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― 参 ― ふたりのこども
ふたりのこども
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結婚して一年と少しした頃に産まれた息子のアルフレッドももう3歳。今、私のお腹には2人目の子供が育っています。
アルが言うにはこの子は『可愛い妹』なのだそうです。
それって願望なのかしらと思って「妹が欲しいの?」と聞いてみると
「ううん、ぼくはほんとはおとーとがいいんだけどこのなかにいるのはいもーとだっていってる」
と言うのです。一体誰がそう言っているんでしょう?
「ほら!いま!いまおにーちゃんっていった!」
私には聞こえません。母としてこれは聞こえるべきなんでしょうか?
デュークに話すと小さな子供には自分の妹や弟を感じる力があるとのことで、よくある現象なのだそうです。更にその話を母にすると
「あら、あなただってロレインの時もリリィの時も同じように私のお腹とお話してたわよ」
と、衝撃の事実を知らされました。
それを聞いたデュークは母に私の幼い頃の話を聞きたがり、父は「そんなの見たことがない」と言って拗ねてしまい私のお腹に向かって愚痴りはじめました。愚痴なんて胎教に良くありませんわね。もちろん早々に部屋を追い出されてしまいましたわ。
ところで私のお腹とおしゃべりをする息子には最近お気に入りの人がおりますの。
…と言っても初恋などではなく、そろそろ貴族としてのマナーを身に付けさせようと雇った年配の、私の父の教師でもあったと言うコンラード前伯爵です。
コンラード前伯爵は父が7歳になった頃に祖父が見つけてきた優秀な教師で、身分は父の方が高くはあるけれど今でも尊敬する恩師として慕っており、私達がアルに本格的な勉強を始めさせる前にマナーを教え『勉強をする』ということに慣れさせようかという話をした翌日に連れてきた人です。
私達夫婦は申し訳なさが先に立ってしまって思わず前伯爵がいらっしゃる前で父を諫めてしまいましたわ。
「お父様…どなたかを雇いたいとは話しましたが7歳で本格的な勉強を始めるまでにというまだ先のある話として言ったのですわ。コンラード前伯爵もこんなに急ではご迷惑でしょう」
父はすっかり小さくなってしまってますわね。でも仕方ないのです。我が家では母が最強、女性上位、しかも最近では私のお腹の子供に愚痴ろうとする事で叱られ慣れてしまっているのです。
「ほっほっほっ…カイン坊ちゃまは大きくなられたと思っておりましたがまだまだお小さい頃と変わりませんなぁ」
父が『坊ちゃま』と呼ばれたことで思わず吹き出しそうになったことは見なかったことにしてくださいませ。
「では小さい坊ちゃまがどうしたいかを聞いてみたら如何ですかな? 私はもう隠居して毎日暇を持て余しておりますからなぁ、今から少し一緒にお話でもさせてもらって、この爺の遊び相手になってあげてもいいと仰ったら時々こちらにお邪魔することに致しましょう」
そんなことを仰られたので息子を呼んで少し前伯爵とお話をしてもらいました。
「おじいちゃんこんどはいつくるの? うちにずっといるといいよ! うちにはおへやがいっぱいあるし、それにね、いもーともおじいちゃんのことすきだっていってる!」
コンラード前伯爵がお帰りになる頃にはアルはすっかり『おじいちゃんっ子」になっておりました。
「ほっほっほっ…アル坊っちゃまは爺とのお喋りは楽しかったですかな?」
「うん!ぼくもっとおじいちゃんとおはなししたい!」
「ほっほっほっ…ではお父様とお母様が『良いですよ』と言ってくだされば爺は明日からでも暫くお泊まりをさせてもらいましょうかねぇ」
「ホント!?やったー! ねぇとぉさま、かぁさま、いいでしょ?ぼくもっといっぱいおじいちゃんとおはなしし~た~い~!それにいもーともおじいちゃんとおはなししたいっていってるから~!」
妹の事はさておき、こんなに懐くとはおもいませんでしたわ。母はちょっと寂しいです。
「じゃあアルがはしゃぎ過ぎずにいい子でいられるならアルの部屋の近くに泊まって頂こう」
「やったー!」
でも本当にいいのかしら?
