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五章
クリスマスパーティー
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特に何事もなく平和な日が続く。そうして今年も終わりが見えてきた。今日はクリスマスの日だ。
無論、この世界にクリスマスなんて風習はない。年越しと新年を祝う風習はあるけど、クリスマスなんてものはない。
だが我がダンジョン内だけでもクリスマスを楽しむことにした。豆まきの時と一緒で、ダンジョン内の仲間だけでパーティーを開いて楽しむことにしたのだ。
去年は時間的にも金銭的にもクリスマスパーティーなんて開いている余裕はなかったが今年はある。牧場を整備したことで鶏肉もいっぱい確保できたことだしね。フライドチキンをメインディッシュに楽しむことにしよう。
ダンジョンの眷属も増えてきたことだし、クリスマス会を交流の場として親睦を深めてもらいたい所だ。
眷属同士の絆が深まれば、よりダンジョンが強固になるはずだ。この世界で永遠の存在になるという野望を果たすためにも、眷属同士、心から信頼して助け合って欲しいものだ。ダンジョンの結束は繁栄に繋がる。
というわけで、打算込みでクリスマス会を行うことにした。ダンジョン内の俺の家を会場として提供し、クリスマスパーティーを行うことにした。
「それじゃみんな、好きに飾りつけしてね~」
「はーい」
会場の至る所に設置したクリスマスツリー。
アリアちゃんやユウ君、インディスとデュワが産んだゴブリンのちびっ子――人魔問わない大勢のちびっ子たちが、袋いっぱいの飾りを手に、思い思いのツリーの所に向かって飾りつけを行っていく。
無難な飾りつけをする子もいれば、独特のセンスを発揮する子もいる。個性があって見ていると面白いものだ。
「ヨミトさん、料理はほとんど用意できたっす」
飾りつけに勤しむちびっ子たちの様子を眺めていると、パオンが声をかけてくる。
パオンにはクリスマス会の料理の準備をお願いしていた。エレーナたち料理班と協力して、滞りなく仕事をしてくれていたようだ。感謝である。
「あとはケーキだけっすけど、それももうすぐ終わるっす」
「そっかご苦労様パオン。朝からずっと準備してもらってて悪いね」
「お安い御用っすよ。異世界の祭り、ブレンダたちも楽しみにしてたみたいっすからね。料理人の腕が鳴るってもんすよ!」
労いの言葉に、パオンは朗らかに笑って答える。
良い笑顔だ。ブレンダと一時ぎくしゃくしてたみたいだけど、収穫祭をきっかけに完全に元通りに戻ったようだね。
「俺たちがケーキを作ってるなんて夢みたいっす。王都の菓子店ではああいうのがあるって聞いてたっすけど、まさか自分が作る日が来るとは思わなかったっす。父さんや母さんでも作れなかった料理を作れてるって、ブレンダもすっげー喜んでたっすよぉ」
「この前あげたレシピ、活用してくれているみたいだね」
「ありがたく活用させてもらってるっすよぉ」
パオンたちには先日、メニューのショップ機能で購入したお菓子のレシピ本をプレゼントした。しっかり勉強してくれているようで、それでケーキ作りも問題なく行ってくれたみたいだ。
「近々、ブレンダの店の店頭にも並べる予定っすよ」
「そうか。イースト村には競合店もないし、バカ売れするだろうな。儲けが増えて嬉しいな」
パオンたちはケーキを売り出すことを考えているようだ。ブレンダの店の新しい看板商品になることだろう。ダンジョン産の卵と牛乳の消費先が増えて、その点でも嬉しい限りだ。
全てをダンジョン産で賄うと怪しまれるので、ダンジョン外との取引も継続しているが、それを加味しても利益が伸びることだろう。最高だな。
