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二日目
大ばっちゃ大じっちゃの家
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三人は遊歩道を抜け、竹上さんの家の前の大きな道に出ると、そこからさらに上っていく。集落共同墓地を通り過ぎて、二個目の十字路を左折してしばらく歩くと、大ばっちゃの屋敷がようやく見えてきた。
やっと大ばっちゃの家に着いた。それなりの距離を歩いた気がするが、実際はそうでもない。一キロも歩いてはいないだろう。ただ急斜面であるから余計にエネルギーを消耗して、それで長距離を歩いたように感じるだけだ。
短い距離だったが、三人の額にはじんわりと汗が滲んでいた。大ばっちゃの家は金持ちなので、暑いこの時間帯、常にクーラーがフル稼働していることだろう。さっさとお邪魔させてもらうことにした。
「――まあホントお久しぶりねぇ。ヒナちゃんにツク坊。こんなに大きくなってぇ」
四年ぶりに陽向と月琉に再会した大ばっちゃは目を丸くした。ばっちゃの時と同じ反応だ。身も心も大きく成長する中学生の期間をすっ飛ばして再会したのだから当然だ。
四人はクーラーの効いた部屋で、昔話と最近の身の上話に花を咲かせる。
途中で畑仕事から戻った大ばっちゃの旦那さん(大じっちゃと陽向たちは呼んでいる)も顔を出し、五人で話したりもした。
大じっちゃも元気で変わりない様子だった。毎日毎日農作業やらあれこれに精を出しているらしい。
「大ばっちゃの家のお菓子、相変わらず美味しいわね」
「ああ高級品だろうな」
会話の合間、陽向と月琉は出されたお茶と水羊羹を味わう。お茶も羊羹も詳しいことはわからない二人だが、高級感溢れていて美味しいということだけはわかった。
五人は久方ぶりに顔を揃わせ、楽しい一時を過ごした。
「久しぶりに、動物見せてもらっていいですか?」
話も一段落したところで、月琉がそう切り出す。
動物を見せてもらう――それは、陽向たち越村一家が本家にお邪魔した際、お暇する前のいつものお決まりのパターンだ。庭で飼っている動物を見せてもらった後、その足で帰るといった感じだ。
誰が決めたというわけではないが、何度も交流を重ねている間に、自然とそういう流れが出来たのだ。幼い頃、陽向と月琉が動物を見ることをせがんだことに端を発した、両家だけの慣習である。
「ええいいわよ。ツク坊は相変わらず動物好きねぇ。爺ちゃん、アンタ、連れてってあげて」
「あぁわかった。久しぶりだなぁ、ツク坊たちを庭に案内するのは。四年ぶりかぁ。月日は早ぇもんだぁ」
陽向と月琉は、気の良さそうな大じっちゃに案内されて庭に向かう。ばっちゃは、「もう少しお茶飲んで待ってるからツク坊たちだけで行ってこい」と言うので、二人だけで行くことにした。
「ああ昔と一緒だね。鶏がいっぱいいる」
「兎もいるな。ホント懐かしいなぁ」
「二人ともぉ、久しぶりに餌でもやってくかい?」
「「ええ是非」」
大じっちゃの勧めもあり、二人は餌やりがてら動物と戯れる。
動物に餌をやる機会など、都会に住んでいるとあんまり経験できない。一羽二羽ならともかく、何羽もの鶏に餌をやるなど、動物園でもないと考えられないことだ。こういう体験をしていると、田舎に来たんだと実感できる。
「ん?」
久しぶりの餌やりを楽しんでいた二人だが、目敏い月琉は、鶏小屋のコンクリ床の一部分に黒い染みができているのを発見した。
「これ何ですか? 黒いですね。鶏糞とは違いますし」
「ああそれな……」
大じっちゃは若干言いづらそうにした後、徐に口を開いた。
「血だよ。鶏のなぁ」
血だと聞き、二人の心臓はドキンと高鳴る。その瞬間、周囲で忙しなく鳴いていたセミの声も、一瞬だけ鳴きやんだ気がした。
「血ですか?」
