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三章
ミッドロウ出立
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レイラたちに話を通した結果、ミッドロウから王都に拠点を移すという案はすんなり通った。眷属のレイラたちは二つ返事でオーケーしてくれ、最大の懸案だったパープルも意外にもすんなり頷いてくれた。
どうやらパープルも最終的には王都行きを目指していたらしく、俺たちの提案は渡りに船だったようだ。
そうして俺たちの王都行きが決まった。春になって新しいシーズンになるのに合わせて王都に進出しようとことになり、それまでに身辺整理をすることになった。
といっても、俺たちダンジョン組はほとんどやることなんてないけどね。向こうで拠点さえ築けば、いつでもミッドロウの町に帰ってこれるし。
パープルは酒場の親父にバイトを辞めることを告げて今までの礼を言ったり、色々と知り合いの所を回って身辺整理をしたみたいだ。
「それじゃ、留守中はよろしくねカーネラ」
「はいお任せください」
「何かあったら緊急の連絡蝙蝠を飛ばしてくれ」
「かしこまりました」
パープルが身辺整理に奔走している間、俺はカーネラと留守中のダンジョンの方針などについて話し合っていた。
王都に行くとなると、それなりの期間ダンジョンを空けることになる。王都に着いてすぐに拠点が確保できればいいが、そうなるとは限らない。だからちゃんと留守番をお願いしておかねばならない。
留守中、各拠点のことは基本的に各拠点の管理者に任せておくことにした。一号店の管理はエレーナ、二号店はカーネラにお願いしておいた。そしてカーネラをダンジョン全体の責任者として任命し、万が一の際は対処をお願いしておいた。
もし対処不能の強敵が現れた際は、ダンジョンを放棄して命最優先で逃げてもらうことにした。ダンジョンコアは俺自身であり、俺が死なない限りどうとでもなるからな。ダンジョンそのものより眷属の命の方が大事だ。
みんなの命が失われなければ、最悪ダンジョンが破られようが、生産拠点を破壊されるだけで済む。
まあそんなことはあって欲しくないけどね。被害甚大だもん。でも最悪を想定しておくのは必要なことだろう。BCP(事業継続計画)とか重要だもんね。
「さあ。それじゃ行こうかみんな」
「ええ」
カーネラたちに後事を託し満を持して、俺たちはミッドロウの町から王都に向けて出発した。俺、エリザ、パープル、レイラ、メリッサ、ノビルの六人での出発である。
俺とエリザとレイラは剣装備、パープルは短剣装備、ノビルは斧装備、メリッサは杖装備だ、それぞれ背嚢を持ち、いかにも冒険者グループって感じの出で立ちだね。
「なんか感慨深いわ。ミッドロウの町から出られるなんて。下手したら一生出られないかと思ってたから」
「だよな。アタシも同じ気持ちだよ」
レイラの言葉に、メリッサがぶっきらぼうな口調で答えた。
多大な借金を負って契約で縛り付けられて町から出られなかった彼女たち二人からしたら、門を通って正式に町の外に出るというのは物凄い感慨深いことのようだ。ここ数ヶ月の間に何回も任務で町の外には出ているものの、改めて感慨に耽っているようだ。
「お二人は任務に失敗して奴隷身分となり娼婦として働いていたんですよね? お気の毒に……」
パープルにはレイラたちに関するある程度の事情を話してある。
俺の眷属でないので詳しいことは伏せてあるが、差し支えない情報については開示してある。カーネラの花宿で奴隷娼婦だったことなど諸々についてだ。
「そうだよ。何か文句あるのかよ?」
「い、いえっ、なにもっ!」
パープルは優等生らしく気遣いを見せたのだが、メリッサは何が気に入らなかったのかヤンキーみたいな威圧した声を出してガンつけていた。
パープルがビビって恐縮している。可哀想に。