「パオンも手が空いたらパーティーに参加してよ」
「了解っす。でもこのままじゃ汗臭いってリオさんたちに怒られるっすから、その前にひとっ風呂浴びてからお邪魔させてもらうっす」
「そっかじゃあまたね」
「はいっす」
パオンと別れ、俺はクリスマスパーティーの会場準備の仕事に戻る。
「ヨミト様、見て見て」
「おお、よく飾りつけできたね。偉いぞ」
「えへへ」
飾りつけを見せてくる子どもたちの相手をしていると、夕暮れ時が近づいてくる。ダンジョンの面々がそれぞれの仕事を終え、ダンジョン内の俺の家に集まってくる。
「みんな今日はよく集まってくれたね」
パーティーの冒頭、主催者として挨拶をする。大勢の前で挨拶するのも最近では慣れたものだ。
「それじゃ、めいっぱい楽しんで欲しい。メリークリスマス!」
キリストもサンタクロースもいない異世界で吸血鬼の俺が「メリークリスマス」とか言っているのは意味不明すぎるが、まあいいだろう。
キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝い、一週間も経たない内に神社に初詣に向かうのが日本人だ。そんな日本人の感性を持つ俺が、異世界で脈絡もなくクリスマスを祝ってもいいだろう。
メリークリスマスなんて言われても、サポートキャラで俺が元いた世界の知識が多少あるエリザ以外はちんぷんかんぷんだろうが、みんなノリでメリークリスマスと言って楽しんでくれているようである。楽しんだものが勝ちである。
「ご主人様、今日も偉大であらせられますわ」
「ああエリザ。君は今日も美しいね」
ドレス姿のエリザとも挨拶を交わして酒を酌み交わす。
クリスマス会なのでショップで買ったワインやシャンパンなども奮発して提供する。パオンたちが作った料理も美味しいし最高だな。
挨拶が一段落すれば、余興の時間となる。レイラとノビルが剣舞を舞ったり、メリッサが火炎魔法を使ったショーを見せたり、アキが自慢の笛の腕前を披露したり、ティゴメ&ティル母子がダンスを披露したり――それぞれ今日のために用意していてくれた芸を披露してくれる。
「みんなの前で見せるのは初めてだね。いつもエリザと遊びでやっているけどさ」
「ええそうですわね」
俺とエリザもナイフ投げの技術を披露する。
ナイフ投げの技術はスキル【投擲】を得て以来、趣味と実益を兼ねて鍛えていた。
実戦では剣で斬りつけたり素手で殴ったりした方が手っ取り早いので活用する機会があんまりないが、せっかくだしこういう時にでも活用させてもらうとしよう。
「おい、ヨミトの旦那たち、絶対に当てるなよ?」
「チュウ、それは前フリというやつか? 実は当てて欲しいということかい?」
「フリじゃねえ! 絶対に当てるなっつうの!」
「大丈夫ですわ。仮に失敗してもすぐに回復魔法をかければいいだけのことですので」
「やめろ! 絶対当てんな! 俺には大事な嫁と子がいるんだ! こんなしょうもない宴会芸で死にたくねえ!」
「チュウ、動くと危ないって。エリザは加減具合を間違えてミッドロウのギルド試験官を半殺しにしたことがあるんだ。動くと危ないぞ」
「ぎゃぁああ! 俺はまだ死にたくねえ!」
チュウの頭の上に乗っけたアプルゥの実に目がけてナイフを投げる。
失敗してチュウの顔に刺さることはなく、俺もエリザも芸を終えることができた。
「お疲れ。サポートありがとうチュウ。これはお礼のショップ産のお酒ね」
「うぅ、やっぱりヨミトの旦那たちは天使じゃねえ、悪魔だ……」
宴会芸が終われば再び食事再開となる。本格的に食事の時間だ。各自山盛りの料理を食べ始める。
「うまうまっ、うまうまですわ」
