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第三部
9,迷いの森の調査
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バラード学園は3学期制であるが、8、9月が夏休みとなる。なかなかの長期休みである。この休み期間に、アリーシャは他の学友とともにソーランド公爵領へと行ってしまった。
シーサスやエリザベスたちがソーランド公爵領を見学してみたいと言っていたので、そういうことになったようだ。あと、ヒロインも「行きたい!」と言っていて、ベルハルトはまあいいかという感じで、ただローラは微妙な表情だったという。それをアリーシャとヒロインが強引に誘ったらしいが、やはりローラはそれを断った。
これにはもちろんアベル王子も参加する。だから、結構な大所帯だし、仮にも王族がいるのだから、他にも護衛たちも行くようである。王宮からの兵だけではなく、シーサスやベルハルト、エリザベスたちは私兵を連れて行った。ヒロインは彼女を護衛している者たちだけのようだった。
やれやれ私も行かなければならないかと思っていたが、アベル王子が「心配ありません」と言ってきた。遠慮かと思ったらそうでもないようだ。でも、やはりと思って強く言ったら「大丈夫です」と強く返ってきた。
王子たちの護衛の人数とソーランド領の治安を考えたら、問題はない。そこまで言うなら好きにしてくれとなって、私は行かないことになった。ソーランド領にいるロータスに世話をさせることにした。あとはアリーシャがなんとかするだろう。
一方の私はというと、迷いの森の調査、視察を行うことにした。
バカラの学生時代の記憶だけだとわからないところもあり、さらに迷いの森には妖精であったり奥地の素材であったり、現在の状況であったり、そういうものも確認をしておきたい気持ちがあった。
したがって、私にはカーティス、クリス、ハート、そして土研究者のレイトをはじめとしてだいたい20名程度で調査に行った。
「懐かしいな。ここは結構良い儲けになるんだよな」
「ああ、それわかりますよ。奥地までは行けませんけど、よく稼いでました」
クリスとハートの会話である。
クリスは学園を卒業して、家を出てから一時期ここに来ていたことがあり、ハートも学生時代から同じくここにやって来ていた。さすがに一人ではなく、気の置けない数名の仲間と2、3泊くらいしていろいろな素材を集めていたようだ。
金がないのはつらい。金で買える幸せの方がこの世界でも多いのだから、金がないことはその幸せを享受する権利がないことを意味する。
バカラになったのは僥倖だったといえる。もし私が王都民だったら、できないことの方が多かっただろう。もちろん、バカラになったが故に生まれる苦しみもある。
学生時代にボンボンの子が同級生にいたが、特に目立ったことをするでもなく、静かな人間だった。うわさでは親がいくつものホテルを経営しているということだったが、大学での生活を見る限りではそんな印象は受けなかった。しかし、うわさは広まり、彼が金持ちだということはほとんどの者が知っていたし、実際に金持ちだったようだ。
「田中くんは、何になるの?」
どういう流れだったのか、すっかり忘れてしまったが、彼がそんなことを訊ねてきたことがあった。私を「田中くん」と呼んでいたのは、男の中では彼だけだった。彼はそういう人間だった。
私も適当な性格だったから、本当に適当に答えてしまったのだと思うけれど、私の答えを聞くと、「そう」とだけ言って、面白そうだともうらやましいだとも、なんとも言えぬ表情だったことだけは覚えている。彼とはその後会うことが少なくなり、やがて音信が途絶えた。田中哲朗のままでいても、おそらく二度と会うことはなかっただろう。
出会う人間の数の方が会わなくなる人数よりも多いのは事実である。これは当たり前で、考えるまでもない。けれど、不思議なことに感覚としては人生では会わなくなる人間の方が圧倒的に多いように思えてしまう。そして、出会い続ける人間は少数である。
「カーティスは3、4年ぶりくらいか」
「はい。父上も、20年ぶりくらいですか?」
「そうだな。あの頃とは違って、道も良くなってるな」
バカラの時はまだ切り拓かれていなかった道が多かったが、今見ている道はかなり整備されている。この20年近くでこしらえたのだろう。
なお、あと1週間後に学園の行事がある。恒例の学園での行事は2年生の8月、つまり1年後にはアリーシャたちがここにやってくるということになる。
迷いの森は王都から馬車で1、2時間であるが、森の外に馬車を待たせているわけではなく、2日後に迎えに来てもらうことになっている。ただ、馬を4頭だけ用意をして、私は楽をしている。
今回は2泊の調査をする。だから、森の中で寝泊まりをすることになっている。
だいたい森に入って早足で3、4時間あたりまでが浅い場所、そこから5,6時間が奥地であるが、さらに半日で最奥部と言われている場所の入り口で、どちらかといえば中心部と呼んだ方がいいかもしれない。王都とは反対側からも入れるルートがあり、他国とも一部重複しているところもあって、いろいろな道があるのだった。
この中心に近い場所には特別な薬草や鉱石がある。ソーランド領がモグラの力で植物の生長が早かったり収穫量が多い事実と同様に、不思議な領域が展開されていると考えられている。
森になぜ鉱石があるのかも不思議なことだが、森だけではなく小高い山や泉もあったりする。
さらに、土壌も異なるらしいが、詳しく調査されたことはなかったので、土研究者のレイトも一緒に連れてきたのだった。
連れてきたというより、この話をしたら「私も是非お供させてください」と興奮気味に頼んできた。以前から興味はあったが、資金もないから一人では行けずに困っていたのだという。土の世界は奥が深いようである。
「いやあ、僕も興味あったんですよ」
「ドリー、こんな森にも毒なんてあるのか?」
「バカラ様、舐めちゃいけませんよ。毒はどこにでもあるものなのです」
このドリーはレイトと同じく研究者であり、薬を専門としているが、主に毒好きのドリーとして有名な男である。まあ、毒も薬も紙一重ではあるとはよく言われる。
「この森は本当に不思議な動物がたくさんいますね」
「マロンはこの森に入ったことが何回かあるのか?」
「はい、最近はほとんど入っていませんが、昔は研究仲間とよく入っていました」
動物学研究者のマロンに言わせれば、森の奥地には稀少な動物、そして凶暴な魔物がいるようである。
だから、前の依頼者ともめていたハートが言っていたように奥に進むとなれば、周到すぎるほどの準備をしておかないと、魔物の胃袋の中に入ってしまうそうだ。実際、マロンの知り合いがそうなってしまったという。それでも入る者たちがいるので、ハイリスクハイリターンというわけだ。