「王都へはこのまま南東の方角に進めば間違いないそうだ。途中で近隣の村々へ続く分かれ道があるそうだが、それに惑わされず主道を突き進めばいいそうだぜ」
「うーん、ノビルが言うと何か心配だね」
「だな。万年デックが言うことだもんな」
「合ってるよ! ちゃんと調べたからな! というか俺はもうデックじゃねえぞ! 鉄等級だっつうの!」
レイラとメリッサに茶化され、ノビルが少し頬を赤らめて抗議していた。
無能時代のノビルならともかく、今のノビルなら大丈夫だろう。スキル【無能】が消えたおかげで方向感覚は正常になったし、ちゃんと内容を理解しながら本も読めるようになったようだからね。今年始めの昇級試験で合格して鉄等級にもなったしね。
昔の無能少年ノビルはもうどこにもいない。この冬の間に特訓を重ねたことで、レベルも斧の技量も、既に眷属の先輩で同じ斧使いのチュウを超えている。我がダンジョンの眷属において、近接戦闘ならレイラの次に強いだろう(無論俺とエリザは除く)。今のノビルは頼りになる仲間だと胸を張って言える。
「ノビルさんの言う通りで合っていますよ。僕も事前に下調べはしたので間違いないです」
「さすがパープル君だね。俺とエリザなんて何も調べてないよ。旅の準備も全部レイラたちに任せたし」
「そこは少しくらい自分でやって欲しいんですけどね……。一応、ヨミトさんがこのチームのリーダーなんですから……」
「ハハハ、ごめんごめん」
何の準備もしてなかったと言うと、パープルにジト目で苦言を呈されてしまう。
カーネラの花宿で働いたり、ダンジョンの仕事とか色々してて忙しかっただけなんだが、そんな事情は眷属でないパープルには言えないので、適当にはぐらかしておく。
そんな感じで、和やかに雑談しながら歩いていく。目的地に向かってひたすら歩き進み、進路上にある幾つかの村々を通り過ぎていく。
「そろそろ春って感じよね。私たちの故郷でも畑作業が始まってるかしら?」
「かもな。アーサーの奴、休みの日に自分ん家の畑耕してるだろ」
村々では畑仕事が始まっており、村人たちがそれに精を出していた。故郷を思い出したのか、レイラとノビルが懐かしげに会話を繰り広げる。
「敵です!」
「あれは、ラビンの集団ね。春が近づいて繁殖準備でもしてるのかしら?」
いち早く敵に気づいたパープルが叫び、レイラが続いて口を開く。
「そんじゃいつもの隊形で」
「はい!」
チームの面々に号令をかけ、襲ってきた魔物を蹴散らしていく。
今回襲ってきたのはラビンと呼ばれる兎型の魔物だ。ミッドロウの町の串焼き屋で食ったことのある魔物だな。
大した相手ではない。俺とエリザが本気を出す必要もなく、基本的にレイラたちが切り伏せて倒していた。
レイラたちにとっては良いレベリングの機会だ。ラビンの方がゴブリンよりも若干経験値取得量が多いみたいなので、レイラたちには頑張ってレベリングしてもらいたい。
吸血鬼種族のデメリットで戦闘経験値がもらえない俺とエリザは、敵を弱らせるだけ弱らせて止めは刺さず、後衛のメリッサに止めを刺すようにさせてやる。後衛のメリッサは前衛に比べると経験値が手に入りにくいみたいだからね。
そんなことをしていると、目敏いパープルが尋ねてきた。
「ヨミトさんとエリザさんはなんで止めを刺さないで、メリッサさんにやらせてるんですか?」
吸血鬼だから吸血以外で経験値が手に入らないから。それが真相だが、そんなことは勿論言えないので、適当にはぐらかしておく。
「後衛のメリッサが強くなる機会を与えてあげようと思ってね」
「そうですかお優しいですね。でもそれだとヨミトさんたちがあんまり強くなれないじゃないですか?」
「俺とエリザはもう十分に強いからね。こんなザコを倒したところで強くなんてなれないんだよ」
「そうなんですか? ヨミトさんたちってそんなに強いんですか?」
「うん虹等級くらい強いかな」
