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五章
宿泊者名簿No.17 勇者ライト6/10(悪魔の囁き)
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「約束通り、このセインという女は頂いていきますよ。金は既に金庫の方に運んでおきましたんで」
「ああ。またよろしく頼むぜ。カバキの若旦那」
「そっちのライトとかいう男も色男ですから欲しいんですがね。売る気はないんですか? 結構高値で売れると思いますよ?」
「こいつは今しばらく俺様の玩具にするから駄目だぜ。飽きたら売るぜ」
「そうですか。貴方も結構いい趣味してますね。それじゃまた」
地獄の日々が繰り返され、俺の精神は極限まで追い込まれていた。それで常に夢現の状態を彷徨っていた。
セインが細目の男に引き取られてどこかへ連れて行かれるのも呆然と見送ってしまうほどまで、俺の精神は弱りきっていた。セインもセインでおかしな状態だった。
あとで聞いた話じゃ、俺もセインもバッドスキルの影響を受けていたらしい。それで何も抵抗できなかったというわけだ。まあ仮に抵抗した所で無駄な抵抗になっていただけだろうが。
(もう何もかもどうでもいい。早く人生が終わればいい……)
地獄の生活の中で、そんなことを思うようになってしまっていた――だが転機は突如として訪れることとなった。
セインが連れ去られてからどれくらい経っただろうか。ある日の晩のこと、救世主は前触れもなく訪れた。
「あちゃー、これは酷い。バッドエンドを迎えた勇者の末路って感じだね」
「貴方は……ロビンさん?」
盗賊団のアジトで慰み者として過ごしている間、大勢の女性と出会った。俺たちと同じく捕らえられた冒険者のハヤさん、村娘のロビンさん――などなど。
ロビンさんはゾォークの愛人と聞いていたからどんな酷い人かと思いきや、悪い人ではなかった。酷い目にあっている俺たちにこっそり差し入れしてくれたり、優しい言葉をかけてくれていた。口調は荒っぽかったが悪い人ではなかった。
ロビンさんはゾォークに対して復讐心があるらしく、面従腹背といった感じで仕えているらしかった。
そんなロビンさんであるが、その時ばかりは雰囲気が違った。
酷い状態の俺を一目見て、嘲りとも取れるような言葉を吐き捨てたのだった。酷い目に遭っている俺を見ても、大きな感情の揺れはないといった感じだった。
「おいヨミト、捕虜の女たちは全員救出して、ダンジョンに運び入れたぞ。ただ、セインって子はいなかった。既に売られたみたいだ。賊共はゴブリンたちが討つか捕らえるかしたとよ。怪我人は出てるが、死んだやつはいねえそうだ」
「そうか。報告ありがとうメリッサ」
新たに現れた女性。それはメリッサさんだった。鋼等級昇級試験の時に同じ班だったから、彼女のことはよく知っている。勝気な魔法使いの女性だ。
そんな彼女が何故こんな場所に。それに彼女は何故ロビンさんを見て、ヨミトなんて言っているのだろうか。
自ずと答えはわかった。
「ヨミト? 貴方はヨミトさんなんですか?」
「ああそうだよ」
ロビンさんだと思っていた人の姿が一瞬にして変わる。ロビンさんに化けていたのは、やはりヨミトさんだったらしい。
姿形を変えるなんて、凄いスキルを持っているようだ。それだけで飯を食っていけるくらいだろう。
「セインちゃんは俺たちが必ず救い出そう。だから俺のこの手をとりたまえライト。俺たちと共に、永遠の世界を目指そうじゃないか」
ヨミトさんは人間ではなかった。吸血鬼のダンジョンマスター、御伽噺に出てくるような伝説の魔王だった。
そんな化け物からの提案は、抗い難い魅力があった。
囚われの身から解放してもらった上、セインを助けると約束してくれたのだ。人外の力を持ったこの御方ならきっと言葉通りにセインを助けてくれると確信が持てた。
ただし、悪魔はその対価として俺が欲しいのだと言う。死ぬことも許されず、悪魔が死なない限り、半永久的に悪魔に仕えなければいけないのだと言う。
悪魔に仕えるだなんて、俺たちエビス教徒にとっては大きな教義違反だ。一瞬躊躇したが、すぐに構うものかと思った。
大事なセインが救えるなら、俺の魂でも肉体でも、好きなものを奪っていけと思った。悪魔の信徒にでも何でも、なってやろうと思った。
「あげますよ。こんな俺の命でよければ、いくらでも差し上げます。だからセインを、セインを頼みます!」
「了解。契約成立だ」