「ああ血だぁ。コンクリのひび割れに染みこんでよ。流しても落ちねぇんだこれがぁ」
ビビり続ける陽向とは違い、月琉は血だと聞いてもわりと平然としていた。
何故こんな所に血染みができているのか、という謎に興味を引かれ、知的好奇心が刺激されたようだった。食いつくようにして、大じっちゃに質問を重ねていく。
「ここで鶏でも絞めたんですか?」
「まさかぁ。他の鶏もいるんだ、ここでなんて絞めねぇよ」
鶏を絞めて食う。ここらへんの農家の人は未だにそういった昔ながらのことをやっている人がいる。大じっちゃもそうだ。
だから月琉は鶏を絞めたことで血染みができたと考えたのだが、大じっちゃはそうではないと首を横に振る。
では何故鶏小屋のコンクリに血染みができているのだろうか。気になった月琉は当然尋ねてみる。
「不気味な話だけどもな、三年前の夏だったか、鶏が死んでたんだぁ。首もげてな。この小屋の鶏は全滅だったぁ」
三年前の夏、この小屋で飼っていた全ての鶏の首がもげて死んでいたという。
話の内容もさることながら、気の良さそうな顔をしている大じっちゃが真面目な顔で言うと、それだけでも怖い。
「ねえ月琉、それって……」
「ああそうだな」
大じっちゃの話を聞き、陽向も月琉も思い当たる節があった。
鶏の首がもげる、飼い猫が惨殺、蛙とザリガニの変死――バスの運転手が話していた大杉集落怪事件の内の一つである。
あの話はてっきりただの与太話だと思っていた二人だが、まさかその内の一つが事実であるとは思わなかった。しかも身近な大じっちゃの家で起きていた事件だとは……衝撃である。
陽向はこれ以上話の続きを聞きたくないといった様子だったが、月琉は違った。月琉は俄然興味を引かれたようで、食いつくように大じっちゃに話を聞いていく。
「それって、大杉の怪事件のやつですよね。大杉の呪いだとか……」
月琉がバスの運転手から聞いた話をしていくと、大じっちゃは一瞬ポカンとした表情を浮かべる。その後一転、破顔した。
「まさかぁ! ツク坊たちまで婆さんみたいなこと言うとはのぉ! 大杉の悪い精霊だとか幽霊だとか、アハハハ!」
大じっちゃは大笑いし、呪いや幽霊の仕業なんかではないときっぱり否定した。
「獣だよぉ。夜中に鶏が騒いどったんじゃ。熊だと思って朝まで近寄らなかったんだが、朝に現場見たら違ったのぉ。たぶん熊じゃねえなぁ。でもいずれにしろ獣の仕業だぁ。一部は内臓食い荒らされとったからなぁ」
「でも大ばっちゃは大杉の呪いの仕業だって言ってるんですよね?」
「あぁ、夜中にトイレに立つと、庭に白い幽霊が出るとか言って、その幽霊の仕業だぁとか、わけわからんこと言っとる。ことあるごとに、『はよ神主呼べぇ!』とか騒いどるんじゃ。夜中にお巡りさん呼んだこともあったのぉ。でも幽霊なんて、ワシは一度も見たことないよぉ。たぶん認知症入っとるよぉ。困ったもんだぁ」
月琉の問いに、大じっちゃは大ばっちゃが呆けているだけだと笑う。
大じっちゃの見立てでは、鶏の不審死はオカルト的存在の仕業なんかではなく、獣の仕業らしい。だが大ばっちゃは呪いだと思っているようだ。
「白い幽霊の仕業か。まさか本当に大杉の化身が命を吸いに来たとでも言うのか?」
「ちょっと白い幽霊なんて嘘でしょ? あ、でも大ばっちゃが嘘なんてつくはずないし……ってことは本当に幽霊? ひぃいッ!」
二人はコンクリに染み込んだ黒い染みを見ながら想像する。三年前のある夏の夜、この小屋において繰り広げられていたであろう惨劇を頭の中で想像する。
悪しき大杉の化身――大鎌を持った死神のような白い幽鬼が、命を求めてふらりとこの敷地に現れた。そして今宵の哀れな生贄として、じっちゃの飼っていた鶏たちが選ばれてしまった。悪しき大杉の化身は、逃げ惑う鶏たちに慈悲もなくその凶刃を振るっていき、最後はその内臓をむしゃむしゃと食い漁った。