「またまたご冗談を。でも僕の見立てでは、ヨミトさんたちってかなり強いですよ。レイラさんもそうですが、もう鋼等級くらいの実力があるんじゃないですか?」
「鋼等級じゃなくて虹等級かな」
「ハハ、でもそれくらい大言吐くと頼もしくていいですね」
冗談などを織り交ぜて適当に誤魔化したら、パープルは深く追求してこなかった。
「ここらへんでお昼にしようか。俺とエリザが向こうの茂みでこのラビンを解体してくるよ。その肉でお昼にしよう」
「僕もお手伝いしましょうか?」
「いいよ。パープル君はゆっくりしててよ」
「すみません。それじゃ、お言葉に甘えます。では僕は火の支度と野菜の下ごしらえをしてますね」
倒したラビンの山の中で出来るだけ強そうなラビンを見繕う。それらの死骸を抱えて、俺とエリザは人目に付かない場所へと移動する。
「さて。ちゃちゃっと味見しちゃいますか」
「そうですわね」
俺とエリザはパープルの目がないことを確認してラビンの血を啜っていく。
「んん。これがラビンの血の味か。何気に初めて飲むな」
「ゴブリンと大差ありませんわね」
それほど美味しくもないが不味くもない。知性の少ない獣に近い魔物だからか、ゴブリンのように魂の清らかさによる当たり外れがないようだ。個体の強さの違いによる味の変化しかないみたい。出来るだけ強そうなのを選んで持ってきたから、どの個体も似たり寄ったりな味がするな。
「微妙」
「微妙ですわね」
レベリングにはなるが、それだけだな。ラビンは血よりもお肉として食べた方が美味しそうだ。
――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【穴掘】を獲得。
穴掘:穴掘りが上手くなる。
ラビン十匹の血を次々に吸っていく。
スキルが獲得できずステータス値にボーナスが入るだけだったが、唯一、【穴掘】というスキルをラーニングすることができた。珍しいスキルを覚えている個体に当たったらしいな。
【穴掘】は戦闘に関わるスキルではないが、まあ覚えておいて損はないだろう。旅先で穴掘って簡易便所でも作りたい時とかに役立ちそうだ。新しいスキルゲットだぜ。
「さて。それじゃパパッと解体するか」
「そうですわね」
魔物の解体なんて大変な作業だが、俺とエリザは吸血鬼の強い腕力があるし、スキル【解体】の恩恵もある。ラビン十匹をあっという間にバラしていく。
その後血で汚れた手などをスキル【洗浄】で瞬く間に綺麗にして、切り分けた肉だけ持ってパープルたちの元に戻る。
「こんな短時間でこんな綺麗に解体できるなんて凄いです。服もまったく汚れてないようですし。ヨミトさんたち、お肉屋さんも始められるんじゃないですか?」
「アハハ、かもね」
切り分けられた肉を見て、パープルは目を丸くする。それから俺たちの解体の手並みを褒めてきた。
お肉屋さんか。お肉解体業はホスピタリティ業ではないが、焼肉屋さんならホスピタリティ業だな。
焼肉屋さんを始めるのも面白いかもしれないな。実際に始めるかはともかく、想像すると楽しそうだ。お客さんを美味しいお肉でおもてなしするのとか、最高だな。
「それじゃ私が料理しますね」
「よろしく」
スキル【料理】持ちのレイラが調理を買って出てくれたので、任せることにする。
出来上がったのはラビン肉の香草焼きだ。とても美味しそうである。
「それじゃ、いただきます!」
「いただきますわ!」
俺たちはラビン肉の香草焼きに舌鼓を打つ。春の香草に彩られた料理は季節感が感じられる。周囲の長閑な景色も相まって最高だね。
「さて。それじゃお腹も膨れたし、移動を再開しようか」
「はい」
お昼御飯を終えた俺たちは再び歩き始める。そんなこんなで魔物を倒しつつ、俺たちは目的地に向かって歩き続けた。
♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.4) 種族:吸血鬼(ハイ)
HP:697/697 MP:652/652
