吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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一章

村の裏事情

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「おはようエリザ。よく眠れた?」
「枕が硬いので寝付くまでが大変でしたが、寝付いたらそれなりには。この前ラーニングしたスキル【睡眠】のおかげか、よく眠れましたわ」
「そうか。ダンジョンの生活に慣れてると、いざ余所で生活する時大変だよな」

 翌朝。エリザとそんな会話をしながら起床し、部屋を出て朝食を食べる。

 朝食は宿代に入っていないので、一人2カプコン銅貨を払って、店主に作ってもらった。
 相変わらず不味い飯だが仕方ない。我慢しよう。

「――今日はこれで勘弁してやるよ。ヒャハハ!」
「ん、なんだか宿の外が騒がしいな?」

 エリザと談笑しながら和やかに飯を食っていると、宿の外から下品な笑い声が聞こえてきた。なんとも不快な笑い声だ。

「何やってんだあいつら?」
「さあ。何か問題でも起きているのでしょうか?」

 窓から外の様子を伺うと、声は向かいの宿屋から聞こえてくるようだった。

 向かいは二階建てであるものの外装が剥がれかけたボロい宿屋だ。今俺たちがいるこの宿が村の中じゃ一番綺麗な宿なのだが、その対極にあるような宿である。

「ご利用……ありがとうございました」

 向かいのボロ宿屋の前で、一人の女性が男たちに頭を下げていた。
 男は六人ほどいるだろうか。姿が重なっていて、正確な人数はこの位置からじゃイマイチよくわからない。

「またの……お越しを……」

 頭を下げているのは、長い金髪でスタイルの良い美人さんだった。昨日俺たちが血を吸うために買った娼婦の誰よりもスタイルが良くて美形だ。清楚美人マダムって感じ。

 そんな清楚美人の顔は、屈辱にまみれていた。
 周りを取り囲む男たちの表情は下品そのものだ。

「へへへ、とりあえずこれで借金の返済は待ってやるよ」
「次までに金を用意しとかないと、今度は娘の方を頂くぜ」
「それだけはご勘弁を……」
「げへへ。だったら早く金を作るんだな」

 なにやら不穏げな会話をしているようだ。

 気づけば、俺の隣に宿の店主がやって来て、その様子を心配そうに見つめていた。

「可哀想にねえ。向かいさん、美人だからゴルドの旦那たちに目をつけられちまって」
「ゴルド?」
「この村の開拓団の団長さ。開拓民を取りまとめていて、取り巻きの連中とヤクザじみたことをしているとんでもない連中さ。うちもみかじめ料を少しだけど奴らに払ってるよ。それで済むなら安いもんさ」
「へー。そうなんですか」

 ゴルドというのは、どうやらこの村で幅を利かせているヤクザもんらしい。開拓団の団長なんてそんなに偉いのだろうか。

「役所の人とかが取り締まらないんですか?」
「まあ無理だろうね。必要悪ってやつさ。開拓民には荒くれ者の犯罪者みたいなのが多い。それらを取りまとめて作業させるってのは一苦労で、役所の人間は直接やりたくないんだよ。だから開拓民の中で指揮とれるやつに現場のことは全部任せていて、王都の連中――つまり役所は監督だけしているのさ」
「なるほど。必要悪だからやりたい放題が見逃されているというわけですか」
「そういうこと。王都の連中からしたら、ここの住人の暮らしとかどうでもいいからね。早く森をある程度開拓して、新たな商路を作りたいだけなんだよ」

 店主は苦々しげな表情で村の事情を語り出した。色々と複雑な事情があるみたいだな。

「開拓地なんて夢のあることを言ってるけど、この村の実情は悲惨なものさ。あの奥さんの一家も、夢があってここに移住して来たんだろうけどね。旦那が開拓団で働いて、奥さんとその息子が宿屋を切り盛りする予定だったんだけど、旦那と息子は事故で死んじまってね」
「旦那と息子、二人も死んだんですか? それは気の毒ですね」
「そうだね、本当に事故なら諦めもつくんだろうけど……」
「というと?」
「……ここだけの話、ゴルドの旦那たちが事故に見せかけてやっちまったんじゃないかって噂だよ。美人の奥さんとその娘を手に入れるために、手を回したんじゃないかってね。事実、あの一家はゴルドの旦那に借金漬けで、言うことを聞くしかない状況になってるんだ。今じゃ母と娘一人、潰れかけの宿屋を守るだけの苦しい生活さ。女将さんは娘さんを守るために、自らの身をとして差し出すことで、ゴルドの旦那たちを黙らせているらしいんだ」
「あれまぁ。そりゃ酷い話ですね」

 ゴルドってやつは相当あくどいことをやってるみたいだな。だが狡猾なので証拠も残さず、役所もスルー状態らしい。

「あの調子じゃ、娘さんがゴルドの旦那たちの手にかかる日も近いだろうね。娘さん、物凄い可愛い子なんだけど、可哀想にねぇ。まあ、旅のもんのアンタたちには関係ない話だったね」

 店主は大きな溜息をつくと、去っていった。自分の仕事に戻ったようだ。

「ちょっと興味が湧いたな。エリザ、今日は向かいの宿に泊まってみることにしようか」
「そうですね。でもダンジョンに戻らなくても大丈夫でしょうか?」
「まあもう一日くらいならいいだろう。タロウたちはそれなりに鍛えてあるし、不測の事態でも対応できるはずさ」

 もう一日村に滞在し、今日は向かいのボロ宿に泊まることにした。

「あのご主人様、向かいの宿屋の母娘を助けるおつもりですか?」

 俺に何か企みがあると思ったのか、エリザは口を開いて尋ねてくる。

「いや。俺はそんな殊勝な人間じゃないよ。前世はともかく、悪魔である吸血鬼となった今ではね。なに、趁火打劫ちんかだこうってやつさ。上手くいけば、あの店と母娘を頂けるかと思ってね。居抜きする形で二号店をオープンできるかもと思ったのさ」
「よくわかりませんが、偉大なご主人様には何かお考えがあるのでございますね。ふふ、それならお手並み拝見させていただきますわ」

 再開した食事中、そんな吸血鬼らしいあくどい会話をエリザと交し合った。

「村にもう一日滞在するのかい? 今晩は向こうの宿を?」
「ええ。ちょっと気になったことがありまして。色々世話になったのに、商売敵の宿に変えてしまって申し訳ないですね。この宿のサービスが気に入らなかったわけじゃないですから気にしないでください」
「そうかい。わざわざ一言言ってくれて有難う。別に商売敵云々は気にしなくていいよ。現状、全然敵になってないからさ。哀れすぎて逆に客を送りたいくらいさ。ま、ゴルドの旦那が怖くて、表立ってそんなことできないんだけどね」

 チェックアウトを済ませる際、宿屋を変えるので店主に一言挨拶しておく。
 宿を変えると言っても、店主は嫌な顔一つしなかった。その代わり、俺たちの身を案じて懸念顔を浮かべた。

「あんまりあの母娘に関わらないほうがいいと思うけどね。特にアンタの奥さん、美人だからゴルドの旦那に目をつけられたら恐ろしいと思うよ。悪いこと言わないから、用事が済んだらさっさと村から立ち去った方がいいよ」
「ご忠告ありがとう店主。でも大丈夫ですよ。なあエリザ」
「ええ。何の問題もありませんわ」
「そうかい。なら何も言わないが……」

 店主は心配げな様子で俺たちを見送ってくれた。
 俺たちは宿のチェックアウトを済ませると、そのまま向かいの宿へと向かったのであった。
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