吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

オーク討伐依頼12/13(イノコとの戦い)

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(さあて。戦闘開始はド派手にいくか)

――スキル【風刃】発動。

 俺は魔力を多めに注ぎ込み、特大の魔法を発動する。前にパープルの血からラーニングした風の魔法だ。

 俺の掌から発生した大きな風の刃が、本陣を巻き込みながら暴れ狂う。中にいたオークたちを一掃していく。

「ぎゃああああ!」
「うぎゃあああ!」

 ザコオークは当然一撃で屠れたものの、イノコを始めとした幹部級のオークは耐久力があるのか、重傷を負わせることはできたものの、一撃で倒すことはできなかった。

 イノコに至っては、大したダメージすら負っていないようだった。

「て、敵襲ぅう!」
「敵だぁあ! 敵がここにいるぞ!」

 異変に気づいた本陣周辺にいたオークたちが襲い掛かってくる。

「邪魔だぁあああ!」

――スキル【咆哮】発動。

 昼間ザコオークの血からラーニングしたばかりのスキルを発動する。吸血鬼のプレッシャーとスキルの効果によって、多くのオークたちの動きが止まる。

「――ぶひ」
「――ふが」
「――ひふ」

 動きが止まったオークのその首を順番に刎ねていく。一匹二匹三匹と。

 手刀でもスッパリと切れるもんだ。ステータス値の力が元々高い上に、スキル【怪力】で上乗せされ、さらにスキル【格闘】のおかげで上乗せされており、化け物のような腕力となっているらしい。

 吸血鬼だから化け物というのは間違いではないな。文字通り化け物だ。

「ひぃっ、ば、化け者!」
「吸血鬼だぁあ!」
「ひぃいいい!」

 豆腐を切るように仲間のオークの首が刎ねられていくのを見て、周囲にいたオークたちは恐慌状態に陥る。

「落ち着きなさい!」

 そんな恐慌状態に陥ったオークたちを、イノコは叱咤激励していく。

 何かしらのスキルでも使っているのか、怯えているオークはすぐに戦線復帰してくる。さらにはステータスもアップしているのか、普通のザコよりも強くなっている。

 面倒な相手だ。そんな面倒なイノコを真っ先に仕留めるべく、俺は飛び掛っていく。

 だが――。

「死になさい! 吸血鬼!」
「ちっ、中々やるな」

 イノコは強かった。パンチを食らわせても大きなダメージを受けている様子がない。俺と対等に殴り合ってくる。

 これだけ俺の全力パンチを食らっても死なないなんで異常すぎる。間違いなく今までで戦った敵の中でナンバーワンの強さだ。普通のオークとは思えなかった。

(シブヘイがこのイノコって奴より強いとすると不味いな。この場にいないのが幸いか。シブヘイが増援に現れる前に仕留めてやる!)

 イノコをここで仕留めるべく、全力で戦っていく。

 周りに大勢のオークがいるものの、実質、俺とイノコの一騎打ちのようなものだ。ザコは戦いの余波で吹っ飛んで死んでいくからね。

――スキル【毒牙】発動。

「ぎゃぁあああッ!」

 隙を見てイノコの腕を掴んで噛み付く。毒を注入すると同時、吸血もする。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【激励】を獲得。

激励:周囲の味方を鼓舞し、普段の実力以上の力を発揮させる。精神異常系ステータスからの復帰も早める。

 どうやら得られたのは先ほどイノコが部下のオークたちに使っていたスキルのようだ。

 レイラたちのレベリングをさせる際に有用そうで有難いが、今ソロで戦っている俺には意味のないスキルだった。

 だが吸血はついでだ。本命は毒攻撃である。

「がぁぁ……ぐぅ……」

 麻痺毒を食らったのか、イノコの動きが鈍くなる。チャンスだな。

(どうやら勝負あったようだな。このまま仕留めてやる!)

 ここぞとばかりに俺は追撃を加えていくのだが……。

「母上を守れ!」
「決死隊となるんだ!」
「うぉおお! 母さんを守れぇえ!」

 イノコに止めを刺そうとする俺を、周りにいたオークたちが必死に食らいつくようにして阻んでくる。

 こいつら全員ハイクラスのオークだな。耐久力が他のオークよりもある。おまけにイノコのスキルで強化されているので、束でかかってくると地味に潰すのに時間がかかる。

「母上、撤退してください! ここは持ちません! 化け物ですこいつ!」
「わかりました……無念ですが全軍撤収!」

 逃げようとするイノコ。

 ここで逃がしたら面倒だと思い、俺は必死に追撃する。スキル【狂化】を使い、一気に突破を図る。

 だが――。

「母上はやらせない!」
「ちっ、邪魔臭い!」

 次から次へとオークたちが肉壁になり、行く手を阻む。ザコオークの死体が積み重なるだけで、イノコには届かない。その隙に、イノコは遥か遠くに逃げてしまう。

(これ以上は危ないな。追撃した先にシブヘイとやらがいたら不味い)