そんなホラー映画さながらの光景を想像して表情を凍りつかせる陽向だが、月琉はあり得ないと鼻で笑った。
「ヒナちゃん、そんな怖がるなってぇ。婆さんの戯言だよぉ。獣が犯人だってぇ」
大じっちゃは怖がる陽向を慮って笑いながら言う。
大じっちゃの言うように、獣が忍び込んできて襲った、という話の方が納得できるだろう。幽霊騒動は認知症の傾向がある大ばっちゃの見間違いによるもの。残念ながらそう思われた。
「なんだ大杉の呪いのせいじゃなかったんだ。鶏が死んだのは獣が犯人で、幽霊騒動は大ばっちゃの認知症のせいだったのねよかった――って、それはそれで問題ね。大ばっちゃ大丈夫かしら?」
「それにしても好き勝手なことを言う人がいたもんだな。話に尾ひれをつけてさ。やな感じ」
鶏変死事件の真相らしきものがわかり、陽向はすっかり恐怖心が薄れたようで、認知症の傾向があるらしい大ばっちゃへ気遣いを見せる余裕までできたようだ。月琉は好き勝手な噂を広める人々に対し毒つく。
「すみません。変なこと聞いちゃって。お話、聞かせてくださりありがとうございました」
「んだ」
飼っていた鶏が殺された話や大ばっちゃが認知症傾向にある話なんて、あんまりしたくもなかっただろう。そんな話をわざわざしてくれた大じっちゃに、二人は丁寧に礼を言った。
月琉としては、欲を言えば大杉神社で女の子が自殺した話なども本当かどうか聞きたかったが自重した。久しぶりに会った相手にそこまでずかずかと聞くことはできなかった。
「それはそうと二人とも。明日の晩の大杉神社のお盆祭りには来るんだろぉ?」
「ええお邪魔する予定ですよ」
「そっかぁ。ワシも役員で呼ばれてるからよぉ。役員テントんとこ来てくれたらぁ、甘酒たっぷり飲ましてやるからなぁ」
「ありがとうございます。お邪魔させてもらいますね」
祭りで甘酒を貰うことを約束し、二人は大じっちゃに慇懃に礼を言い、その場を後にするのだった。
やっと大ばっちゃの家に着いた。それなりの距離を歩いた気がするが、実際はそうでもない。一キロも歩いてはいないだろう。ただ急斜面であるから余計にエネルギーを消耗して、それで長距離を歩いたように感じるだけだ。
短い距離だったが、三人の額にはじんわりと汗が滲んでいた。大ばっちゃの家は金持ちなので、暑いこの時間帯、常にクーラーがフル稼働していることだろう。さっさとお邪魔させてもらうことにした。
「――まあホントお久しぶりねぇ。ヒナちゃんにツク坊。こんなに大きくなってぇ」
四年ぶりに陽向と月琉に再会した大ばっちゃは目を丸くした。ばっちゃの時と同じ反応だ。身も心も大きく成長する中学生の期間をすっ飛ばして再会したのだから当然だ。
四人はクーラーの効いた部屋で、昔話と最近の身の上話に花を咲かせる。
途中で畑仕事から戻った大ばっちゃの旦那さん(大じっちゃと陽向たちは呼んでいる)も顔を出し、五人で話したりもした。
大じっちゃも元気で変わりない様子だった。毎日毎日農作業やらあれこれに精を出しているらしい。
「大ばっちゃの家のお菓子、相変わらず美味しいわね」
「ああ高級品だろうな」
会話の合間、陽向と月琉は出されたお茶と水羊羹を味わう。お茶も羊羹も詳しいことはわからない二人だが、高級感溢れていて美味しいということだけはわかった。
五人は久方ぶりに顔を揃わせ、楽しい一時を過ごした。
「久しぶりに、動物見せてもらっていいですか?」
話も一段落したところで、月琉がそう切り出す。
動物を見せてもらう――それは、陽向たち越村一家が本家にお邪魔した際、お暇する前のいつものお決まりのパターンだ。庭で飼っている動物を見せてもらった後、その足で帰るといった感じだ。
誰が決めたというわけではないが、何度も交流を重ねている間に、自然とそういう流れが出来たのだ。幼い頃、陽向と月琉が動物を見ることをせがんだことに端を発した、両家だけの慣習である。