こうして俺は悪魔ヨミトさんの配下となった。魔を滅する勇者というスキルを持っていながら、悪魔に尽くす道を歩むことになったのだった。
「ああ。またよろしく頼むぜ。カバキの若旦那」
「そっちのライトとかいう男も色男ですから欲しいんですがね。売る気はないんですか? 結構高値で売れると思いますよ?」
「こいつは今しばらく俺様の玩具にするから駄目だぜ。飽きたら売るぜ」
「そうですか。貴方も結構いい趣味してますね。それじゃまた」
地獄の日々が繰り返され、俺の精神は極限まで追い込まれていた。それで常に夢現の状態を彷徨っていた。
セインが細目の男に引き取られてどこかへ連れて行かれるのも呆然と見送ってしまうほどまで、俺の精神は弱りきっていた。セインもセインでおかしな状態だった。
あとで聞いた話じゃ、俺もセインもバッドスキルの影響を受けていたらしい。それで何も抵抗できなかったというわけだ。まあ仮に抵抗した所で無駄な抵抗になっていただけだろうが。
(もう何もかもどうでもいい。早く人生が終わればいい……)
地獄の生活の中で、そんなことを思うようになってしまっていた――だが転機は突如として訪れることとなった。
セインが連れ去られてからどれくらい経っただろうか。ある日の晩のこと、救世主は前触れもなく訪れた。
「あちゃー、これは酷い。バッドエンドを迎えた勇者の末路って感じだね」
「貴方は……ロビンさん?」
盗賊団のアジトで慰み者として過ごしている間、大勢の女性と出会った。俺たちと同じく捕らえられた冒険者のハヤさん、村娘のロビンさん――などなど。
ロビンさんはゾォークの愛人と聞いていたからどんな酷い人かと思いきや、悪い人ではなかった。酷い目にあっている俺たちにこっそり差し入れしてくれたり、優しい言葉をかけてくれていた。口調は荒っぽかったが悪い人ではなかった。
ロビンさんはゾォークに対して復讐心があるらしく、面従腹背といった感じで仕えているらしかった。
そんなロビンさんであるが、その時ばかりは雰囲気が違った。
酷い状態の俺を一目見て、嘲りとも取れるような言葉を吐き捨てたのだった。酷い目に遭っている俺を見ても、大きな感情の揺れはないといった感じだった。
「おいヨミト、捕虜の女たちは全員救出して、ダンジョンに運び入れたぞ。ただ、セインって子はいなかった。既に売られたみたいだ。賊共はゴブリンたちが討つか捕らえるかしたとよ。怪我人は出てるが、死んだやつはいねえそうだ」
「そうか。報告ありがとうメリッサ」
新たに現れた女性。それはメリッサさんだった。鋼等級昇級試験の時に同じ班だったから、彼女のことはよく知っている。勝気な魔法使いの女性だ。
そんな彼女が何故こんな場所に。それに彼女は何故ロビンさんを見て、ヨミトなんて言っているのだろうか。
自ずと答えはわかった。
「ヨミト? 貴方はヨミトさんなんですか?」
「ああそうだよ」
ロビンさんだと思っていた人の姿が一瞬にして変わる。ロビンさんに化けていたのは、やはりヨミトさんだったらしい。
姿形を変えるなんて、凄いスキルを持っているようだ。それだけで飯を食っていけるくらいだろう。
「セインちゃんは俺たちが必ず救い出そう。だから俺のこの手をとりたまえライト。俺たちと共に、永遠の世界を目指そうじゃないか」
ヨミトさんは人間ではなかった。吸血鬼のダンジョンマスター、御伽噺に出てくるような伝説の魔王だった。
そんな化け物からの提案は、抗い難い魅力があった。
囚われの身から解放してもらった上、セインを助けると約束してくれたのだ。人外の力を持ったこの御方ならきっと言葉通りにセインを助けてくれると確信が持てた。
ただし、悪魔はその対価として俺が欲しいのだと言う。死ぬことも許されず、悪魔が死なない限り、半永久的に悪魔に仕えなければいけないのだと言う。
悪魔に仕えるだなんて、俺たちエビス教徒にとっては大きな教義違反だ。一瞬躊躇したが、すぐに構うものかと思った。
大事なセインが救えるなら、俺の魂でも肉体でも、好きなものを奪っていけと思った。悪魔の信徒にでも何でも、なってやろうと思った。
「あげますよ。こんな俺の命でよければ、いくらでも差し上げます。だからセインを、セインを頼みます!」
「了解。契約成立だ」
こうして俺は悪魔ヨミトさんの配下となった。魔を滅する勇者というスキルを持っていながら、悪魔に尽くす道を歩むことになったのだった。
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