ドリーは2年目に雇って、元はバーミヤン領の南のビーストン国で生活をしていたのだが、その研究対象と性格ゆえに忌避されていたようで、私が拾い上げた。
実際、いろいろな毒薬を持っていて、生薬標本として陳列され、ドリー専用のラボも用意をしたくらいなのだが、その価値は十分にあったと思う。もちろん、爆薬と同様に厳重に管理されている。
ドリーの他にも薬を集めている人間はいたが、彼ら彼女らなしには製薬研究をすることができなかったのは事実である。この世界で効果があって信頼できる薬をある程度定めることができたのは、この者たちのおかげである。
地球で歴史的に多くの人々に影響を与えた薬は何かと言われたら、その代表にアスピリンがある。これは私が学生時代の時にも大学で作ったことがある。
このアスピリンは催眠効果もなく、頭痛や関節痛などの痛みの緩和に用いられる。歴史が古く、紀元前にヒポクラテスが柳の樹皮や葉から作った茶の治療効果を書き記していたが、柳にはサリシンという物質が含まれている。
日本でも楊枝として柳の枝が用いられていたが、歯痛を予防する効果を知っていたからなのだろうと言われている。
京都の三十三間堂は、後白河法皇が頭痛に悩まされていたのだが、熊野権現のお告げを聞いて柳を棟木に使ったところ、頭痛が治まり、以来頭痛封じの寺として知られている。
まあ、アスピリンができるまでにはいろいろと紆余曲折あったのだが、地球ではアセチルサリチル酸として飲みやすい薬となった。
この世界には桜も梅もあるが、柳もある。
しかし、愛でるだけなら問題はなかったのだが、たとえばサリシンという物質をこの世界の柳が持っているのかどうかは最初はわからなかった。
この世界と地球の人間が異なる人体構造をしているのであれば、もしかするとこの世界の桜や梅や柳も地球のものとは異なる可能性はある。
したがって、私もなんらかの物質を含んでいる植物や鉱物などは知っているが、その成分が本当に含まれているのかは一から検証するか、この世界ですでに利用されている場合はその効果と照らし合わせなければならない。
ただ、今のところはどうやら植物はだいたい地球のものと同じだと考えてもよさそうである。しかし、気候も土壌も異なるので同じ場所に根を下ろしているというのも奇妙である。
ところで、この世界には残念ながらそういう目的の毒薬は存在する。この世界の歴史書をひもとけば、毒薬を用いて人を殺めた事件も多い。だから、下剤や催吐剤もあるわけだ。
地球で毒の研究がどこまでなされているのかは詳しくはわからないが、本当に毒というのはたくさんあって、よくもこんなにあるものだと驚かされたものだ。「これがあの国の貴族を死に至らしめた毒です」と自慢げに話すドリーには正直若干引いてしまったが、使用者にならないだけましだろう。
ちなみに、毒を治す万能のポーションはない、とは言い切れない。
エリクサーほどには伝説にはなっていないが、信じられないことにかつてほとんどの毒を解毒するポーションというものがあったという話はある。ただ、そのレシピは失われている。
カーサイト家はこのポーションは作っていないが、別の国には解毒ポーションを作っている家がある。
ただ、そのような伝説上の解毒ポーションではなく、毒性が強ければ効果がないとされている。それでも解毒ポーションは重宝されており、たいていの人間は1本は持っているものである。当然ながらそんなに安いわけではない。
例により、味も悲惨なものであるようだ。解毒剤が毒薬ポーションというわけだ。しかし、毒といっても一つひとつは異なるはずなのにどういう原理で解毒ができるのか、説明をしてほしいものである。
どうやら光の精霊とした者が使う治癒魔法でも完全に解毒ができるわけではない。
あまり報告例がないのだが、かつて毒薬を呑んだ者に対して聖女の治癒魔法が使用されたという事例がいくつかある。その毒は致死量に達するものだと言われているのだが、治癒魔法で死を免れることはできたという話である。
その時は教会で囲い込んでいた聖女が治癒魔法を使ったとされているが、一度だけではなく、一日に何回もその患者に治癒魔法を使って、なんとか命を救ったという話である。
このケースから考えると、何回も治癒魔法を施したということは、毒の成分を体内から消すというよりは、毒によって蝕まれた身体をその都度復元した、そういうことなのかなとも思うが、確証はない。
確証はないが、ヒロインと一緒に実験をしているが、毒性の高い物質が魔法で消えるという現象は確認ができた。ただ、それが体内に入ってすでに何らかの反応をした場合にはおそらく単純に治せない可能性はあるという結論に落ち着いている。
ヒロインとはこんな会話をした。
「認識なんですかね……。なんというか、『悪いものは消えろ』と考えながら光魔法を使っています」
「認識か」
使用者が毒だと認識したものを消す、かつ毒によってむしばまれた体を治す、彼女の魔法はそういう効果があると言ってもいいかもしれない。
バカラの記憶通り、森に入って2、3時間はいたって平和で小動物が出てきたくらいだった。
すでに森の中に入っていた者たちとも何人かすれ違った。若者が多かったように思う。
しばらく歩いていくと休憩所というか、少し開けた場所がある。
ここは多くの人たちがおそらく長い時間をかけて切り拓いた場所であり、たいていここで休憩をする。
森にはこういう場所が何カ所かあって、テントを張ったり、火をおこしたりできるようにしている。森の中で火事が起きることはまずいので、そういう場所の周囲の木は切り取っている。肉を焼いたりすると獣がやって来ることもあるが、この場所なら特に問題はなく、もう少し奥地に行くとそれも考えた上で調理をしなければならない。
「よし、一度ここで休憩をとるぞ」
そう言うとみなが馬に乗せていた荷物を取り出した。
食料はだいたい3、4日分を持ってきており、そのつもりはないが切り詰めれば1週間は耐えられる。あとは現地調達ということで獣や魔物を食べるわけである。カーティスの水魔法があるので、水の心配はないし、所々に清水が湧いていてそれを利用するのが一般的である。
「それではちょっとやってみるか」
「はい」
他の者が休んでいる間にカーティスとともに休憩所一帯に土魔法で壁を作っていった。
ここは森に入って最初の休憩所だから寝泊まりをする人間はいないとは思うが、こうして休憩所の安全を確保するのも今回の目的である。これは王からの命令でもあったし、私の意向にも合致する。
高さは4、5mで幅は1、2m程度のものである。ソーランド領にいた時に施したのに比べたら楽ちんである。
休憩所の広さはだいたい野球のダイヤモンド、つまりホームベース、ファースト、セカンド、サードで囲まれた正方形程度である。雨で内部に水が溜まってはいけないので、適宜水はけの良いように溝も作っておいた。いっそのこと、小高い山を作ってその上を休憩所にした方がいいのではとも思う。
「いつ見てもバカラ様の土魔法の威力に驚かされます」
