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二章
福祉事業
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ホウの村でのスライム捕獲任務を終え、ミッドロウの町に帰還した。
来る時は俺たちのチームとライムのチームを合わせて十一人だったけど、帰る時は三人減って八人となった。インディス、トライ、オバールの三人がいなくなったからね。
三人が忽然と消えて、ライムたちは困惑していた。同業者に危害を加えようとした悪質な輩をギルドに突き出せなくて残念そうにしていたが、ギルドに事の仔細を報告した後は、あまり気にしていないようだった。冒険者は割り切りが早いね。
ギルドへ報告した結果、トライとオバールはギルドのお尋ね者となったが、捕らえられることはないだろう。何故ならば、二人はインディスの手によってスライム谷へと突き落とされて、スライムたちの餌となったからね。永遠に見つかることはない。
インディスの悪事に関しては、ギルドに報告されなかった。ライムたちは彼女の悪事について知りようがないし、俺たちは自分たちの秘密(吸血鬼であることなど)に関わるので、当然ながら真実など話さなかった。だから事の真相はギルドへ報告されず、闇へと消えることになった。
ギルドには、インディスが失踪したという結果だけが報告されることになった。
失踪というよりかはトライとオバールが逃げ出したついでに彼女を連れ去ったんじゃないか、という風に報告された。トライとオバールに謂れのない罪が加わることになってしまったが、まあいいだろう。死人に口なしだ。
実際にインディスを連れ去ったのは俺なんだけどね。
彼女の意識を刈り取った後、ダンジョンマスターの力を使って近くに仮の転移陣を設置し、その転移陣を経由してダンジョンに運び入れた。ダンジョンにインディスに運び入れた後は、そこで必要な情報を抜き出した上で、お嫁さんを欲しがっていたタロウたちに引き合わせ、スキル【洗脳】を使って彼女を眷属とした。
新しく手に入れたスキル【洗脳】。実験も兼ねてインディスに使ったら、効果覿面だった。
彼女はタロウたちを理想の旦那様と認識し、俺のことを神様だと思って尽くすようになった。【洗脳】はえげつないスキルだね。
その後インディスで色々と人体実験してスキル【洗脳】の効果を詳しく検証した。その結果、【洗脳】は【洗脳状態】というバッドスキルを他者に与えるスキルだと判明した。
【洗脳状態】は、思考力その他が奪われて誤った認識を植えつけられている状態になる、という効果を持つバッドスキルだ。
【洗脳状態】はパターンによって【洗脳状態(オン)】と【洗脳状態(オフ)】の二つあるらしい。【洗脳状態(オフ)】の時はあんまり言うことを聞かせられず、オンの状態を維持できる数は限られる。
俺の場合、オン状態を維持できるのは十人程度らしいね。その人数はステータス値の魅力の値に左右されるみたいだから、ステータス値がもっと成長すれば、もっと大勢を洗脳維持できるのかもしれない。
【洗脳状態】はバッドスキルなので、カーネラたちの【老化】を剥がした時と同じように、俺の眷属にしてダンジョンマナを注ぎ込んでバッドスキルを剥がしてやれば、洗脳状態を解くことも可能だと判明した。
インディスに洗脳されて脳みそを破壊されたような状態になっちゃった人たちも、俺の眷属になれば元に戻ることもできるってわけだ。
スキル【洗脳】の検証後、ミッドロウの町の裏社会でインディスに洗脳されたと思われる人を何人か見つけたので、人体実験がてら助けてみたりもした。いつぞやに血を吸ったことのある六人娘がそうだった。
「やあやあみんな。精が出るね」
「あ、ヨミトさん」
ダンジョン内の農場で、六人娘たちがゴブリン娘たちに交じって農作業に精を出している。
俺が話かけると、彼女たちは笑いながら答えてくれた。その笑顔はまだぎこちなく影があるが、以前よりもだいぶマシになった。
彼女たちは、先日まで変わり果てた姿で、場末の安い花宿で働いていた。働いていたというよりかは、働かせられていた、と言った方が正しいか。インディスたちに調教されて洗脳されて売られてしまったらしい。
ギルド隣の宿で俺とエリザが血を吸った時は、田舎から上京して来たばかりの夢と希望に溢れた若人って感じだったのに、たった数ヶ月かそこらで酷いことになっていた。都会って怖いね。
