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第二部

43,アベル王子の生誕祭〔4〕ヒロインとの接触

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「本日はお招きありがとうございます」

「こちらこそお越し頂いたことを喜ばしく思っています」

 気になっていたフルール子爵家の人々と会話をすることができた。
 ボルドー・フルール子爵はバカラよりも3、4歳ほど下であり、王宮でも何度か顔を合わせたことがある。無難な意見を述べる人だったように記憶している。
 元々この子爵家はやや第二王子派よりの中立派だったので、あの第一王子が好き勝手やって来た頃からその立場を保っていたということは、やはり良識のある人なのだろう。

 子爵夫人のマリサ・フルールは元子爵家の出だというが、30代前半だろうか、品のある人だと思う。
 そして、ヒロインのサクラ・フルール、そして弟のリュート・フルールも仲睦まじい姉弟だと思う。リュートはヒロインと2つ離れた弟である。夫人もヒロインもアリ商会に依頼したのか、品を残しつつもゆったりと動きやすい格好をしている。
 黒髪の人間が目の前に4人もいるというのもなんだか懐かしい気持ちになる。

「サクラ嬢もリュート殿もしっかり召し上がっておりますかな?」

「は、はい! 美味しく頂いています」

 リュートは目移りしているのか、他の子弟とは違い好奇が顔に出やすい。孫みたいである。はっきりとした顔立ちである。
 ヒロインが言う。

「一品一品に手間をかけてらっしゃる料理ばかりですね。これほどまでに真心が込められているとこちらまで嬉しくなります。口に入れてしまうのがもったいないくらいです」

 オーランたち料理人の腕が鳴るわけだが、一口サイズの料理というのは、ピザのように大きなものを作って細かく切るわけではない。
 相当神経を使うはずだが、一品それ自体が絶品にして別嬪、一つの芸術品である。
 昔よく通っていた居酒屋で出された刺身の盛り合わせは醤油を付けなくてもいいタイプの刺身だったが、ああいうのを思い浮かべる。

 それでは、とここいらでドロンしようとしたのだが、ヒロインが引き留めてきた。

「あの、バカラ様……」

「何か?」

 ヒロインが料理に思うところがあるのだろうか。そう思っていたら、ヒロインは声を小さくして言った。

「あ、いえ、お引き留めして申し訳ございません。本日は本当にありがとうございます」

 そう言うとヒロインは私にお辞儀をした。それを受けるかのように、子爵夫妻とリュートも礼を言った。

「いや、そう気負わないで気楽に過ごしてくれ」

 私の言葉を聞いてヒロインはふわっと破顔した。そうか、なるほどこれはサクラだな。なんだかこちらが恥ずかしくなって、つい鼻をぽりぽりと掻いてしまった。

 娘や川上さんが見せてくれたスマホには貴公子たちのイラストはあったが、ヒロインのものはそういえばなかったように思う。
 ああ、これが貴公子たちが見ることになるヒロインの笑顔というものか。サユリストもびっくりの破壊力である。不思議な魅力は感じる。
 こっちのアリーシャも負けていないが、ヒロインの方がどこか大人びて見える。

 ヒロインとの会話はこうしたものだった。


 本人には言わなかったが、このヒロインには早い段階で見張りをつけていた。
 私がずっと本邸か王宮に缶詰めにされている時にはクリスだけを同行して、ハートとあとはシノン、時には他の人間に監視をさせていた。ヒロインを監視するというよりは、警護に近い。

 光の精霊の契約者の取り決めがあったとしても、この国の貴族たちや一部の教会の人間が接触を図る可能性も考えたからである。特に貴族たちが守るかというと、かなり疑っている。あの連中は本当に信用がならない。
 それとは別に、王都に限らずこの世界では誘拐事件は起きている。だから、平和な社会とはまだ言えない。

 王からもフルール子爵にはヒロインへの警護の必要性を伝えており、子爵自身もそう考えていたようである。それに加えて私たちも監視しているというわけで、これは子爵にも王にも伝えている。
 ヒロインは気づいていないと思うが、フルール子爵と私がつけた監視兼護衛が近くにはいる。5、6人くらいの人間が襲い掛かっても、問題ない人選をしている。近いうちに子爵にもまた話をしてみたいと思う。
 ただ、今日話した感じではヒロイン自身も警戒しているようだし、家の中で話はしているのかもしれない。

 今のところ襲われたという情報はないので杞憂だったかと思っているが、まだ半年である。もうしばらくはそうするつもりである。

 こうしてアベル王子の生誕祭も大過なく終えることができた。



 すべての役者が、おそらく揃った。

 愛し子カーティス、火のベルハルト、水のシーサス、風のアベル、土のノルン、闇のカイン。
 光のヒロインはいったい誰を選ぶことになるのか。

 ここからがゲームのスタート、ということになるのだろう。
 リセットのできない一度限りのゲーム、いや人生である。
 この6年間、今の段階で出来ることは全てやってきたつもりであるし、現在でも進行中の計画はある。どこまでゲームと異なる世界になったのかはわからない。心残りも不安もある。何か一つ間違えただけでもどのような結果になるかもわからない。
 それでも私はその都度判断をして選択をしていかなければならない。


 そして、アリーシャが、ヒロインが学園に入学する日がやってきた。
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