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】
どうやらパープルも最終的には王都行きを目指していたらしく、俺たちの提案は渡りに船だったようだ。
そうして俺たちの王都行きが決まった。春になって新しいシーズンになるのに合わせて王都に進出しようとことになり、それまでに身辺整理をすることになった。
といっても、俺たちダンジョン組はほとんどやることなんてないけどね。向こうで拠点さえ築けば、いつでもミッドロウの町に帰ってこれるし。
パープルは酒場の親父にバイトを辞めることを告げて今までの礼を言ったり、色々と知り合いの所を回って身辺整理をしたみたいだ。
「それじゃ、留守中はよろしくねカーネラ」
「はいお任せください」
「何かあったら緊急の連絡蝙蝠を飛ばしてくれ」
「かしこまりました」
パープルが身辺整理に奔走している間、俺はカーネラと留守中のダンジョンの方針などについて話し合っていた。
王都に行くとなると、それなりの期間ダンジョンを空けることになる。王都に着いてすぐに拠点が確保できればいいが、そうなるとは限らない。だからちゃんと留守番をお願いしておかねばならない。
留守中、各拠点のことは基本的に各拠点の管理者に任せておくことにした。一号店の管理はエレーナ、二号店はカーネラにお願いしておいた。そしてカーネラをダンジョン全体の責任者として任命し、万が一の際は対処をお願いしておいた。
もし対処不能の強敵が現れた際は、ダンジョンを放棄して命最優先で逃げてもらうことにした。ダンジョンコアは俺自身であり、俺が死なない限りどうとでもなるからな。ダンジョンそのものより眷属の命の方が大事だ。
みんなの命が失われなければ、最悪ダンジョンが破られようが、生産拠点を破壊されるだけで済む。
まあそんなことはあって欲しくないけどね。被害甚大だもん。でも最悪を想定しておくのは必要なことだろう。BCP(事業継続計画)とか重要だもんね。
「さあ。それじゃ行こうかみんな」
「ええ」
カーネラたちに後事を託し満を持して、俺たちはミッドロウの町から王都に向けて出発した。俺、エリザ、パープル、レイラ、メリッサ、ノビルの六人での出発である。
俺とエリザとレイラは剣装備、パープルは短剣装備、ノビルは斧装備、メリッサは杖装備だ、それぞれ背嚢を持ち、いかにも冒険者グループって感じの出で立ちだね。
「なんか感慨深いわ。ミッドロウの町から出られるなんて。下手したら一生出られないかと思ってたから」
「だよな。アタシも同じ気持ちだよ」
レイラの言葉に、メリッサがぶっきらぼうな口調で答えた。
多大な借金を負って契約で縛り付けられて町から出られなかった彼女たち二人からしたら、門を通って正式に町の外に出るというのは物凄い感慨深いことのようだ。ここ数ヶ月の間に何回も任務で町の外には出ているものの、改めて感慨に耽っているようだ。
「お二人は任務に失敗して奴隷身分となり娼婦として働いていたんですよね? お気の毒に……」
パープルにはレイラたちに関するある程度の事情を話してある。
俺の眷属でないので詳しいことは伏せてあるが、差し支えない情報については開示してある。カーネラの花宿で奴隷娼婦だったことなど諸々についてだ。
「そうだよ。何か文句あるのかよ?」
「い、いえっ、なにもっ!」
パープルは優等生らしく気遣いを見せたのだが、メリッサは何が気に入らなかったのかヤンキーみたいな威圧した声を出してガンつけていた。
パープルがビビって恐縮している。可哀想に。
「王都へはこのまま南東の方角に進めば間違いないそうだ。途中で近隣の村々へ続く分かれ道があるそうだが、それに惑わされず主道を突き進めばいいそうだぜ」
「うーん、ノビルが言うと何か心配だね」
「だな。万年デックが言うことだもんな」
「合ってるよ! ちゃんと調べたからな! というか俺はもうデックじゃねえぞ! 鉄等級だっつうの!」
