に負けないくらいの豊かさを誇っていたと記憶しています。まぁ、私が読んだことのある書物にあったのは貴族の生活やファッションとは関係ないようなものだから装飾品の事までは知らなかったけど……」

 アリアナがそう言うとそれまで澄ました顔しか見せていなかった長と思われる女性が少し目を見開き口角を上げた。

「アリアナ様はお噂に違わず本当に博識でいらっしゃるのですね。大抵の貴族の方達…特に政治には関わらないような女性やお子様方は南方にあるのが小国だとは知っていても近隣諸国との結びつきの深さを理解していない方も多く、人によっては小国の文化など蔑ろにしてもいいと思っているような方もいらっしゃいますのに。アリアナ様は正しく諸国を理解されており、またその地の文化にも理解を示そうとなさってくださる……本当にこんなにも素晴らしいご令嬢をお迎えすることになり王家も安泰でございましょう」

 褒めすぎだ。アリアナとしてはそう思うものの、折角褒めてくれているのだし、何よりきっとこの女性は針子だけでなく王宮での女性使用人の全てをまとめている立場にあるのだろうと判る気品があるため、謙遜しすぎるのは逆に失礼に当たるだろうと思い曖昧に微笑み礼を返すだけにとどめた。
 勿論その場にいたアリアナ付きの侍女達は鼻高々で頷いており、それらを目の端に止めた王宮から派遣された者達はアリアナがいかにに使用人達にも慕われているかを感じ、結果アリアナは王宮内でも更なる評価を得ることになるのだが、当然のことながらアリアナは一切気付くことがないのであった。
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