感心したようにクリスは言うが、腐ってもモグラは土の大精霊である。並の土の精霊との契約だとこうはいかない。ただ、今回のと同じことはカーティスにもできる。
土魔法は砂かけ婆みたいに乾いた砂を生み出すこともできるが、粘度の高い土も生み出せ、さらに堅い土壁のようなものも作り出すことができる。もちろん、土を消して穴を掘ることもできる。
ソーランド領ではレンガ造りも行ってきたが、簡易休憩所ではちょっとそれは時間もかかるのでやめておいた。森の木を伐採して屋根を作って小屋などを作れれば一番良いが、今回はそこまではしない。
防水シートのようなものがあれば、壁だけ作って上から被せるということもできようが、今はまだそこまでの技術はない。魔物が吐き出す糸のような素材を加工して限りなくナイロンに近いものはあるが、そこまではしなくてもいいだろう。
「ハート、ちょっとお願いできるか?」
「いいぜ、この壁だな」
カーティスがハートに指示を出して、風魔法で乾燥させていく。あまりその必要もないように思うが、几帳面な性格なのだろう。あとは器用に土壁内の塵埃を吹き飛ばしていく。
カーティスは公爵家の息子であるが、二人はこんな場所で敬語を使うような関係でもない。まあ、同級生だし、別に王宮でもないし、それは二人もわかっていよう。
一度、キャリアの前でハートが馴れ馴れしくカーティスに声をかけたら、ハートを無言で睨んだので、キャリアの前ではハートはカーティスへの言葉遣いは丁寧になる。こういう切り替えができるのならそんなに問題はないだろう。ただ、キャリアはもちろんそのことも知っている。
ハートは風の魔法を使える。
風の魔法は単純に風を起こすことと、物体を切り裂くことと、あとは自身が風の支援を受けて素早く動くことの3つが特徴である。
どれも難しいようだが、とりわけ風の支援を受けて身体を動かすというのはかなりのセンスと練習が必要であると聞いている。一時的に空中を飛行するということもできる。滞空時間をずらすことができるのである。風の大精霊がもしいたら、おそらくその契約者は空を自由に飛べるのだろう。
私個人としては風魔法はそれだけでも価値がありそうだと思うのだが、旅をする人間たちの中では火の魔法が重宝され、次に同じくらいに水で、少し離れて土、風と続いていく。
火の精霊の契約者はどこでも火を起こせるので、旅ではたいまつ代わりになるというような自虐ネタがあるくらいである。
戦いということになると、これは逆転して風や土が相対的に高い。
火は魔物を焼いてしまって素材が駄目になることもあるのでガンガンと使うようなものではない。ただ、火の精霊との契約者は一般的に好戦的である。ベルハルトなんかは実際、戦うことが好きな男なんだろう、そんな気がする。ローラもそうなのかもしれない。
まあ、どれも長所があるわけで、目的によって需要が異なる。
この世界には電気はあるが、電灯ばかりに利用されており、たとえば煙草の火を付ける小型の電子ライターはない。歴史的には電灯よりも電信の方が地球では早かったが、電信はまだ開発中である。
火は基本的には火打ち石のようなものを使っていたり、お隣さんから貰ってきたりするが、2年目あたりにはドジャース商会からマッチを売りに出して結構売れたので、やはり火を起こすのはみんな苦労しているようである。富裕層は火を起こす魔道具を用いていたりする。
ただ、火打ち石はおそらく地球よりも高性能である。ソーランド領では村々では共用のかまどを利用していることが多い。
燃焼性のガスの利用はバラード王国にはないが、この世界にはある。天然ガスというのもヘビ男に協力をしてもらって探してみてもいいかもしれない。
将来的には家庭用に電子ライターや電気コンロのようなものがあればいいと思うが、開発は難航している。
「家庭用」にといったが、電気コンロや電気湯沸かし器などは開発は進められていて、この世界に原初的な発明品があり、それらを改良した試作品もあるのだが、ただそれは業務用というか、かなり大きなものになるのが現時点での悩みの種である。
「それにしても風の刃は切れ味が鋭いな」
「へへ、だって結構練習したんですよ」
ハートが壁の出っ張りを巧みに風を操ってスパッと切る。これは対魔物にはありだが、人に対して使ったら大変なことになる。
「私は土だが、そういう意味での強さはないな。ただ、カーティスの水魔法ならハートが今使ったようなことができるかもしれないな」
「私の水魔法ですが? とてもではないですが、物を切ることはできませんよ」
水魔法は水量次第ではかなりの威力であるが、切れ味ということになると風魔法には劣る。普通はそう考えられている。まあ、魔物の口や鼻に水を発生させるだけで水死させられるので、ある意味では一番恐ろしい魔法のようにも思える。
「水圧の刃というかな、できる限り水を細く放出して、しかも出す時の速度を上げれば理論上切ることは可能だ。切るというよりは圧力で吹き飛ばすと考えた方がいいだろうか」
「水圧の刃……。なるほど、水圧を高めて水が当たる部分の面積を小さくする、そうか……」
ウォータジェットや水圧カッターは、家庭の蛇口から水が出る時の2000倍くらいの水圧が必要だというから、魔法で実現するのは難しいか。
放出する水に追加で土魔法で研磨剤のようなものを含めていくとさらに強烈な威力を発揮するが、そういう二属性魔法の使い道も考えてみてもいいのだろう。
「だ、だめっすよ。切れ味鋭い風魔法ってのが売りなんですから!!」
「そうだな、ハートの十八番を奪ってしまいかねんな、カーティスなら」
カーティスならあるいは実現をさせてくれるかもしれない。こういう期待は悪くないものである。
料理長のオーランがこの日のために特製のアップルパイを作ってくれた。
それをみんなと分けていたら、ひょこひょこっと小さな物体が近づいてきた。
「それ珍しいものか?」
妖精である。
本当に出てきた。
「珍しいかどうかはわからないが、食べてみるか?」
「おう」
手渡すと、じっくりと見てパクパクと食べている。
衣装が緑色でコーディネートされているのだが、身長は30、40㎝くらいの高さであどけない表情をしている。同じく緑色の三角帽子を被っている。一見すると人形のようにも見えてしまう。
なるほど、こうしてみると、精霊とは異なる。精霊は消えたり現れたりするが、妖精は実体化のままで消えるということはないようだ。
精霊はなんというか、心は別として姿は常に小綺麗である。つまり、汚れがない。モグラもモグ子も土を食べるが、口元には土がついていない。白蛇とヘビ男はもっぱら酒ばかりなので目立たないが、精霊は総じてそういう汚れはない。
「うんうん、僕たちは清潔なんだよ、うん」
「そうよー、この新作のお酒もいいわね」
モグラも白蛇も、お前たちは意地汚い。
今アップルパイを食べている妖精は口元にソースやパイの生地がついたままである。人間に近い存在なのかもしれない。
「おお、なかなか美味い。もっとないか?」