そんな状態の彼女たちは安く身請けできたので、そのままお買い上げしてダンジョンにお持ち帰りして色々調べた。
結果、彼女たちはバッドスキル【洗脳状態】に加え、【欠損】と【性病】というバッドスキルまで持っていた。よほど劣悪な環境で働かせられていたのだろう。それはもう酷い有様だった。都会って本当に怖い。
六人娘を助けて冒険者に復帰させたらインディスたちが抜けた穴を埋められる。そうなれば鉄等級の任務が受けられなくて嘆いているパープルを元気付けられるかな――なんて呑気に考えて助けたんだけど、そんな単純にはいかなかった。
洗脳状態を解除した六人娘は発狂して叫んだり、それはもう大変な騒ぎとなった。六人娘は心をぽっきりと折られたらしく、冒険者に復帰できる状態じゃなかった。
無闇矢鱈に洗脳状態なんて解くもんじゃないと思ったよ。
面倒臭かったけど、一度手を貸した以上、彼女たちのことは最後まで面倒をみることにした。彼女たちはダンジョン内でしばらく療養してもらうことになった。
メンタルが回復しても冒険者復帰は無理だろうから、その後はダンジョンに永久就職してもらおうかと考えている。
「ヨミトさん、こんな大きなトマンの実がとれたんですよ」
「そうかそうか、それは重畳だね。今日のご飯はトマンスープにでもしようか。エレーナに頼んでおこうね」
「はい。楽しみです」
農作業で身体を動かして規則正しい生活を送り、ダンジョン内の優しい人たちに囲まれて過ごす。そんな身心共に健康的な生活を重ねているおかげか、六人娘は徐々にメンタルを回復しているようだ。
(うんうん。六人とも精神的に安定し始めたようだな。良かった良かった)
意図してやったわけじゃないが、こういうのを農福連携というのだろうか。そういや福祉もホスピタリティ事業の一つだな、とそんなことをふと思った。
六人娘のメンタルケアに成功したら、それを先行事例として、福祉分野に事業の幅を広げてみても面白いかもしれない。俺は社会に貢献できる吸血鬼なのだ。
まあ俺が一番やりたいのはホテル業なので、ホテル業を一番に頑張りたいんだけどね。俺が店長を務める一号店は相変わらず客がまったく来なくて、ホテル業以外のことばっかりしてるけどさ。
オーナーの俺自らが店長を務める一号店の売り上げがゼロ(ダンジョンマナ収入もゼロ)で、エレーナとカーネラの宿(二号店と三号店)の売り上げとマナ収入に寄生している状態だなんて、オーナーとしてのプライドが酷く傷つけられるぞ。
(全部あのクソ冒険者たちのせいだ。あいつらのせいで俺は副業の冒険者の仕事ばかりさせられるハメになってんだ。畜生)
一号店の客がいないのは、全部あのクソ冒険者たちのせいだ。確かスッチーとか言ったか。
あいつらが一号店のお得意様である近隣住民のゴブリンの皆様を皆殺しにしやがったせいで、今の俺はオーナーなのに直営店の売り上げがダントツビリという惨めな思いをしているのである。
くそ、思い出す度に腹が立つな。全部あのクソ冒険者たちのせいだ。
(いかんいかん。過ぎたことは忘れよう)
畑の視察を終えた俺は、六人娘たちに挨拶をしてから、畑エリアを後にする。
次に向かうのは、最近ダンジョンに設置したばかりの育児施設だ。インディスがタロウたちの子を産みまくるので、そのために整備した施設だ。
ゴブリンの子は妊娠から出産までの期間が一週間で済むので、インディスは毎週末に多胎児を出産しまくっている。
妊娠出産は一週間で済むものの、成長個体になるまでは一ヶ月くらいかかるらしいので、それでダンジョンではゴブリンの幼児が溢れ、ちょっとしたベビーブームになっている。インディス一人によって引き起こされたベビーブームだ。
その事態に対応するために生み出されたのが、この育児施設というわけだ。
ちなみにどうでもいいことだが、ゴブリンはおよそ9:1の割合で雄の方が多く生まれるらしいね。生まれてきた赤ちゃんの統計をとるとそうなった。野生のゴブリン娘を見かけないわけだね。巣の奥で大切に匿われているのだろう。
ゴブリンに関するどうでもいい知識がまた増えてしまったぞ。
「あ、ご主人様」
「やあ。赤ちゃんたちの調子どう?」
「みんな元気ですよ。元気すぎるくらいです」
育児施設に顔を出すと、責任者のゴブリン娘が出迎えてくれた。
育児作業に当たってくれているのは、確保していたゴブリンの魔石を使って最近新しく生み出したゴブリン娘たちである。