 適当な所で、俺は追撃を諦めることにした。これ以上の追撃は危険そうだと思ったからだ。スキル【狂化】の効果も切れる頃合だしな。

「はぁはぁ」
「吸血鬼が弱っているぞ! 今が好機だぞ!」

 スキル【狂化】の発動後のクーリングタイムのせいで、疲れて動きが鈍る。このチャンスを逃がさないとばかりに、オークたちが俺を仕留めようと襲ってくる。

 ちょっとピンチになるかと思ったが、そんな心配はなかった。

「汚い手でご主人様に触らないでくれますか」

 一つの影が空中からふわりと舞い降りてくる。エリザだった。

 スキル【狂化】を発動する前に、連絡蝙蝠を飛ばしてエリザに増援に来るように伝えていたのだ。それでちょうど到着したようだ。ナイスタイミングだぜエリザ。

「エリザ、周りのザコは任せたぞ。俺は少し休憩する」
「ええお任せ下さいませ」

 エリザに露払いを負かせ、俺はそこらへんにあるオークの死体を掴み、吸血して栄養補給することにした。

「まっず。おえっ」

 不味いが多少は体力を回復するのに役立つのでどんどん吸っていく。そうしている間に、エリザは周囲のオークたちを全て屠った。

「ご主人様、周囲にいた豚共は蹴散らしましたわ」
「ご苦労さん。レベリングのチャンスだ。エリザも栄養補給がてらどうだ。豚の血も乙なもんだぞ」
「ええ頂きますわ」

 エリザと二人、そこらへんにあるオークの死骸の血を吸っていく。森に隠していた蝙蝠たちも姿を現し、ちゅうちゅうと吸い始める。みんなでちゅうちゅうタイムだ。

 吸血しつつ、エリザと情報交換をする。

「村の方はどうだ?」
「村のオーク共は私が抜ける前に撤収していきましたので、残党は今頃片付いている頃かと。あのトロール男もいますし、大丈夫かと思いますわ」
「そうか。レイラにはスキル【癒光】を覚えさせてあるし、まあ大丈夫だろう。いざという時の回復ポーションも渡してあるしな」
「それよりも、私はご主人様をここまで追い詰めた輩について教えて頂きたいですわ」
「ああそれなんだが……」

 俺が知り得たイノコやシブヘイについての情報をエリザにも伝える。ダンジョンマスターとその従者である可能性があることを伝えると、エリザの表情が曇った。

「その可能性は十分にございますわね」
「エリザの神から与えられた知識の中には、他のダンジョンマスターについての知識はないのか? その存在について触れる知識はないのか?」
「ええ残念ながら。何もわかりませんわ。そんな情報は与えられておりません」
「そうか。なら仕方ないな」

 エリザは他のダンジョンマスターの存在については何も知らないという。

 転生直後に聞いた話では必要最低限の知識しか与えられていないという話だったから、仮に他にダンジョンマスターが存在していても、その存在についてはわからないのだろう。

(俺以外のダンジョンマスターか。あり得るかもな)

 夕方からのたった数時間の内に急に現れた本陣と装備の整った大軍。

 ダンジョンマスターがそれを用意したと考えれば、納得できる話だ。今回の事件の裏にいるのは、ダンジョンマスターとその従者かもしれない。

 無論、この世界には転移できる魔道具もあるようだし、この世界の住人が主犯という可能性もある。その可能性もあるが、ダンジョンマスターが相手だと考えた方がいいだろう。

 常に最悪の事態を想定して、警戒しておくに越したことはない。敵は俺たちと同格のダンジョンマスターとして考えた方が良さそうだ。

(たかが鉄等級のオーク討伐任務かと思ったら、意外と大事だったな。だが面白い)

 周囲を満たす咽返るようなオークの血臭と、戦闘後の心地良い疲労感に浸りながら、俺は月を見上げて獰猛に笑った。

 前世の俺はともかくとして、吸血鬼となった俺は闘争を心から楽しめるような身体になっているらしい。

 強大な敵、望むところだ。オークだろうが同じ吸血鬼だろうが、食らってやるぜ。


♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.57) 種族:吸血鬼(ハイ)
HP:1055/1055 MP:957/957
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】【格闘】【毒牙】【硬化】
【舞踏】【鎚術】【怪力】【豚語】【咆哮】【免疫】【激励】
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