「もっと? そうだなぁ」
一応妖精に会った時のためにいくつかの菓子は持ってきた。生菓子はさすがに難しいので持ってきていない。
それらもムシャムシャと食べている。一応、この身体の中に収まる範囲で食べている。ヘビ男などは見て分かるが、自分の身体以上の酒を呑むが、この妖精はそうではないようだ。
「これが妖精なのですね」
「おお、可愛いな」
クリスもハートも初めて見たようである。他の者たちも会ったことはないようだった。こういう姿のイラストはあるが、イラストよりも子どもっぽいな。
一通り食べ終えて満足をしているようだ。この程度ならどこぞの精霊に比べたら経済的である。
「人間、作る物、美味くなったな」
「それなら結構。ところで君はこの森に住んでいるのか?」
「今だけだ」
妙に片言だが、そういう生き物なんだろう。
少しだけ人払いをして、私とカーティスだけで妖精と話をすることになった。
「訊きたいことがあるんだが、いいか?」
「いいぞ。恩知らずじゃないぞ」
「ポーションの作り方は知っているか?」
「知っている。この前も人間訊いてきた。ポーション好きか?」
「この前? その人間に作り方を教えたと?」
「そうだ。あいつも珍しいものを持ってきた。今日食べたのとは違っていた。もちもちしていた。美味しかった」
やはりシーサスということになるだろうか。王都で販売している菓子類でもあげたのだろうか。もちもちしているものがあったかどうかはよくわからない。
「その人間の髪の毛の色は青だったか?」
「そうだ。緑もいた」
緑色? シーサスだけじゃないのか。カーティスの方を向いても首を振る。おそらくつながりから考えたらノルンなのだろう。
「その人間にはポーションの作り方を教えたのか? もし良かったらどういうのが材料なのか教えてくれないか?」
「いいぞ」
そう言うと妖精はポーションの材料をいくつか言った。
そのポーションは、登録されているレシピと合致するので、おそらくカーサイト公爵家の新作ポーションはこれだ。
「だが、これは面倒くさいな」
その工程もかなり複雑そうなので、ドジャース商会で売り出すにしてもそんなに多くの量は作れないな。
妖精は他にもいくつかのレシピを青色と緑色の髪の人間、つまりシーサスとノルンに教えたようである。
「そうか。ところで、私たちもポーションを作っているんだが……」
白蛇たちの知っているポーションについて今度は訊ねた。
「それはもう使っていない製法だ。よくそんな古いのを知ってたな。あまり効果がないだろう」
それでもそこそこの効果があるが、妖精から見たらそういうものなんだろう。ただ、持ってきていたポーションを呑んでもらったら「これは良い味だ」と感心していた。
これでポーションの元ネタがわかった。
ドジャース商会のポーションは古い時代の妖精のレシピで、カーサイト公爵家の新作ポーションは今現在妖精たちが標準としているポーションだ。中級ポーションよりも効果があったようなので、評判通り上級に近い中級ポーションなのだろう。
「しかし、そんなに簡単に教えていいのですか?」
カーティスが気になっているのか、妖精に訊いた。
「なぜだ? 出し惜しみするほどじゃない」
きょとんとしている。どこかの白蛇に訊かせてやりたい言葉である。
それからもいくらか質問をすると、ためらいもなく話してくれた。
そして、妖精はカーティスを物珍しげに眺めた。
「お前、面白い契約をしているな」
「私ですか?」
「ああ……土と水だな。人間で二つ契約する者、そんなにいない。お前なら面白いポーション作れる」
「面白いポーション?」
「そうだ。挑戦してみるといい」
「ところで、どういうポーションなんだ?」
「教えてやる」
妖精から効能を聞いた。
「……なに、本当か? そんな馬鹿なことがあり得るのか」
到底信じられない効果である。妖精が言っているのだから、嘘ではないのだろう。
カーティスがメモを取って、原材料と作成方法についてまとめていった。これはカーサイト公爵家の新作ポーションよりもある意味では効果の高いものだろう。
が、その原材料のほとんどが私たちの知らないものだった。これはかなり時間がかかりそうである。モグ子に頑張ってもらうしかない。
「そろそろ行くが、もういいか?」
「最後にもう一つ、エリクサーのレシピは知ってないか?」
「部分的に知ってる」
訊いてみるものだ。ただ、答える妖精はちょっとだけ悩ましげな顔になった。
「たぶん作れない」
「作れない? 欠けたレシピや材料の問題で?」
「そうだ。今では滅多に入手できない。期待しない方がいい」
「そのレシピはその人間に教えたのか?」
「教えた」
そうか、と答え、一応そのレシピと製法を聞き出すと、妖精はまたどこかへと消えて行った。「お前たちの空気、覚えた」と言っていたので、どうやら私とカーティス、あるいはハートのような契約者を記憶したようである。一応妖精用にたくさん持ってきていたのでそのほとんどを渡してしまった。他にも何人か仲間がいるらしい。
人嫌いとか人と接触をしないのではなく、契約をしていない人間の前には姿を現さないだけかもしれない。
王都での情報にあった目撃者も、もしかしたら何らかの契約をしていたのだろう。
「それにしても竜の血か……なかなか大変だな」
「竜はめったに姿を現すものではないですし、討伐するのも大変ですからね」
エリクサーの材料の一つに竜の血があった。飲むだけでも滋養強壮の効果があるという。
他の材料を見ても、決して無理だとは言えないにしても集めにくいものばかりである。バラード王国内にはない材料もある。確かに妖精が言ったようにこれを作るとしたら相当気合いを入れないといけない。介在する魔法も水魔法だけではない。何よりもレシピの一部がわからないので、期待はしない方がいいだろう。
不思議なのは妖精たちが契約者に反応するのであれば、バカラやカーティス、あるいは学園の行事で毎年この森に入っている魔法使いなら出会っていたはずである。
妖精は「最近来た。また移動する」と言っていたので、短い間だけなのか、この時期限定なのか、どちらかなのだろう。前は春頃に来たようである。その時にシーサスやノルンと会ったのだろう。ということは、2ヶ月程度で完成をさせるのだからシーサスの執念はただならぬものである。売りに出したことを考えたら、1ヶ月くらいで作ったようにも思える。
妖精たちはこの森の奥地にある資源を採取しに来たらしく、ただ魔物がいて近寄れないのだそうだ。だから精霊とは違って妖精にはポーションも必要となるのだろう。精霊はふわっと消えてやり過ごせるが妖精はそうではないようだ。
精霊が採取しようと思っていた素材は最奥部ではなくここから2、3時間程度歩いたところにあるようで、完全に魔物が出るエリアである。
「代わりに採ってこようか?」と言ったら「助かる」と答えが返ってきたので、その目的も果たすために奥地に進んでいった。
