吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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三章

宿泊者名簿No.11 パン屋の見習い少年パオン7/7

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 カニバルの一件が済み、俺とブレンダは再びイースト村のブレンダの家に戻ってきたんす。

 俺と同じくブレンダもヨミトさんの眷属となり、揃ってヨミトさんの庇護を受けることになったっす。

 若い俺たちだけじゃ、親方の店を守っていくなんてできそうもなかったっすからね。

 親方の店はブレンダが継ぐことになったっす。
 正確には、ヨミトさんが裏の経営者で表の経営者がブレンダなんすけどね。俺は副店長としてそれを支えることになったっす。

 ブレンダのパン屋は、宿屋としても本格的に営業していくことになったっす。パン屋の隣の家には前からちょくちょく宿泊客を泊めていたっすけど、通常営業はしてなかったっす。そうだったんすけど、ヨミトさんの宿となってからは、新たに人手を雇って通常営業することになったっす。

「ヤオさん、これをコーボーさんの宿に届けてくれる? ナーナさんとココちゃんはこれを店頭に並べて欲しいの」
「はい」
「了解です」
「わかりました」

 現在、ブレンダの店では、俺とブレンダの他に、六人もの女の人が働いているっす。
 親方が亡くなって人手が減ったことに加え、宿屋としても本格的に営業することになったから、人手を増やすことにしたんす。

 以前だったらそんな急に人手を増やすなんて無理なことだったんすけど、常識外のヨミトさんの力を借りれば簡単なことだったっす。
 ダンジョンという違法な資産を持っているヨミトさんは大金持ちだったっす。新たに六人を養っていけるだけの資金が余裕であったっすよ。

 新たに雇ったのは、ナーナ、ヤオ、ココ、メイプル、リオ、パンシーさんの六人っす。六人とも、ヨミトさんの眷属っす。

 ナーナ、ヤオ、ココ、メイプルさんの四人は元娼婦さんらしいっすね。イースト村の娼館で働いてたっぽいす。ヨミトさんが身請けして、ダンジョンで雇ったらしいっす。それで今はウチの店の労働力として派遣してもらってるってわけっす。

 リオさんとパンシーさんは、ブレンダと同じく王都の学校に通ってたらしいんすけど、やめてブレンダの店で働くことにしたっぽいす。

 カニバルが処刑されたとばっちりで学校の料理学専攻課程が廃止されてしまったんで、それがやめた理由みたいっすね。彼女たちは他の課程に転向するつもりはなかったみたいで、補償金貰って学校やめる方を選択したみたいっす。

 二人は補償金を貰ったはいいが、故郷の村には帰りたくないのでどうしようか迷っていた所、ヨミトさんに声をかけられたらしいっす。それでダンジョンに永久就職することにしたみたいで、今はウチの宿の労働力として派遣されてるってわけっす。

「芋頭君、あと何分?」
「あと三分っすね。それで焼き上がり完了っす」
「了解、芋頭君」

 リオとパンシーさんは、ブレンダと同じく料理学専攻だっただけあって、料理が上手いっす。俺より料理出来るんで、店での序列はブレンダ、リオ、パンシー、俺――という風に、自然とそうなっているっす。

 副店長なのに店での序列が四番目ってどういうことっすかぁ。マジ意味わかんないっすよぉ。

「芋頭君、これブレンダんところに持ってって」
「はいっすリオさん」
「芋っ、こっちも」
「はいっすパンシーさん」

 俺は二人から芋頭君って呼ばれてるっす。酷い時はそのまま芋呼ばわりっす。同い年なのに、めっちゃ舐められてるっすよ。副店長なのにこき使われてて酷いっす。

 まあ二人より料理下手っぴだから仕方ないんすけどね。しばらくはリオさんたちにこき使われながら、料理技術を磨く日々が続きそうっすね。

 ヨミトさんからスキル【料理】を授けて頂いたことだし、頑張らなきゃいけないっすよ。

「もう予約注文は全部捌けたし、店内のお客さんも少なくなってきたから、リオとパンシー以外はあがっていいわよ。ダンジョンに行ってお風呂にでも入ってきて。パオンも明け方から働いてくれてたし、行ってきていいわよ」
「了解っす。汗だくだったっすから流させてもらってくるっすよ」
「芋、アンタさっきから超汗臭いから早く行って来た方がいいって。マジ臭ぇから。客の近くには寄んない方がいいよ。ちゃんと裏口から宿の方に行けよ」
「そんなの酷いっすよ。夏場は仕方ないっすよぉ」
「うるせえ、とっとと裏口から行け」
「わかったっすよぉ」