レイラとメリッサに茶化され、ノビルが少し頬を赤らめて抗議していた。
無能時代のノビルならともかく、今のノビルなら大丈夫だろう。スキル【無能】が消えたおかげで方向感覚は正常になったし、ちゃんと内容を理解しながら本も読めるようになったようだからね。今年始めの昇級試験で合格して鉄等級にもなったしね。
昔の無能少年ノビルはもうどこにもいない。この冬の間に特訓を重ねたことで、レベルも斧の技量も、既に眷属の先輩で同じ斧使いのチュウを超えている。我がダンジョンの眷属において、近接戦闘ならレイラの次に強いだろう(無論俺とエリザは除く)。今のノビルは頼りになる仲間だと胸を張って言える。
「ノビルさんの言う通りで合っていますよ。僕も事前に下調べはしたので間違いないです」
「さすがパープル君だね。俺とエリザなんて何も調べてないよ。旅の準備も全部レイラたちに任せたし」
「そこは少しくらい自分でやって欲しいんですけどね……。一応、ヨミトさんがこのチームのリーダーなんですから……」
「ハハハ、ごめんごめん」
何の準備もしてなかったと言うと、パープルにジト目で苦言を呈されてしまう。
カーネラの花宿で働いたり、ダンジョンの仕事とか色々してて忙しかっただけなんだが、そんな事情は眷属でないパープルには言えないので、適当にはぐらかしておく。
そんな感じで、和やかに雑談しながら歩いていく。目的地に向かってひたすら歩き進み、進路上にある幾つかの村々を通り過ぎていく。
「そろそろ春って感じよね。私たちの故郷でも畑作業が始まってるかしら?」
「かもな。アーサーの奴、休みの日に自分ん家の畑耕してるだろ」
村々では畑仕事が始まっており、村人たちがそれに精を出していた。故郷を思い出したのか、レイラとノビルが懐かしげに会話を繰り広げる。
「敵です!」
「あれは、ラビンの集団ね。春が近づいて繁殖準備でもしてるのかしら?」
いち早く敵に気づいたパープルが叫び、レイラが続いて口を開く。
「そんじゃいつもの隊形で」
「はい!」
チームの面々に号令をかけ、襲ってきた魔物を蹴散らしていく。
今回襲ってきたのはラビンと呼ばれる兎型の魔物だ。ミッドロウの町の串焼き屋で食ったことのある魔物だな。
大した相手ではない。俺とエリザが本気を出す必要もなく、基本的にレイラたちが切り伏せて倒していた。
レイラたちにとっては良いレベリングの機会だ。ラビンの方がゴブリンよりも若干経験値取得量が多いみたいなので、レイラたちには頑張ってレベリングしてもらいたい。
吸血鬼種族のデメリットで戦闘経験値がもらえない俺とエリザは、敵を弱らせるだけ弱らせて止めは刺さず、後衛のメリッサに止めを刺すようにさせてやる。後衛のメリッサは前衛に比べると経験値が手に入りにくいみたいだからね。
そんなことをしていると、目敏いパープルが尋ねてきた。
「ヨミトさんとエリザさんはなんで止めを刺さないで、メリッサさんにやらせてるんですか?」
吸血鬼だから吸血以外で経験値が手に入らないから。それが真相だが、そんなことは勿論言えないので、適当にはぐらかしておく。
「後衛のメリッサが強くなる機会を与えてあげようと思ってね」
「そうですかお優しいですね。でもそれだとヨミトさんたちがあんまり強くなれないじゃないですか?」
「俺とエリザはもう十分に強いからね。こんなザコを倒したところで強くなんてなれないんだよ」
「そうなんですか? ヨミトさんたちってそんなに強いんですか?」
「うん虹等級くらい強いかな」
「またまたご冗談を。でも僕の見立てでは、ヨミトさんたちってかなり強いですよ。レイラさんもそうですが、もう鋼等級くらいの実力があるんじゃないですか?」
「鋼等級じゃなくて虹等級かな」
「ハハ、でもそれくらい大言吐くと頼もしくていいですね」
冗談などを織り交ぜて適当に誤魔化したら、パープルは深く追求してこなかった。
