ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~

夜光虫

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三日目

ばっちゃの家(居間4)

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 二日連続のおねしょに、月琉は何も言わなかった。虚無顔のまま淡々とおねしょ布団を運んで処理してくれた。

 その優しさが陽向には辛かった。いっそ殺してくれと思った。

「んで、また怖い夢でも見たのかよ陽向。この歳になって二日連続でおねしょなんて、極めて異常事態だぞ」

 月琉は洗濯物を手際よく干しながら、縁側でしゃがみこんで項垂れる陽向に話しかける。

「夢じゃない。出たのよ……」
「はぁ? 出たって何が?」
「女の子の幽霊よッ!」

 幽霊が出たと言う陽向に、月琉は訝るような視線を送る。オカルトを信じない月琉からすれば、当然の反応だ。

「夢だろ」
「夢じゃない! アンタはぐーすかぴーって寝てたけど! 女の子の幽霊が枕元に立って助けを求めてたのに、アンタはガン無視して寝てたけど!」
「おいおい、流石にそれはないと思うぞ。俺はそんな鈍感人間じゃないぞ。女の子が助けを求めていたら、たとえ幽霊でも華麗に助けるイケメンだぞ俺は」
「どこがよ! ガン無視してたわよ! そのせいで困った女の子がアタシん所に来て大変だったんだから! そのせいで気絶しておしっこ漏らしちゃったんだから! 全部アンタのせいよ馬鹿月琉!」
「おいおい、またおねしょを俺のせいにすんのかよ。そりゃないぜ」
「うっさい! 全部アンタのせい! 馬鹿月琉のせいなんだから!」

 全部月琉のせいということにして、陽向は自分の気持ちに折り合いをつけることにした。そうでもしなければメンタルが持たなかった。いい歳して二日連続おねしょはキツすぎた。

「二人ともぉ、喧嘩はそれくらいにしてぇ、朝飯だよぉ。飯さ食ったら墓参りさ行ってこぉい」

 軒先で言い争う二人に、ばっちゃが声をかける。

「よっしゃ飯だ飯。陽向、元気出せよ。幽霊なんていやしねーよ。きっとリアルな夢だっただけだって」
「いやいるから。あれは絶対幽霊だったから」

 幽霊なんていないと励ます月琉だが、陽向は絶対に幽霊だったと信じる。

 ともあれ話は後だ。二人はばっちゃの呼び声を合図に休戦。居間に戻った。

「――たんと食えぇ。ばっちゃ特製だぁ」

 滞在三日目。本日の朝食はばっちゃが全部作った。

 孫と共同で作るのもばっちゃ冥利に尽きるが、自分が作った手料理を食べさせてやりたいとも思ったらしい。かなり張り切ったためか品数が多い。

「うわ、美味しそう!」
「この野菜づくしのメニューを見ると、ばっちゃの家に来たって感じがするなぁ」

 食卓には煮物などの田舎料理がずらりと並んでいる。朝食にしてはずいぶんと量が多い。その分だけ、ばっちゃの愛が込められているということだ。

 陽向と月琉は、ばっちゃに感謝しながら料理を味わっていく。決して若者向けのメニューではないが、二人にとっては思い出の味。最高の味だ。

 二日連続でおねしょをしてショックを受けていた陽向だが、ばっちゃの手料理のおかげでだいぶメンタルを回復することができた。ばっちゃ様々である。
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