吸血鬼のお宿~異世界転生して吸血鬼のダンジョンマスターになった男が宿屋運営する話~

夜光虫

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一章

娼婦を味見

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「あのー、お客さん。一応聞いておきますけど、いらないですよね?」

 食事を終えて水浴びを済ませて部屋に戻ろうとすると、宿の店主がそんなことを聞いてきた。

「え、何が?」
「綺麗な奥さんいるみたいだし、いりませんよね。すみません野暮なこと聞いて」
「だから何がです?」
「コレのことですよ」

 店主はいやらしそうな顔をして、小指を立てた。

 詳しく聞けば、夜伽の者を出すかどうかという話しをしているらしい。どうやらこの世界の宿屋には、娼婦を派遣してくれるサービスがあるところもあるようだ。

 この村に娼館なんてなさそうだったから娼婦なんていないと思っていたが、そうでもないらしい。売春は最古の職業なんて言うくらいだから、娼婦が存在しないなんてことはないのか。

「こういうの今まで利用したことないんですけど、相場ってどんなもんなんです?」
「ウチは女の子自体の報酬が2シル半だね。手数料が5カプコンで合計3シルだ」
「へー」

 よくわからないが、そういう相場らしい。勉強になるな。

「それじゃ見繕ってくれますか?」

 俺は永久に童貞を貫く約束をエリザと交わした。だから約束を破って血を汚すわけにはいかないので娼婦なんていらないと断ろうと思ったが、娼婦を買えば簡単に吸血できることに気がついた。

 エリザ曰く、若い女の子の血は美味しいらしい。娼婦ということは当然処女じゃないからその点、血は不味くなるだろうが、試しに飲んでみることにしよう。

「なるべく美人の若い子を頼むよ」

 見た目は関係ないが、なんとなくそう注文をつけた。ブスの血を飲むよりも美人の血を飲むほうが気分的にいいだろう。

 綺麗に整えられた料理とグチャグチャになっている料理。同じ味でもどっちがいいかって話だ。当然、綺麗に整えられている方がいいだろう。その方が美味しく食べられる。

「え、買うのかい? 奥さんいるんじゃ……」

 俺が女を買うことを告げると、店主は目を丸くさせていた。妻同伴で宿泊していて女を買うなんて珍しいとのことだ。

 妻というのは設定で、本当は配下のモンスターなんだけど。そんなことは当然言えないので黙っておく。

「ええ。妻は調子が悪くてですね。彼女もきっと了承してくれますよ」
「そうかい。なら何も言わんよ。部屋が一つ空いてるから、そこを使うといい」
「ありがとう」

 店主の好意で、空いている部屋をサービスで使わせてくれることになった。設定上妻であるエリザに配慮してくれたんだろう。飯は不味いが気が利く良い店主だな。

「それじゃ、これで三人くらい呼んでください。お釣りはいらないです」

 村では思ったよりも金の使いどころがなかった。ここで女を買って一気に金を使っておくことにしよう。

 俺は店主にゴルゴン金貨を差し出した。ゴルゴン金貨を渡すと、店主はさらに目を丸くさせた。

「え、ゴルゴン金貨⁉ さ、三人も見繕うのかい?」
「ええ。まあ自慢じゃないですけど自分は絶倫なんでね。三人くらいとやらないと満足できないんですよ」

 適当なことを言って納得してもらう。童貞が何言ってるんだって感じだな。

「わかったよ。それにしてもアンタ、金持ちなんだな。金貨をポンと出すなんて。もしかして凄腕の冒険者さんかい? それなら納得だ」
「まあそんなところですね。余計な詮索は無用ですよん」
「おっと、こりゃスマンな」

 ゴルゴン金貨を出したことで色々と疑われるが、適当に誤魔化しておく。

 泥棒した金じゃないぞ。お客様から頂いた損害賠償金だ。ちゃんとしたお金である。金の出所を疑うなんて失礼しちゃうぜ。

「半刻ほど待ってくれ。女を用意してくるからさ。時間になったら、五番目の部屋で待っていてくれ。これが五番目の部屋の鍵だ」
「わかりました。ありがとう」

 店主から新しい部屋の鍵を受け取り、エリザの待機している部屋へと一旦戻る。

「エリザ、娼婦を買うことにした。今夜はエデン村の娼婦の血の味見といこうじゃないか。不味かった夕食の口直しといこう」
「まあ楽しそうですわね。ご一緒させていただきますわ」