「美味しいです! 沢山食べられてイノコは幸せですぅ」
エリザは大食いファイターかってくらいの食べっぷりだね。イノコの食べっぷりも凄まじいが、体格が小さい分、エリザの方の異常さが際立つ。
二人共、スキル【大食】や【暴食】があるから凄まじい。
まあ俺も同じスキルを持っているので食おうと思えば食えるけどさ。
普通に食ってても前世に比べるとかなり食ってると思えるくらいだ。こんな細い身体のどこに入るんだって、自分でも不思議に思うくらいだよ。
「そろそろプレゼントを配る時間か。エリザ、準備をしよう。チュウ、君たちも来てくれ。事前に話してある通りだ」
「ええわかっていますわ」
「ああ例のアレだな。わかってんよ」
エリザたちを引き連れて会場を離れ、近くの控え室に向かう。そこでサンタクロースの姿に着替える。
着替えると言っても着替えるのはチュウたち男性陣だけで、俺やエリザたち女性陣はスキル【変化】を使うだけだが。レイラたちはエリザの持つ【共有】と【変化】の力を借り、女サンタクロースの姿に変化する。
「いつものヨミトじゃ面白くないし、老人に変化するのもなぁ。ミヨちゃん大人バージョンにでも変化するか。黒髪ロングの素敵なお姉さんサンタクロースに変化しちゃおっと。過激すぎない程度に露出は多めにしておくか」
せっかくなので女装して女型サンタクロースに変化することにした。髭もじゃの怪しげなお爺さんからプレゼントを貰うより、美女から貰った方が嬉しいだろうとの配慮だ。
特にゴブリンのちびっ子たちはタロウの血を引き継いでてスケベな遺伝子を持っているだろうからね。ちょっぴりエッチなお姉さんサンタクロースの方が嬉しいはずだ。
「やっぱチュウのサンタクロース姿が一番似合ってるな。本家サンタクロースに一番近いよ。お姉さんサンタクロースは素晴らしいけど邪道だしね」
「そうですわね。ダンジョンでは一番の爺だから似合いすぎですわ」
「爺って、確かにそうだけど、面と向かって言われると凹むな……」
辛辣なエリザの物言いに、チュウはしょぼんと背中を曲げる。
爺といってもアラサーで十分若いけどね。歳のわりに苦労しているので雰囲気とか、髭のアクセサリーとかのせいで老けて見えるだけだ。貫禄があると言ってあげて欲しいものだ。
ちなみにダンジョンのメンバーでダントツで年上なのはカーネラたち二号店のメンバーだが、それを指摘する者はいない。いたら殺されるだろう。カーネラたちはある意味、俺たち吸血鬼よりも恐ろしいのだ……。
「つーか、ヨミトの旦那は何で女装してんだ……」
「吸血鬼は性別を超越した偉大なる存在だからね。細かいことは気にしないの。今日は美女になりたい気分なのよ」
「そうかよ……」
チュウからツッコミを受けたので、適当に冗談で返しておく。そんなふざけたことをしていると、全員の準備が整ったようだ。
「それじゃ、プレゼントを配りにいこうか」
「ええそうですわね」
サンタクロース姿になった俺たちは会場に戻り、子どもたちにプレゼントを配っていく。
プレゼントの中身はお菓子とかそんなのだ。数が多いのでちゃちいプレゼントしかあげられないけど、喜んでくれているようなので幸いだ。
「はーい、ミヨお姉さんからのプレゼントを貰いたい子は誰~?」
「オイラ欲しい!」
「オイラも!」
「オイラはミヨお姉さんが欲しい!」
お姉さんサンタムーブをして、プレゼントを配っていく。
黒髪ロング美女のお姉さんサンタクロースミヨさんは、多くのゴブリンのちびっ子たちの心を射止めてしまったようだな。罪深いぜ俺って。
そんな感じでふざけながら楽しんでプレゼント配りを終えた。
プレゼントを配り終えればメインの行事は終了。子どもたちはそれぞれの家に帰っていき、一部の大人たちが残って宴会を楽しむだけとなった。
