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三日目
道路2
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「まったく月琉ったらどうかしてるわよ。自殺した女の子の家にまでお邪魔するなんて」
「まあまあ。おかげで色々と謎が解けたからよかったじゃないか。昨晩、陽向が女の子の霊を見たってオカルト話も、満更嘘じゃないってことがわかったしさ。会ったこともない女の子が夢に出てくるなんてあり得ない。もしかしたら陽向は超能力みたいなの持ってるのかもよ? 脳みそ徹底的に調べたら面白いことがわかるかもね」
「嫌よ、脳みそ弄られるだなんて」
杉葉の両親の家を辞した陽向と月琉は、やんややんやと言い合いながら、来た道を引き返していく。
「ともかく、両親の話からわかったことがある。バスの運転手が話していた自殺した女の子に纏わる噂話で、他殺説と大杉様に呪い殺された説の二つがあるけど、その二つの噂の出所はおそらくあの両親ってことだ」
月琉は得た情報を整理して述べていく。
あの両親は杉葉が自殺したとは考えていないようだ。両親と深い絆で結ばれた娘。辛くても治療を頑張ると約束した娘。その娘が約束を破り自ら死ぬなんて考えられない、と思っているらしい。
それで母親の方は娘が誰かに殺されたと思っており、父親の方は死の間際の娘の言動から大杉様に呪い殺されたのではないかと疑っているようだ。
今日会ったばかりの陽向たちにそんな話をしたくらいだ。他の集落の人間にも事あるごとに似たようなことを話しているのだろう。それで話に尾ひれなどがついて、バスの運転手まで伝わったと考えられる。
「杉葉ちゃんのお母さんの言う誰かに殺されたってのも怖いけど、お父さんの方の話はもっと怖い。大杉様に呪い殺されただなんて……」
「『たべられる。杉葉、もうすぐ大杉様にたべられるの』か。確かに意味深で不気味だな。その言葉通り、大杉の近くで彼女は首を吊って死んでしまったわけだし。まるで大杉に魅入られて命を吸われてしまったかのように……」
「ホント怖いわ……」
女の子が死の直前に残していたメッセージ。大杉様に食べられる。いったいどういう意味なのだろうか。なんとも不気味で不可解すぎる。
「杉葉ちゃんのお父さんの言う通り、本当に枯れかけた大杉様が蘇るために他者の命を吸っているのかしら……」
陽向は青ざめた表情で言う。
神樹である大杉が死の間際、祟り神となって集落に災いを齎しているとでも言うのだろうか。大じっちゃの家の鶏が死んだのも、お堀の蛙やザリガニが死んだのも、お隣さんの飼い猫が死んだのも、全部大杉様の呪いのせいなのだろうか。
昨日陽向たちが神社で見た大杉。四年前と違って弱々しくなった大杉は、昔と違ってどこか不気味でもあった。陰鬱なオーラを纏っていたようにも見えた。呪いを振りまいてもおかしくはなさそうな暗い神秘性があった。
震え声でそう語る陽向に、月琉は馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。
「馬鹿な。あり得ないよそんなオカルト話。まだ人間の犯行説の方が信じられるよ。頭のおかしな奴が小動物を殺して、杉葉ちゃんにも手をかけた。一番怪しいのはあの竹上の倅って人だ。杉葉ちゃんのお母さんも疑ってたみたいだしね」
「……そうよね。私もそう思う」
大杉の呪いが本当にあるかもと思った陽向だが、月琉の言い分が尤もだとも思った。
呪いなんて突拍子もないものではなく人間の仕業なのではないか。夢に現れた女の子は自分を殺した犯人が捕まらずにのうのうとしていることが無念で仕方なく、それで化けて出てきたのではないか。あの苦痛に歪んだ無念そうな表情から考えるとそうに違いない。
陽向はそうも思った。
