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第3話《猫の商人》
しおりを挟む「ほら、終わったぞ。……………気持ちよかったか?」
「ガァァァ~~…………………♪」
マシロの頭から尻尾まで1番にブラッシングして綺麗にしてあげると、マシロは満足気な声をあげてブラッシング後の余韻に浸りながらスリスリと頭を胸元に擦りつけてくる。
「ふむ、順調に信頼関係を構築しているのだな」
「おはよう、ハウル。シャルマに言われた通りちゃんとやってるよ」
このブラッシングはシャルマからの提案で日課にしているのだ。
シャルマは昔、冒険者をやってたこともあったらしく、その時の仲間の言葉だが「契約獣と契約者は対等であり、信頼関係の構築は絶対大事!だから契約獣のケアができない契約者は三流のゴミよ」と言っていたそうだ。
実際に、魔物使いの冒険者が命を落とす1番の原因は契約獣との信頼関係をきちんと構築しておらず、ピンチの際に逃げられたり、見捨てられたりするからだそうだ。
「ブモォ!」
「セナよ、賢狼である我等もブラッシングを所望するのだ!」
マシロのブラッシングが終わったのを見た魔物達は、「今度は俺が!」とブラッシングの順番を争うように駆け寄ってくるこの風景もここ3週間でもうお馴染みの風景となっていた。
今朝は牛の頭部を持ち、鉄剣も弾く硬質な肌と筋肉質な人間のような身体を持つ魔物《ミノタウロス》と、影に潜み獲物を狩る綺麗な美しい銀色の毛並みを持った軽自動車サイズの銀色の毛並みを持つ狼のような魔物《シルバーガルム》の群れが囲み順番を争っていた。
ちなみに結果は順番を争っていた魔物達を無視して俺のところにやってきた純潔を好み、頭部には角がある馬の魔物《ユニコーン》が1番にブラッシングを受ける権利を得た。
「ブモ!?」
「な!?ユニコーン、狡いのだ!」
負け犬の遠吠え…………いや、この場合は負け牛と負け狼の遠吠えか。
最終的には争っていたミノタウロスとシルバーガルムが争ってる間に他の魔物達も順番に並んでいたので最後尾に並ぶことになってしまっていた。
「うぅ、僕のほうには誰もこない」
順番待ちまでしてブラッシングを待つ魔物達を見てシャルマは絶望的な表情になっていた。
最初はまだ魔物達もシャルマのほうにも並んでいたのだが、魔物達の間で俺のブラッシングの腕前が噂になり噂がまた魔物を呼び、それが繰り返された結果、魔物達は誰もシャルマのところにはいかなくなっていた。
「なんでセナ君のほうばっかりに魔物達が集まるんだよ!!僕のブラッシングのなにが駄目なんだよ!!」
「腕前の差だ。悔しいなら腕を磨くんだな」
「グッ!……………………さ、最初だけだよ!!物珍しさってやつさ!ほ、ほら、僕のほうにきてもいいんだよ~??」
シャルマの声に魔物達はチラリとシャルマのほうを見てから一言。
「キュォォン!」
「ブモォォォッ!」
「賢狼である我からしても管理者を選ぶのは馬鹿のやることだな」
「うむ、残念ながら比較対象にさえならんな」
辛辣な魔物達の意見である。
「…………………だそうだが?」
「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」
シャルマは滝のような涙を流しながら倉庫のほうへと駆けていき、「やれやれ」と溜め息を零しながら、慰め役のハウルがその後を追いかける。
(ハウルも大変だな……………)
落ちこんだシャルマを慰めなきゃいけないハウルに同情しつつ、順番競争に勝ったユニコーンのブラッシングをしていると、ダチョウのような柔らかで暖かそうな毛に覆われた鳥達に引っ張られ荷馬車が家の前までやってきた。
「…………………誰だ?」
荷馬車の手綱を操っていたのは、顔は深くフードを被っているためわからないが小柄で身長だけならこどもだと思うが、ただのこどもがこんな場所にはこないだろう。
念の為に渡された護身用の短剣に手を置いたまま俺は様子を窺う。
もちろん威嚇のために持たされただけで実際に剣を使って戦ったりはできないが、マシロ達もいるのでどうとでもなるだろう。
「よっこいしょッ!!?あ、あわわわわわわわ!!!?」
それも一瞬だけで、荷馬車から降りようとして背負っていたリュックが重過ぎたのか重心が後ろに引っ張られてしまい、そのまま頭から雪の中へと埋まり、スカートが捲れて猫のような尻尾と熊さんパンツをまる見えの状態で両足をバタバタとさせていた。
まぬけ過ぎる姿に警戒するのも馬鹿らしく感じて、無視してブラッシングを再開する。
(警戒するだけ無駄だったな……………面倒臭いし放置しとくか。てか、猫みたいな尻尾があるのにパンツは熊さんパンツなんだな)
別に手袋がないから雪に触ると手がつめたいから助けたくないとか、断じてそんな理由ではない。
絡むのが面倒臭いだけだ。
「気持ちいいか?」
「キュォォォォ~…………」
俺がここで働きだしてからさらに鍛えられたブラッシングのテクニックに普段は凛としているユニコーンも蕩けた声をあげる。
「うーーッ!プハッ!!助けてニャッ!!」
どうにか雪から脱出したそいつは無視してブラッシングを続ける俺に抗議の声をあげる。
フードから取れて、ピコピコと動く猫耳と可愛いらしい顔が露わになる。
「理由がない。あと面倒臭い」
「辛辣過ぎるニャ!?」
心の底から面倒臭そうに言う俺。
面倒臭いし、雪なんて素手で触ったらつめたいだろ?
