君しか要らない

すずまる

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身分差のある婚約

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「あなた『身の程を弁える』ということをご存じないのかしら?」
「商人という人達は強欲で厚顔だと聞きますが本当ですのね」
「この学園の表向きの・・・・理念のなかには確かに『身分を棄てよ』という物が有りますけれどあくまでも『表向き』だと理解していらっしゃる?」
「そもそもあなたのお父様がお金の力を使ってテリア様を婚約者にと望んだのでしょう?本当にこういう方のことを『がめつい』というのかしら。下品な形容がお似合いですこと」
「あなたさえ身を引けばテリア様と愛し合っておられるスザンヌ様との婚約が直ぐにでも調いますのよ。テリア様にもご迷惑をかけている自覚はおありかしら?」
「テリア様のお役に立つお家柄でもなく見た目も……ねぇ。庶民・・である貴女に舞い込んだ、まさしく夢のような婚約おはなしですもの、本当に『幸せ』を夢見てしまうのは仕方ないことですわ。でもそろそろ目を覚まして現実に向き合うべきだと思いますわよ?」

 ここは『王立学園』と呼ばれるデビュタントを済ませた13歳から成人前――男性はだいたい18~20歳、女性は16~18歳が一般的に成人として認められる――の貴族子女が通う施設で、既にある程度の知識を身に付けた高位貴族の子女は人脈作りや婚約者候補を探す為、もしくはより専門的な知識を身につける為に通い、金銭的に余裕のなかった下位貴族の子女は家業を支える為の基本的な知識や家族としてのマナーを身に付ける為、そしてあわよくば条件の良い嫁ぎ先、婿入り先を探す為に通う通っている。勿論下位貴族の殆どは商人上がりの私のような人が多い。そんな学園内にある人気の少ない庭園のひとつ。そんな場所で私は一面識もない、明らかに伯爵家以上の方であろうご令嬢方に囲まれている。
 そして先程から私ひとりを取り囲みピーチクパーチク囀っていらっしゃるご令嬢方の話を総合するに『卑しい身分で人気者である伯爵令息の婚約者面をするなんてがめつすぎる』ということですね。まぁ商人ががめついというのは否定しませんが、しかし……。

「要するに皆様はわたくしごときがプライム伯爵令息の婚約者であることが解せぬと仰ってるのでしょうか」
「「「「そうよ!」」」」

 この国の身分制度は独特で、商人は全員が最低でも準男爵位を持っている。というか準男爵位が貴族相手に商売をしても良いという許可証明になっている。だからいくら店構えが大きく質の良い物を取り扱っていても準男爵位を持っていないと貴族がふらっと店に入ってきても只々平伏するだけで接客すらしてはいけないことになっている。けれど、衛生面や経営状況など叙爵の為の審査は厳しいのだけど一度叙爵されれば商売を続けている限りは子や孫に爵位を引き継ぐ事も出来る。だから極端な例ではあるのだけど準男爵の八百屋さんとか準男爵の飲み屋、そして引き込みの娼婦でさえ準男爵だったりするのだ。そして今、貴族のご令嬢方に責められているのは男爵令嬢の私、イルマ・クーパー。ドレスを中心に服飾雑貨を扱っているクーパー商会ウチの店は曾祖父が起こしたドレスメーカーを祖父が手伝うようになってから布や糸の輸入を始めたことで上質な物を扱うようになったことで貴族から取引をしたいとの打診をいただいた事で準男爵位を授かったと聞いています。更にお父様が服飾雑貨も扱う様になった事で王族の方からもお取引をしていただけるまでになった。
 そして私と伯爵家嫡男であるテリア・プライム様との婚約は伯爵家から当家の輸出入に係る販路や王家を含む他家との繋がりを見返りとして3年前、私が12歳、テリア様が15歳の時に結ばれたものです。そして当家にとってはただ娘が伯爵夫人になるというだけで、私個人としても不満はありませんし、むしろ初めてお会いした時から優しく穏やかなテリア様に好感が持てていて、それはいつのまにかほのかな恋心にまで育つ程でしたから私個人としては大変喜ばしい婚約ことですがハッキリ言って我が家にとっての利は殆どありません。しかもこのような言いがかり・・・・・をつけられるのですからもう解消でも破棄でもしてもらって構わないと思っているぐらいです。

「皆様のお話は理解いたしました。しかしこの婚約はあくまでも政略的なものですし、何よりたかが男爵、それも庶民と変わらない当家から解消を願い出ることなどは不可能であることもお察しいただけたらと……」
「はぁ?まさか伯爵家に望まれているなんて厚かましいことを考えてるんじゃないでしょうね」

 いやいや、私が言った『察しろ』は『そんなに言うならその愛し合っているというあなたが自分と婚約をしろと言えばいいじゃない』ってことなんだけど?愛し合ってて、しかも件のスザンヌ様はテリア様と同じ伯爵家とは言え本家は侯爵位と聞いていますもの。庶民・・の私なんかよりよっぽど王家との繋がりを作れるだろうから喜んで婚約者の挿げ替えぐらいしてくれると思うのだけど?

「いえ、ただ当家はありがたいことに高位貴族や王家ともお取引をさせていただいているので、そういった方達とプライム家との縁を結ぶお手伝いをするための契約として結ばれたような婚約ものです。なので侯爵家を本家に持つアイコス伯爵令嬢の方がより良い縁を結べるでしょうし、きっとアイコス伯爵家から婚約を打診なされば直ぐにでもわたくしとの婚約は白紙に戻されると思うのです」

 私がそう言うと先程までは吊り上がっていたスザンヌ様の目が見開かれると同時に柔らかいものに変わりましたわ。やれやれ、私の言うことをちゃんと理解してもらえたみたいですね。

「勿論わたくしも父に解消を受け入れるように、また解消後も当家の縁を利用したいとのことでしたら協力しましょうとお話させていただきますわ」

 私の言葉でその場にいるご令嬢方みなさまお顔が和やかになりましたわ。よかった、これで一安心です。
 ……と安心しきっていたらどこかから思わぬ言葉が飛んできました。
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