「おい、ブレンダとはヤったのか?」
「な、なんすかいきなり……」
「はっきりしやがれ坊主!」
「何でここで言う必要あるっすかぁ!」
パオンが酒癖の悪いメリッサたちに絡まれているが放置しておこう。ヤバくなったらカーネラたちが間に入ってくれるだろう。
ちなみにパオンはまだ童貞のはずだ。この前吸血した際には童貞の味がしたからね。
「初めてのクリスマスパーティーだったけど、大成功に終わったようでよかったよ」
「ええそうですわね」
良い時間帯になってきたのでそろそろクリスマスパーティーもお開きにしようか――そんなことを考え始めた時、一号店の当直に向かったばかりのゴブルルが慌てた様子で戻ってきた。
「ご主人様、一号店にお客さんがやって来そうです! 森に配置した蝙蝠ちゃんが連絡をくれました! 一号店に向かう旅人らしき人がいるそうです!」
「えっ、本当!?」
「本当です! マジマジ! びっくりしました! まさかあの店にお客さんがやって来るだなんて……」
なんと一号店に久しぶりにお客様がやって来そうなのだと言う。これは急いで向かわなければいけないな。
(嬉しいなぁ。まさか一号店にお客さんがやって来るなんて。今日はついてるぞ)
神様はきっと見ているに違いない。異世界で真面目に商売に励んで社会貢献している俺のことを見ていてくれているんだな。
まさか俺にもクリスマスプレゼントがあるなんて思わなかった。今日は最高の夜だ。
「エリザ、悪いけどクリスマス会の後片付けの指揮を頼まれてくれるか? 俺は一号店のおもてなしの準備を急いでしないといけない。クリスマスだし、最高のおもてなしをしなければ!」
「ええ承りましたわ。ご主人様はお客様の対応を優先して下さいませ」
「ああしっかりおもてなしさせていただくぜ。うひひ、やったぁ、久しぶりにおもてなしできるぞ!」
「うふふ、無邪気なご主人様、可愛らしいですこと」
俺はエリザに後を託すと、急ぎ一号店に向かったのであった。
無論、この世界にクリスマスなんて風習はない。年越しと新年を祝う風習はあるけど、クリスマスなんてものはない。
だが我がダンジョン内だけでもクリスマスを楽しむことにした。豆まきの時と一緒で、ダンジョン内の仲間だけでパーティーを開いて楽しむことにしたのだ。
去年は時間的にも金銭的にもクリスマスパーティーなんて開いている余裕はなかったが今年はある。牧場を整備したことで鶏肉もいっぱい確保できたことだしね。フライドチキンをメインディッシュに楽しむことにしよう。
ダンジョンの眷属も増えてきたことだし、クリスマス会を交流の場として親睦を深めてもらいたい所だ。
眷属同士の絆が深まれば、よりダンジョンが強固になるはずだ。この世界で永遠の存在になるという野望を果たすためにも、眷属同士、心から信頼して助け合って欲しいものだ。ダンジョンの結束は繁栄に繋がる。
というわけで、打算込みでクリスマス会を行うことにした。ダンジョン内の俺の家を会場として提供し、クリスマスパーティーを行うことにした。
「それじゃみんな、好きに飾りつけしてね~」
「はーい」
会場の至る所に設置したクリスマスツリー。
アリアちゃんやユウ君、インディスとデュワが産んだゴブリンのちびっ子――人魔問わない大勢のちびっ子たちが、袋いっぱいの飾りを手に、思い思いのツリーの所に向かって飾りつけを行っていく。
無難な飾りつけをする子もいれば、独特のセンスを発揮する子もいる。個性があって見ていると面白いものだ。
「ヨミトさん、料理はほとんど用意できたっす」
飾りつけに勤しむちびっ子たちの様子を眺めていると、パオンが声をかけてくる。
パオンにはクリスマス会の料理の準備をお願いしていた。エレーナたち料理班と協力して、滞りなく仕事をしてくれていたようだ。感謝である。