疲れて、つめたい思いしてまで助ける理由がない。
「で、お前は誰なんだ?」
「うやむやにされたのニャ……………。えっと、ニャーは《テトラ・ミトラルシュ》ニャ。ジータの街で《猫の尻尾亭》っていう道具屋をやってて、シャルマ君の依頼でここには2週間に1度必要な商品を配達しているのニャ」
「そうか。俺は篠高 瀬名だ。瀬名でいい。ここでいまは働かせてもらってる」
「あ、私のことはテトラでいいニャ!君が噂の新人君なのかニャ………………ところでシャルマ君はどこニャ?見かけないんだけどどこにいるのニャ?」
「あっちだ」と言って俺は倉庫のほうを指差す。
テトラが指差されたほうを見ると、真っ黒な負のオーラを漂わせるシャルマが倉庫の隅っこで膝を抱えて座っており、それをなんとかして慰めようとハウルが頑張っていた。
「………………………えっと、何事ニャ?」
「魔物達にブラッシングさせてもらえず落ちこんでるな」
「ニャ?シャルマ君のブラッシングは気持ちいいって魔物さん達も喜んでたはずニャ」
「それは…………………いや、説明するより試したほうが早い。テトラ、ちょっとこっちにこい」
言葉で表現するよりも実践したほうが早いと手招きをすると、頭に疑問符を浮かべながらテトラは近寄ってくる。
そのままポンっと頭に手を乗せると優しく髪を撫でる。
「ウニャッ!!?こ、これはッ!?」
栗色の髪を優しく撫でながら、時より耳の裏を掻いてあげたりする。
耳が弱点のようで、栗色の猫耳に手が触れるとビクッとテトラの身体が跳ねる。
敏感にビクッと身体が跳ねるのが楽しくて俺は執拗に耳の周りをなぞるように撫で続ける。
「あニャァ……ンニャッ、そこッ…………だめニャァ~……………ウニャァァ」
すると、だんだんテトラの顔が蕩けていきガクガクと膝を震わせて、最後には力が抜けきってペタリとその場に座りこむ。
「はぁはぁ」と息を荒く頰を赤らめているテトラを見て、さすがにやり過ぎたかと思っていると「ニャ~、もっとニャァ~…………」と言ってギュッと俺のコートを掴むテトラ。
なにかいけない事をしている気持ちになってしまい罪悪感すら感じてしまう。
「コホンッ………………と、まぁ理解できたか?」
「ウニャ~……………あ、うん、確かにこれはシャルマ君ごときと比較するのはおこがましいニャ!」
「どうせ僕なんてッ!!!!」
「シャ、シャルマ!!?……………………テトラよ、余計なことを言わないでやってくれ。慰める身にもなってくれ」
ハウルに慰められて戻ってきたシャルマのガラスのハートにテトラの一言が突き刺さり、再び滝のような涙を流しながら倉庫のほうへと走っていった。
それを見てハウルが頭を抱えるが、慰め役なのでもう1度頑張って慰めてもらうとしよう。
「頑張ってもう1度慰めてくれ」
「はぁぁ…………………後でブラッシングを頼むぞ」
「頼まれた」
ハウルは自身に言い聞かせるように「ブラッシングのためだ…………」と言って、また倉庫の隅っこで膝を抱えて落ちこむシャルマを慰めるために倉庫へと向かう。
慰め役も大変だ。
「魔物達に懐かれ契約する特殊な恩恵が持ってるかもってシャルマ君は言ってたけど、この撫でる技術もスキルなのかもしれないニャ」
「シャルマの言ってた?もしかしてテトラはスキルを調べられるのか?」
「そうニャ!」
ない胸を張ってテトラはリュックを漁ると真っ黒なカードを1枚手渡してくる。
「これは?」
「《ギフトカード》ニャ!これに血を一滴垂らすとその人間が持っているスキルを調べられるっていう超貴重なマジックアイテムニャ!」
「高いのか?」
「高いニャ!ニャーは持っているスキルを調べるスキル《鑑定眼》を持ってるけどギフトカードなら個人の証明書にもなるから、身元を確認できる物がないならこっちで調べるニャ!あ、今回はシャルマ君への恩返しってことでお値段は無料なのニャ!」
テトラ曰く「お値段は大金貨1枚はするのニャ」と言っていた。
大金貨1枚なら確かに高い。
この異世界には4種類の通貨がある。
《銅貨》・《銀貨》・《金貨》・《大金貨》の4種類の通貨だ。
シャルマから聞いた限りでは銅貨1枚が10円。
銀貨1枚が1000円。
金貨1枚が10万円
1番効果な大金貨1枚になると100万円相当の価値があるようだ。
つまり、ギフトカードは約100万円相当の価値のあるものだというわけだ。
