吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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四章

爆乳配達人メグミン

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 もう夏は過ぎ去ったといった感じだね。昼間はそれでもまだ暑いが、朝は肌寒い。そんな季節となった。

「はあっ!」
「おらっ!」

 ノビルとレイラの二人は、朝っぱらから庭で鍛錬に励んでいる。

 誤解が解けて元の仲に戻った二人は、前と同じように毎日のように朝早くから鍛錬に励んでいる。

 運動するにはちょうどいい季節だからね。スポーツの秋ってよく言うし。

 俺とエリザも毎日のように犬の散歩をしに近所を歩き回っている。今は散歩から戻ってきて、二人の稽古の様子を見守っているといった感じだ。

「ノビル。さっきの、踏み込みがちょっと甘いよ」
「ああ」
「それじゃもう一度いくよ」
「おう」

 朝飯を作り終えた俺は、ノビルとレイラが稽古に励むのを見ながら、コーヒーを飲み、「平和だなぁ」と爺みたいなことを呟く。尻尾を振って近寄ってくるシヴァたちの頭を撫でながら物思いに耽る。

「おはようございます!」

 物思いに耽っていると、元気の良い若い娘の声で現実に引き戻された。

 振り向くと、家の入り口に女の子が立っていた。大きな籠を背負った若い子である。どこかで見たことある顔だった。

「メグミン。久しぶりだな」
「ここってノビルさんのお宅だったんですね!」
「俺の家というか、まあチームのみんなの家だな」

 どうやらノビルの知り合いらしい。

「ノビル、アンタの知り合い?」
「バイト先の牧場の娘さんだ」
「初めまして、メグミンといいます!」
「ああ、私はレイラよ。こいつの幼馴染で同じ冒険者仲間」

 誰かと思ったら、この前ノビルの後をつけた時に見かけた牧場娘だった。

 名前はメグミンというらしいな。やたら大きな声で喋る子だ。いかにも元気娘って感じだな。

「俺はヨミトです、よろしく。いつもノビルがお世話になってるみたいだね」
「いえいえ。最近はこっちの事情でバイトもお願いできなくて申し訳ないです!」
「そうなんだ」

 そういえば最近ノビルはバイトに行ってないみたいだ。

 相変わらずあのアキとかいう少年とは遊んでいるようだが。何か事情があるみたいだけど、俺たちが深く立ち入るべきことじゃないだろう。

「その、ノビルさんの知り合いの皆さんにこんなことを頼むのは申し訳ないんですけど……」
「ん、何?」

 快活だったメグミンの表情が少しだけ曇る。彼女は恐る恐るといった感じで、背負った籠から瓶を取り出した。

「私たちの牧場で生産してるブルの乳なんですけど、よかったら買っていただけないでしょうか?」

 ブルの乳とは、この世界で言うところの牛乳みたいなものだ。

 どうやらメグミンは牛乳の訪問販売に来たらしい。農業地区にある家々を回っていたんだろう。

「ああ。構わないよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」

 俺が諾と言うと、メグミンは満面の笑みで勢いよく頭を下げた。

 それに伴い、爆乳がぶるんと揺れ動く。お辞儀をした際に谷間がもろ見えとなる。

(だからどうしたって話だよな)

 メグミンの巨乳の谷間を見たところで、俺の心は一ミリも動かない。

 吸血鬼になった俺は、性欲という人間の煩悩から解放された究極生物となったのだ。それを今更ながら実感できるな。

「せっかくだから、もう二、三本貰おうかな」
「本当ですか! ありがとうございます!」

 追加で購入する意思を示すと、メグミンは頭をさらに何度もペコペコと下げた。

 その度にぶるんぶるんと乳が揺れ動くが、何度見ても俺の心はまったく動かない。凪である。

(あぁ、やはり俺は煩悩から解放された究極生物になれたんだなぁ)

 メグミンの乳揺れを見る度に煩悩から解放されたことを悟り、俺は吸血鬼になれた喜びに震えた。

 人外になれた喜びに打ち震え、気づけば、俺はメグミンの持っていた籠に入っていた牛乳の全てを買い上げてしまった。

「こんなに買っていただけるなんて! ヨミトさんって、ブルのお乳、お好きなんですね!」
「まあね」
「よかったら明日からも定期的にお届けしましょうか?」
「そうだね、今日みたいに大量にはいらないけど、人数分くらい頼もうかな」
「わかりました、ありがとうございます!」

 明日からメグミンは毎日この家に訪れてくれるという。牛乳は飲みたかったし、これからの季節乳煮込み料理にも使えるからあって困らないな。

「本当にありがとうございました!」
「うん。またね。メグミンちゃん」

 メグミンは慇懃に頭を何度も下げると、小走りで去っていった。

「ヨミトさん、ブルの乳買いすぎじゃないですか?」
「そんなに買ってどうすんだよ……」

 振り返ると、レイラとノビルにジト目で見られていた。

 俺が「吸血鬼になれた喜びに浸ってたらつい」と恥ずかしそうに答えると、彼女たちの目は完全に呆れたものを見るものとなった。

「こんなに沢山買ってどうするつもりですか!」
「大丈夫大丈夫。飲めるから」
「お金があるからって無駄遣いばかりしてちゃいけませんよ!」

 大量の牛乳瓶を抱えて家に入ると、案の定、パープルに怒られてしまう。いつも思うけど、パープルってお母さんみたいだよね。

「誰がお母さんですか! 僕はヨミトさんのお母さんじゃありません!」

 そんなことを言うとさらに怒られてしまう。

 購入した牛乳は俺たちで消費する分を残した後、こっそりダンジョンに持ち帰った。その場にいた子たちに早いもん順で振舞ったのであった。

 ちなみにメグミンから買った牛乳は、家畜の育て方がいいのか凄い濃厚で美味しく、大満足な一品であった。
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