途中では休憩所の土壁を補強したり、いくつかの薬草や鉱石を採取したりして、二日ほど森の中で過ごした。その後に妖精に渡して予定通り馬車に乗って王都へ帰ってきた。
思ったよりも収穫物が多く、みな満足のゆく遠征だった。
シーサスやエリザベスたちがソーランド公爵領を見学してみたいと言っていたので、そういうことになったようだ。あと、ヒロインも「行きたい!」と言っていて、ベルハルトはまあいいかという感じで、ただローラは微妙な表情だったという。それをアリーシャとヒロインが強引に誘ったらしいが、やはりローラはそれを断った。
これにはもちろんアベル王子も参加する。だから、結構な大所帯だし、仮にも王族がいるのだから、他にも護衛たちも行くようである。王宮からの兵だけではなく、シーサスやベルハルト、エリザベスたちは私兵を連れて行った。ヒロインは彼女を護衛している者たちだけのようだった。
やれやれ私も行かなければならないかと思っていたが、アベル王子が「心配ありません」と言ってきた。遠慮かと思ったらそうでもないようだ。でも、やはりと思って強く言ったら「大丈夫です」と強く返ってきた。
王子たちの護衛の人数とソーランド領の治安を考えたら、問題はない。そこまで言うなら好きにしてくれとなって、私は行かないことになった。ソーランド領にいるロータスに世話をさせることにした。あとはアリーシャがなんとかするだろう。
一方の私はというと、迷いの森の調査、視察を行うことにした。
バカラの学生時代の記憶だけだとわからないところもあり、さらに迷いの森には妖精であったり奥地の素材であったり、現在の状況であったり、そういうものも確認をしておきたい気持ちがあった。
したがって、私にはカーティス、クリス、ハート、そして土研究者のレイトをはじめとしてだいたい20名程度で調査に行った。
「懐かしいな。ここは結構良い儲けになるんだよな」
「ああ、それわかりますよ。奥地までは行けませんけど、よく稼いでました」
クリスとハートの会話である。
クリスは学園を卒業して、家を出てから一時期ここに来ていたことがあり、ハートも学生時代から同じくここにやって来ていた。さすがに一人ではなく、気の置けない数名の仲間と2、3泊くらいしていろいろな素材を集めていたようだ。
金がないのはつらい。金で買える幸せの方がこの世界でも多いのだから、金がないことはその幸せを享受する権利がないことを意味する。
バカラになったのは僥倖だったといえる。もし私が王都民だったら、できないことの方が多かっただろう。もちろん、バカラになったが故に生まれる苦しみもある。
学生時代にボンボンの子が同級生にいたが、特に目立ったことをするでもなく、静かな人間だった。うわさでは親がいくつものホテルを経営しているということだったが、大学での生活を見る限りではそんな印象は受けなかった。しかし、うわさは広まり、彼が金持ちだということはほとんどの者が知っていたし、実際に金持ちだったようだ。
「田中くんは、何になるの?」
どういう流れだったのか、すっかり忘れてしまったが、彼がそんなことを訊ねてきたことがあった。私を「田中くん」と呼んでいたのは、男の中では彼だけだった。彼はそういう人間だった。
私も適当な性格だったから、本当に適当に答えてしまったのだと思うけれど、私の答えを聞くと、「そう」とだけ言って、面白そうだともうらやましいだとも、なんとも言えぬ表情だったことだけは覚えている。彼とはその後会うことが少なくなり、やがて音信が途絶えた。田中哲朗のままでいても、おそらく二度と会うことはなかっただろう。
出会う人間の数の方が会わなくなる人数よりも多いのは事実である。これは当たり前で、考えるまでもない。けれど、不思議なことに感覚としては人生では会わなくなる人間の方が圧倒的に多いように思えてしまう。そして、出会い続ける人間は少数である。
「カーティスは3、4年ぶりくらいか」
「はい。父上も、20年ぶりくらいですか?」
「そうだな。あの頃とは違って、道も良くなってるな」
バカラの時はまだ切り拓かれていなかった道が多かったが、今見ている道はかなり整備されている。この20年近くでこしらえたのだろう。
なお、あと1週間後に学園の行事がある。恒例の学園での行事は2年生の8月、つまり1年後にはアリーシャたちがここにやってくるということになる。
迷いの森は王都から馬車で1、2時間であるが、森の外に馬車を待たせているわけではなく、2日後に迎えに来てもらうことになっている。ただ、馬を4頭だけ用意をして、私は楽をしている。
今回は2泊の調査をする。だから、森の中で寝泊まりをすることになっている。
だいたい森に入って早足で3、4時間あたりまでが浅い場所、そこから5,6時間が奥地であるが、さらに半日で最奥部と言われている場所の入り口で、どちらかといえば中心部と呼んだ方がいいかもしれない。王都とは反対側からも入れるルートがあり、他国とも一部重複しているところもあって、いろいろな道があるのだった。
この中心に近い場所には特別な薬草や鉱石がある。ソーランド領がモグラの力で植物の生長が早かったり収穫量が多い事実と同様に、不思議な領域が展開されていると考えられている。
森になぜ鉱石があるのかも不思議なことだが、森だけではなく小高い山や泉もあったりする。
さらに、土壌も異なるらしいが、詳しく調査されたことはなかったので、土研究者のレイトも一緒に連れてきたのだった。
連れてきたというより、この話をしたら「私も是非お供させてください」と興奮気味に頼んできた。以前から興味はあったが、資金もないから一人では行けずに困っていたのだという。土の世界は奥が深いようである。
「いやあ、僕も興味あったんですよ」
「ドリー、こんな森にも毒なんてあるのか?」
「バカラ様、舐めちゃいけませんよ。毒はどこにでもあるものなのです」
このドリーはレイトと同じく研究者であり、薬を専門としているが、主に毒好きのドリーとして有名な男である。まあ、毒も薬も紙一重ではあるとはよく言われる。
「この森は本当に不思議な動物がたくさんいますね」
「マロンはこの森に入ったことが何回かあるのか?」
「はい、最近はほとんど入っていませんが、昔は研究仲間とよく入っていました」
動物学研究者のマロンに言わせれば、森の奥地には稀少な動物、そして凶暴な魔物がいるようである。
だから、前の依頼者ともめていたハートが言っていたように奥に進むとなれば、周到すぎるほどの準備をしておかないと、魔物の胃袋の中に入ってしまうそうだ。実際、マロンの知り合いがそうなってしまったという。それでも入る者たちがいるので、ハイリスクハイリターンというわけだ。
ドリーは2年目に雇って、元はバーミヤン領の南のビーストン国で生活をしていたのだが、その研究対象と性格ゆえに忌避されていたようで、私が拾い上げた。
実際、いろいろな毒薬を持っていて、生薬標本として陳列され、ドリー専用のラボも用意をしたくらいなのだが、その価値は十分にあったと思う。もちろん、爆薬と同様に厳重に管理されている。
