風の唄を紡いで歩く

猫田

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 あれは親戚達の集まりの日だった。同世代の子供たちを会わせようと皆んなで集まった事があった。名前すら追いつかない。誰か誰の子供かなんて考えると途方に暮れそうだった。居間に集まっていたのは祖父の親戚。私は両親に連れられ、遅れて来たのを思い出す。

「風が強くて船が遅れたの、今着きました」
「あら、待ってたわ、えーっと嫁ちゃん!」
「ありがとう、お邪魔します」
「晴二さんのお嫁さんよね、えーっと名前…覚えられないから嫁ちゃんね。見たらわかると思うけど人多すぎるわ」
「そうですね、一応私は康子と申します。嫁ですね、返事出来る様に努めます」
「うん、その内でいいわ。晴二は先に墓参り行くって電話あったの。私はお爺さんの姉の娘です。姉さんって呼んで頂戴ね」
「はい解りました。娘がそっち行ったのですが…」

 来て直ぐにわかるほど子供やら大人やらで、ごった返していた為母は挨拶も軽く済ませていた。そんな事も幼い私にとっては何をしているのかわからず、この家の家主である祖父の元へ向かう筈だったが昼過ぎても寝ているらしい。私は途中で少し広い廊下を見つけていた。生まれて直ぐは都会の病院近くのアパートに住んでいたため物珍しく、走り回ったのを覚えている。まるでクルクル回るメリーゴーランドの様だと後に祖父から聞いた。

「お爺ちゃん居ないねぇ、楽しいねぇ」
「うん、だぁれ?」
「私は姉さんの従姉妹、おばさんでいいわ」

 この時案内をしてくれたおばちゃんに初めて出会ったのだ。確か初めてはそれ程話した記憶がない。にっこり笑って私に手を差し出してくれた。私はその笑顔がとても良い綺麗に見えていた。それと同時に見つめられていると言う自覚が芽生え、恥ずかしくなったのを覚えている。

「お母さん、さっき居間で座ってたよ」
「うん!」
「さっきね知り合いの子がね、子供連れて来るって言ってたわ。烏丸っていうのよ」
「そうなの?」
「同い年みたいよ?」
「へえ、同い年ってなに?」
「年齢の事ね」
「はーい」

 その時は何となく返事をしていた。それよりも廊下の窓から抜けてくる海風の強さに感動し、走り回る事で身体に染み込む薫りを楽しんでいた。特に何かあるわけでもない。大人にしたら理解が出来ない事だとは自覚していた。その後振り向くとおばちゃんはいなくなっていた。足音がしていたのでみんなの居る居間に向かったのだろう。一人で納得していると、その後もまた風が吹く。髪の毛の間をスルスルと抜けて行く心地が擽ったい。すると一人、こちらを見てる男の子が見えた。廊下の先、半開きの扉の向こうから猫の玩具のようなものを持っていた。その子は私を見ると少し照れ臭そうに笑い、すぐに真顔に戻る。

「こんにちは」
「…」

 返事がない。彼はこちらをずっと見ている。その時の私には目線の先の彼に対する興味が直ぐに失せ、また風と共に回る。身体を回転させる。片足で回ってみる。そうしながら身体を動かすことの喜びを知っていった。ふと先程の扉に目を向けると誰もいなくなっていた。しかし、私の近くでバタバタと足音がした。目を向けると先程の男の子がクルクルと回っていた。私の真似をしていたのだ。

「これ結構楽しい」
「でしょう?」

 そうして奇妙なリレー大会が始まった。勝ち負けなどはない。競うものは一つ。風を如何に感じるかなのだ。まるでアニメオタクの様な事を心の中で唱えた。二人はクルクル回る。髪の毛がユラユラ揺れる。その隙間、その刹那、その空間にそよ風が流れる。私たちは心の中がつながった様に思えた。側から見ると、紛れもなくおかしな二人だ。狂った様に走り踊ると途中で動きが止まった。飽きたからでは無く、いきなり体が動かなくなった。その後目の前がゆっくりと暗くなった。動き疲れていた。
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