 エリザに教えてあげると、彼女は表情を妖艶に輝かせる。

「半刻後で、五番目の部屋だそうだ。俺は堂々と向かうけど、エリザは店主に見つからないように、小動物にでも変化して来てくれ」
「は~い。わかりましたわ」

 時間が来るまで、エリザと部屋の中でお喋りして過ごす。

「――そろそろか」

 先に俺が五番目の部屋に向かい、白猫に変化したエリザを迎え入れる。

「エリザ、しばらくは隠れていてくれよ」
「はーい」

 猫状態のエリザをベッドの下に隠し、しばらく待つ。

――コンコン。

 宛がわれた部屋で待っていると、やがて部屋の戸がノックされる。
 扉を開けると、店主がおり、その脇には妖艶な衣装に身を包んだ三人の女がいた。

「この三人だけど、いいかい?」

 パッと眺めてみて、若いし悪くない容姿だったので俺はそのまま頷いた。田舎村にしては、なかなかの容姿の三人だろう。美味しく食べられそうだ。

「順番に送り込んだ方がいいかい?」
「いや、5Pしたいからそのまま一緒にいれてください」
「ごぴー?」
「いやこっちの話です」
「とにかく一緒でいいんだね?」
「はいお願いします」

 店主は女たちに何かを告げると、その背を軽く押して俺の部屋へと送り込む。

「それじゃごゆっくり」

 店主は扉を閉めながら、にっこりと微笑んだ。今夜はお楽しみですね、って感じの表情だ。

 楽しませてもらおうじゃないか。エデン村の女の子の血をね。



「さて、楽にしてよ。まず自己紹介からしようか」

 俺の前に三人の女が立っている。既に水浴びを済ませた後なのだろう。髪が仄かに濡れていて、なんとも艶かしい。
 とりあえず三人を座らせて、挨拶から入る。

「ヒイと申します」

 最初の女はボブカットの髪にスレンダー体型で、三人の中では一番顔が整っていた。
 こんな所で働いている理由は、金を貯めて王都に出ていくためだそうだ。

 中々の野心家だね。どんな血の味がするだろうか楽しみだ。

「フウです」

 二人目の女はロングの髪、三人の中で一番肉付きが良かった。
 どうやら既婚者のようで、子持ちらしい。夫が仕事で怪我をして休職中なので金に困り、バイト感覚でここに来たそうだ。家族のために身売りするなんて、健気な奥さんである。

 身は汚れていても魂は高潔そうだ。美味しそうな血をしていそうで楽しみだ。

「ミイです」

 三人目の女はおかっぱ頭で、一番若くて、まだ幼さの残る顔立ちと体つきであった。
 幼げで純真な眼差しをしている。人を疑わなさそうな所が見受けられる。見るからに魂は清らかそうだ。