ドリーの他にも薬を集めている人間はいたが、彼ら彼女らなしには製薬研究をすることができなかったのは事実である。この世界で効果があって信頼できる薬をある程度定めることができたのは、この者たちのおかげである。
地球で歴史的に多くの人々に影響を与えた薬は何かと言われたら、その代表にアスピリンがある。これは私が学生時代の時にも大学で作ったことがある。
このアスピリンは催眠効果もなく、頭痛や関節痛などの痛みの緩和に用いられる。歴史が古く、紀元前にヒポクラテスが柳の樹皮や葉から作った茶の治療効果を書き記していたが、柳にはサリシンという物質が含まれている。
日本でも楊枝として柳の枝が用いられていたが、歯痛を予防する効果を知っていたからなのだろうと言われている。
京都の三十三間堂は、後白河法皇が頭痛に悩まされていたのだが、熊野権現のお告げを聞いて柳を棟木に使ったところ、頭痛が治まり、以来頭痛封じの寺として知られている。
まあ、アスピリンができるまでにはいろいろと紆余曲折あったのだが、地球ではアセチルサリチル酸として飲みやすい薬となった。
この世界には桜も梅もあるが、柳もある。
しかし、愛でるだけなら問題はなかったのだが、たとえばサリシンという物質をこの世界の柳が持っているのかどうかは最初はわからなかった。
この世界と地球の人間が異なる人体構造をしているのであれば、もしかするとこの世界の桜や梅や柳も地球のものとは異なる可能性はある。
したがって、私もなんらかの物質を含んでいる植物や鉱物などは知っているが、その成分が本当に含まれているのかは一から検証するか、この世界ですでに利用されている場合はその効果と照らし合わせなければならない。
ただ、今のところはどうやら植物はだいたい地球のものと同じだと考えてもよさそうである。しかし、気候も土壌も異なるので同じ場所に根を下ろしているというのも奇妙である。
ところで、この世界には残念ながらそういう目的の毒薬は存在する。この世界の歴史書をひもとけば、毒薬を用いて人を殺めた事件も多い。だから、下剤や催吐剤もあるわけだ。
地球で毒の研究がどこまでなされているのかは詳しくはわからないが、本当に毒というのはたくさんあって、よくもこんなにあるものだと驚かされたものだ。「これがあの国の貴族を死に至らしめた毒です」と自慢げに話すドリーには正直若干引いてしまったが、使用者にならないだけましだろう。
ちなみに、毒を治す万能のポーションはない、とは言い切れない。
エリクサーほどには伝説にはなっていないが、信じられないことにかつてほとんどの毒を解毒するポーションというものがあったという話はある。ただ、そのレシピは失われている。
カーサイト家はこのポーションは作っていないが、別の国には解毒ポーションを作っている家がある。
ただ、そのような伝説上の解毒ポーションではなく、毒性が強ければ効果がないとされている。それでも解毒ポーションは重宝されており、たいていの人間は1本は持っているものである。当然ながらそんなに安いわけではない。
例により、味も悲惨なものであるようだ。解毒剤が毒薬ポーションというわけだ。しかし、毒といっても一つひとつは異なるはずなのにどういう原理で解毒ができるのか、説明をしてほしいものである。
どうやら光の精霊とした者が使う治癒魔法でも完全に解毒ができるわけではない。
あまり報告例がないのだが、かつて毒薬を呑んだ者に対して聖女の治癒魔法が使用されたという事例がいくつかある。その毒は致死量に達するものだと言われているのだが、治癒魔法で死を免れることはできたという話である。
その時は教会で囲い込んでいた聖女が治癒魔法を使ったとされているが、一度だけではなく、一日に何回もその患者に治癒魔法を使って、なんとか命を救ったという話である。
このケースから考えると、何回も治癒魔法を施したということは、毒の成分を体内から消すというよりは、毒によって蝕まれた身体をその都度復元した、そういうことなのかなとも思うが、確証はない。
確証はないが、ヒロインと一緒に実験をしているが、毒性の高い物質が魔法で消えるという現象は確認ができた。ただ、それが体内に入ってすでに何らかの反応をした場合にはおそらく単純に治せない可能性はあるという結論に落ち着いている。
ヒロインとはこんな会話をした。
「認識なんですかね……。なんというか、『悪いものは消えろ』と考えながら光魔法を使っています」
「認識か」
使用者が毒だと認識したものを消す、かつ毒によってむしばまれた体を治す、彼女の魔法はそういう効果があると言ってもいいかもしれない。
バカラの記憶通り、森に入って2、3時間はいたって平和で小動物が出てきたくらいだった。
すでに森の中に入っていた者たちとも何人かすれ違った。若者が多かったように思う。
しばらく歩いていくと休憩所というか、少し開けた場所がある。
ここは多くの人たちがおそらく長い時間をかけて切り拓いた場所であり、たいていここで休憩をする。
森にはこういう場所が何カ所かあって、テントを張ったり、火をおこしたりできるようにしている。森の中で火事が起きることはまずいので、そういう場所の周囲の木は切り取っている。肉を焼いたりすると獣がやって来ることもあるが、この場所なら特に問題はなく、もう少し奥地に行くとそれも考えた上で調理をしなければならない。
「よし、一度ここで休憩をとるぞ」
そう言うとみなが馬に乗せていた荷物を取り出した。
食料はだいたい3、4日分を持ってきており、そのつもりはないが切り詰めれば1週間は耐えられる。あとは現地調達ということで獣や魔物を食べるわけである。カーティスの水魔法があるので、水の心配はないし、所々に清水が湧いていてそれを利用するのが一般的である。
「それではちょっとやってみるか」
「はい」
他の者が休んでいる間にカーティスとともに休憩所一帯に土魔法で壁を作っていった。
ここは森に入って最初の休憩所だから寝泊まりをする人間はいないとは思うが、こうして休憩所の安全を確保するのも今回の目的である。これは王からの命令でもあったし、私の意向にも合致する。
高さは4、5mで幅は1、2m程度のものである。ソーランド領にいた時に施したのに比べたら楽ちんである。
休憩所の広さはだいたい野球のダイヤモンド、つまりホームベース、ファースト、セカンド、サードで囲まれた正方形程度である。雨で内部に水が溜まってはいけないので、適宜水はけの良いように溝も作っておいた。いっそのこと、小高い山を作ってその上を休憩所にした方がいいのではとも思う。
「いつ見てもバカラ様の土魔法の威力に驚かされます」
感心したようにクリスは言うが、腐ってもモグラは土の大精霊である。並の土の精霊との契約だとこうはいかない。ただ、今回のと同じことはカーティスにもできる。
土魔法は砂かけ婆みたいに乾いた砂を生み出すこともできるが、粘度の高い土も生み出せ、さらに堅い土壁のようなものも作り出すことができる。もちろん、土を消して穴を掘ることもできる。
