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三日目

大杉集落共同墓地

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「月琉、蝋燭とお線香持った?」
「持った持った。ライターも持ったから行こう」

 朝飯を食べ終えた陽向と月琉は、日が高くならない内に墓参りを済ませることにした。

 今日は八月の十五日。夜には大杉神社での盆祭りがある。一番暑い時間帯は昼寝でもして休んで、それで盆祭りに備えようと思ったのだ。

「じっちゃの墓参りなんて久しぶりね」
「そうだな。四年ぶりか。ご無沙汰だな」

 ばっちゃの家に寄せてもらった際、陽向たちは必ず一度はお墓参りをしていた。

 大杉集落共同墓地に眠るじっちゃに挨拶に行くのだ。今回はお盆、それも四年ぶりというということもあって絶対に行かねばならないと考えていた。

 ばっちゃはいつも墓参りしているので、今日はやめておくとのことだった。畑仕事をやりたいらしい。ということで、二人だけで墓参りすることになった。

 二人はばっちゃの家を出て、南側畑を抜け、竹林の遊歩道を上っていく。

「ここは……」
「例の家だね」

 遊歩道を上りきって竹上さんのお宅前に出た時は、月琉も陽向も少し緊張した。

 別に誰と出会ったわけでもないのだが、少し身構えてしまったのだ。昨晩隣家であんな話を聞いたからには、どうしても意識してしまう。

 ばっちゃの家よりも古ぼけた印象のある竹上の家。ひっそりとして人が住んでいる気配はないように見えるが、昨晩花火が上がったことから人が住んでいることは確実だ。

 朝食時にさりげなく聞いたばっちゃの話では、この家には竹上の倅とその父親が住んでいるらしい。母親は随分前に亡くなったようだ。

 ばっちゃは竹上父子のことを気の良い親子だと言うが、それは人が良すぎるばっちゃの言うことなので、二人はあまり信用していなかった。

「何だか怖い気がするね……」
「まあな。お隣さんにあんなこと言われちゃバイアスかかっちまうわな」

 昨日大ばっちゃの家に向かう際もこの家を目にしたが、その時はなんとも思わなかった。だが今は凄い怖いように思える。

 警察に逮捕され精神病院に入院した人が住んでいる。大杉神社で首を吊った女の子を実は殺したのではないかとも噂される人物だ。もしかしたらお堀の事件や鶏や猫の惨殺事件にも絡んでいるのかもしれない。

 この薄暗い家の奥には、魔物が住んでいるのではないか。普通の人の感覚では理解しきれぬ人の形をした魔物が。

 そう思うと、とても気味が悪い。背中がぞくっとする。

「月琉、立ち止まってないでさっさと行こう」
「ああ」

 竹上の家の前でしばらく立ち止まった二人だが、気を取り直すと、再び歩き出した。程なくして共同墓地に到着する。

「お、結構人いるな」
「そうね。十五日でお盆真っ只中だもん。そりゃそうでしょ」

 墓地には何グループかの先客がいた。既に墓参りを済ませた人も多いらしく、花や線香で彩られた墓が多かった。

「おはようございます」
「どうもです」

 二人はすれ違う際に先客に軽く挨拶をしながら、じっちゃの墓に向かう。

「じっちゃの墓ってどこだっけ?」
「うわっ、陽向お前、忘れんなよ。最低だな」
「だって四年も来てなかったんだもん。しょうがないでしょ」
「あーあー、じっちゃ泣いてるよ。『ヒナちゃん、ワシのお墓忘れるなんて酷いや。呪ってやる』って言ってるよ」
「じっちゃはそんな器小さくないわよ」

 最後に墓参りしたのは四年前なので陽向はすっかり墓の位置を忘れていたが、月琉はしっかり覚えていた。流石は月琉である。記憶力に関しては抜群だ。

「ああここね。思い出したわ」
「仮に忘れててもこの墓を見れば一発でわかるよな」

 変わり者だったじっちゃの墓は真新しい洋風のデザインで、周囲の古ぼけた和風の墓からは浮いていた。

「じっちゃお久しぶり。ご無沙汰してごめんなさい」
「じっちゃ、陽向は相変わらず馬鹿やってるよ。そっちはどうだー?」
「うるさい月琉。馬鹿やってんのはアンタでしょ」

 二人は生きているじっちゃに語りかけるが如く、墓の前で漫才を繰り広げる。そうして墓参りを済ませた。

「うぅ、杉葉……」
「杉葉……」

 帰ろうとする陽向たちであるが、一組の若い夫婦の姿がふと目に留まった。

 二人が来る前からいて、帰ろうとしている今もずっといる。ずいぶん熱心に墓参りをしているようだ。それだけ故人に対する思いが強いのだろう。

 二人が引き返す途上に、その夫婦が祈る墓はあった。来る時はあまり気にならなかったが、今は気になる。凄い気になる。

 二人は通りすがる際、墓名を覗き見た。墓には“佐藤杉葉 享年十歳 ここに眠る”と銘記されていた。

 狭い集落ゆえ、若くして亡くなる子など多くはない。昨日のバーベキューの時の若奥さんやばっちゃの話から、大杉神社で亡くなった子は杉葉すぐはという名の女の子であるとわかっている。杉の葉っぱと書いてスグハだ。

 つまり、この墓は大杉神社で亡くなった女の子のものと見て間違いなかった。そしてこの熱心に祈る二人はその両親に違いなかった。

 そうとわかっては、月琉の病気が始まってしまう。話しかけずにはいられなくなる。

「もしかして、大杉神社で亡くなった子のご両親ですか?」

 月琉は不躾にも夫婦に尋ねていく。

 いきなり尋ねてきた月琉に対して訝るような視線をぶつける夫婦だが、次に月琉のとった行動によって絆されていく。

「大杉様の近くで献花されてるのを見つけてそれからずっと気にかかっていてたんです。大杉様の所でもお祈りさせてもらいましたが、こちらでも是非させてください。自分より若い子が亡くなるのは本当に辛いことですから」

 月琉が遺族の気持ちに寄り添いながらペラペラと喋るのを、陽向はよくそんな口が回るものだと半ば呆れる気持ちで見守っていた。

 祈りたい気持ちも嘘じゃないだろうが、どうせ大杉の事件の謎について知りたいという欲求が一番強いに決まっている。自分の願望を隠しながら自殺者遺族というセンシティブな人たちにぐいぐいと顔を突っ込んでいく月琉は、我が弟ながらサイコパスっぽい気がして、陽向は顔を強張らせた。

「杉葉ちゃん、安らかにね」
「あっ私も」

 月琉がしゃがんで熱心に祈り始めたので、それに倣い、陽向も慌てて祈り始める。

 二人の祈りが女の子の御霊に届くかは不明だが、近くにいた両親にはちゃんと届いたようだ。

「ありがとうね二人とも。杉葉のために祈ってくれて」
「本当にありがとう」

 祈り終わると、夫婦が声をかけてくる。

「良かったらお茶でもどうかな。ウチ、すぐそこなんだ」

 社交辞令なのか、旦那さんが朗らかな顔でそう提案してくれる。

 ばっちゃと同じ集落の者とはいえ、会ったばかりの人の家に上がるなんて、と思い、断ろうとした陽向だが、それよりも先に声を上げる人物がいた。言わずもがな月琉である。

「よろしいんですか? ちょうど喉が渇いていたんですよ。ではお言葉に甘えて少しだけ」

 朝ごはんを食べてきたばかりなのに喉なんて絶対に渇いてないだろうに、と思う陽向であったが、弟一人だけ放っておくわけにもいかず、渋々ついていくことにした。
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