「あのきしょいゴブリン三兄弟共、またインディスさんを孕ませたんですよ。昨日出産したばかりだというのに。母体への負担が大きいから期間を空けない妊娠はやめてくださいって何度も言っているのに。ご主人様から褒美で頂いたポーション使えば大丈夫だ、とか言って聞かなくて……」
「まあ確かにポーションを使えば母体へのダメージはすぐに回復できるからね」
「あのきしょいゴブリン共、ご主人様の手足となる子をいっぱい作るんだとか何とか言ってますけど、本当は自分が快楽を味わいたいだけのくせして。ホント、きしょい……」
保育士ゴブリン娘は表情を歪めてタロウたちを侮蔑する言葉を吐く。
新しく生み出したゴブリン娘だからタロウたちへの偏見はないはずなのだが、いつの間にか嫌っているようだ。
タロウたち、同種族の女の子には嫌われる宿命にあるようだな。インディスがお嫁さんにやって来なければ一生結婚できなかっただろうな。
「ご主人様、先週も先々週もインディスさんは十つ子を出産されましたので、施設が少し手狭です。施設の拡充と人手も少し増やして頂けないでしょうか?」
「わかった。すぐに対応するよ」
「よろしくお願いします」
施設責任者の要望を聞き、すぐに対応する。
ダンジョンマスターの権能を使い、施設を増やし、確保してあったゴブリンの魔石とDMを消費してゴブリン娘を生み出す。
メニューを開いてコマンド操作をパパッとやって終わりだ。ダンジョンマスターってチートな存在である。
「それじゃ俺はこれで。お仕事よろしくね」
「はいお任せください」
保育士ゴブリンたちに見送られて、保育施設を出る。
(保育環境もだいぶ整ってきたな。この一ヶ月でだいぶダンジョンが発展したぞ)
ゴブリン娘たちによる保育は上手くいっている。これを先行事例として、託児所事業に乗り出してもいいかもな。託児所もホスピタリティ事業だしな。新しい事業を始めても面白いかもしれない。
まあモンスターに子供を預けてくれる人がいるとは思わないので、絵に描いた餅であるが……。
まあそれならウチのダンジョンで働く社員専用の保育施設にしてもいいだろう。福利厚生は重要だしな。働くパパさんママさんのために環境を整えなくていけない。
俺はたまに血を吸うけど、基本、社員に優しい吸血鬼だからな。
来る時は俺たちのチームとライムのチームを合わせて十一人だったけど、帰る時は三人減って八人となった。インディス、トライ、オバールの三人がいなくなったからね。
三人が忽然と消えて、ライムたちは困惑していた。同業者に危害を加えようとした悪質な輩をギルドに突き出せなくて残念そうにしていたが、ギルドに事の仔細を報告した後は、あまり気にしていないようだった。冒険者は割り切りが早いね。
ギルドへ報告した結果、トライとオバールはギルドのお尋ね者となったが、捕らえられることはないだろう。何故ならば、二人はインディスの手によってスライム谷へと突き落とされて、スライムたちの餌となったからね。永遠に見つかることはない。
インディスの悪事に関しては、ギルドに報告されなかった。ライムたちは彼女の悪事について知りようがないし、俺たちは自分たちの秘密(吸血鬼であることなど)に関わるので、当然ながら真実など話さなかった。だから事の真相はギルドへ報告されず、闇へと消えることになった。
ギルドには、インディスが失踪したという結果だけが報告されることになった。
失踪というよりかはトライとオバールが逃げ出したついでに彼女を連れ去ったんじゃないか、という風に報告された。トライとオバールに謂れのない罪が加わることになってしまったが、まあいいだろう。死人に口なしだ。
実際にインディスを連れ去ったのは俺なんだけどね。
彼女の意識を刈り取った後、ダンジョンマスターの力を使って近くに仮の転移陣を設置し、その転移陣を経由してダンジョンに運び入れた。ダンジョンにインディスに運び入れた後は、そこで必要な情報を抜き出した上で、お嫁さんを欲しがっていたタロウたちに引き合わせ、スキル【洗脳】を使って彼女を眷属とした。
新しく手に入れたスキル【洗脳】。実験も兼ねてインディスに使ったら、効果覿面だった。
彼女はタロウたちを理想の旦那様と認識し、俺のことを神様だと思って尽くすようになった。【洗脳】はえげつないスキルだね。