ソーランド領ではレンガ造りも行ってきたが、簡易休憩所ではちょっとそれは時間もかかるのでやめておいた。森の木を伐採して屋根を作って小屋などを作れれば一番良いが、今回はそこまではしない。
防水シートのようなものがあれば、壁だけ作って上から被せるということもできようが、今はまだそこまでの技術はない。魔物が吐き出す糸のような素材を加工して限りなくナイロンに近いものはあるが、そこまではしなくてもいいだろう。
「ハート、ちょっとお願いできるか?」
「いいぜ、この壁だな」
カーティスがハートに指示を出して、風魔法で乾燥させていく。あまりその必要もないように思うが、几帳面な性格なのだろう。あとは器用に土壁内の塵埃を吹き飛ばしていく。
カーティスは公爵家の息子であるが、二人はこんな場所で敬語を使うような関係でもない。まあ、同級生だし、別に王宮でもないし、それは二人もわかっていよう。
一度、キャリアの前でハートが馴れ馴れしくカーティスに声をかけたら、ハートを無言で睨んだので、キャリアの前ではハートはカーティスへの言葉遣いは丁寧になる。こういう切り替えができるのならそんなに問題はないだろう。ただ、キャリアはもちろんそのことも知っている。
ハートは風の魔法を使える。
風の魔法は単純に風を起こすことと、物体を切り裂くことと、あとは自身が風の支援を受けて素早く動くことの3つが特徴である。
どれも難しいようだが、とりわけ風の支援を受けて身体を動かすというのはかなりのセンスと練習が必要であると聞いている。一時的に空中を飛行するということもできる。滞空時間をずらすことができるのである。風の大精霊がもしいたら、おそらくその契約者は空を自由に飛べるのだろう。
私個人としては風魔法はそれだけでも価値がありそうだと思うのだが、旅をする人間たちの中では火の魔法が重宝され、次に同じくらいに水で、少し離れて土、風と続いていく。
火の精霊の契約者はどこでも火を起こせるので、旅ではたいまつ代わりになるというような自虐ネタがあるくらいである。
戦いということになると、これは逆転して風や土が相対的に高い。
火は魔物を焼いてしまって素材が駄目になることもあるのでガンガンと使うようなものではない。ただ、火の精霊との契約者は一般的に好戦的である。ベルハルトなんかは実際、戦うことが好きな男なんだろう、そんな気がする。ローラもそうなのかもしれない。
まあ、どれも長所があるわけで、目的によって需要が異なる。
この世界には電気はあるが、電灯ばかりに利用されており、たとえば煙草の火を付ける小型の電子ライターはない。歴史的には電灯よりも電信の方が地球では早かったが、電信はまだ開発中である。
火は基本的には火打ち石のようなものを使っていたり、お隣さんから貰ってきたりするが、2年目あたりにはドジャース商会からマッチを売りに出して結構売れたので、やはり火を起こすのはみんな苦労しているようである。富裕層は火を起こす魔道具を用いていたりする。
ただ、火打ち石はおそらく地球よりも高性能である。ソーランド領では村々では共用のかまどを利用していることが多い。
燃焼性のガスの利用はバラード王国にはないが、この世界にはある。天然ガスというのもヘビ男に協力をしてもらって探してみてもいいかもしれない。
将来的には家庭用に電子ライターや電気コンロのようなものがあればいいと思うが、開発は難航している。
「家庭用」にといったが、電気コンロや電気湯沸かし器などは開発は進められていて、この世界に原初的な発明品があり、それらを改良した試作品もあるのだが、ただそれは業務用というか、かなり大きなものになるのが現時点での悩みの種である。
「それにしても風の刃は切れ味が鋭いな」
「へへ、だって結構練習したんですよ」
ハートが壁の出っ張りを巧みに風を操ってスパッと切る。これは対魔物にはありだが、人に対して使ったら大変なことになる。
「私は土だが、そういう意味での強さはないな。ただ、カーティスの水魔法ならハートが今使ったようなことができるかもしれないな」
「私の水魔法ですが? とてもではないですが、物を切ることはできませんよ」
水魔法は水量次第ではかなりの威力であるが、切れ味ということになると風魔法には劣る。普通はそう考えられている。まあ、魔物の口や鼻に水を発生させるだけで水死させられるので、ある意味では一番恐ろしい魔法のようにも思える。
「水圧の刃というかな、できる限り水を細く放出して、しかも出す時の速度を上げれば理論上切ることは可能だ。切るというよりは圧力で吹き飛ばすと考えた方がいいだろうか」
「水圧の刃……。なるほど、水圧を高めて水が当たる部分の面積を小さくする、そうか……」
ウォータジェットや水圧カッターは、家庭の蛇口から水が出る時の2000倍くらいの水圧が必要だというから、魔法で実現するのは難しいか。
放出する水に追加で土魔法で研磨剤のようなものを含めていくとさらに強烈な威力を発揮するが、そういう二属性魔法の使い道も考えてみてもいいのだろう。
「だ、だめっすよ。切れ味鋭い風魔法ってのが売りなんですから!!」
「そうだな、ハートの十八番を奪ってしまいかねんな、カーティスなら」
カーティスならあるいは実現をさせてくれるかもしれない。こういう期待は悪くないものである。
料理長のオーランがこの日のために特製のアップルパイを作ってくれた。
それをみんなと分けていたら、ひょこひょこっと小さな物体が近づいてきた。
「それ珍しいものか?」
妖精である。
本当に出てきた。
「珍しいかどうかはわからないが、食べてみるか?」
「おう」
手渡すと、じっくりと見てパクパクと食べている。
衣装が緑色でコーディネートされているのだが、身長は30、40㎝くらいの高さであどけない表情をしている。同じく緑色の三角帽子を被っている。一見すると人形のようにも見えてしまう。
なるほど、こうしてみると、精霊とは異なる。精霊は消えたり現れたりするが、妖精は実体化のままで消えるということはないようだ。
精霊はなんというか、心は別として姿は常に小綺麗である。つまり、汚れがない。モグラもモグ子も土を食べるが、口元には土がついていない。白蛇とヘビ男はもっぱら酒ばかりなので目立たないが、精霊は総じてそういう汚れはない。
「うんうん、僕たちは清潔なんだよ、うん」
「そうよー、この新作のお酒もいいわね」
モグラも白蛇も、お前たちは意地汚い。
今アップルパイを食べている妖精は口元にソースやパイの生地がついたままである。人間に近い存在なのかもしれない。
「おお、なかなか美味い。もっとないか?」
「もっと? そうだなぁ」
一応妖精に会った時のためにいくつかの菓子は持ってきた。生菓子はさすがに難しいので持ってきていない。
それらもムシャムシャと食べている。一応、この身体の中に収まる範囲で食べている。ヘビ男などは見て分かるが、自分の身体以上の酒を呑むが、この妖精はそうではないようだ。
