君しか要らない

すずまる

文字の大きさ
上 下
9 / 14
思いつきのオマケ

マルボロ侯爵夫人

しおりを挟む
「お久しぶりね!」

 賓客への挨拶を一通り終え、私は学友でもあったプライム伯爵夫人イルマさんとメリッサさんに駆け寄った。

「お久しぶりです、マルボロ侯爵夫人」

 イルマさんが挨拶の言葉を発して膝を折る。メリッサさんはその後ろで同じ様に膝を折る。メリッサさんは同じ伯爵家でもプライム家よりは家格が下になる。だから格上の者がいるこの様な時には声を出さずに挨拶をする。流石、お二人とも完璧ですわ。

「え?君は…」

 3人で話をしているとアミールとテリア様が近付いて来たけど、あら?お兄様はメリッサさんと会うのは初めてだったかしら?

「お兄様…じゃなかった、アミール。こちらは専門課程でお世話になった先輩のメリッサさんよ。

 そう紹介するとアミールお兄様は罰の悪そうな顔をしてしまった。ぇ?何なの?

「初めまして、マルボロ侯爵。メリッサ・ドゥニームと申します。ステラ・ピアニシモとは従姉妹にあたります」

 ステラ・ピアニシモって何処かで聞いたことが…?

「ステラとの縁談を断って選んだ相手は未だ学園入学前の子供だって聞いた時は『その男、バカじゃ無いの!変態だわ!』って思ったし、その選ばれた・・・・相手は他の男、しかも婚約者がいる様な男を追いかけてたしで益々あなたの事はバカだと思ってたけど…」

 ぁ、ステラってお兄様の婚約者だった公爵令嬢。そして私の過去の愚かな行為が今アミールお兄様大好きな人を貶めているんだわ……。

「でも実際に専門に編入した彼女に会う事になったらステラを選ばなかった理由もわかったし、何よりこの子スザンヌの事を可愛いと思えるようになったから…まぁ、許すわ」

 最初、メリッサさんと会った時にあまり歓迎されてないとは思ってたし、それはテリア様のことがあったからだと思ってたけどそれだけじゃなかったのね。

「あら?でもメリッサさんはたしか平民のご出身で、お家も直接的なご商売をなさってるわけじゃ無いから男爵位も無かったと仰っていませんでした?」

 従姉とは言えアミールの元婚約者は公爵位のご令嬢。という事はそのお母様も少なくとも伯爵位以上の御家門だったはず?

「うちはね、ホントは父が伯爵位を継ぐ筈だったんだけど平民で職人の母に惚れ込んで家出して私という既成事実を作った事で貴族籍から除籍、母との結婚を勝ち取ったのよ」

 何だか情報過多で理解が追いつかないわ。
 周りを見ると生まれながらの貴族であるアミールもテリア様もポカーンとされてるみたいだし、私やイルマさんがポカーンとなっても何らおかしく無いみたいね?

「えっ…と、情熱的で計画的?なお父様ですわね?」

 取り敢えず、そうは言ってみたものの……?と、メリッサさんがいつもの様に豪快に笑い出した。

「でしょ~!私なんていいダシにされちゃったわよ。それに叔母様だって、あぁ、今のピアニシモ公爵夫人ね。あの人、うちの父が平民にくだった事を利用して高位貴族の子弟に擦り寄って今の地位を獲得したし、ステラだってあなたのダンナに振られた翌週には今の旦那との婚約をもぎ取って・・・・・来たのよ。だから申し訳ないとか思う必要は全然無いわよ。それを言いたかったの」

 何というか、メリッサさんの家系の方はアグレッシブですのね。

「そう言えばメリッサさんも旦那さんとの出会いは演出したって言ってましたっけ?」

 と、イルマさん。ぇ?何それ聞きたい。

「まぁ多少ね、演出ってほどじゃ無いわよ?ただちょ~~っと出会う確率を上げて私を意識する様に仕向けただけ♡」
「そう言えば『私は押しかけ女房だ』って前に……」

 そんな話、聞きたいに決まってるわ。

「スージー、他人様ひとさまの事情を聞くなんてはしたないよ。ってもう誰が見てもわかるぐらい目がキラキラしてるね」
「あら、他人様の事情を聞きたいわけじゃありません。『恋バナ』がしたいだけだわ♡」

 そう言うとアミールはやれやれと言った感じで私を抱き寄せた。

「その楽しい『恋バナ』はこの後ゆっくりするといいよ。今日はテリア殿達には泊まってもらうつもりだったしメリッサ嬢の事も聞いてたから泊まれる様にしてあるんだからね」

 そうでした。今日はイルマさんとメリッサさんとは一晩中でもお話しできるんだわ!

「じゃあお兄様はテリア様のお相手をお願いね。その人、イルマさんが自分の傍に居ない時はめんどくさい人だから」
「「「え?」」」

 あら、つい本音が…。
 にっこり笑って誤魔化す私の横でメリッサさんは大笑いしているしイルマさんはどう言う事だと私とメリッサさんにねぇねぇと問い詰めようとして可愛いし、ホント、今日はとっても楽しいわ♡

*-=-*-=-*-=-*-=-*

 三人で夜更かしをしたために、翌日、私達が目覚めたのは昼近く。
 アミールとテリア様は既に何らかのお話を纏めたらしく、更には…

「メビウス公爵!?」

 ぇ?誰?
 ここにいて、私が知らないのにメリッサさんが知ってるって、ホント誰なの!?