「あとはケーキだけっすけど、それももうすぐ終わるっす」
「そっかご苦労様パオン。朝からずっと準備してもらってて悪いね」
「お安い御用っすよ。異世界の祭り、ブレンダたちも楽しみにしてたみたいっすからね。料理人の腕が鳴るってもんすよ!」
労いの言葉に、パオンは朗らかに笑って答える。
良い笑顔だ。ブレンダと一時ぎくしゃくしてたみたいだけど、収穫祭をきっかけに完全に元通りに戻ったようだね。
「俺たちがケーキを作ってるなんて夢みたいっす。王都の菓子店ではああいうのがあるって聞いてたっすけど、まさか自分が作る日が来るとは思わなかったっす。父さんや母さんでも作れなかった料理を作れてるって、ブレンダもすっげー喜んでたっすよぉ」
「この前あげたレシピ、活用してくれているみたいだね」
「ありがたく活用させてもらってるっすよぉ」
パオンたちには先日、メニューのショップ機能で購入したお菓子のレシピ本をプレゼントした。しっかり勉強してくれているようで、それでケーキ作りも問題なく行ってくれたみたいだ。
「近々、ブレンダの店の店頭にも並べる予定っすよ」
「そうか。イースト村には競合店もないし、バカ売れするだろうな。儲けが増えて嬉しいな」
パオンたちはケーキを売り出すことを考えているようだ。ブレンダの店の新しい看板商品になることだろう。ダンジョン産の卵と牛乳の消費先が増えて、その点でも嬉しい限りだ。
全てをダンジョン産で賄うと怪しまれるので、ダンジョン外との取引も継続しているが、それを加味しても利益が伸びることだろう。最高だな。
「パオンも手が空いたらパーティーに参加してよ」
「了解っす。でもこのままじゃ汗臭いってリオさんたちに怒られるっすから、その前にひとっ風呂浴びてからお邪魔させてもらうっす」
「そっかじゃあまたね」
「はいっす」
パオンと別れ、俺はクリスマスパーティーの会場準備の仕事に戻る。
「ヨミト様、見て見て」
「おお、よく飾りつけできたね。偉いぞ」
「えへへ」
飾りつけを見せてくる子どもたちの相手をしていると、夕暮れ時が近づいてくる。ダンジョンの面々がそれぞれの仕事を終え、ダンジョン内の俺の家に集まってくる。
「みんな今日はよく集まってくれたね」
パーティーの冒頭、主催者として挨拶をする。大勢の前で挨拶するのも最近では慣れたものだ。
「それじゃ、めいっぱい楽しんで欲しい。メリークリスマス!」
キリストもサンタクロースもいない異世界で吸血鬼の俺が「メリークリスマス」とか言っているのは意味不明すぎるが、まあいいだろう。
キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝い、一週間も経たない内に神社に初詣に向かうのが日本人だ。そんな日本人の感性を持つ俺が、異世界で脈絡もなくクリスマスを祝ってもいいだろう。
メリークリスマスなんて言われても、サポートキャラで俺が元いた世界の知識が多少あるエリザ以外はちんぷんかんぷんだろうが、みんなノリでメリークリスマスと言って楽しんでくれているようである。楽しんだものが勝ちである。
「ご主人様、今日も偉大であらせられますわ」
「ああエリザ。君は今日も美しいね」
ドレス姿のエリザとも挨拶を交わして酒を酌み交わす。
クリスマス会なのでショップで買ったワインやシャンパンなども奮発して提供する。パオンたちが作った料理も美味しいし最高だな。
挨拶が一段落すれば、余興の時間となる。レイラとノビルが剣舞を舞ったり、メリッサが火炎魔法を使ったショーを見せたり、アキが自慢の笛の腕前を披露したり、ティゴメ&ティル母子がダンスを披露したり――それぞれ今日のために用意していてくれた芸を披露してくれる。