「アタシ、杉葉ちゃんが伝えたいことがわかった気がする。杉葉ちゃんのお母さんの言う通り、杉葉ちゃんは殺されたのよ。あの竹上の倅って人か、もしくはそれ以外の誰かにね」
陽向は真剣な表情で言う。
「おいおい陽向、お前警察発表を疑うのかよ?」
「だって絶対にただの自殺じゃないもの。そうじゃなきゃ、杉葉ちゃんの幽霊はあんな無念そうな顔しないもの」
「おいおい、オカルト的観点から断定するなっつうの。科学捜査への冒涜だぜ?」
「何でそう言い切れるのよ。自分が現場を調べたわけでもないくせにさ。警察が何かを見落としてるって可能性だってあるわけでしょ?」
「まあ確かにそうだが……」
警察が何らかのミスを犯している可能性もある。そう言われて、確かに可能性を否定できない月琉であった。自分で実験して調べたわけでもないのだ。言い切れるわけない。
「杉葉ちゃんを成仏させるには、真犯人を捕まえるしかないの。そうじゃなきゃ、また化けて出てきておねしょしちゃうかも……」
今まで大杉の怪事件に首を突っ込むことに消極的だった陽向だが、今となっては違っていた。極めて切実な個人的理由により、調査に乗り出すことに決めたようだ。
「確かに死体から獣のDNAしか出なかったからといって、誰かの手が加わってないとは言い切れないな。殺すこと自体が目的の快楽殺人者とかだったら、体液等の証拠は残さないだろうからな。病気で弱っている幼い女の子が相手だから、力のある大人が犯人なら碌な抵抗もできないだろうし、証拠も何も残さずに殺せる可能性はあるか。田舎で人がいないから目撃者なんていないわけだし。他殺という可能性も捨てきれないか」
色々と考えた結果、月琉も殺人説に関してはあり得る話だと思ったらしい。思いついた可能性について言及していく。
「大杉様に呪い殺されるのは眉唾だとしても、殺人説はもう一度洗った方がいいのかもしれないな」
「うん。そうよね」
陽向と月琉は、明後日の朝にはこの集落を発つ。それまでに、杉葉のためにできる限りのことをしようと思ったのであった。
「まあまあ。おかげで色々と謎が解けたからよかったじゃないか。昨晩、陽向が女の子の霊を見たってオカルト話も、満更嘘じゃないってことがわかったしさ。会ったこともない女の子が夢に出てくるなんてあり得ない。もしかしたら陽向は超能力みたいなの持ってるのかもよ? 脳みそ徹底的に調べたら面白いことがわかるかもね」
「嫌よ、脳みそ弄られるだなんて」
杉葉の両親の家を辞した陽向と月琉は、やんややんやと言い合いながら、来た道を引き返していく。
「ともかく、両親の話からわかったことがある。バスの運転手が話していた自殺した女の子に纏わる噂話で、他殺説と大杉様に呪い殺された説の二つがあるけど、その二つの噂の出所はおそらくあの両親ってことだ」
月琉は得た情報を整理して述べていく。
あの両親は杉葉が自殺したとは考えていないようだ。両親と深い絆で結ばれた娘。辛くても治療を頑張ると約束した娘。その娘が約束を破り自ら死ぬなんて考えられない、と思っているらしい。
それで母親の方は娘が誰かに殺されたと思っており、父親の方は死の間際の娘の言動から大杉様に呪い殺されたのではないかと疑っているようだ。
今日会ったばかりの陽向たちにそんな話をしたくらいだ。他の集落の人間にも事あるごとに似たようなことを話しているのだろう。それで話に尾ひれなどがついて、バスの運転手まで伝わったと考えられる。
「杉葉ちゃんのお母さんの言う誰かに殺されたってのも怖いけど、お父さんの方の話はもっと怖い。大杉様に呪い殺されただなんて……」
「『たべられる。杉葉、もうすぐ大杉様にたべられるの』か。確かに意味深で不気味だな。その言葉通り、大杉の近くで彼女は首を吊って死んでしまったわけだし。まるで大杉に魅入られて命を吸われてしまったかのように……」
「ホント怖いわ……」
女の子が死の直前に残していたメッセージ。大杉様に食べられる。いったいどういう意味なのだろうか。なんとも不気味で不可解すぎる。
