吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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六章

港町イティーバ1/19(旅の始まり)

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 久しぶりのお客様だと思って喜んでいたのに、またしてもクズ客だった。

 魚人のお客様だったから魚人の店員が接客した方が安心できるだろうと思い、この前奴隷市場で購入して眷属にしたエイという人魚の子をわざわざ接客担当に起用したというのに。
 魚人は魚介類が大好物で、人によっては魚以外食えない人もいるとのことで、蓄えてあった魚介類を奮発して提供したのに。それなりに悪くない酒も提供してやったのに。金がなさそうだからお金はとらずに後で血を少しだけ頂くだけにしようと思っていたのに。

 それら全ての配慮が裏切られてしまった。

 まさかエリザのスキル【共有】を使って俺の姿に化けていた清掃担当のスラ吉を殺し、挙句の果てはエイに悪戯しようとするとは。とんでもない盗賊たちであった。

「許してくれぇえええ!」
「謝罪の言葉は要らないから賠償しろ! その命でな!」
「いやぁあああ! 鬼ィイイ!」

 お客様でないことがわかったので、全員DMに変えさせてもらった。一滴残らず血液を搾り出して賠償金として頂くことにした。

 あいつらの血を吸ったことでスキル【水泳】というものが手に入った。泳ぐ際に恩恵があり、水泳が上達するのが早くなるスキルらしい。多少のレベリングとDMの足しにはなったかな。

 損害分は回収できたが、それでもおもてなしの心を裏切られた精神的ダメージは深い。

 やるせないぜ。日本人のおもてなしの心がまたしても裏切られてしまった。異世界人に日本人のおもてなしは通用しないというのか。悲しい現実だ。

「うぅ、またしてもおもてなしの気持ちが裏切られてしまった……。スラ吉にも申し訳ないことをしてしまった……」
「お元気出してくださいませご主人様。イティーバに行けばきっと美味しい海鮮料理が食べられますわ」
「ぷるぷる(そうだよご主人様)」
「そうだね。イティーバで浜焼き食いたいし頑張ろう。ありがとうエリザ、そして二代目スラ吉」

 酷い目に遭ったが、エリザの励ましと、スラ吉の分裂体である二代目スラ吉の励ましもあり、俺はなんとか立ち直ることができた。

「それじゃ張り切ってイティーバに向かおうか」
「ええ」

 そうして数日後、俺たちチーム不死鳥は、港町イティーバに向けて旅立った。

「――右からラビンの群れ! 十!」
「今回は俺とノビルでいきます! 他の人は援護を!」
「わかりました!」

 足自慢であると同時耳も良い斥候役のハヤが叫び、ライトたちが魔物の襲撃に対応していく。

 イティーバに向かう道中、ゴブリン、ビッグラット、ラビン、オーク――暖かくなった影響か色んな魔物が出没するが、どれも敵ではない。

 ライトとセインとハヤが加わったことで、楽勝すぎる。俺とエリザが手を出すまでもない。

 俺とエリザは料理や回復などのサポート役に徹することにしよう。それと仕留めた魔物の血を回収しておくことも忘れないようにする。

 道中、大きなハプニングもなく順調な旅となった。

「お、見えてきたね」

 そうして丸一日移動して、目的のイティーバの港町に辿りつくことができた。早朝に出て、夕方には着くといった感じだ。

 イティーバには前にも来たことがある。前は奴隷となったセインを買い戻すために来た。

 あの時はすぐに街を後にしたが、今回は長期滞在するから街をそれなりに楽しめそうだ。前回は奴隷市場しか楽しめなかったからな。

 できればこの町で眷属を増やしてダンジョンの拠点を構えておきたいところだな。そうすればいつでもこの町で遊ぶことができる。海に近いから新鮮な海産物をいつでも手に入れることができる。

 奴隷市場も魅力的だ。定期的に開かれる奴隷市場で、奴隷を買ってダンジョンで働かせるのもいいだろう。

 何かと用途のある便利な町だ。拠点が置けるなら是非とも置きたいところだ。

「今回は王都の近場だから移動自体は楽だね」
「ですね。その分、仕事が大変そうですけど。陸の上じゃなくて海の上を探しますから、船と船頭の確保が必要です。明日から協力者を探すことにしましょう」
「そうだねパープル君。とりあえずは、この町のギルドへの顔出しと宿の確保か。宿は前に泊まった所にしようか?」

