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三章
メリッサ、発情する
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「パオン君。実はブレンダちゃんに繋がる情報が手に入ったよ」
「本当っすか!?」
「ああ。ただし、あんまり良い情報じゃないけどね」
「ど、どういうことっすか?」
「ノビルも来たら話すよ」
ベイカーを二階に運んでいたノビルがリビングに戻ってきたのを見計らい、俺は机の上に薬屋から仕入れた二つの瓶を置き、今日手に入れた情報を皆に聞かせてやった。猫に変化して情報収集した云々とかは上手くぼかしつつ説明を行う。
「そ、そんな……」
全てを聞かされたパオンは、絶句といった表情で固まっている。婚約者の身が危ういかもしれないと聞いて、血の気が失せたように青ざめている。
「その薬ってそんなにヤベーのかよ?」
「薬屋の話ではそうらしいよ」
「ヨミト試してみろよ」
「やだよ」
「へっ、ビビってんだろ? 使ってみなきゃ本当にヤバいかわからないじゃん? 薬屋がいい加減なことフカしてるだけかもしれねーしよ」
メリッサが何故か煽ってきた。売られた喧嘩は買おう。ということで、俺は睡眠薬を酒に溶かして飲んでみることにした。
まあ、確かにメリッサの言うことも一理あるしな。俺が薬屋にいい加減なことを吹き込まれただけかもしれない。魅了状態で嘘はつけないはずだが、あの薬屋に嘘を本当だと信じ込む妄想癖などがあり、根も葉もない嘘をつかれた可能性もある。
まあそれだったらそれでいいのだがな。ブレンダが無事な可能性が高まるわけだし。
そういった希望的観測を信じたくて、メリッサもそんな提案をしたのかもしれない。身体が丈夫な俺が人体実験を買って出てあげようじゃないか。まあ人体じゃなくて吸血鬼体実験だけど。
「どれ、試してみるか。人体実験だ」
「ヨミトさん!? 何考えてんですか!?」
パープルが必死に制止してくるが知ったことではない。吸血鬼のチートボディなら大丈夫だという安心感もあったので、俺は睡眠薬の入った酒を一気飲みした。
――ドテンッ。
「ぐおっ!」
「ヨミトさん! 何やってるんですか! だから言ったのに!」
「おー、痛てて……」
睡眠薬の入った酒を一気飲みした後、意識を失いぶっ倒れ、顔を床面に強打してしまった。ぶつけた時の痛みで覚醒してすぐに起き上がれたものの、一瞬意識を失ってしまったな。
「効果はあるようだね。俺は人より頑丈だから、俺に効くってことは普通の人間ならひとたまりもないよ」
この吸血鬼のチートボディでも一瞬意識を奪われるくらい強力な薬だというのは間違いないようだ。一般人ならひとたまりもないだろう。睡眠ポーション以上の効力があるシロモノのようだ。
「それじゃあこっちも」
「もうやめた方がいいですよ!」
パープルに制止されるものの、媚薬の方も試してみる。酒に溶かして飲み込んでみる。
(おお、これは……久しぶりの感覚だな。懐かしい。人間に戻ったみたいだ)
媚薬を摂取すると、少しだけ性欲が湧き上がってきた。美しいエリザやレイラたちを見て少しだけムラムラする。煩悩に囚われない偉大なる吸血鬼になってからはとんと感じることのなかった感覚である。
だがその感覚はしばらくすると元に戻った。すぐに媚薬成分が分解されたようだ。
「どっちも効果は間違いないようだね」
「つっても、効果は一瞬だったんだろ? 実は大したことねえんじゃねえのか?」
「そんならメリッサも試してみる? 俺だけじゃあんま信じてないみたいだしさ」
「まあやってみろっつったのはアタシだしな。アタシもやってやんよ」
「メリッサさん、やめた方がいいですよ!」
「大丈夫だっつーの。心配性だな」
パープルの制止も聞かず、メリッサは自分の飲む酒に媚薬の粉を溶かし、それを一気に呷った。流石ヤンキー娘、豪快だね。
「ほらなんともない――うぐっ、ぐぐぐっ」