「ここらへんでお昼にしようか。俺とエリザが向こうの茂みでこのラビンを解体してくるよ。その肉でお昼にしよう」
「僕もお手伝いしましょうか?」
「いいよ。パープル君はゆっくりしててよ」
「すみません。それじゃ、お言葉に甘えます。では僕は火の支度と野菜の下ごしらえをしてますね」
倒したラビンの山の中で出来るだけ強そうなラビンを見繕う。それらの死骸を抱えて、俺とエリザは人目に付かない場所へと移動する。
「さて。ちゃちゃっと味見しちゃいますか」
「そうですわね」
俺とエリザはパープルの目がないことを確認してラビンの血を啜っていく。
「んん。これがラビンの血の味か。何気に初めて飲むな」
「ゴブリンと大差ありませんわね」
それほど美味しくもないが不味くもない。知性の少ない獣に近い魔物だからか、ゴブリンのように魂の清らかさによる当たり外れがないようだ。個体の強さの違いによる味の変化しかないみたい。出来るだけ強そうなのを選んで持ってきたから、どの個体も似たり寄ったりな味がするな。
「微妙」
「微妙ですわね」
レベリングにはなるが、それだけだな。ラビンは血よりもお肉として食べた方が美味しそうだ。
――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【穴掘】を獲得。
穴掘:穴掘りが上手くなる。
ラビン十匹の血を次々に吸っていく。
スキルが獲得できずステータス値にボーナスが入るだけだったが、唯一、【穴掘】というスキルをラーニングすることができた。珍しいスキルを覚えている個体に当たったらしいな。
【穴掘】は戦闘に関わるスキルではないが、まあ覚えておいて損はないだろう。旅先で穴掘って簡易便所でも作りたい時とかに役立ちそうだ。新しいスキルゲットだぜ。
「さて。それじゃパパッと解体するか」
「そうですわね」
魔物の解体なんて大変な作業だが、俺とエリザは吸血鬼の強い腕力があるし、スキル【解体】の恩恵もある。ラビン十匹をあっという間にバラしていく。
その後血で汚れた手などをスキル【洗浄】で瞬く間に綺麗にして、切り分けた肉だけ持ってパープルたちの元に戻る。
「こんな短時間でこんな綺麗に解体できるなんて凄いです。服もまったく汚れてないようですし。ヨミトさんたち、お肉屋さんも始められるんじゃないですか?」
「アハハ、かもね」
切り分けられた肉を見て、パープルは目を丸くする。それから俺たちの解体の手並みを褒めてきた。
お肉屋さんか。お肉解体業はホスピタリティ業ではないが、焼肉屋さんならホスピタリティ業だな。
焼肉屋さんを始めるのも面白いかもしれないな。実際に始めるかはともかく、想像すると楽しそうだ。お客さんを美味しいお肉でおもてなしするのとか、最高だな。
「それじゃ私が料理しますね」
「よろしく」
スキル【料理】持ちのレイラが調理を買って出てくれたので、任せることにする。
出来上がったのはラビン肉の香草焼きだ。とても美味しそうである。
「それじゃ、いただきます!」
「いただきますわ!」
俺たちはラビン肉の香草焼きに舌鼓を打つ。春の香草に彩られた料理は季節感が感じられる。周囲の長閑な景色も相まって最高だね。
「さて。それじゃお腹も膨れたし、移動を再開しようか」
「はい」
お昼御飯を終えた俺たちは再び歩き始める。そんなこんなで魔物を倒しつつ、俺たちは目的地に向かって歩き続けた。
♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.4) 種族:吸血鬼(ハイ)
HP:697/697 MP:652/652
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】【狂化】【商人】【販売】【交渉】【売春】【性技】
【避妊】【癒光】【洗浄】【解体】【斧術】【槍術】【穴掘】
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