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第二部

6,ゲームの世界の法則

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 そもそも、なぜバーミヤン公爵家が公爵家であり、ゲス・バーミヤンが宰相なのか。
 一つは第一王子の生母カルメラのワルイワ侯爵家とも関わりが深く、もう一つはバハラ商会の勢力があるのだと言われている。


 バラード王国の地理を整理しておく。
 王都が九州地方の真ん中の熊本県だとすると、北の福岡県にソーランド領、北東の大分県にカーサイト領、南の鹿児島県にバーミヤン領があると考えてよい。
 それ以外の南東の宮崎県や、北西の佐賀県、熊本県の西の有明海あたり、長崎県などに他領がある。

 王都が関東地方の埼玉県にあるとすると、ソーランド領は栃木県、カーサイト領は茨城県、バーミヤン領は東京都と神奈川県あたりであり、群馬県や千葉県が他の領である。

 我がソーランド領と隣接する、福岡県に対する山口県ないし栃木県に対する福島県あたりにカラルド国がある。そして、バーミヤン領と隣接する、さらに南に隣国ビーストンという国がある。

 このビーストン国は国力としてはバラード王国と同じくらいであるが、隣国の中でもかなり厄介というか、カラルド国に比べると良好な関係にあるとはいえない。
 そして、バーミヤン公爵家とワルイワ侯爵家は、地理的な近さもあり、昔からこのビーストン国と親和的な関係にある。


 さて、三大公爵家のうち、ソーランド公爵家が土の大精霊、カーサイト公爵家が水の精霊と契約してきて、土の大精霊が豊作、水の精霊がポーションに結びつくとすると、バーミヤン公爵家がどのような役割を果たしているのか、実は判然としていない。

 俗に「実りのソーランド家」、「癒やしのカーサイト家」という表現もあるのだが、バーミヤン家にはそういうものはなく、あったとしてもねたみとかひがみとかおごりとかそういうものだろう。カーサイト家には嫌みも付け加えたいくらいだ。

 それに関わって、同じ公爵家といっても、現当主のゲス・バーミヤンも、あの婚約破棄をしたアレン・バーミヤンも精霊とは契約をしていない。
 娘のローラ・バーミヤンのみが火の精霊と契約していることが確認されている。それなのに公爵家である。 
 だから、精霊との契約の有無はバーミヤン公爵家には求められても認められてもいない。


 通常、火の精霊と代々契約しているのはあの騎士の家系であるマース侯爵家が有名である。

 だから、私はゲームの設定として、どの精霊を誰に振り分けるかを考えた時におそらくマース侯爵家が火の精霊を象徴する家として選ばれたのだと考えている。

 みんながみんな火の精霊の家系だとか水の精霊の家系だというのは、やはりそれは設定がおかしいように思う。
 まあ、川上さんや娘がカラーという言葉を使っていたが、精霊が密接に関係しているとは聞いていない。実際のゲームでは、みんなが火の魔法を使う、水の魔法を使うということもあったのかもしれない。
 しかし、実際にはこの世界では散りばめられている傾向がある。


 アベル王子とカトリーナ王女、そして現国王は風の精霊と契約しているので王家は風の精霊である。
 そして、これも重要な点だと思うが、同じ王家の第一王子の金髪のキリルは精霊と契約していない。

 精霊と髪の色とを整理し、身近な人間に限定すると、


 風の精霊は金髪の国王、アベル、カトリーナ

 水の大精霊は〔カーティス〕

 水の精霊はカーサイト公爵家の青髪のザマス、シーサス、アクア侯爵家の茶髪のエリザベス、〔アリーシャ〕

 土の大精霊はバカラ

 土の精霊は〔アリーシャ、カーティス〕

 火の精霊はマース侯爵家の赤髪のドラン、ファラ、ベルハルト、バーミヤン公爵家の金髪のローラ


 こういうことになる。

 したがって、だいたいのところでは金髪=風=王家、青髪=水=カーサイト公爵家、赤髪=火=マース侯爵家であり、この法則から外れている場合は特殊な理由があるか、この法則が間違っているかのいずれかである。

 例外としてモグラと白蛇により、カーティスとアリーシャには土と水の精霊の契約がある。特にカーティスは水の大精霊との契約である。この二人はイレギュラーだと思う。
 まあ、この二人は元々モグラと白蛇との契約だし、精霊と契約した他の魔法使いよりも威力が強いので二人とも大精霊と契約していると考えてもいいかもしれない。

 ともあれ、カーティスは元々のゲームでは土の精霊と水の精霊とも契約せず、どの精霊とも契約をしていない人物としてゲームの中に描かれていたか、土の精霊とはどこかの段階で契約していた可能性がある。
 ただ後者の可能性は低いように思う。
 そして、水の精霊はカーサイト公爵家がすでにいるのでおそらく契約はなかっただろう。

 こう考えてみると、ゲームの中に出てくるヒロインの貴公子たちは次の人間が候補となる。

 風の精霊、金髪のアベル
 水の精霊、青髪のシーサス
 火の精霊、赤髪のベルハルト
 土の精霊もしくは契約なし、紫髪のカーティス


 とすると、光の精霊、闇の精霊と契約している貴公子が不足している。
 ただし、後に述べるように土の精霊がカーティスとは結びつかない可能性もあるので、土の精霊については他にも貴公子がいると考える。
 したがって、土の精霊と光の精霊と闇の精霊と契約をする貴公子は私たちの前には現れていない。娘にスマホで見せてもらったはずだが、そこまでは覚えていない。