しばらく平然としていたメリッサであるが、急に苦しみ出した。顔は上気し、目はトロンと蕩けたものになる。
「熱いっ、熱いのぉっ♡」
メリッサはさっきまでのヤンキーのような毅然とした態度を一変させ、まるで人が変わったかのように甘ったるい声を出し始めた。
「私のピーをピーして! お願い! 早くピーして! ピーピーピー!」
俺たちがポカンと呆気にとられている間、メリッサは放送禁止用語を連発し、挙句の果ては服を脱ごうとし始める。
「早くピーしてピーを――がはっ」
「まったく馬鹿なんだから。メリッサの名誉のためにも、部屋に縛って置いておきますね」
「ああよろしくレイラ」
レイラが手刀でメリッサの意識を奪い、そのまま担ぎ上げ、二階の部屋に運んでいった。ベッドにでも縛り付けたようで、すぐに戻ってくる。
「ともかく、メリッサの尊い犠牲により、薬が本物だってのはこれで証明されたね。あの売人は嘘は言っていなかったってことになる。できれば売人のその場しのぎの荒唐無稽な法螺話であってくれた方が良かったんだけどね」
俺は一つ咳払いすると、話を元に戻した。
その場に残る全員の表情は硬い。ブレンダの身に起こっていることを想像してしまったからだろう。
「貞操奪われるくらいで済んでればまだマシな方か。あんなヤベー薬飲んだら、最悪死んでてもおかしくはないよな……」
「ノビル! アンタ、もっと人の気持ち考えて物言いなさいよ!」
「そうだな。悪い……」
ノビルが素直な感想を口にしてレイラに怒られる。当のパオンは理解が追いついていないのか、呆然とした表情のまま固まっている。
まあノビルの言うことは正しいだろう。
メリッサは鉄等級の実力がある冒険者である。そこらへんの人間よりはよっぽど鍛えられていて丈夫に出来ている。おまけに俺の眷属となってからはさらに鍛え上げられており、より頑強な身体となっている。
そんな彼女が一時的とはいえ理性を失うくらい狂う薬なんて、一般人のブレンダが飲まされたとしたらひとたまりもないだろう。オーバードーズで死んでいてもおかしくはない。
「ブレンダ……マジっすか……」
パオンの開いたままの口から婚約者の名がポロリと零れ落ちる。それを聞き、俺たちはそっと瞼を閉じるしかなかった。
「本当っすか!?」
「ああ。ただし、あんまり良い情報じゃないけどね」
「ど、どういうことっすか?」
「ノビルも来たら話すよ」
ベイカーを二階に運んでいたノビルがリビングに戻ってきたのを見計らい、俺は机の上に薬屋から仕入れた二つの瓶を置き、今日手に入れた情報を皆に聞かせてやった。猫に変化して情報収集した云々とかは上手くぼかしつつ説明を行う。
「そ、そんな……」
全てを聞かされたパオンは、絶句といった表情で固まっている。婚約者の身が危ういかもしれないと聞いて、血の気が失せたように青ざめている。
「その薬ってそんなにヤベーのかよ?」
「薬屋の話ではそうらしいよ」
「ヨミト試してみろよ」
「やだよ」
「へっ、ビビってんだろ? 使ってみなきゃ本当にヤバいかわからないじゃん? 薬屋がいい加減なことフカしてるだけかもしれねーしよ」
メリッサが何故か煽ってきた。売られた喧嘩は買おう。ということで、俺は睡眠薬を酒に溶かして飲んでみることにした。
まあ、確かにメリッサの言うことも一理あるしな。俺が薬屋にいい加減なことを吹き込まれただけかもしれない。魅了状態で嘘はつけないはずだが、あの薬屋に嘘を本当だと信じ込む妄想癖などがあり、根も葉もない嘘をつかれた可能性もある。
まあそれだったらそれでいいのだがな。ブレンダが無事な可能性が高まるわけだし。
そういった希望的観測を信じたくて、メリッサもそんな提案をしたのかもしれない。身体が丈夫な俺が人体実験を買って出てあげようじゃないか。まあ人体じゃなくて吸血鬼体実験だけど。
「どれ、試してみるか。人体実験だ」
「ヨミトさん!? 何考えてんですか!?」
パープルが必死に制止してくるが知ったことではない。吸血鬼のチートボディなら大丈夫だという安心感もあったので、俺は睡眠薬の入った酒を一気飲みした。