「みんなの前で見せるのは初めてだね。いつもエリザと遊びでやっているけどさ」
「ええそうですわね」
俺とエリザもナイフ投げの技術を披露する。
ナイフ投げの技術はスキル【投擲】を得て以来、趣味と実益を兼ねて鍛えていた。
実戦では剣で斬りつけたり素手で殴ったりした方が手っ取り早いので活用する機会があんまりないが、せっかくだしこういう時にでも活用させてもらうとしよう。
「おい、ヨミトの旦那たち、絶対に当てるなよ?」
「チュウ、それは前フリというやつか? 実は当てて欲しいということかい?」
「フリじゃねえ! 絶対に当てるなっつうの!」
「大丈夫ですわ。仮に失敗してもすぐに回復魔法をかければいいだけのことですので」
「やめろ! 絶対当てんな! 俺には大事な嫁と子がいるんだ! こんなしょうもない宴会芸で死にたくねえ!」
「チュウ、動くと危ないって。エリザは加減具合を間違えてミッドロウのギルド試験官を半殺しにしたことがあるんだ。動くと危ないぞ」
「ぎゃぁああ! 俺はまだ死にたくねえ!」
チュウの頭の上に乗っけたアプルゥの実に目がけてナイフを投げる。
失敗してチュウの顔に刺さることはなく、俺もエリザも芸を終えることができた。
「お疲れ。サポートありがとうチュウ。これはお礼のショップ産のお酒ね」
「うぅ、やっぱりヨミトの旦那たちは天使じゃねえ、悪魔だ……」
宴会芸が終われば再び食事再開となる。本格的に食事の時間だ。各自山盛りの料理を食べ始める。
「うまうまっ、うまうまですわ」
「美味しいです! 沢山食べられてイノコは幸せですぅ」
エリザは大食いファイターかってくらいの食べっぷりだね。イノコの食べっぷりも凄まじいが、体格が小さい分、エリザの方の異常さが際立つ。
二人共、スキル【大食】や【暴食】があるから凄まじい。
まあ俺も同じスキルを持っているので食おうと思えば食えるけどさ。
普通に食ってても前世に比べるとかなり食ってると思えるくらいだ。こんな細い身体のどこに入るんだって、自分でも不思議に思うくらいだよ。
「そろそろプレゼントを配る時間か。エリザ、準備をしよう。チュウ、君たちも来てくれ。事前に話してある通りだ」
「ええわかっていますわ」
「ああ例のアレだな。わかってんよ」
エリザたちを引き連れて会場を離れ、近くの控え室に向かう。そこでサンタクロースの姿に着替える。
着替えると言っても着替えるのはチュウたち男性陣だけで、俺やエリザたち女性陣はスキル【変化】を使うだけだが。レイラたちはエリザの持つ【共有】と【変化】の力を借り、女サンタクロースの姿に変化する。
「いつものヨミトじゃ面白くないし、老人に変化するのもなぁ。ミヨちゃん大人バージョンにでも変化するか。黒髪ロングの素敵なお姉さんサンタクロースに変化しちゃおっと。過激すぎない程度に露出は多めにしておくか」
せっかくなので女装して女型サンタクロースに変化することにした。髭もじゃの怪しげなお爺さんからプレゼントを貰うより、美女から貰った方が嬉しいだろうとの配慮だ。
特にゴブリンのちびっ子たちはタロウの血を引き継いでてスケベな遺伝子を持っているだろうからね。ちょっぴりエッチなお姉さんサンタクロースの方が嬉しいはずだ。
「やっぱチュウのサンタクロース姿が一番似合ってるな。本家サンタクロースに一番近いよ。お姉さんサンタクロースは素晴らしいけど邪道だしね」
「そうですわね。ダンジョンでは一番の爺だから似合いすぎですわ」
「爺って、確かにそうだけど、面と向かって言われると凹むな……」
辛辣なエリザの物言いに、チュウはしょぼんと背中を曲げる。
