吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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二章

顔合わせ、吸血

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 そして二日後。チームの新メンバーたちと顔合わせすることになった。
 当初の話の通り、ギルド脇の酒場(宿屋でもあるが)の二階にあるパープルが間借りしている部屋で落ち合うことになった。

「初めまして、インディスです。よろしくお願いします」

 最初に挨拶してきたのは、常に笑顔を浮かべる若い女だった。
 愛嬌のある美人で、スタイルも良い。弓使いらしく、背中には矢筒を背負っている。

(見た目的に処女ではないだろうが、なかなか美味しそうな血を持ってそうだな)

 美人だし強そうだし美味しそうな子だった。
 こんな美人を捕まえてくるなんて、パープルもやるじゃないか。

「よろしくお願いします! トライです!」
「オバールです!」

 残る二人は、純朴そうな見た目の田舎少年といった感じの子であった。
 インディスという女もそうだが、この二人も常に笑顔だな。

(この子らも、おにぎりみたいで美味しそうだな。血を吸ってみたいぞ。見た目的にきっと童貞だろうし美味しいに違いない)

 少年二人はどちらも坊主頭だった。
 片方は三角型ごま塩おにぎりみたいな頭であり、もう片方は俵型ごま塩おにぎりみたいな頭であった。おにぎりみたいで、とにかく美味しそうな子らであった。

「俺はヨミトです。よろしくね」
「エリザですわ」

 笑顔を浮かべる三人に対し、俺とエリザもにこやかに笑顔を浮かべて握手する。
 その後、軽く酒を飲んで談笑しながら、今後のチームについて話し合った。

「まず、リーダーを決めなければいけません。僕はヨミトさんを推薦したいと思います」
「え、俺? パープル君がやった方がいいんじゃないの? チーム結成においても色々と根回ししてくれたしさ」
「僕はこんな見た目ですし、見た目的に舐められることが多いので不適当かと。この中じゃヨミトさんが一番背丈が大きいですし、ぴったりだと思います。実技試験の時に試験官を圧倒されてましたし、実力は申し分ないですし」
「そういうもんかね?」
「はいそういうものです」

 チームリーダーになんてなるつもりはなかったのだが、パープルがやたらと俺を推してきた。
 他にリーダーに立候補する者もおらず、エリザも俺を推してきたため、そのまま俺がリーダーを引き受けることになってしまった。

 まあ面倒臭いけど引き受けるか。リーダーになれば自分の都合で色々動かしていけそうだしな。

 その後、色々と話を詰めていく。

「――じゃあ当面のチーム名は“新星”で。サブリーダーはパープル君とインディスさんということで。そんじゃよろしく」
「はい」
「ええ」

 当面は“新星”というチーム名(新人冒険者のチームによくある名前らしい)を名乗ることに決め、サブリーダーはパープルとインディスに決まった。

 会ったばかりなのでインディスという人物がどんな子かまだよくわからないが、パープルについてはそれなりによく知っている。
 パープルは優秀で真面目な子だ。たいていのことはパープルに相談して任せておけば、チームは回るだろう。

「では早速近々鉄等級の任務を受けてみたいと思うんだが……」

 リーダーとサブリーダーが決まった後は、今後のチームの活動方針を決めていった。
 鉄等級の任務の中では一番簡単だという薬草採集の仕事から始めていき、慣れたら徐々に面倒な依頼にシフトしていくという方針になった。

「――それじゃ、これで初顔合わせは終わりですね。皆さん、お疲れ様でした」
「あ、ちょっと待って」

 話が済み、司会進行役のパープルが解散を告げようとしたので、俺は待ったをかけた。

「ヨミトさん、どうかしたんですか?」
「ちょっと確認し忘れたことがあったね」
「確認し忘れたこと?」
「うん。エリザ」
「ええわかっていますわ」

 俺とエリザは目線で示し合わせた後、全力でスキル【魅了】を発動した。
 室内が俺とエリザの魔力で満たされていき、四人はその魔力に中てられていく。
 吸血鬼の魅力の虜となった四人は、虚ろな表情でそのまま固まった。

「新顔がいるんだから、血の味の確認をしなきゃな」
「うふふ、そうですわね。これから仲良くしていくんですもの。血の味の確認は必要ですわ」

 俺とエリザは邪悪な笑みを浮かべながら、無防備な四人に近づいていく。
 まずはパープルだ。その首筋に歯を突き立てて血を吸っていく。

「うん。前と変わらず美味しいね。相変わらず人間じゃない変わった味だけどさ」
「まだ純潔を保っているようですわね。素晴らしいですわ」

 パープルの血は前と変わらず美味しかった。成長している分だけ、前よりも美味しくなっているかもしれない。微々たる違いだがそう思えた。

「さてお次は」
「おにぎり君たちですわね」

 続いて、少年二人の血を吸っていく。
 純朴そうな見た目であるから美味しい血だと期待していたのであるが……。

「うべっ、何だこれ!」
「ぺっぺ、不味いですわ!」

 少年二人の血は不味かった。クソザコな上に身も心も汚れているのだろう。ゲロ不味だった。

「美味しそうなおにぎりみたいな見た目してるくせに、こんなに不味いとはね。詐欺だな。メーカーにクレーム入れたい気分だ」
「ホント、詐欺おにぎりですわ! 訴えてやりますわ!」