――ドテンッ。
「ぐおっ!」
「ヨミトさん! 何やってるんですか! だから言ったのに!」
「おー、痛てて……」
睡眠薬の入った酒を一気飲みした後、意識を失いぶっ倒れ、顔を床面に強打してしまった。ぶつけた時の痛みで覚醒してすぐに起き上がれたものの、一瞬意識を失ってしまったな。
「効果はあるようだね。俺は人より頑丈だから、俺に効くってことは普通の人間ならひとたまりもないよ」
この吸血鬼のチートボディでも一瞬意識を奪われるくらい強力な薬だというのは間違いないようだ。一般人ならひとたまりもないだろう。睡眠ポーション以上の効力があるシロモノのようだ。
「それじゃあこっちも」
「もうやめた方がいいですよ!」
パープルに制止されるものの、媚薬の方も試してみる。酒に溶かして飲み込んでみる。
(おお、これは……久しぶりの感覚だな。懐かしい。人間に戻ったみたいだ)
媚薬を摂取すると、少しだけ性欲が湧き上がってきた。美しいエリザやレイラたちを見て少しだけムラムラする。煩悩に囚われない偉大なる吸血鬼になってからはとんと感じることのなかった感覚である。
だがその感覚はしばらくすると元に戻った。すぐに媚薬成分が分解されたようだ。
「どっちも効果は間違いないようだね」
「つっても、効果は一瞬だったんだろ? 実は大したことねえんじゃねえのか?」
「そんならメリッサも試してみる? 俺だけじゃあんま信じてないみたいだしさ」
「まあやってみろっつったのはアタシだしな。アタシもやってやんよ」
「メリッサさん、やめた方がいいですよ!」
「大丈夫だっつーの。心配性だな」
パープルの制止も聞かず、メリッサは自分の飲む酒に媚薬の粉を溶かし、それを一気に呷った。流石ヤンキー娘、豪快だね。
「ほらなんともない――うぐっ、ぐぐぐっ」
しばらく平然としていたメリッサであるが、急に苦しみ出した。顔は上気し、目はトロンと蕩けたものになる。
「熱いっ、熱いのぉっ♡」
メリッサはさっきまでのヤンキーのような毅然とした態度を一変させ、まるで人が変わったかのように甘ったるい声を出し始めた。
「私のピーをピーして! お願い! 早くピーして! ピーピーピー!」
俺たちがポカンと呆気にとられている間、メリッサは放送禁止用語を連発し、挙句の果ては服を脱ごうとし始める。
「早くピーしてピーを――がはっ」
「まったく馬鹿なんだから。メリッサの名誉のためにも、部屋に縛って置いておきますね」
「ああよろしくレイラ」
レイラが手刀でメリッサの意識を奪い、そのまま担ぎ上げ、二階の部屋に運んでいった。ベッドにでも縛り付けたようで、すぐに戻ってくる。
「ともかく、メリッサの尊い犠牲により、薬が本物だってのはこれで証明されたね。あの売人は嘘は言っていなかったってことになる。できれば売人のその場しのぎの荒唐無稽な法螺話であってくれた方が良かったんだけどね」
俺は一つ咳払いすると、話を元に戻した。
その場に残る全員の表情は硬い。ブレンダの身に起こっていることを想像してしまったからだろう。
「貞操奪われるくらいで済んでればまだマシな方か。あんなヤベー薬飲んだら、最悪死んでてもおかしくはないよな……」
「ノビル! アンタ、もっと人の気持ち考えて物言いなさいよ!」
「そうだな。悪い……」
ノビルが素直な感想を口にしてレイラに怒られる。当のパオンは理解が追いついていないのか、呆然とした表情のまま固まっている。
まあノビルの言うことは正しいだろう。
メリッサは鉄等級の実力がある冒険者である。そこらへんの人間よりはよっぽど鍛えられていて丈夫に出来ている。おまけに俺の眷属となってからはさらに鍛え上げられており、より頑強な身体となっている。
そんな彼女が一時的とはいえ理性を失うくらい狂う薬なんて、一般人のブレンダが飲まされたとしたらひとたまりもないだろう。オーバードーズで死んでいてもおかしくはない。
「ブレンダ……マジっすか……」
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