爺といってもアラサーで十分若いけどね。歳のわりに苦労しているので雰囲気とか、髭のアクセサリーとかのせいで老けて見えるだけだ。貫禄があると言ってあげて欲しいものだ。
ちなみにダンジョンのメンバーでダントツで年上なのはカーネラたち二号店のメンバーだが、それを指摘する者はいない。いたら殺されるだろう。カーネラたちはある意味、俺たち吸血鬼よりも恐ろしいのだ……。
「つーか、ヨミトの旦那は何で女装してんだ……」
「吸血鬼は性別を超越した偉大なる存在だからね。細かいことは気にしないの。今日は美女になりたい気分なのよ」
「そうかよ……」
チュウからツッコミを受けたので、適当に冗談で返しておく。そんなふざけたことをしていると、全員の準備が整ったようだ。
「それじゃ、プレゼントを配りにいこうか」
「ええそうですわね」
サンタクロース姿になった俺たちは会場に戻り、子どもたちにプレゼントを配っていく。
プレゼントの中身はお菓子とかそんなのだ。数が多いのでちゃちいプレゼントしかあげられないけど、喜んでくれているようなので幸いだ。
「はーい、ミヨお姉さんからのプレゼントを貰いたい子は誰~?」
「オイラ欲しい!」
「オイラも!」
「オイラはミヨお姉さんが欲しい!」
お姉さんサンタムーブをして、プレゼントを配っていく。
黒髪ロング美女のお姉さんサンタクロースミヨさんは、多くのゴブリンのちびっ子たちの心を射止めてしまったようだな。罪深いぜ俺って。
そんな感じでふざけながら楽しんでプレゼント配りを終えた。
プレゼントを配り終えればメインの行事は終了。子どもたちはそれぞれの家に帰っていき、一部の大人たちが残って宴会を楽しむだけとなった。
「おい、ブレンダとはヤったのか?」
「な、なんすかいきなり……」
「はっきりしやがれ坊主!」
「何でここで言う必要あるっすかぁ!」
パオンが酒癖の悪いメリッサたちに絡まれているが放置しておこう。ヤバくなったらカーネラたちが間に入ってくれるだろう。
ちなみにパオンはまだ童貞のはずだ。この前吸血した際には童貞の味がしたからね。
「初めてのクリスマスパーティーだったけど、大成功に終わったようでよかったよ」
「ええそうですわね」
良い時間帯になってきたのでそろそろクリスマスパーティーもお開きにしようか――そんなことを考え始めた時、一号店の当直に向かったばかりのゴブルルが慌てた様子で戻ってきた。
「ご主人様、一号店にお客さんがやって来そうです! 森に配置した蝙蝠ちゃんが連絡をくれました! 一号店に向かう旅人らしき人がいるそうです!」
「えっ、本当!?」
「本当です! マジマジ! びっくりしました! まさかあの店にお客さんがやって来るだなんて……」
なんと一号店に久しぶりにお客様がやって来そうなのだと言う。これは急いで向かわなければいけないな。
(嬉しいなぁ。まさか一号店にお客さんがやって来るなんて。今日はついてるぞ)
神様はきっと見ているに違いない。異世界で真面目に商売に励んで社会貢献している俺のことを見ていてくれているんだな。
まさか俺にもクリスマスプレゼントがあるなんて思わなかった。今日は最高の夜だ。
「エリザ、悪いけどクリスマス会の後片付けの指揮を頼まれてくれるか? 俺は一号店のおもてなしの準備を急いでしないといけない。クリスマスだし、最高のおもてなしをしなければ!」
「ええ承りましたわ。ご主人様はお客様の対応を優先して下さいませ」
「ああしっかりおもてなしさせていただくぜ。うひひ、やったぁ、久しぶりにおもてなしできるぞ!」
「うふふ、無邪気なご主人様、可愛らしいですこと」
俺はエリザに後を託すと、急ぎ一号店に向かったのであった。
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