 俺とエリザは、少年二人の坊主頭を軽く小突きながら不満を述べた。

 例えるなら、お米のおにぎりだと思ったら、実は虱のおにぎりを食わされたような気分だ。同じライスボールでも全然違う。最悪である。

「スキルも何も得られなかったしな」
「本当、詐欺にも程がありますわ! 詐欺おにぎりですわ!」

 スキルもラーニングできなかったし本当に最悪だ。詐欺おにぎりを作った製造元にクレームを入れたい気分だった。製造元がどこなのかはわからないが。

「さて。インディスちゃんで口直ししよう」
「この子なら期待できそうですわね」

 気持ちを切り替えた俺とエリザは、弓使いの女の子インディスの首元に顔を近づけていく。
 今度こそ美味しい血だと期待するのだが……。

「んべぇえっ、まっず!」
「こいつも酷い味ですわぁ! 詐欺ですわぁ!」

 インディスの血も不味かった。先の少年二人よりも不味い。

「強さ的には旨みも少しは感じられるけどなぁ。勿体ない」
「かなり魂が汚れているようですわね。ゴミ溜めの味ですわ」

 強さ的な意味ではまあまあ美味しく感じられないこともないのだが、身心の清らかさという点ではまるで駄目だ。インディスは身も心も汚れているらしく、その血は酷く不味い味がした。

 例えるならば、美味しいチョコレートお菓子だと思って食べたら、半分が泥団子だった気分である。半分が泥団子だったら、それはもうチョコではない。ただの泥団子である。チョコだと思ったら泥団子を食わされた気分だ。最悪である。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――スキル【洗脳】を獲得。

洗脳:自身の魅力によって対象の心を支配して都合の良いように動かせる。洗脳できる人数に制限あり。ただし、洗脳対象の思考力は落ち、能力は下がったままとなる。

 不味い血だったが、我慢して飲んだ甲斐はあった。インディスの血から新しいスキルをゲットできた。

 【洗脳】は面白い効果を持ったスキルらしい。一度洗脳してしまえば、対象を従順な駒として扱うことができるようだ。中々凶悪なスキルだ。

 ただ、デメリットもあるようだ。洗脳できる人数に限りがあり、俺とエリザの場合、今のところそれぞれ十人が限度のようだ。
 また、洗脳した対象の能力は落ちてしまうらしい。能力が落ちたままというのは最悪だな。

 大切に囲い込みたい対象だったらこんなスキルは使わず、眷属化した方がいいだろうな。眷属化なら弱体化のデメリットなんかないしな。

 このスキル【洗脳】を使えば、意にそぐわぬブラック労働を社員に喜んでさせることもできそうだ。
 まあできるだけホワイトな労働環境を目指している経営者の俺としては、そんな目的では使わないけどさ。たぶん。

「新しいスキルをゲットできたのは良かったけど、まっずい血だなぁ」
「本当ですわね」

 血を吸い終わった後、俺とエリザは眉をひそめる。

「この血の不味さからして、こいつら三人ってニコニコしてて善人に見えるけど、結構な悪人じゃないか?」
「血の味的にはそう思えますわね。前に宿の備品を盗みまくった下郎と似た感じがしますわ。いやそれ以上かもしれません」
「だよなぁ」

 俺たちは血の味からその血の持ち主がどういった人格かおおよそ推定できる。新しいメンバー三人からは悪人の味がした。まず間違いないだろう。

 悪人でも強者の血であれば欠点なんか気にならないくらい美味しいんだけどね。だがこいつらはそこまで強くないようで、ただ不味いだけだ。言うなれば三下の小悪党って感じか。

「パープル君って、意外に人を見る目ないのか? 考えてみれば、俺たちも邪悪な吸血鬼だしな。彼からしたらチームメンバー全員、外れを引いてることになるじゃん。駄目じゃん」
「うふふ、そうですわね。意外と間抜けな坊やですわ」

 俺たちは呆れた目で、魔の虜となって呆けているパープルを見る。
 彼は優秀な完璧人間に見えて、意外と抜けたところがあるらしい。人を見る目がないようだ。

「もしかしたら見た目に騙されてるのかもしれませんわね。人の本性を見抜くのは常人には難しいことですわ」
「まあそうだな。無理もないか」

 人の内面を見抜き、良い人か悪い人か判断するのは、プロのスカウトマンでも中々難しいだろう。俺たちみたいな血の味から善悪を判断するチートでもない限りは、とても困難な作業のはずだ。
 歳若く人の良さそうなパープルが外面の良い人に騙されるのは、仕方のないことなのかもしれない。

「ご主人様、この下郎たち、ここで消しておきますか?」
「いやいいよ。しばらくは泳がせておこう。殺すのはいつでもできるしさ」

 この三人が悪人だったとしても、今の所、俺たちに被害はない。だから急ぎ始末する理由はないだろう。俺たちに不利益を与えそうなら、その時に消すだけだ。
 こいつらは冒険者活動に利用できそうなので、当分は利用することにしよう。

「四人共、どうしちゃったの? ぼうっとしちゃってさ」
「――え?」

 しばらくして、スキル【魅了】の効果が解ける。
 四人はハッとした表情で正気を取り戻した。

「もしかして酔いが回っちゃった? そんな飲んでないのにね」
「アハハ、そうかもしれません」

 俺とエリザが心配そうな表情を取り繕って言うと、四人は少量の飲酒で酔いが回ったと思ったらしい。気恥ずかしそうに苦笑していた。

「それじゃ、俺とエリザは一足先に失礼するよ。おやすみ」
「あ、はい、それでは明後日にまた会いましょう。おやすみなさい」

 一言伝え、俺とエリザは拠点にしている花宿に戻ったのであった。


♦現在のヨミトのステータス♦
名前:ヨミト(lv.62)
種族:吸血鬼(ノーマル)
HP:379/379 MP:364/364
【変化】【魅了】【吸血】【鬼語】【粗食】【獣の嗅覚】【獣の視覚】【獣の聴覚】【獣の味覚】
【剣術】【我慢】【起床】【睡眠】【威圧】【料理】【伐採】【裁縫】【農耕】【投擲】
【風刃】【天才】【火球】【洗脳】
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