 この点は気になっていた。
 モグラに訊いても「精霊の子たちが誰と契約してるかなんて僕は知らないよ、うん。プライバシーってものがあるよね、うん」と、いつもこちらのプライバシーを無視してやって来るくせになんとも暢気のんきなものだ。

 土と光と闇の精霊と契約する貴公子がいるとしたら、おそらく見目麗しい人間で、かつ髪の色が金、青、赤、紫ではない髪の色となる。
 そして、実際に確認ができている他の髪の毛の色は、黒と緑と銀と白と茶である。
 この中で黒髪はおそらくヒロインだろう、そういう話だった。
 

 バラード学園にヒロインは進学するが、どのコースだろうか? 
 私は魔法使いコースなのではないかと思う。
 少なくとも、貴公子のうちアベル、シーサスは魔法使いコースだと思われるし、ベルハルトは騎士コースが濃厚で、もしかすると魔法使いコースの可能性はある。

 学園での接点ということを考えると、一般コースよりは魔法使いコースではないかと予測できる。
 ヒロインが一般コースという可能性が低いのは、同じ講義を受けることはあっても一般コースは学生数が多い。かたや魔法使いコースは人数が限られる。3年間の学園生活で恋や青春をするのなら、やはり一日に過ごす時間が長い同じコース、すなわち魔法使いコースだと思う。


 さて、黒髪と緑髪、白髪と茶髪、銀髪の人間を王都で私は見たことがある。
 ただ、緑髪と銀髪はじゃじゃ馬カトリーナの生誕祭の招待客を選ぶ段階で、アリーシャと同年代の貴族の中にはいなかったし、緑髪と銀髪の貴族自体この国にいない。
 そして、銀髪はカラルド国の王家である。

 一方、王都に多いのは茶髪、王家とはまた違う金髪、黒髪であり、わずかだが緑髪もいる。もちろん、この中には色素が薄れた白髪の人間も多いのでそれが銀髪という可能性はゼロではない。

 その中でも土の精霊と契約する貴公子は緑色か茶色の髪の毛なのではないかと考えている。

 武勇や熱血の騎士の赤、水や回復の癒やしの青、こういう関連が認められるなら、大地の自然の緑、という発想は牽強けんきょう付会ふかいともいえないと思う
 また、茶色と木や土との関連も否定できない。

 王家と金髪と風というのはすぐには結びつかないが、「威風堂々」「風雅」「英風」「国風」「皇風」など、金髪はともかくとして王家と風という結びつきは強いと思う。

 土の精霊とカーティスが結びつきづらいのは、この関連がわからないからである。
 だから、私はカーティスはやはり契約をしていなかったのではないかと思う。人知れず魔法を使える日のために勉強してきて、しかし終に契約されることのなかったカーティスのことを思うと、あまりにも非情でゲームの世界とはいえ胸が痛くなる。

 光と闇の契約者は明らかではないが、保留にしておく。どちらかがヒロインだろうと思う。

 
 長々と説明をしてきたが、以上のいくつかの事実から、アリーシャの二回目の婚約破棄がどういう意味を持つのか、推測されるのは次のようなことである。


 それぞれ振り分けられた精霊と物語の整合性を保つために、ソーランド公爵家が受け継いでいる土の大精霊、ならびに土の精霊は、その緑髪あるいは茶髪の貴公子の登場によって土の精霊が重複するので、ソーランド公爵家で土の精霊と契約しているアリーシャが物語から排除される、つまり、これが婚約破棄の正体であり目的である、と。

 これが必然的にアリーシャが踏み台となっていく理由なのではないか。要は土魔法が貴公子と重なって被るから消える運命にある。
 というより、婚約破棄がなくともアリーシャは遅かれ早かれ消えるということである。

 さらに、バーミヤン公爵家も、ローラも含めてゲームの中での踏み台に過ぎないのではないかと推測している。もちろん、第一王子のキリルと生母カルメラもセットで消え去る運命である。

 ただ、アクア侯爵家の水の精霊と契約した茶髪のエリザベスは、よくわからない。もしかしたらアクア侯爵家もバーミヤン公爵家と同じ末路になるのかもしれない。


 バカラとアリーシャ、そしてカーティスには二回目の婚約破棄の後に何があったのだろうか。
 一回目の婚約破棄の結果、アリーシャの心が荒んでいったというのは話に聞いていたが、二回目の婚約破棄があるとは聞いてもその後の話は川上さんや娘には聞いていない。
 ソーランド公爵領はいったいどうなったのだろうか。

 これは推測に推測を重ねたものなのだが、ゲームの中ではバーミヤン公爵家は将来的に没落して、たとえば新たにマース侯爵家が公爵家になることもあるのではないか。

 ソーランド公爵家もそうで、ソーランド公爵家もアリーシャの二回目の婚約破棄の結果、おそらくその世界のアリーシャは目も当てられないことばかりをしていて、それがバカラ・ソーランドの責任問題にもなって……というのは考えすぎだろうか。

 私の土の大精霊との契約をこの国が反故ほごにするとは思えないが、もしかするとモグラがゲームに出てきて貴公子が土の大精霊との契約を取り結ぶことになるのかもしれない。もちろん、バーミヤン公爵家ではなくソーランド公爵家の席にマース侯爵家などが座るという可能性もある。


 これらについては何の情報もないが、私たちの周りにいる者の中で、金髪=風、青髪=水、赤髪=火、緑髪ないし茶髪=土という法則から外れた者の末路は、暗い。そのように感じられた。

 だから、カーティスやアリーシャの未来が保証されているとは限らない。もちろん、私もだ。

 宰相となろうとも、このことは忘れずにいよう。
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