吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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六章

戦いの後1/2(メロウとハーヴ)

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 九頭竜島の戦いにおいて犠牲を払ったものの、マミヤとの戦いに勝利した。

 陸地の謀略戦では、夢魔のリムの働きのおかげで楽に戦うことができた。リムは敵ダンジョンの構造や残存兵力の把握から偽情報を渡しての陽動まで、何でもこなしてくれた。おかげで圧倒的に情報優位で戦うことができたよ。

 リムは今回の戦いの戦功第一だね。ご褒美として贅沢な飯やら望むものを何でもあげた。

 リムの褒美だが、実は当初、「ご褒美ですか? ご主人様の精が欲しいですぅ」と言われたので困った。俺はエリザと永遠に童貞と処女を守る契約をしているから、そのお願いだけは勘弁してくれと断ったよ。

 そうしたら、リムには信じられないものを見たという顔をされてしまった。淫楽を貪るのが本能である夢魔からしたら、カルチャーショックだったのだろう。「ご主人様、人生損していますぅ! リムが今すぐ童貞を奪ってあげますぅ!」とか言われてしまった。

 俺を押し倒そうとしたリムは、その場にいたエリザに多めの血を吸われて強制ダウンさせられることになった。

 人生損してるなんて、そんなことはないだろう。淫楽の代わりに吸血の楽しみができたわけだし。前世で叶えられなかったホスピタリティ業界で働くという夢も実現できているわけだしな。最高の毎日だ。

 話が脱線してしまった。まあ余談は置いておいて、マミヤ戦の後の話に戻そう。

 マミヤのダンジョンで囚われの身になっていた者たちは、説得して我が眷属とすることにした。降伏して捕虜になったマーマンたちも同様だ。

 言葉は悪いが、マミヤのものを全て奪いとって俺のものにしたという形になるね。大会社ヴェッセル並びにその人材、資産も何もかも奪い取った格好だ。

 マミヤの後宮には見目麗しい色んな種族の美人(恐らく奴隷市場から調達したと思われる)がざっと三十人くらいいたが、彼女らも全部俺の眷属とさせてもらったよ。

 彼女たちを眷属にした時、何故か「NTRは最悪だぞ! 脳みそが破壊されるんだ!」という亡きシブヘイの叫びを思い出してしまった。まあでもマミヤは死んでいるので脳が破壊されることはないだろうから問題ないな。

 まあ冗談だ。見目麗しい彼女たちを奪い取った所で、俺が何かするわけではない。せいぜいダンジョンで働いてもらうか血を吸うか観賞するかくらいだ。

 だがそれだけでは勿体ない。そこであることを思いついた。

 歌劇団を作ることにしたのだ。マミヤの下で芸事の素養を伸ばしていた彼女たちにダンジョンで農業させるのは勿体ないし、カーネラの所に行かせるのは一部の子を除いて嫌がるだろうし、宿屋の従業員は足りている。そういうわけで歌劇団だ。

 我がダンジョンの主戦力であるタロウたち三兄弟の血を引くゴブリンの戦士たちは、みんな女好きのスケベなので、アイドルみたいなのがいれば喜んでやる気を出してより働いてくれるだろう。

 またダンジョン内の経済が拡大すれば、アイドル事業はダンジョン内の一大産業になるかもしれない。あわよくばダンジョン外で公演もできるかもしれない。そんな打算もあって作ることにした。

 ちなみにその歌劇団の団長はミヨお姉さん――つまりは俺だ。マミヤの後宮メンバーの血から芸事関連のスキルを大量に手に入れたこともあって、それで俺がなることにした。

 本当はエリザにさせようと思ったのだけど、「面倒なのは嫌ですわ」と断られたので、仕方なく俺がやることになったのだ。

 副団長はティゴメ・ティル母娘である。俺は不在の時が多いから、実質二人がリーダーみたいなもんだね。

 二人は貴族として上に立つことに慣れており、芸事も得意なのでうってつけの仕事だろう。二人には新たな役目就任に伴い指導系のスキルを付与したので、問題なく勤め上げてくれるはずだ。

 リーダーが男で、他のメンバーのほぼ全員がマミヤの元愛妾で非処女のアイドル集団とか、アイドルとして色々と酷い気がするが、まあいいさ。清純さはなくとも大人の魅力が詰まったアイドル集団になるはずだ。たぶん。

 マミヤの後宮メンバーの他にも、色々と人材を獲得した。一番使えそうな人材は、シャンという顔に傷のある女だった。

 彼女はカイリの義母でマリンの実母らしい。元下級貴族の上級警備兵で、優秀な人材だった。

 彼女はマミヤのダンジョンの奥で、マーマンたちの孕み袋になっていた。俺のダンジョンのインディスたちみたいな役割をさせられていたようだ。

 インディスとは違ってスキル【洗脳】などは施されておらず、救出した時は酷い有様だった。虚ろな目で大きな魚卵みたいなのをボコボコと産んでいて、とてもカイリやマリンには見せられない状態だったね。

