吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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七章

マッシュ村調査依頼10/10(出陣)

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(ではこちらから攻めるとするか。やられた分、やり返してやろう)

 ダンジョンマスターが相手じゃないならそこまで警戒する必要はない。まずは敵地の様子を探って、それから捕虜の奪還作戦といきますか。

 まあ行方不明になった人らが捕虜になっていればの話だが。もし手遅れならば、そのまま賊を殲滅してハンターたちの仇討ちといこうか。

「それじゃちょっと敵地の様子を探ってくるよ」
「ヨミト様、流石に危険では? 御身に危険が及んでは一大事ですから、どうかご再考ください」
「相手はダンジョンマスターじゃないようだし大丈夫だよ」
「いえですが……」

 潜入しようと思ったが、ライトたちが心配して止めてくる。護衛をつけろと五月蝿い。

 縋るように言う彼らに根負けし、護衛をつけることにした。

「ご主人様、お呼びでございましょうか」
「お呼び出し光栄でございます」

 やって来たのは二人のマーメイド(女型マーマン)。ハーヴとメロウ。

 ハーヴは下半身がイカ型で武人気質の女騎士っぽい子、メロウは魚型で、いかにも人魚って感じの艶っぽいお姉さんである。いずれも先のマミヤとの戦い(六章参照)で手に入れた子たちだ。

「ハーヴ、メロウ。君たちはスキル【変化】を持っていたね?」
「はい生まれながらに持っております」
「我らはマーマンのユニーク個体でございますから」

 俺の問いに、ハーヴとメロウが畏まりながら答えてくれる。

 スイのサポートキャラだったハーヴ、マミヤのサポートキャラだったメロウ。

 いずれも強力な個体だけに再創造するのに莫大なコストがかかった。だがその分、強力なスキルを持っている。

 今こそ彼女たちを使う時だろう。レベリングさせてHPに余裕が出て死に辛くなったことだし、前線投入しても大丈夫なはずだ。

「では二人共、スキル【変化】を使い、俺と共に潜入任務をして欲しい」
「かしこまりました。一命を賭して任務に励みます」
「あぁ偉大なるご主人様と共にあれて幸せでございます」

 ハーヴは武人っぽく使命感に燃え、メロウは顔に手を当てて恍惚とした表情を浮かべる。

(この子たちも一々大袈裟だな……)

 ライトたちと同じく大仰な態度を見せる二人に、思わず呆れてしまう。

 まあ彼女たちは俺が生み出したモンスターだから忠誠心が高いのは当たり前か。ダンジョンマスターの創造物はダンジョンマスターに絶対忠実だからね。

 俺の創造物ではないライトたちの忠誠心が高すぎる方が異常なのである。ライトたちは俺のことを神か何かと勘違いしてるみたい。悪魔の吸血鬼だって何回も言っているのにさ。

 まあそれは今はどうでもいいことか。早く潜入してハンターたちの安否を確かめなくては。

「俺はこの男に変身するから、メロウはこっちの男に変身してくれるか? ハーヴはローパーの姿にでも変身してくれ」
「かしこまりました」
「え、私がローパー!? ご主人様!? しばしお待ちを! どうかお考え直しくださいませ!」

 俺の命令に、メロウは二つ返事で応じるものの、ハーヴは異論があるようだ。

「ハーヴ、ご主人様の命令に背くなんて不敬ですわよ?」
「黙れメロウ! ご主人様、私の方がメロウよりも武に秀でております! こんな歌って踊るしか能のない人魚よりも、私が人間に変化してお傍に控えた方が戦闘効率がよろしいのでは?」

 どうやらハーヴはローパーに変身するのが不服なようだ。身振り手振り全身を使い、ローパーになるのは嫌だと必死に訴えてくる。

 そんなハーヴに、メロウは口を挟む。

「ご主人様のお考えは正しいと思われますわ。イカ型のマーメイドのハーヴの方が、ローパーに変身しやすいでしょう。だってほら、貴女にはローパーと似たようなものがいっぱいついてますし」
「お前は黙ってろメロウ! この私の美しい触腕を、ローパーの汚い触手などと一緒にするな!」
「触腕と触手。言い方が違うだけで似たようなものでしょう?」
「全然違う! ふざけるな!」

 メロウとハーヴは言い争いを始める。

 同時期に生み出した同じ人魚である二人はライバル意識が強い。今回だけの話でなく、何かと言い争いばかりしているな。

 いつもはイノコが仲裁してくれるのだが、彼女は今ここにはいない。どうしたものかと困っていると、ライトたちが口を出してくれた。

「随行する栄誉を賜りながら、さらなる欲をかき、あまつさえ主の御手を煩わせるとは……。呆れてものも言えないねセイン」
「そうねライト。ただでさえ偉大なる主に直々に生み出してもらえたという幸運に巡り会ったのに、さらに欲を満たそうとするとは。凄まじい強欲っぷりね。ああ厭らしい。恵まれた者とは、かくも傲慢強欲になれるのかしら」

 ライトとセインは笑顔でありながらとても恐ろしい顔をして毒を吐く。

 それを見て、ハーヴはおろか、俺までビビってしまう。

「し、失礼しました! ご不満などあろうはずがありません! すぐに変化します!」

 ライトとセインに気圧されたハーヴは、慌ててローパーに変身する。俺とメロウも何故か慌てて盗賊男に変化する。

「それじゃいってくるよ」
「ヨミト様、いざという時はそいつらを盾にしてでも生き延びてください」
「御身を第一にお考えくださいませ。偉大なる主様」

 ライトとセインは笑顔で酷いことを言いつつ、俺の身を心配してくれる。心配してくれるのはありがたいが怖い……。

「おい、君たち。ヨミト様を守りきれずおめおめと逃げ帰って来た日には、俺が君たちの首を刎ねるからね。しっかり励むように」
「その時は私も聖なる魔法で八つ裂きにしてあげますね。塵一つ残しませんから」

 ライトとセインは本気なのか冗談なのかわからない怖いことを言って、ハーヴたちを激励する。

「い、言われなくてもそんな無様な真似はせん! この身に代えても主を守る!」
「まったくですわ。死より惨めな醜態など晒しませんことよ」

 気圧されたハーヴとメロウは、強張った表情で返事を返す。

 言っていることは歴戦の騎士みたいで格好良いが、ローパーと盗賊の姿なので、なんとも珍妙だ。特に、盗賊のおっさんが女言葉で話してるのは極めてシュールである。

「それじゃ準備はいいかな?」
「はい」
「いつでも」

 俺はハーヴとメロウを伴い、手に入れた鍵石を転移装置の前で翳す。

 すると、地面に魔方陣が展開されていき、俺たちの身体はそれに飲み込まれていった。

「ヨミト様、どうかご無事で」
「ああ偉大なる主様、どうか……」

 視界が切り替わる寸前に見えたのは、五体投地して俺の無事を願うライトとセインの姿だった。

(ライトとセイン……なんだあれ怖い。怖すぎるぞ。俺のことを思ってくれるのはありがたいけども、怖すぎる!)

 敵地に向かう恐怖なんてないに等しく、味方であるライトとセインの方が怖かったのは言うまでもないことだ。きっとハーヴたちも同意見だろう。

 そうして俺、ハーヴ、メロウの三人は敵地へと潜入していったのであった。

 さあてハンターたちはどうなってることやらね。生きていてくれればいいんだが。
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