「杉葉ちゃんのお父さんの言う通り、本当に枯れかけた大杉様が蘇るために他者の命を吸っているのかしら……」
陽向は青ざめた表情で言う。
神樹である大杉が死の間際、祟り神となって集落に災いを齎しているとでも言うのだろうか。大じっちゃの家の鶏が死んだのも、お堀の蛙やザリガニが死んだのも、お隣さんの飼い猫が死んだのも、全部大杉様の呪いのせいなのだろうか。
昨日陽向たちが神社で見た大杉。四年前と違って弱々しくなった大杉は、昔と違ってどこか不気味でもあった。陰鬱なオーラを纏っていたようにも見えた。呪いを振りまいてもおかしくはなさそうな暗い神秘性があった。
震え声でそう語る陽向に、月琉は馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。
「馬鹿な。あり得ないよそんなオカルト話。まだ人間の犯行説の方が信じられるよ。頭のおかしな奴が小動物を殺して、杉葉ちゃんにも手をかけた。一番怪しいのはあの竹上の倅って人だ。杉葉ちゃんのお母さんも疑ってたみたいだしね」
「……そうよね。私もそう思う」
大杉の呪いが本当にあるかもと思った陽向だが、月琉の言い分が尤もだとも思った。
呪いなんて突拍子もないものではなく人間の仕業なのではないか。夢に現れた女の子は自分を殺した犯人が捕まらずにのうのうとしていることが無念で仕方なく、それで化けて出てきたのではないか。あの苦痛に歪んだ無念そうな表情から考えるとそうに違いない。
陽向はそうも思った。
「アタシ、杉葉ちゃんが伝えたいことがわかった気がする。杉葉ちゃんのお母さんの言う通り、杉葉ちゃんは殺されたのよ。あの竹上の倅って人か、もしくはそれ以外の誰かにね」
陽向は真剣な表情で言う。
「おいおい陽向、お前警察発表を疑うのかよ?」
「だって絶対にただの自殺じゃないもの。そうじゃなきゃ、杉葉ちゃんの幽霊はあんな無念そうな顔しないもの」
「おいおい、オカルト的観点から断定するなっつうの。科学捜査への冒涜だぜ?」
「何でそう言い切れるのよ。自分が現場を調べたわけでもないくせにさ。警察が何かを見落としてるって可能性だってあるわけでしょ?」
「まあ確かにそうだが……」
警察が何らかのミスを犯している可能性もある。そう言われて、確かに可能性を否定できない月琉であった。自分で実験して調べたわけでもないのだ。言い切れるわけない。
「杉葉ちゃんを成仏させるには、真犯人を捕まえるしかないの。そうじゃなきゃ、また化けて出てきておねしょしちゃうかも……」
今まで大杉の怪事件に首を突っ込むことに消極的だった陽向だが、今となっては違っていた。極めて切実な個人的理由により、調査に乗り出すことに決めたようだ。
「確かに死体から獣のDNAしか出なかったからといって、誰かの手が加わってないとは言い切れないな。殺すこと自体が目的の快楽殺人者とかだったら、体液等の証拠は残さないだろうからな。病気で弱っている幼い女の子が相手だから、力のある大人が犯人なら碌な抵抗もできないだろうし、証拠も何も残さずに殺せる可能性はあるか。田舎で人がいないから目撃者なんていないわけだし。他殺という可能性も捨てきれないか」
色々と考えた結果、月琉も殺人説に関してはあり得る話だと思ったらしい。思いついた可能性について言及していく。
「大杉様に呪い殺されるのは眉唾だとしても、殺人説はもう一度洗った方がいいのかもしれないな」
「うん。そうよね」
陽向と月琉は、明後日の朝にはこの集落を発つ。それまでに、杉葉のためにできる限りのことをしようと思ったのであった。
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https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf
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