「これが妖精なのですね」
「おお、可愛いな」
クリスもハートも初めて見たようである。他の者たちも会ったことはないようだった。こういう姿のイラストはあるが、イラストよりも子どもっぽいな。
一通り食べ終えて満足をしているようだ。この程度ならどこぞの精霊に比べたら経済的である。
「人間、作る物、美味くなったな」
「それなら結構。ところで君はこの森に住んでいるのか?」
「今だけだ」
妙に片言だが、そういう生き物なんだろう。
少しだけ人払いをして、私とカーティスだけで妖精と話をすることになった。
「訊きたいことがあるんだが、いいか?」
「いいぞ。恩知らずじゃないぞ」
「ポーションの作り方は知っているか?」
「知っている。この前も人間訊いてきた。ポーション好きか?」
「この前? その人間に作り方を教えたと?」
「そうだ。あいつも珍しいものを持ってきた。今日食べたのとは違っていた。もちもちしていた。美味しかった」
やはりシーサスということになるだろうか。王都で販売している菓子類でもあげたのだろうか。もちもちしているものがあったかどうかはよくわからない。
「その人間の髪の毛の色は青だったか?」
「そうだ。緑もいた」
緑色? シーサスだけじゃないのか。カーティスの方を向いても首を振る。おそらくつながりから考えたらノルンなのだろう。
「その人間にはポーションの作り方を教えたのか? もし良かったらどういうのが材料なのか教えてくれないか?」
「いいぞ」
そう言うと妖精はポーションの材料をいくつか言った。
そのポーションは、登録されているレシピと合致するので、おそらくカーサイト公爵家の新作ポーションはこれだ。
「だが、これは面倒くさいな」
その工程もかなり複雑そうなので、ドジャース商会で売り出すにしてもそんなに多くの量は作れないな。
妖精は他にもいくつかのレシピを青色と緑色の髪の人間、つまりシーサスとノルンに教えたようである。
「そうか。ところで、私たちもポーションを作っているんだが……」
白蛇たちの知っているポーションについて今度は訊ねた。
「それはもう使っていない製法だ。よくそんな古いのを知ってたな。あまり効果がないだろう」
それでもそこそこの効果があるが、妖精から見たらそういうものなんだろう。ただ、持ってきていたポーションを呑んでもらったら「これは良い味だ」と感心していた。
これでポーションの元ネタがわかった。
ドジャース商会のポーションは古い時代の妖精のレシピで、カーサイト公爵家の新作ポーションは今現在妖精たちが標準としているポーションだ。中級ポーションよりも効果があったようなので、評判通り上級に近い中級ポーションなのだろう。
「しかし、そんなに簡単に教えていいのですか?」
カーティスが気になっているのか、妖精に訊いた。
「なぜだ? 出し惜しみするほどじゃない」
きょとんとしている。どこかの白蛇に訊かせてやりたい言葉である。
それからもいくらか質問をすると、ためらいもなく話してくれた。
そして、妖精はカーティスを物珍しげに眺めた。
「お前、面白い契約をしているな」
「私ですか?」
「ああ……土と水だな。人間で二つ契約する者、そんなにいない。お前なら面白いポーション作れる」
「面白いポーション?」
「そうだ。挑戦してみるといい」
「ところで、どういうポーションなんだ?」
「教えてやる」
妖精から効能を聞いた。
「……なに、本当か? そんな馬鹿なことがあり得るのか」
到底信じられない効果である。妖精が言っているのだから、嘘ではないのだろう。
カーティスがメモを取って、原材料と作成方法についてまとめていった。これはカーサイト公爵家の新作ポーションよりもある意味では効果の高いものだろう。
が、その原材料のほとんどが私たちの知らないものだった。これはかなり時間がかかりそうである。モグ子に頑張ってもらうしかない。
「そろそろ行くが、もういいか?」
「最後にもう一つ、エリクサーのレシピは知ってないか?」
「部分的に知ってる」
訊いてみるものだ。ただ、答える妖精はちょっとだけ悩ましげな顔になった。
「たぶん作れない」
「作れない? 欠けたレシピや材料の問題で?」
「そうだ。今では滅多に入手できない。期待しない方がいい」
「そのレシピはその人間に教えたのか?」
「教えた」
そうか、と答え、一応そのレシピと製法を聞き出すと、妖精はまたどこかへと消えて行った。「お前たちの空気、覚えた」と言っていたので、どうやら私とカーティス、あるいはハートのような契約者を記憶したようである。一応妖精用にたくさん持ってきていたのでそのほとんどを渡してしまった。他にも何人か仲間がいるらしい。
人嫌いとか人と接触をしないのではなく、契約をしていない人間の前には姿を現さないだけかもしれない。
王都での情報にあった目撃者も、もしかしたら何らかの契約をしていたのだろう。
「それにしても竜の血か……なかなか大変だな」
「竜はめったに姿を現すものではないですし、討伐するのも大変ですからね」
エリクサーの材料の一つに竜の血があった。飲むだけでも滋養強壮の効果があるという。
他の材料を見ても、決して無理だとは言えないにしても集めにくいものばかりである。バラード王国内にはない材料もある。確かに妖精が言ったようにこれを作るとしたら相当気合いを入れないといけない。介在する魔法も水魔法だけではない。何よりもレシピの一部がわからないので、期待はしない方がいいだろう。
不思議なのは妖精たちが契約者に反応するのであれば、バカラやカーティス、あるいは学園の行事で毎年この森に入っている魔法使いなら出会っていたはずである。
妖精は「最近来た。また移動する」と言っていたので、短い間だけなのか、この時期限定なのか、どちらかなのだろう。前は春頃に来たようである。その時にシーサスやノルンと会ったのだろう。ということは、2ヶ月程度で完成をさせるのだからシーサスの執念はただならぬものである。売りに出したことを考えたら、1ヶ月くらいで作ったようにも思える。
妖精たちはこの森の奥地にある資源を採取しに来たらしく、ただ魔物がいて近寄れないのだそうだ。だから精霊とは違って妖精にはポーションも必要となるのだろう。精霊はふわっと消えてやり過ごせるが妖精はそうではないようだ。
精霊が採取しようと思っていた素材は最奥部ではなくここから2、3時間程度歩いたところにあるようで、完全に魔物が出るエリアである。
「代わりに採ってこようか?」と言ったら「助かる」と答えが返ってきたので、その目的も果たすために奥地に進んでいった。
途中では休憩所の土壁を補強したり、いくつかの薬草や鉱石を採取したりして、二日ほど森の中で過ごした。その後に妖精に渡して予定通り馬車に乗って王都へ帰ってきた。
思ったよりも収穫物が多く、みな満足のゆく遠征だった。
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