 リオさんとパンシーさんに臭い臭いと言われながら、俺は駆け足気味に店を後にしたっす。

 最近扱いマジで酷いっすよぉ。俺、一応副店長なのに。

「ちょっとお芋ちゃん、貴方、めっちゃ汗臭いわよ。宿のお客さんに迷惑かかっちゃうわ」
「わかってるっすよぉ。だから今からダンジョンの風呂に向かうとこなんす!」
「ああそうなの。ごめんね」

 パン屋の隣にあるブレンダの祖母の実家(今は宿屋)の奥の部屋。そこの地下室に、ダンジョンに繋がる転移陣が設置してあるっす。

 そこに向かうべく裏口から庭に入ると、庭で花に水をやっていたメイプルさんに出会い、出会い頭に汗臭いと怒られたっす。それでついムキになって強い口調で言い返してしまったっす。

 臭い臭いって酷いっすよぉ。汗は男の労働の勲章っすよぉ。女にはわからないんすねぇ。

 ちょっとムカムカしながら転移陣の設置された部屋に向かい、転移陣を経由してダンジョンに入り、それからダンジョン内に設置された俺とブレンダの家から出て、お風呂場施設へと向かったっす。

 ダンジョン内の家にある風呂でもいいんすけど、お風呂場施設の方が大きな風呂に入れるし、何よりダンジョンの眷属の方々と交流できるんで、俺はいつもお風呂場施設に行ってるっす。

「よおパオン。仕事終わりか?」
「そうっすよチュウさん。朝から動き回ってクタクタっすよぉ」
「ハハハそうか。お疲れさん」

 お風呂場施設の近くで、ちょうどチュウさんに出会ったっす。どうやら彼も仕事終わりで風呂に来たっぽいっすね。チュウさんは気さくに声をかけてくれたっす。

「いらっしゃい」
「よお。今日はゴブララちゃんが当番か」
「ええ」

 お風呂場施設に入ると、番台のゴブリン娘が挨拶してくれたっす。チュウさんは軽く手を振ってそれに答えていたっす。

 毎回思うっすけど、ゴブリンの娘っこに出迎えられるなんて変な気分っすね。普通じゃ考えられないっすよ。魔物といえば、普通は人間の敵っすから。

「ゴブリンの言葉がわかるのって、今更だけどおかしな気がするっすよぉ」
「ハハ、それは俺もだぜ。まあだいぶ慣れたけどな」

 俺たち眷属はヨミトさんから【鬼語】というスキルを授かったので、ゴブリンの言葉がわかるようになったんすよね。だから俺もチュウさんもゴブリン娘の言葉がわかるってわけっす。

 ゴブリン娘から受け取った風呂桶を片手に、俺たちは脱衣所に入っていくっす。すぐに服を脱ぎ、浴室へと移動していくっす。まずは洗い場での身体洗いっすね。そしてその後に風呂に浸かるっすよ。

「ふぅ。極楽だな」
「本当っすねー」

 野郎二人で仲良く湯に浸かるっす。最高に気持ちいいっすよ。

 貴族や大商人とかしか入れない大風呂に、毎日入れるんすから贅沢っすよ。常識外れもいいところっすよ。ヨミトさんのダンジョンって最高っす。

「本当、夢見心地っすね。近くにゴブリンがいるし、夢のようっすよ」
「ハハ、夢じゃねえよ。確かな現実だぜ」

 俺たちの近くでは、ゴブリンたちが警戒している様子もなく、俺たちと同じように気持ち良さそうにして湯に浸かっているっす。たまに気が向けば仲良く雑談したりもするっす。

 ここだけは人類と魔物が共存しているっすね。平和な理想の楽園って感じがするっすよ。

「パオンの兄ちゃんよ、最近どうなんだ。ブレンダっつったか。あの子とは上手くいってんのか?」
「そうっすねえ……」

 湯に浸かっていると、チュウさんから話を振られるっす。

「まだ仲はギクシャクしてんのか?」
「ギクシャクって言うか、俺が一方的に苦手意識持っているっていうか、そんな感じっすね」
「まあ大変なことがあったみてえだからな。それも無理ないだろ」

