吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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七章

マッシュ村調査依頼4/10(案内人ハンター)

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 昨晩夜伽に来てくれた村娘ナンはハンターの初体験の相手らしい。

 つまり、俺とハンターは表向きには穴兄弟ということになるわけだ(実際には俺は童貞なので違うが)。

 今朝、顔を洗う際にハンターに会ったので、ナンのことを話題に持ち出して「兄者、今日はよろしく」と冗談で言ったらキレられた。「こっちは行方不明になった幼馴染の婚約者が心配で夜も碌に眠れなかったのに、テメエは村娘とイチャコラしてたのかコラ。寝不足が原因で任務失敗したら殺すぞ!」とマジギレされた。

 とりあえず「俺の身体は二、三時間も寝れば大丈夫だから十分すぎるほど寝た」と説明してなんとか宥めておいた。

 余裕がない人に冗談など言うものではないと痛感したよ。

「――では皆様方、よろしくお願いします。
「ええお任せください」

 村長一家に見送られながら出立する。

「ハンター、お前も気をつけてな」
「わかってるよ爺さん。リサを必ず連れ戻して見せる」

 昨日の話の通り、道案内として村長の孫のハンターが付いてくることになった。

「おいヨミトっつったか。他の奴らに余計なこと言うんじゃねえぞ。ナンのこと、言ったら殺すからな」

 ハンターは俺にそっと近づくと、周りの人間に聞こえない声で囁いてくる。

「はいはいわかったよ兄者」
「だからその兄者ってのをやめろッ!」
「冗談だって。そんなに怒るなよ」
「ちっ、ふざけた野郎だ!」

 今朝方に引き続き「兄者」と冗談を言うと怒るものの、朝よりは少し余裕があるようだな。この調子なら道案内を任せても大丈夫だろう。

「仲良いですねヨミトさんとハンターさん。いつの間に仲良くなったんでしょうか?」
「あれは仲が良いと言えるのかしら? ハンターさん、目が血走ってますけど」
「ヨミトのやつ、おちょくるのを楽しんでやがるな」

 俺とハンターの絡みを見て、パープル、レイラ、ノビルが何やら会話している。

 おちょくるのを楽しむなんて人聞きが悪いな。軽いコミュニケーションをとって相手の状態を確かめているだけだというのに。

「朝ごはんの竜肉、美味しかったですわ」
「ふぅわ、眠ィ……だり」

 エリザとメリッサは興味なし、らしい。メリッサは相変わらず朝が弱いようだな。

「こっちだぜ。途中までは村人が普段使いする道だから楽だが、それからは獣道だ。魔物も出るから気合入れて頼むぜ」
「了解だよ」

 マッシュ村を出て、ハンターの案内でアルゼリア山脈に入っていく。

 一応ここらへんはトロの森やヒムの森とは地続きになっているが、それら森とはだいぶ植生が異なっている。

 出てくる魔物も変わっていて、大蛇(ビッグボア)、大猿(ビッグモンキー)、大蜘蛛(ビッグスパイダー)といった今までに見たことのないものばかりだ。冬になればブリザードドラゴンにも遭遇するらしい。

「シィイイイッ」
「お、でかい蛇」

 早速とばかりに大蛇がお出ましだ。

 人間形態なので吸血鬼の威圧感がなく、こちらの実力がわからないのだろう。俺とエリザに向かってくる。

「それっ」
「邪魔ですわ」

 軽く一刀両断しておく。

「ほぉ」

 現れた魔物を瞬殺する俺たちを見て、ハンターは少し驚いた表情を浮かべる。

「やるじゃねえか。伊達に冒険者やってるわけじゃねえようだな」
「まあね」

 冒険者は副業なのでテキトーにやってるだけなんだけどね。

「おらッ! くたばれ猿公!」

 弓を使って木の上にいるビッグモンキーを撃ち落すハンター。彼もそれなりにやるようだ。

「やるねハンター」
「これくらい何てことねえよ」

 流石は村一番の腕利きか。ブリザードドラゴン以外なら余裕なようだ。

「おいおい、魔石を剥いでる余裕はねえッ、早く行くぞ!」

 倒した魔物の魔石を回収していると、ハンターが声を荒げる。

 ハンターとしては、倒した魔物は打ち捨てて一刻も早く目的地に向かいたいのだろう。

「わかってるよ。全部は剥がない。幾つか欲しいから確保しておくだけだよ」
「ちっ、早くしてくれよ!」

 苛立つハンターを宥めつつ、魔石を確保する。

 ダンジョンマスターの俺は、魔石があればその魔物を召喚できる。

 現在我がダンジョンにいるのは蝙蝠、スライム、ゴブリン、オーク、ビッグラット、ラビン、マーマンがほとんどだ。実用性はともかく、新種の魔石を手に入れたら召喚しておきたい。コレクター魂がうずく。

 魔物一種類当たり魔石二個(二個あれば雄雌召喚して殖やせるので)は確保しておきたいところだ。

(吸血も忘れずにしておこうっと)

 魔石回収するついでに、血の回収もしておく。味は不味いがレベリング的にはそれなりに効果があった。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【木登り】、【森人】、【糸吐】、【操糸】を獲得。