その後インディスで色々と人体実験してスキル【洗脳】の効果を詳しく検証した。その結果、【洗脳】は【洗脳状態】というバッドスキルを他者に与えるスキルだと判明した。
【洗脳状態】は、思考力その他が奪われて誤った認識を植えつけられている状態になる、という効果を持つバッドスキルだ。
【洗脳状態】はパターンによって【洗脳状態(オン)】と【洗脳状態(オフ)】の二つあるらしい。【洗脳状態(オフ)】の時はあんまり言うことを聞かせられず、オンの状態を維持できる数は限られる。
俺の場合、オン状態を維持できるのは十人程度らしいね。その人数はステータス値の魅力の値に左右されるみたいだから、ステータス値がもっと成長すれば、もっと大勢を洗脳維持できるのかもしれない。
【洗脳状態】はバッドスキルなので、カーネラたちの【老化】を剥がした時と同じように、俺の眷属にしてダンジョンマナを注ぎ込んでバッドスキルを剥がしてやれば、洗脳状態を解くことも可能だと判明した。
インディスに洗脳されて脳みそを破壊されたような状態になっちゃった人たちも、俺の眷属になれば元に戻ることもできるってわけだ。
スキル【洗脳】の検証後、ミッドロウの町の裏社会でインディスに洗脳されたと思われる人を何人か見つけたので、人体実験がてら助けてみたりもした。いつぞやに血を吸ったことのある六人娘がそうだった。
「やあやあみんな。精が出るね」
「あ、ヨミトさん」
ダンジョン内の農場で、六人娘たちがゴブリン娘たちに交じって農作業に精を出している。
俺が話かけると、彼女たちは笑いながら答えてくれた。その笑顔はまだぎこちなく影があるが、以前よりもだいぶマシになった。
彼女たちは、先日まで変わり果てた姿で、場末の安い花宿で働いていた。働いていたというよりかは、働かせられていた、と言った方が正しいか。インディスたちに調教されて洗脳されて売られてしまったらしい。
ギルド隣の宿で俺とエリザが血を吸った時は、田舎から上京して来たばかりの夢と希望に溢れた若人って感じだったのに、たった数ヶ月かそこらで酷いことになっていた。都会って怖いね。
そんな状態の彼女たちは安く身請けできたので、そのままお買い上げしてダンジョンにお持ち帰りして色々調べた。
結果、彼女たちはバッドスキル【洗脳状態】に加え、【欠損】と【性病】というバッドスキルまで持っていた。よほど劣悪な環境で働かせられていたのだろう。それはもう酷い有様だった。都会って本当に怖い。
六人娘を助けて冒険者に復帰させたらインディスたちが抜けた穴を埋められる。そうなれば鉄等級の任務が受けられなくて嘆いているパープルを元気付けられるかな――なんて呑気に考えて助けたんだけど、そんな単純にはいかなかった。
洗脳状態を解除した六人娘は発狂して叫んだり、それはもう大変な騒ぎとなった。六人娘は心をぽっきりと折られたらしく、冒険者に復帰できる状態じゃなかった。
無闇矢鱈に洗脳状態なんて解くもんじゃないと思ったよ。
面倒臭かったけど、一度手を貸した以上、彼女たちのことは最後まで面倒をみることにした。彼女たちはダンジョン内でしばらく療養してもらうことになった。
メンタルが回復しても冒険者復帰は無理だろうから、その後はダンジョンに永久就職してもらおうかと考えている。
「ヨミトさん、こんな大きなトマンの実がとれたんですよ」
「そうかそうか、それは重畳だね。今日のご飯はトマンスープにでもしようか。エレーナに頼んでおこうね」
「はい。楽しみです」
農作業で身体を動かして規則正しい生活を送り、ダンジョン内の優しい人たちに囲まれて過ごす。そんな身心共に健康的な生活を重ねているおかげか、六人娘は徐々にメンタルを回復しているようだ。
(うんうん。六人とも精神的に安定し始めたようだな。良かった良かった)
意図してやったわけじゃないが、こういうのを農福連携というのだろうか。そういや福祉もホスピタリティ事業の一つだな、とそんなことをふと思った。
六人娘のメンタルケアに成功したら、それを先行事例として、福祉分野に事業の幅を広げてみても面白いかもしれない。俺は社会に貢献できる吸血鬼なのだ。
まあ俺が一番やりたいのはホテル業なので、ホテル業を一番に頑張りたいんだけどね。俺が店長を務める一号店は相変わらず客がまったく来なくて、ホテル業以外のことばっかりしてるけどさ。
オーナーの俺自らが店長を務める一号店の売り上げがゼロ(ダンジョンマナ収入もゼロ)で、エレーナとカーネラの宿(二号店と三号店)の売り上げとマナ収入に寄生している状態だなんて、オーナーとしてのプライドが酷く傷つけられるぞ。