 この子の血も美味しそうだな。楽しみだ。

「三人とも、もっと近くに寄ってくれるかい?」
「は、はい」

 自己紹介を終えたところで、三人をベッドに並べる。何事かと不安がる三人を落ち着け、スキル【魅了】を全力で発動させた。

――スキル【魅了】発動。

「――あぁ」
「――うぅ」
「――へぇ」

 三人の目がトロンとして、意識がぼやけてくる。三人は虚ろな表情で座っている。

 それなりに意識レベルを低下させることができたが、ただこれだけだとちょっと不安だ。何かの拍子で術が解けちゃいそうだ。今の俺の力ではこの程度が限界のようだ。

「エリザ、サポート頼む」
「はーい」

 白猫に化けてベッドの下で待機していたエリザが姿を現す。エリザもスキル【魅了】を発動し、二人がかりで魅了していく。

 やがて三人は深い催眠術に陥った人みたいに呆けることとなった。

 この状態なら何をされても記憶に残らないだろう。吸血したって覚えていないだろう。ここまで意識レベルを落とせれば問題ないな。

 こうして、三人の娼婦は俺たちに血を吸われるだけの肉人形と化した。

「エリザ、どの子からいく? レディーファーストで選んでいいよ」
「それでは、私はこの一番小さな可愛い子からいきますわ」
「そっか。じゃあ俺はこのマダムにしよう」

 エリザがミイという子、俺はフウというマダムを選んで、それぞれ胸元に抱き寄せた。そしてなるべく優しく首筋に牙を立てていく。

「んー、なかなか美味しいね」

 エリザの血と比べれば遠く及ばないが、今まで経験した人間の女の血の中では一番に美味しいものだった。

 まあ過去に経験した人間の女の血の中では最高って言っても、血を飲んだことのある人間の女なんて、前に宿の備品をパクリまくった夫婦の片割れしかいないんだけどね。

 宿の備品をパクりまくったあの女の血はあんまり美味しくなかったな。あの女に比べると、このマダムの血はかなり美味しい。泥棒に手を染めず真っ当に働いているから、魂が汚れてないんだろう。苦界に落ちても心は清く美しく保とうと思っているのかもしれない。

 そう思うと、身が汚れていることで感じられる血の苦味も乙なものである。コーヒーの苦味のように、味わい深いものに感じられるな。

「ご主人様、この子の血も中々のものですよ。やっぱ若い子は美味しいですね」
「そっか。どれどれ。俺にも飲ませてくれ」
「はいどうぞ」

 続いてミイという子の血を飲んでみる。

 苦味の少ないまろやかな味だね。癖がなくて水を飲んでるみたいで物足りないかもしれないが、これはこれでいい。食後の口直しには丁度いい血だ。

「さて最後の子の血も味わわせてもらおうか」

 最後にヒイという子の血を飲んでみる。

「うん、この子もなかなか美味しいね」

 野心家だけあって若さ溢れるエネルギッシュな血だ。癖のある炭酸飲料を飲んでるみたい。高カロリーな感じがするぞ。

――スキル【吸血】発動。経験値獲得。
――初めての対象であるのでボーナスを獲得。
――器用さが1、魅力が5増えた。

 残念ながら有益なスキルは手に入らなかったようだ。ステータス値が上昇しただけであった。

 三人は何のスキルも持っていなかったみたい。もしくは俺が既に持っているスキルしか持っていなかったのかもしれない。まあしょうがないな。

「ご馳走様でした」

 なるべく弱らせないように三人の血を堪能した。払った一ゴルゴン分くらいは楽しませてもらったな。

 そろそろ解放してあげるとしよう。魅了状態のままの三人をゆっくりとベッドに寝かせてやる。

 三人は血と一緒に生命力を吸われたことで、いい感じに疲れている。事後みたいな感じで憔悴している。これなら店主に疑われずに済んでいいだろう。

 一応、ベッドを適当に乱して、シーツに水をかけたりして湿らせて汚しておく。これで隠蔽工作完了だ。

「よし、部屋を出るぞエリザ。蝙蝠に変化して俺の服の内ポケットにでも隠れていてくれ」
「かしこまりましたわ」

 エリザと一緒に部屋を出て、店主に一声かけてから自分の部屋へと戻った。

「娼婦の血も中々のもんだったな。この宿の夕食よりは美味しかったぜ」
「そうですわね」
「密室状態で会うから、娼婦は一般人よりも血を吸いやすいな。金さえあれば女を買って血を吸うのもいいな。安全に効率良くレベリングできそうだ」
「この田舎村では無理ですけど、都会の高級娼婦相手なら貴重なスキルとか持ってそうですし、スキルラーニングも捗りそうですわね」
「ああ。宿で稼いだ金で女――別に男娼でもいいが、買ってその人間の血液を吸えば、安全で効率良くレベリングできそうだ。人間の町に拠点を構えて宿屋経営が軌道に乗って金を稼げるようになったら、娼婦漁りもいいかもな」
「そうですわね」

 部屋に戻ってエリザと談笑する。

 宿屋を運営して客の血を吸いつつ金を稼ぐ。そして稼いだ金で娼婦を買って血を吸う。金がない時には、町中に繰り出して一般人から血を吸う。

 そんな効率的なレベリング方法を思いついたので、今後はそうしていくことにしよう。

 そんなことを話し合った後、俺たちは床に就いたのであった。
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