ちなみに俺の日給は銀貨15枚だったりする。
「大金貨1枚……………そんな高価なアイテムをいいのか?」
「確かに痛い出費なんだけどニャ~………………ここにはお世話になりっぱなしなのニャ。恩には恩でっていうのが商売人の鉄則ニャ!」
胸を張って言うテトラだが、商売人魂は持っていても胸は持っていないらしい。
俺としては100万円相当のアイテムを無料にする恩のほうが気になるが、まずはテトラから借りた針で親指に刺して血をギフトカードへと一滴垂らす。
「お、なんか浮かびあがってきたぞ?」
「それがセナ君の持っているスキルなのニャ!」
淡い青色の輝きとともにギフトカードに俺の情報が浮かびあがってくる。
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《名前》-シノタカ セナ
《種族》-人族
《年齢》-17歳
《性別》-男
《ユニークスキル》-絶対契約 Lv.1・???
《スキル》-撫で技術 Lv.5・懐柔 Lv.5・身体能力UP Lv.1・言語理解 Lv.5・超回復 Lv.1
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スキルにはレベルがあり、レベルは最大5で、スキルは使えば使うほどレベルがあがり、新しい効果や性能があがる。
俺が異世界で普通に会話できてたのは言語理解 Lv.5のスキルがあったからで、魔物達にブラッシングが好評なのは撫で技術 Lv.5と懐柔 Lv.5があったからだな。
「…………………え、えっとセナ君って勇者かなにかなのかニャ?」
「違うな」
俺のギフトカードを覗きこんだテトラの表情が固まる。
普通がどんなものなのかがわからないから判断に困るが、この様子から察するに俺のギフトカードに書かれていることは普通ではないらしい。
「あ、ありえないのニャ!ユニークスキルを2つも持ってるなんて勇者様でも珍しいのニャッ!!しかも恩恵も5つ持ってるなんて普通じゃないニャ!!!」
「そうなのか?まぁ、偶然だろ?」
「ぐ、偶然って………………まぁ、でもこれで納得したことがあるのニャ」
「納得したこと?」
「マシロちゃんのことニャ」
俺がマシロと契約できたのは絶対契約の効果だった。
俺のユニークスキル《絶対契約 Lv.1》。
魔物に30秒間触れることで契約が発動し、通常は3匹までしか契約ができないのだが、このユニークスキルにはその数制限がない。
つまり無制限に無限に契約獣を契約して増やすことができるのだ。
Lv.1でこの高性能だ。
これがLv.5になったらと思うとゾクゾクする。
「ほんとにお伽話の勇者様みたいなのニャ……………」
「勇者なんて面倒臭いから頼まれてもならないけどな」
「ニャ?…………ぷッ、ニャッハハハハハハハハハハハッ!!!」
俺の言葉に一瞬ポカーンとすると、今度は爆発したように一気に笑いだすテトラに俺は怪訝な顔をして首を傾げる。
「いきなりどうした?」
「ニャハハ………………いやぁ~、セナ君っておもしろいニャーって。普通は勇者になれる素質があったら勇者を目指すのに、それを面倒臭いからならないなんて」
「当然だ。俺は俺のしたいことだけをしてたいんだ」
誰が慈善事業みたいな勇者なんてなろうと思うんだ。
勇者になりたいなんて思うやつはきっと建て前の言葉に踊らされる馬鹿か、生粋のドMに違いない。
俺は自由気ままに冒険することに憧れてるだけでそんな面倒臭そうなものは御免だ。
「ニャるほどニャ~。ま、それなら冒険者になるのもいいかもしれないニャ」
「それもいいかもな」
俺の言葉に「まぁ、ゆっくり考えるといいのニャ」と言ってから、テトラは商談があるからと言ってシャルマのいる倉庫のほうへと歩いていった。
「……………………冒険者か。それはそれで楽しいかもな」
「ガァ?」
「ん、なんでもない。ほら、ブラッシングの続きやるぞー!」
ここでの恩返しが終わったら冒険者でもしながら旅をしてみようかと考えながら、順番を待つ魔物達のブラッシングを再開するのだった。
「…………………♪(プルプル♪)」
「いや、だからスライムにブラッシング必要ないだろ…………………いや、やるけど」
応援ありがとうございます!
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