ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~

夜光虫

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三日目

大杉集落公民館1

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 お盆祭りが始まる夜までばっちゃの家でゆっくり過ごそうと思っていた陽向と月琉であるが、大杉の怪事件解決のために動き出す。

 昼飯を食べた後、暑い中であるが出かけることにした。歩いて大杉集落の公民館に出向く。

 公民館にはクーラーが設置されており過ごしやすい上、フリーWIFIが設置されているので、調べものには持ってこいだ。学生の二人は通信料が気になるため、ばっちゃの家で調べものするというわけにはいかなかったのだ。

「あら珍しいお客さんねぇ」
「「こんにちは」」

 自宅の冷房代を節約するためか、公民館には近所のお年寄りたちが屯していた。若い二人の来訪に、お年寄りたちは興味をそそられたようである。色々と話しかけてくる。

「あら越村さんとこのお孫さんなのねぇ」
「まあまあこんな立派なお孫さんがいて羨ましいわぁ」

 しばらくの間、お年寄りの質問攻めにあって世間話に付き合わされる二人。

「ごめんなさいね足止めさせちゃって。お勉強頑張って」
「いえいえ」

 ようやく解放された二人は、スマホをWIFIに繋ぐ。そうして大杉の怪事件について、ネット空間での情報収集を行っていく。

 今までに集めた情報は、特定の人を介した情報であった。特定の人を介した情報は、情報源による主観が大いに影響する。第三者が開示しているオープンソースの情報で検証することも重要だ。

 そう思って調べていくのだが……。

「ダメね。大したことは書かれてないわ」
「やはりか。まあそうだろうな」

 大じっちゃ、神主さん、隣家の人々、杉葉の両親――事件の当事者たちから得られた以上の情報は、残念ながらネットにはアップされていなかった。

 杉葉の死亡ニュースに関しては、当初の速報では着衣の乱れや遺体の損傷があったことから「すわ猟奇的な小児性愛者による殺人か?」とややセンセーショナルに伝えられていたものの、その後の続報で病気を苦にした自殺とわかると、事実が端的に書かれているのみとなっていた。事件性がない事件だとわかったからか、続報の扱いは極端に小さくなっていた。

 小動物の変死に関しては、ニュースにすらなっていなかった。家禽が野生動物に襲われたり、農薬等の事故により水生生物が死んだりというのは、それほど珍しい話でもないらしい。田舎あるあるニュースという感じだから、あんまり伝える価値はないと判断されたのかもしれない。

 そもそも隣家の飼い猫惨殺事件以外は警察にも通報していないという話だし、ニュースになっていないのも当然だった。

 白い幽霊の目撃談や大杉の呪いに関しては、まったくと言っていいほど情報が上がっていなかった。オカルトすぎてまともな所は取り扱わないネタなのだろう。新聞社等の信頼できるソースで取り上げている所はなかった。

 唯一、ローカルネタを扱うネット掲示板において、杉葉の幽霊に関する書き込みがあった。ただ、集落内で噂されている白い幽霊の目撃談などではなく、自殺した女の子の霊が大杉神社境内の色んな場所に夜な夜な出没する――といった風な曖昧な表現で書き込まれていた。具体的な体験談とかではなかった。

 おそらく、書き込んだのは集落の人間ではなくて、杉葉の事件のニュースを見た誰かが面白おかしく書き立てているだけにすぎないと思われた。情報とは呼べない悪戯みたいなものである。フェイクニュースと言っていいだろう。

 ネット上にアップされていた大杉集落の怪事件に関する情報はそれだけだった。

 もしやネットなら客観的な情報を色々と得られるかもと思った二人だが、成果はさっぱりだった。

「駄目だな。碌な情報がないや」
「そうね。誰も書き込んでないみたい」

 二人はスマホ画面に注視していた顔を上げると、落胆した表情で言う。

 大杉集落は限界集落。ただでさえ人口が少ない上、ネットを使いこなす若い人となると、ほとんどいない。だから集落内の情報が外の世界に漏れることがないのも当然と言えた。

 情報を伝える人間がいなければどんな情報も公にされず闇に消えていく。当事者たちが口を噤めば外に伝わることはないのだ。

「どうする月琉、いっそ思い切ってどっかの掲示板にアップでもしちゃう? 大勢の人の力を借りれば簡単に済むんじゃない?」

 そう提案する陽向だが、月琉は「うーん」と唸っていまいち乗り気でない。想像力を働かせて色々と考えているようだ。

「それも一つの手だけど……やめておこう。ばっちゃたち大杉集落の人に迷惑がかかるといけないし」
「やっぱそうよね」

 自分たちが大杉の怪事件の謎を世に発信して謎の解明に尽力してやりたい気もしてくるが、それでばっちゃの住む集落が悪目立ちするかと思うと、二人は中々踏み切れなかった。

 結局、ネットに情報をアップすることはやめ、自分たちの力だけで何とかすることにした。

「やはり人伝で情報を集めるしかないか。お盆祭りの時に聞き込みでもしてみるか」
「ええそれしかないわね」

 これ以上ネットで調べても意味はないだろう。そう見切りをつけた二人は、椅子から立ち上がると、大きく背伸びをする。

「暑い中せっかく歩いてきたけど成果なしだったわね」
「そうだな。まあでもオープンソースでは情報が得られなかった、ってことがわかっただけでも成果ありとしようぜ」

 骨折り損のくたびれ儲けだったが、二人はまあよしとした。時間がある夏休みゆえの余裕である。

「せっかくだからもう少し休んでいきましょ」
「だな。今は一番暑い時間帯だし、この中を歩いて帰るのはだるいしな。せっかくWIFI繋がってるんだし、ゲームでもしよっと」
「アンタはすぐそれねぇ。ほんとオタクなんだから」

 調べものを終えた二人は自販機で飲み物を買い、ゆっくりと過ごす。陽向は炭酸レモン飲料、月琉は缶コーヒーを飲みながら一息つく。

 飲み物も飲み終わったし、そろそろ帰ろうかといった頃、公民館にとある人物がやって来た。
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