 ブレンダは気丈で、あんなことがあったっていうのに、今では俺に普通に接してくれるっす。店長としても立派に働いているっす。

 だけども情けないことに、俺の方は前と同じようにブレンダに接することができなくなってるんす。

 俺も辛いんすよ。あのカニバルの野郎がたまに夢に出てきて、夜中に目が覚めたりするんす。

 カニバルのことを夢で見た日には、頭を棍棒で殴られた後みたいな感じで、ずっと心にぽっかり穴が空いたままって感じがするんす。それでブレンダとは前みたいに上手く話せなくなってるんす。

「時間が解決してくれるのを待つしかねえな」
「そうなんすかねぇ」

 年上のチュウさんは、色々と助言をしてくれるっす。

「それか思いきってデートにでも誘ってみたらどうだ?」
「デートっすか?」
「ああそうだ。確か、そっちじゃ夏祭りの季節なんだろ? その祭りに誘ってみたらどうだ?」
「それは……確かに妙案っすね」
「そうしろそうしろ。それでいちゃいちゃしやがれってんだ。若いもんの特権だ」
「いちゃいちゃなんてしないっすよぉ!」
「ガハハ!」

 ダンジョンの頼りになる兄貴分であるチュウさんに色々と助言を貰った俺は、思いきってブレンダに声をかけてみることにしたんす。

「ブレンダ! 仕事終わったら夏祭りに一緒に遊びに行くっすよ!」

 風呂から上がって店に戻ると、パン屋は営業時間を終えて、ブレンダたちは後片付けをしていたっす。俺はそんなブレンダに声をかけたっす。

「いいけど……どうしたの急に?」
「どうしたもこうしたも、久しぶりにブレンダとデートしたい気分になったんすよ! 朝までずっと一緒にいるっすよ!」

 俺がそう言うと、ブレンダは目からポロリと涙を流したんす。

「ブレンダ、ど、どうしたっすか? 俺、何か変なこと言ったっすか?」
「うぅん、違うの……私、パオンに嫌われたかと思って……」

 ブレンダは最近の俺の余所余所しい態度に気づいていたんすね。それで一人で思い悩んでいたらしいっす。

 そんなブレンダの真意を知り、俺はそっと抱きしめたんす。

「俺は情けない婚約者っすね。親方の言う通り、まだまだ半人前っすよ。ブレンダの気持ちにも気づかず、不安にさせてたんすから」

 俺は泣くブレンダを抱きしめながら自分の思いをちゃんと伝えたっす。

 あんなことがあったけど、ブレンダを思う気持ちは変わらないことを伝えたっす。すぐには元に戻れないかもしれないけど、徐々に元の関係に戻っていこうと、その場で約束したっす。

 そんな俺たちの様子を見て、リオさんとパンシーさんが口を挟んできたっす。

「ブレンダ、後片付けはアタシらに任して芋君と祭りに行ってきな」
「え、でも……」
「いいっていいって。タマナシの芋野郎がやっと一歩踏み出しやがったんだ。そのままの勢いで遊んでこいって」

 タマナシの芋野郎なんて酷い言い草っすけど、俺たちに配慮してくれているのは十分にわかったんで、嬉しかったっす。

 俺たちは素直に頭を下げてその言葉に甘えさせてもらったっす。

「とっても嬉しいわ。誘ってくれてありがとうパオン!」
「ああ、今日は二人で夏祭りを楽しむっすよ!」

 それから俺は弾けるような笑顔のブレンダの手をとり、夏祭りの会場へと繰り出していったっす。

 夏祭りで存分に語り合ったおかげで、まだ完全に元通りとは言えないっすけど、ブレンダとはだいぶ元の関係に戻れた気がしたっすよ。
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