 大蛇からスキルはラーニングできなかったが、大猿と大蜘蛛からはラーニングできた。

 【木登り】は樹上生活を営めるくらい木登りが上手くなるスキルだ。

 樹上生活なんて始めないから意味ないけど、まああって困るものでもない。樹上戦とかで役に立つだろう。樹上戦のイメージが湧かないけどさ。

 【森人】は森のフィールドだとパワーアップできるスキルだ。前にマリンからラーニングした【海人】の森版といったところだね。

 森という場所限定だが、持っているだけで効果のあるパワーアップ系スキルはありがたいな。

 【糸吐】は蜘蛛の糸を口から吐き出せるようになるスキルだ。吸血鬼の俺だとスパイダー系モンスターほど強力な糸を吐くことはできなくてスキルを十全に使いこなすことはできないみたいだが、相手の動きを止めたりするのには役立ちそうだね。

 【操糸】は糸を巧みに操れるスキルだ。これも【糸吐】と同じで吸血鬼の俺は十全に使いこなせないようだが、まああって損はないだろう。

「――終わったか。早く行くぞ」
「了解、兄者」
「誰が兄者だコラ! テメエ、ふざけてると殺すぞヨミト!」
「まあまあ気張りすぎるとよくないよハンター。力抜いていこう」
「くそっ、こっちの気もしれねえでよ!」

 イライラした様子のハンターと楽しく?コミュニケーションをとりつつ、旅路を急ぐ。

 その後も魔物が次々と出てきたが、いずれにしろオーク程度の実力しかなかったので、俺たちの敵ではなかった。

 冬じゃないのでブリザードドラゴンは出てこなかったが、もし出てきても俺とエリザなら余裕だろう。前に賊が飼っているペットを倒したことがあるしな(五章参照)。もしかしたらレイラたちでも十分かもしれない。

 夕暮れまで獣道を歩き続け、今日のところは終了となった。

「今日はここまでとしよう。夜に進むのは危険だからね」
「おい、まだいけるだろ!」
「ハンター、気持ちは分かるが焦っちゃ駄目だよ。急いては事を仕損じるって言うし。予定以上に進んでいるんだしさ」

 焦って旅路を急ごうとするハンターを宥め、野営の準備をする。

「ちっ、仕方ねえ」

 俺たちに説得されて渋々移動を諦めたハンターは、魔物避けとなる薬を染み込ませたロープで結界のようなものを張り始める。

 手馴れたものだ。普段猟師として働いているらしいから、この山で寝泊りすることも多いのだろう。

 冒険者に交じってブリザードドラゴン狩りにも参加したことがあるという話だから、鋼等級くらいの実力はあるかもしれないな。そこらへんのにわか冒険者よりもよっぽど強そうだ。

「俺様特製の茸汁だ。野郎ども、味わって食えよ」
「アタシとレイラは野郎じゃねえんだけど」
「細かいことはいいんだよ」

 夕飯はハンターが作ってくれた。秋口の夜の冷えた身体に、温かい茸汁は最高のご馳走である。

「おお美味そう! パープル君の飯より断然美味そう!」
「一言多いですよヨミトさん! 美味そうだけでいいじゃないですか! 何でそこで僕の名前が出てくるんです!」

 わいわい騒ぎつつ、楽しく夕飯を食べる。

 量がやや少ないのがあれだが味的には大満足だ。小腹が空いたらあとで魔物でも捕まえて血でも吸うことにしよう。

「流石は冒険者といったところか。お前らの足は早いから、あと二日もかからずに“マッシュ峡谷”に辿りつけるかもしれねえ」

 腹が満たされると少し落ち着いたのか、ハンターは冷静に話してくれた。

「そうか。早いに越したことはないね」
「ああ。さっきは焦ってイラついて悪かったな」
「別に気にしてないさ」

 ハンターは律儀に先ほどの態度を詫びてくる。村長の孫だけあって根は真面目のようだ。見た目はどう見ても不良のヤンキー兄ちゃんだが。

「マッシュ峡谷ではここより強い魔物が出る。油断するなよ」
「ああ問題ないさ」

 これから向かうマッシュ峡谷と呼ばれる場所に、茸人族の集落に繋がる洞窟があるようだ。

 村からマッシュ峡谷へ行くには、それなりに訓練された人間の足で三日もかかるが、茸人族なら一日程度で済むのだとか。

 茸人族には素早く移動する秘術があるらしい。おそらく種族特有のスキルか何かだろう。

 ハンターからそんな話を聞きつつ、夕飯の時間を過ごすことになった。色づいた山の中で食う茸汁は最高だったね。



♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.60) 種族:吸血鬼(ナイト)
HP:1841/1841 MP:1799/1799
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】【格闘】【毒牙】【硬化】
【舞踏】【鎚術】【怪力】【豚語】【咆哮】【免疫】【激励】【大食】【飢餓】【消化】
【暴食】【指揮】【弓術】【盾術】【騎乗】【魔笛】【血盟】【飼育】【夜目】【勇者】
【光矢】【集中】【雷撃】【短剣術】【堕落】【指嗾】【装備】【毒息】【火吸】【挑発】
【隠密】【奇襲】【冷息】【号令】【健脚】【水弾】【突進】【跳躍】【房中】【水泳】
【暗算】【海人】【魚語】【人化】【工作】【墨吐】【槍術】【流水】【幻唱】【演奏】
【歌唱】【音感】【魔性】【美貌】【清水】【耐圧】【浮袋】【魚の目】【魚の呼吸】【強奪】
【木登り】【森人】【糸吐】【操糸】
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