「ええいいわよ。ツク坊は相変わらず動物好きねぇ。爺ちゃん、アンタ、連れてってあげて」
「あぁわかった。久しぶりだなぁ、ツク坊たちを庭に案内するのは。四年ぶりかぁ。月日は早ぇもんだぁ」
陽向と月琉は、気の良さそうな大じっちゃに案内されて庭に向かう。ばっちゃは、「もう少しお茶飲んで待ってるからツク坊たちだけで行ってこい」と言うので、二人だけで行くことにした。
「ああ昔と一緒だね。鶏がいっぱいいる」
「兎もいるな。ホント懐かしいなぁ」
「二人ともぉ、久しぶりに餌でもやってくかい?」
「「ええ是非」」
大じっちゃの勧めもあり、二人は餌やりがてら動物と戯れる。
動物に餌をやる機会など、都会に住んでいるとあんまり経験できない。一羽二羽ならともかく、何羽もの鶏に餌をやるなど、動物園でもないと考えられないことだ。こういう体験をしていると、田舎に来たんだと実感できる。
「ん?」
久しぶりの餌やりを楽しんでいた二人だが、目敏い月琉は、鶏小屋のコンクリ床の一部分に黒い染みができているのを発見した。
「これ何ですか? 黒いですね。鶏糞とは違いますし」
「ああそれな……」
大じっちゃは若干言いづらそうにした後、徐に口を開いた。
「血だよ。鶏のなぁ」
血だと聞き、二人の心臓はドキンと高鳴る。その瞬間、周囲で忙しなく鳴いていたセミの声も、一瞬だけ鳴きやんだ気がした。
「血ですか?」
「ああ血だぁ。コンクリのひび割れに染みこんでよ。流しても落ちねぇんだこれがぁ」
ビビり続ける陽向とは違い、月琉は血だと聞いてもわりと平然としていた。
何故こんな所に血染みができているのか、という謎に興味を引かれ、知的好奇心が刺激されたようだった。食いつくようにして、大じっちゃに質問を重ねていく。
「ここで鶏でも絞めたんですか?」
「まさかぁ。他の鶏もいるんだ、ここでなんて絞めねぇよ」
鶏を絞めて食う。ここらへんの農家の人は未だにそういった昔ながらのことをやっている人がいる。大じっちゃもそうだ。
だから月琉は鶏を絞めたことで血染みができたと考えたのだが、大じっちゃはそうではないと首を横に振る。
では何故鶏小屋のコンクリに血染みができているのだろうか。気になった月琉は当然尋ねてみる。
「不気味な話だけどもな、三年前の夏だったか、鶏が死んでたんだぁ。首もげてな。この小屋の鶏は全滅だったぁ」
三年前の夏、この小屋で飼っていた全ての鶏の首がもげて死んでいたという。
話の内容もさることながら、気の良さそうな顔をしている大じっちゃが真面目な顔で言うと、それだけでも怖い。
「ねえ月琉、それって……」
「ああそうだな」
大じっちゃの話を聞き、陽向も月琉も思い当たる節があった。
鶏の首がもげる、飼い猫が惨殺、蛙とザリガニの変死――バスの運転手が話していた大杉集落怪事件の内の一つである。
あの話はてっきりただの与太話だと思っていた二人だが、まさかその内の一つが事実であるとは思わなかった。しかも身近な大じっちゃの家で起きていた事件だとは……衝撃である。
陽向はこれ以上話の続きを聞きたくないといった様子だったが、月琉は違った。月琉は俄然興味を引かれたようで、食いつくように大じっちゃに話を聞いていく。
「それって、大杉の怪事件のやつですよね。大杉の呪いだとか……」
月琉がバスの運転手から聞いた話をしていくと、大じっちゃは一瞬ポカンとした表情を浮かべる。その後一転、破顔した。
「まさかぁ! ツク坊たちまで婆さんみたいなこと言うとはのぉ! 大杉の悪い精霊だとか幽霊だとか、アハハハ!」
大じっちゃは大笑いし、呪いや幽霊の仕業なんかではないときっぱり否定した。
「獣だよぉ。夜中に鶏が騒いどったんじゃ。熊だと思って朝まで近寄らなかったんだが、朝に現場見たら違ったのぉ。たぶん熊じゃねえなぁ。でもいずれにしろ獣の仕業だぁ。一部は内臓食い荒らされとったからなぁ」