 普通は立ち直れないくらいのトラウマだろうけど、シャンは気丈な人物のようで、ダンジョンでしばらく療養したらすぐに元気になった。

 本当にパワフルな肝っ玉母ちゃんって感じの人で、自分で調達した資金(どっかから奪ってきた慰謝料らしい)で民宿を開くことも決めたので、俺はそれを影から支えることにした。

 ヨミトの宿の七号店は、シャンの民宿で決定だ。海辺の町にもグループ店を構えることができて、俺としては万々歳である。

 敗者(マミヤ)の生き血を啜り、我がダンジョンはより強く大きな存在となった。そして今日また、ダンジョンに新しい仲間が増える。

「――さあ生まれ出でよ。メロウ、ハーヴ」

 マミヤ戦で獲得したマーマン特異個体の魔石二つを使い、新たなる眷属を創造する。

「偉大なるご主人様、この度は私たちを生み出してくださり、有難く思います」
「偉大なるご主人様にお仕えできて光栄です。精一杯努めさせて頂きます」

 美しい人魚メロウ。精悍な女騎士みたいな顔立ちのイカ型人魚ハーヴ。

 その二人が魔方陣から現れ、俺の前で傅き、挨拶してくれる。

 メロウは今回初めて見るが、ハーヴは見たことがある。武装船の中で俺とエリザが戦った、エリザがちょっとだけ苦戦したあのイカ女だね。

 あの時のハーヴはマミヤの創造物だったが、魔石を使って新たに創造したことで新しく生まれ変わった。今の彼女は俺を創造主として崇めている。メロウも同様である。

「君たちの働きに期待している。二人に早速お仕事を与えよう。二人にはまず、ダンジョン内の設備を把握することから始めてもらおうか」

 我が眷属として最初の任務を告げると、二人は仰々しくそれを拝命する。

「かしこまりました。広大なダンジョン、近日中に必ずや全て把握して見せます」
「近日中など遅い。私は一両日中にて全て理解してご覧に入れますご主人様」

 メロウの言に、ハーヴが嫌みったらしく口を挟む。

「ハーヴ、あまり大それたことを言うのはよしておいた方がいいわよ?」
「ふん、歌を歌って男を魅了して楽しませるしか能がないお前とは違って、優秀な私ならできる。お前は裸踊りでもしてご主人様を楽しませていろ。それが適材適所だ」
「なんですって!」
「おうやるか? 私と戦って勝てると思うなよ!」

 メロウとハーヴは同じマーマン種で同時期に生み出したから、お互いをライバル視しているようだね。

「そこまでです。二人共、見苦しい喧嘩はおやめなさい。ご主人様の御前ですよ?」
「はいすみませんイノコ様」
「申し訳ありません……」

 二人はイノコに怒られてしょぼんとする。

 先輩であるイノコには頭が上がらないようだ。これから二人には、イノコの手足となってダンジョンで働いてもらおう。

「無駄な争いはやめて、どうせならどちらが先に施設を完全把握できるか勝負したらどうですか? あとで私が課題を出しますので、それで白黒つけましょう」

 イノコにそう言われると、二人はやる気に満ちた表情となる。そして競い合うように部屋から出ていった。

 俺への挨拶を忘れて勝手に出て行ったので、イノコが溜息を吐く。

「すみませんご主人様」
「構わないよ。元気があっていいことだ。二人のおかげでこれからもっと賑やかになりそうだね」

 マミヤの所にいた時は敵だったからよくわからなかったけど、二人共、中々ユニークな人魚のようだね。

 二人を創造するのは吸血鬼を創造するよりも遥かに安く、イノコを創るのよりも安かった。

 とはいえ、それでもかなり多くのDMを注ぎ込むことになり、新しい吸血鬼を創造するために貯めておいたDMが全部パーとなった。

 ぶっちゃけ彼女たちを創造するのは止めて吸血鬼の眷属を増やした方がいいのかもしれない、と思って迷ったが、結局創造することにした。

 シブヘイ戦で得た魔石で創造したイノコは、今では欠かせない戦力となってくれている。色んな種類の手駒を持っていた方が多様な状況に対応できるだろうし、何しろ、彼女らは捕虜にしたマーマンたちのまとめ役にもなってくれそう――そんな風に色々考えた結果、二人を創造することにしたのだ。

 吸血鬼の眷属を増やすのは、また今度の機会になりそうだ。

(さて。次はあの子の所だな。元ダンジョンマスターであるあの子を眷属にできれば、我がダンジョンの戦力は大きく上がるだろう。絶対に眷属にしたい所だ。たとえどんな手段を使ってでもな)

 そんな邪悪なことを考えながら、俺はダンジョンの捕虜収容所に足を運ぶことにしたのであった。
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