 俺がそう言うと、パープルがきょとんとした顔をする。

「え、ヨミトさん、前にこの町に来たことあるんですか?」
「えっ、ああうん。だいぶ前にね」
「そうなんですか。知らなかったですよ。そういうことなら前もってイティーバの情報とか教えてくださいよ」
「ごめんごめん(危ね。うっかりこの町に来たこと喋っちゃったよ)

 つい口が滑ったな。パープルは眷属ではないので、俺がライトと共にセインを取り戻しにこの町に来たことを知らない。うっかり変なことを喋らないようにしないとな。

「ふぅ。一息つけましたね」
「なんとかね」

 ギルドに顔を出した後、宿へと向かう。目当ての宿は空いていて無事泊まることができた。

 暖かくなってきたから観光シーズン真っ盛りかと思ったがそうでもないらしい。観光客の姿などほとんど見受けられなかった。

 帝国との戦争がいつ再開されるかわからないご時勢、仕事以外でここを訪れる人間は少ないらしい。港町イティーバは、帝国が海路で王国に攻め入る場合、主戦場になるからとのことだ。

 宿の主人が受付をする際の雑談で、そんなことを話してくれた。

「いただきます!」

 受付を済ませて宿の食事処で飯を食う。

 テーブルに並ぶのは海の幸がふんだんに入ったスープに焼き串などなど――海産物づくしといった料理の数々だ。不漁の影響からか、いささか量が少ないけども。

「美味い! 浜焼き最高!」
「確かに美味しいですが、ぼったくり価格もいいところですよ……。数か月分の生活費がこんなちっぽけな一回の食事で……。あぁ、エリザさんが数シル分の食事を一口で……」
「パープル君、せこいこと言ってないで今はご飯を楽しみなよ」
「楽しみたいのは山々ですが、ゴルゴン金貨の山を食べていると思うと楽しめませんよ……」

 不漁のせいで魚介類の値段が上がっているせいか、食事はアホみたいな価格だった。そのせいかパープルの箸を動かす手が鈍い。パープルの他にも、エリザ以外はわりと遠慮して噛み締めるようにして食べている。

 港町でこんなに魚介類の価格が上がっているということは、王都での価格も上がっていたらしいな。最近肉ばっかり食っていたからわからなかったけど。

「やはり例の不漁騒ぎの影響でしょうね。海賊騒ぎのせいで船が出てないこともあり、供給が極端に少なくなっているので、価格がおかしなことになっているんですよ」

 パープルがイティーバの置かれている現状を解説してくれる。

「うーん、魚の群れが湾に入って来ないってことかね? 海流の影響?」
「宿の主人の話じゃ、帝国軍の特殊部隊が毒を流したとか言ってましたね。海藻類まで根こそぎ駄目みたいですね」

 思いつくまま言った俺に、レイラが答える。

「本当かね?」
「わかりませんね。あくまで噂ですから。ただ帝国の特殊部隊ならやりかねません。海賊とやらも、帝国軍と繋がってるかもしれません。これから地道に調査していくしかないですね」

 王国にとって重要な港町であるイティーバ。今は休戦中であるものの、帝国が何かしらの工作をしかけに来た可能性もあると、ライトは言う。

「国が関わってるなら面倒だなぁ」
「だから僕はやめようって言ったんですよ!」
「まあまあ落ち着いてよパープル君。ほらこれでも食って」
「ふがあっ!? ちょっ、ゴルゴン金貨相当の食材を無理やり口に放り込まないでください! 食べるなら味わって食べたいですよ!」

 俺の不用意な発言にイラっときたのか怒るパープルを宥めつつ、飯を食う。

(高い金払ったけど、いまいちだなぁ。ショップ産の魚介類に比べるとね……)

 せっかくの食事だがあんまり美味しくない。魚介類も塩漬けしたものなのか若干しょっぱい。美味いことは美味いが、本来ならもっと美味しいと思うと微妙である。量も少ないしさ。

 さっさと不漁の原因を見つけて、問題を解消したいものだ。海賊とやらも見つけて成敗して、流通の便も改善したい所だな。
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