吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

文字の大きさ
上 下
208 / 291
五章

宿泊者名簿No.17 勇者ライト6/10(悪魔の囁き)

しおりを挟む
「約束通り、このセインという女は頂いていきますよ。金は既に金庫の方に運んでおきましたんで」
「ああ。またよろしく頼むぜ。カバキの若旦那」
「そっちのライトとかいう男も色男ですから欲しいんですがね。売る気はないんですか? 結構高値で売れると思いますよ?」
「こいつは今しばらく俺様の玩具にするから駄目だぜ。飽きたら売るぜ」
「そうですか。貴方も結構いい趣味してますね。それじゃまた」

 地獄の日々が繰り返され、俺の精神は極限まで追い込まれていた。それで常に夢現の状態を彷徨っていた。

 セインが細目の男に引き取られてどこかへ連れて行かれるのも呆然と見送ってしまうほどまで、俺の精神は弱りきっていた。セインもセインでおかしな状態だった。

 あとで聞いた話じゃ、俺もセインもバッドスキルの影響を受けていたらしい。それで何も抵抗できなかったというわけだ。まあ仮に抵抗した所で無駄な抵抗になっていただけだろうが。

(もう何もかもどうでもいい。早く人生が終わればいい……)

 地獄の生活の中で、そんなことを思うようになってしまっていた――だが転機は突如として訪れることとなった。

 セインが連れ去られてからどれくらい経っただろうか。ある日の晩のこと、救世主は前触れもなく訪れた。

「あちゃー、これは酷い。バッドエンドを迎えた勇者の末路って感じだね」
「貴方は……ロビンさん?」

 盗賊団のアジトで慰み者として過ごしている間、大勢の女性と出会った。俺たちと同じく捕らえられた冒険者のハヤさん、村娘のロビンさん――などなど。

 ロビンさんはゾォークの愛人と聞いていたからどんな酷い人かと思いきや、悪い人ではなかった。酷い目にあっている俺たちにこっそり差し入れしてくれたり、優しい言葉をかけてくれていた。口調は荒っぽかったが悪い人ではなかった。

 ロビンさんはゾォークに対して復讐心があるらしく、面従腹背といった感じで仕えているらしかった。

 そんなロビンさんであるが、その時ばかりは雰囲気が違った。

 酷い状態の俺を一目見て、嘲りとも取れるような言葉を吐き捨てたのだった。酷い目に遭っている俺を見ても、大きな感情の揺れはないといった感じだった。

「おいヨミト、捕虜の女たちは全員救出して、ダンジョンに運び入れたぞ。ただ、セインって子はいなかった。既に売られたみたいだ。賊共はゴブリンたちが討つか捕らえるかしたとよ。怪我人は出てるが、死んだやつはいねえそうだ」
「そうか。報告ありがとうメリッサ」

 新たに現れた女性。それはメリッサさんだった。鋼等級昇級試験の時に同じ班だったから、彼女のことはよく知っている。勝気な魔法使いの女性だ。

 そんな彼女が何故こんな場所に。それに彼女は何故ロビンさんを見て、ヨミトなんて言っているのだろうか。

 自ずと答えはわかった。

「ヨミト? 貴方はヨミトさんなんですか?」
「ああそうだよ」

 ロビンさんだと思っていた人の姿が一瞬にして変わる。ロビンさんに化けていたのは、やはりヨミトさんだったらしい。

 姿形を変えるなんて、凄いスキルを持っているようだ。それだけで飯を食っていけるくらいだろう。

「セインちゃんは俺たちが必ず救い出そう。だから俺のこの手をとりたまえライト。俺たちと共に、永遠の世界を目指そうじゃないか」

 ヨミトさんは人間ではなかった。吸血鬼のダンジョンマスター、御伽噺に出てくるような伝説の魔王だった。

 そんな化け物からの提案は、抗い難い魅力があった。

 囚われの身から解放してもらった上、セインを助けると約束してくれたのだ。人外の力を持ったこの御方ならきっと言葉通りにセインを助けてくれると確信が持てた。

 ただし、悪魔はその対価として俺が欲しいのだと言う。死ぬことも許されず、悪魔が死なない限り、半永久的に悪魔に仕えなければいけないのだと言う。

 悪魔に仕えるだなんて、俺たちエビス教徒にとっては大きな教義違反だ。一瞬躊躇したが、すぐに構うものかと思った。

 大事なセインが救えるなら、俺の魂でも肉体でも、好きなものを奪っていけと思った。悪魔の信徒にでも何でも、なってやろうと思った。

「あげますよ。こんな俺の命でよければ、いくらでも差し上げます。だからセインを、セインを頼みます!」
「了解。契約成立だ」

 こうして俺は悪魔ヨミトさんの配下となった。魔を滅する勇者というスキルを持っていながら、悪魔に尽くす道を歩むことになったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...