「あぁスージーは初めて会うよね。オプシオン・メビウス公爵、学園での先輩で良くしてもらってたんだよ」
「初めましてスージーさん?昨日のパーティーには間に合わずにすまなかったね。アミールから君の話はよく聞かされたから初めて会った感じがしないよ」
「オプシー、僕のスージーを気安く呼ばないでくれませんか」
「いやいや、気安くって君、昔からスージースージーって話しかしてないし彼女の名前なんてスージーとしか知らないんだけど?」

 待って待って、私が初めましてなのはわかった。メビウス公爵が私を話だけでも知ってることもわかった。

「何でメリッサさんが知ってるの?」
「何でって、あぁ、言うの忘れてたっけ?ステラの今の旦那さん、メビウス公爵」

 あれ?私、疑問を口に出してたのかしら?でもそうか、ステラさんがアミールお兄様に振られた翌週にもぎ取った婚約…ぇ!?すごくない?

「やっぱりメリッサさんの血筋って何かすごいですわね…」
「いや私は全然でしょ」

 その言葉にその場にいる全員が一瞬『え?』という顔をしたのがお互いに面白かったのか気がつくと全員が声を上げて笑ってましたわ。

*-=-*-=-*-=-*-=-*

 あれから半年程経つとイルマさんから嫡男誕生の連絡が来てお祝いに行きましたのよ。

「イルマさん、テリア様も、この度はおめでとうございます」
「スザンヌ様も、ご懐妊おめでとうございます」

 そう、今は私が妊娠中なのです。

「ありがとう。なんだか妊娠してからいつも眠く感じてしまって、イルマさんはどうだった?」
「あ~わかります!身体を動かしてても眠いんですよね~。酷い時は歩いてても寝そうになるくらい…」
「そう!そうなのよ!ほんっと歩いてても眠いのに極力揺れない様にって元々揺れの少ない馬車をゆ~っくり動かしてたら馬のポクッポクッっていう長閑な蹄の音と相まって眠いのなんの…」

 そう…ここまで普通なら2~3日で着く所を10日もかけてのんびりやってきた。長距離用の中で横になれる揺れの少ない馬車で…。
 アミールが私の妊娠がわかった時にまだ新たに開発されたと発表されたばかりで金額も高く、何よりも個人向けではないこの馬車を妊娠祝いと称して買ってきた。しかも最高級のものを…。
 うん、愛されてるの。馬鹿みたいに愛されてるからなの。でも私の妊娠がわかってからの無駄遣いが激しすぎる!
 そう怒ったのは出発前。勿論馬車の乗り心地の良さにあっという間に許してしまいましたけどね。

「ねぇ、馬車留めにあった馬鹿でかいのって最近発表された長距離専用のものじゃない?何?観光客とか来るの?」

 メリッサさんと旦那さんが入ってくるなりそんな事を言う。そう…本来あの馬車は辻馬車とは別に長距離専門の営業用・・・として辻馬車の手配などを請け負う商会などが所有することを想定されていて、貴族でも旅行の際に貸し切るという程度に考えられていたものをアミールは買っちゃったのよ。
 この話をした時、メリッサさんは大笑いして旦那さんとプライム伯爵はただただ呆れているみたいだったわ。それに今日はメリッサさんの従姉のステラ様もいらっしゃったんだけど呆れて苦笑いって感じかしら…。と、ステラ様がボソッと呟いた言葉が耳に届いてしまった。

「いつか何かやらかすとは思ってたけど…まぁこの程度で済んでるし…ま、いっか」

 …え?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛
恋愛
薬師である『緑の聖女』と呼ばれたエリスは、王子に見初められ強引に連れていかれたものの、学園でも王宮でもつらく当たられていた。それなのに聖魔法を持つ侯爵令嬢が現れた途端、都合よく冤罪を着せられた上、クズ王子に純潔まで奪われてしまう。 辺境に戻されたものの、心が壊れてしまったエリス。そこへ、聖女の侍女にしたいと連絡してきたクズ王子。 後見人である領主一家に相談しようとした妹のカルナだったが…… 「エリスもカルナと一緒なら大丈夫ではないでしょうか……。カルナは14歳になったばかりであの美貌だし、コンラッド殿下はきっと気に入るはずです。ケアードのためだと言えば、あの子もエリスのようにその身を捧げてくれるでしょう」 偶然耳にした領主一家の本音。幼い頃から育ててもらったけど、もう頼れない。 カルナは姉を連れ、国を出ることを決意する。

逆ハーエンドを迎えたその後で

橘アカシ
恋愛
悪役令嬢断罪シーンで前世の記憶を取り戻したモブの俺。 乙女ゲームでいう逆ハーエンドを迎えたものの学園生活はその後も続いていくわけで。 ヒロインと攻略対象たちの甘々イチャイチャを見せつけられるのかと思いきや、なんだか不穏な空気が流れていて………

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...