(全部あのクソ冒険者たちのせいだ。あいつらのせいで俺は副業の冒険者の仕事ばかりさせられるハメになってんだ。畜生)
一号店の客がいないのは、全部あのクソ冒険者たちのせいだ。確かスッチーとか言ったか。
あいつらが一号店のお得意様である近隣住民のゴブリンの皆様を皆殺しにしやがったせいで、今の俺はオーナーなのに直営店の売り上げがダントツビリという惨めな思いをしているのである。
くそ、思い出す度に腹が立つな。全部あのクソ冒険者たちのせいだ。
(いかんいかん。過ぎたことは忘れよう)
畑の視察を終えた俺は、六人娘たちに挨拶をしてから、畑エリアを後にする。
次に向かうのは、最近ダンジョンに設置したばかりの育児施設だ。インディスがタロウたちの子を産みまくるので、そのために整備した施設だ。
ゴブリンの子は妊娠から出産までの期間が一週間で済むので、インディスは毎週末に多胎児を出産しまくっている。
妊娠出産は一週間で済むものの、成長個体になるまでは一ヶ月くらいかかるらしいので、それでダンジョンではゴブリンの幼児が溢れ、ちょっとしたベビーブームになっている。インディス一人によって引き起こされたベビーブームだ。
その事態に対応するために生み出されたのが、この育児施設というわけだ。
ちなみにどうでもいいことだが、ゴブリンはおよそ9:1の割合で雄の方が多く生まれるらしいね。生まれてきた赤ちゃんの統計をとるとそうなった。野生のゴブリン娘を見かけないわけだね。巣の奥で大切に匿われているのだろう。
ゴブリンに関するどうでもいい知識がまた増えてしまったぞ。
「あ、ご主人様」
「やあ。赤ちゃんたちの調子どう?」
「みんな元気ですよ。元気すぎるくらいです」
育児施設に顔を出すと、責任者のゴブリン娘が出迎えてくれた。
育児作業に当たってくれているのは、確保していたゴブリンの魔石を使って最近新しく生み出したゴブリン娘たちである。
「あのきしょいゴブリン三兄弟共、またインディスさんを孕ませたんですよ。昨日出産したばかりだというのに。母体への負担が大きいから期間を空けない妊娠はやめてくださいって何度も言っているのに。ご主人様から褒美で頂いたポーション使えば大丈夫だ、とか言って聞かなくて……」
「まあ確かにポーションを使えば母体へのダメージはすぐに回復できるからね」
「あのきしょいゴブリン共、ご主人様の手足となる子をいっぱい作るんだとか何とか言ってますけど、本当は自分が快楽を味わいたいだけのくせして。ホント、きしょい……」
保育士ゴブリン娘は表情を歪めてタロウたちを侮蔑する言葉を吐く。
新しく生み出したゴブリン娘だからタロウたちへの偏見はないはずなのだが、いつの間にか嫌っているようだ。
タロウたち、同種族の女の子には嫌われる宿命にあるようだな。インディスがお嫁さんにやって来なければ一生結婚できなかっただろうな。
「ご主人様、先週も先々週もインディスさんは十つ子を出産されましたので、施設が少し手狭です。施設の拡充と人手も少し増やして頂けないでしょうか?」
「わかった。すぐに対応するよ」
「よろしくお願いします」
施設責任者の要望を聞き、すぐに対応する。
ダンジョンマスターの権能を使い、施設を増やし、確保してあったゴブリンの魔石とDMを消費してゴブリン娘を生み出す。
メニューを開いてコマンド操作をパパッとやって終わりだ。ダンジョンマスターってチートな存在である。
「それじゃ俺はこれで。お仕事よろしくね」
「はいお任せください」
保育士ゴブリンたちに見送られて、保育施設を出る。
(保育環境もだいぶ整ってきたな。この一ヶ月でだいぶダンジョンが発展したぞ)
ゴブリン娘たちによる保育は上手くいっている。これを先行事例として、託児所事業に乗り出してもいいかもな。託児所もホスピタリティ事業だしな。新しい事業を始めても面白いかもしれない。
まあモンスターに子供を預けてくれる人がいるとは思わないので、絵に描いた餅であるが……。
まあそれならウチのダンジョンで働く社員専用の保育施設にしてもいいだろう。福利厚生は重要だしな。働くパパさんママさんのために環境を整えなくていけない。
俺はたまに血を吸うけど、基本、社員に優しい吸血鬼だからな。
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