「ほっほっほっ…爺は毎日暇を持て余しておりますでな、皆様さえ宜しければ明日にでも着替えを持って引越しをしましょうぞ」
コンラード前伯爵には大変申し訳ありませんが、アルが『おじいちゃん離れ』をするまで暫く泊まっていただきましょう。
アルが言うにはこの子は『可愛い妹』なのだそうです。
それって願望なのかしらと思って「妹が欲しいの?」と聞いてみると
「ううん、ぼくはほんとはおとーとがいいんだけどこのなかにいるのはいもーとだっていってる」
と言うのです。一体誰がそう言っているんでしょう?
「ほら!いま!いまおにーちゃんっていった!」
私には聞こえません。母としてこれは聞こえるべきなんでしょうか?
デュークに話すと小さな子供には自分の妹や弟を感じる力があるとのことで、よくある現象なのだそうです。更にその話を母にすると
「あら、あなただってロレインの時もリリィの時も同じように私のお腹とお話してたわよ」
と、衝撃の事実を知らされました。
それを聞いたデュークは母に私の幼い頃の話を聞きたがり、父は「そんなの見たことがない」と言って拗ねてしまい私のお腹に向かって愚痴りはじめました。愚痴なんて胎教に良くありませんわね。もちろん早々に部屋を追い出されてしまいましたわ。
ところで私のお腹とおしゃべりをする息子には最近お気に入りの人がおりますの。
…と言っても初恋などではなく、そろそろ貴族としてのマナーを身に付けさせようと雇った年配の、私の父の教師でもあったと言うコンラード前伯爵です。
コンラード前伯爵は父が7歳になった頃に祖父が見つけてきた優秀な教師で、身分は父の方が高くはあるけれど今でも尊敬する恩師として慕っており、私達がアルに本格的な勉強を始めさせる前にマナーを教え『勉強をする』ということに慣れさせようかという話をした翌日に連れてきた人です。
私達夫婦は申し訳なさが先に立ってしまって思わず前伯爵がいらっしゃる前で父を諫めてしまいましたわ。
「お父様…どなたかを雇いたいとは話しましたが7歳で本格的な勉強を始めるまでにというまだ先のある話として言ったのですわ。コンラード前伯爵もこんなに急ではご迷惑でしょう」
父はすっかり小さくなってしまってますわね。でも仕方ないのです。我が家では母が最強、女性上位、しかも最近では私のお腹の子供に愚痴ろうとする事で叱られ慣れてしまっているのです。
「ほっほっほっ…カイン坊ちゃまは大きくなられたと思っておりましたがまだまだお小さい頃と変わりませんなぁ」
父が『坊ちゃま』と呼ばれたことで思わず吹き出しそうになったことは見なかったことにしてくださいませ。
「では小さい坊ちゃまがどうしたいかを聞いてみたら如何ですかな? 私はもう隠居して毎日暇を持て余しておりますからなぁ、今から少し一緒にお話でもさせてもらって、この爺の遊び相手になってあげてもいいと仰ったら時々こちらにお邪魔することに致しましょう」
そんなことを仰られたので息子を呼んで少し前伯爵とお話をしてもらいました。
「おじいちゃんこんどはいつくるの? うちにずっといるといいよ! うちにはおへやがいっぱいあるし、それにね、いもーともおじいちゃんのことすきだっていってる!」
コンラード前伯爵がお帰りになる頃にはアルはすっかり『おじいちゃんっ子」になっておりました。
「ほっほっほっ…アル坊っちゃまは爺とのお喋りは楽しかったですかな?」
「うん!ぼくもっとおじいちゃんとおはなししたい!」
「ほっほっほっ…ではお父様とお母様が『良いですよ』と言ってくだされば爺は明日からでも暫くお泊まりをさせてもらいましょうかねぇ」
「ホント!?やったー! ねぇとぉさま、かぁさま、いいでしょ?ぼくもっといっぱいおじいちゃんとおはなしし~た~い~!それにいもーともおじいちゃんとおはなししたいっていってるから~!」
妹の事はさておき、こんなに懐くとはおもいませんでしたわ。母はちょっと寂しいです。
「じゃあアルがはしゃぎ過ぎずにいい子でいられるならアルの部屋の近くに泊まって頂こう」
「やったー!」
でも本当にいいのかしら?
「ほっほっほっ…爺は毎日暇を持て余しておりますでな、皆様さえ宜しければ明日にでも着替えを持って引越しをしましょうぞ」
コンラード前伯爵には大変申し訳ありませんが、アルが『おじいちゃん離れ』をするまで暫く泊まっていただきましょう。
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