「でも大ばっちゃは大杉の呪いの仕業だって言ってるんですよね?」
「あぁ、夜中にトイレに立つと、庭に白い幽霊が出るとか言って、その幽霊の仕業だぁとか、わけわからんこと言っとる。ことあるごとに、『はよ神主呼べぇ!』とか騒いどるんじゃ。夜中にお巡りさん呼んだこともあったのぉ。でも幽霊なんて、ワシは一度も見たことないよぉ。たぶん認知症入っとるよぉ。困ったもんだぁ」
月琉の問いに、大じっちゃは大ばっちゃが呆けているだけだと笑う。
大じっちゃの見立てでは、鶏の不審死はオカルト的存在の仕業なんかではなく、獣の仕業らしい。だが大ばっちゃは呪いだと思っているようだ。
「白い幽霊の仕業か。まさか本当に大杉の化身が命を吸いに来たとでも言うのか?」
「ちょっと白い幽霊なんて嘘でしょ? あ、でも大ばっちゃが嘘なんてつくはずないし……ってことは本当に幽霊? ひぃいッ!」
二人はコンクリに染み込んだ黒い染みを見ながら想像する。三年前のある夏の夜、この小屋において繰り広げられていたであろう惨劇を頭の中で想像する。
悪しき大杉の化身――大鎌を持った死神のような白い幽鬼が、命を求めてふらりとこの敷地に現れた。そして今宵の哀れな生贄として、じっちゃの飼っていた鶏たちが選ばれてしまった。悪しき大杉の化身は、逃げ惑う鶏たちに慈悲もなくその凶刃を振るっていき、最後はその内臓をむしゃむしゃと食い漁った。
そんなホラー映画さながらの光景を想像して表情を凍りつかせる陽向だが、月琉はあり得ないと鼻で笑った。
「ヒナちゃん、そんな怖がるなってぇ。婆さんの戯言だよぉ。獣が犯人だってぇ」
大じっちゃは怖がる陽向を慮って笑いながら言う。
大じっちゃの言うように、獣が忍び込んできて襲った、という話の方が納得できるだろう。幽霊騒動は認知症の傾向がある大ばっちゃの見間違いによるもの。残念ながらそう思われた。
「なんだ大杉の呪いのせいじゃなかったんだ。鶏が死んだのは獣が犯人で、幽霊騒動は大ばっちゃの認知症のせいだったのねよかった――って、それはそれで問題ね。大ばっちゃ大丈夫かしら?」
「それにしても好き勝手なことを言う人がいたもんだな。話に尾ひれをつけてさ。やな感じ」
鶏変死事件の真相らしきものがわかり、陽向はすっかり恐怖心が薄れたようで、認知症の傾向があるらしい大ばっちゃへ気遣いを見せる余裕までできたようだ。月琉は好き勝手な噂を広める人々に対し毒つく。
「すみません。変なこと聞いちゃって。お話、聞かせてくださりありがとうございました」
「んだ」
飼っていた鶏が殺された話や大ばっちゃが認知症傾向にある話なんて、あんまりしたくもなかっただろう。そんな話をわざわざしてくれた大じっちゃに、二人は丁寧に礼を言った。
月琉としては、欲を言えば大杉神社で女の子が自殺した話なども本当かどうか聞きたかったが自重した。久しぶりに会った相手にそこまでずかずかと聞くことはできなかった。
「それはそうと二人とも。明日の晩の大杉神社のお盆祭りには来るんだろぉ?」
「ええお邪魔する予定ですよ」
「そっかぁ。ワシも役員で呼ばれてるからよぉ。役員テントんとこ来てくれたらぁ、甘酒たっぷり飲ましてやるからなぁ」
「ありがとうございます。お邪魔させてもらいますね」
祭りで甘酒を貰うことを約束し、二人は大じっちゃに慇懃に礼を言い、その場を後にするのだった。
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〈参考〉
「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」
https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf
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