50 / 125
第一部
50,王妃からの招待状〔5〕
しおりを挟む
美的感覚というのは不思議なもので、たとえばこの国の人たちは日本人の平均的な顔から離れているような、そうでもないような、実はかなり私の中でもモヤモヤっとしていることの一つである。
典型的な日本人顔ではないはずなのだけど、そのように思えてしまう感覚になっている、上書きをされている、つまり何が言いたいかというと、私の美醜感覚と、この世界の人たちの感覚は概ね一致している。
よく見る漫画やアニメ絵のように、顔のパーツが顔を埋めるような大きな瞳があったり、前髪に隠れているはずの眉毛が見えたり、いったい何頭身なんだろうかと思うほどに小顔だったりと、そうなっていたらと思うと一種の宇宙人としか言えない世界だが、そうではないので安心した。
娘がスマホで見せてきた貴公子の一人に紫色の髪の毛の人物がいたが、今にして思うとあれはカーティスであり、カーティスのボイスだったのだろうと思うのだが、なるほど、あの絵を実体化させたらこういう顔の作りと声になるのかと妙に合点がいった。娘がカーティスを見たら発狂しただろう。
昔の日本画の人物図の特徴である引目鉤鼻のような人間が実体化した姿を見てみたい気持ちもある。
第一王子の兄のキリルは普通だと思うが、アベル王子はそれに比べると品位が顔に滲み出ている、というのはひいき目か。
それともあのクソガキ王子への嫌悪感からの相対的美形を言祝ぎたいのか、まあどちらの気持ちもあるといえばある。
なんとかなんとかという人気のグループの子たちがテレビに映ると、そこに娘の好きな子がいるんだろうが、「これをしよ!」と、妻に話していて、いったい何をしようというのかが不明だったが、もしかしたら「これ義男」という古めかしい名前のことではないことはさすがに私にもわかる。
王子にもそういうことを娘は言うだろうか、いや娘はカーティスの方が好きだったな。
アベル王子は、11歳で家にやって来たカーティスの美とは異なるが、確実に王家の美の系譜に連なっており、ただしまだ10歳という年齢に可愛らしさや無邪気さも窺え、立てばラスカル座れば模範歩く姿は次の覇者を思わせる気風を帯び、涼やかな双眸の奥には潮騒のごとき好奇心が揺蕩っている。その曇りなき金色の瞳に映っているものは果たして何であろうか。
「これはなんという食べ物なのですか?」
足の早い洋菓子は王室まで持っていくのはなかなか大変なことなので、今日初めてみるスイーツもある。それを目の前に出されたアベル王子がアリーシャとカーティスに訊いている。カーティスは、特に何も言わずに妹に譲った。
「これはチーズケーキと言うんです。あの牛乳を特別に加工してチーズというものができて、その牛乳からは生クリームやバターと呼ばれるものもできるのですが、それらを砂糖や小麦粉、卵などとともに混ぜて焼き上げ、このような形にしたのです」
「へぇ、チーズも生クリームもバターもどれも牛乳からできているんですね」
「はい、牛乳からチーズができるのはそもそも加工される前の牛乳に……」
製造過程を実際に目にしたことのあるアリーシャがはじめてのおさらいをするかのようにアベル王子に説明をし、それを保護者のようにはらはら不安そうに見ているわけではないが見守るカーティスがいる。しかし、その説明に一切の淀みも怯えもない。
さらに馴染みのない話や単語を一度聞いただけで情報をまとめて、聞き返して確認をするアベル王子の言葉にも一切の無駄も漏れもない。なるほど、美形アイドルグループはその中身までも貴公子なのだろう。
そんなアベル王子も甘い物には耐性がないのか、特にチーズケーキを好んでいるようだ。
アリーシャの言葉の一つひとつを愛でるように聞いている。やがてチーズケーキから視線を移し、アリーシャの話す顔を、口を、目を、じっと見つめていた。
典型的な日本人顔ではないはずなのだけど、そのように思えてしまう感覚になっている、上書きをされている、つまり何が言いたいかというと、私の美醜感覚と、この世界の人たちの感覚は概ね一致している。
よく見る漫画やアニメ絵のように、顔のパーツが顔を埋めるような大きな瞳があったり、前髪に隠れているはずの眉毛が見えたり、いったい何頭身なんだろうかと思うほどに小顔だったりと、そうなっていたらと思うと一種の宇宙人としか言えない世界だが、そうではないので安心した。
娘がスマホで見せてきた貴公子の一人に紫色の髪の毛の人物がいたが、今にして思うとあれはカーティスであり、カーティスのボイスだったのだろうと思うのだが、なるほど、あの絵を実体化させたらこういう顔の作りと声になるのかと妙に合点がいった。娘がカーティスを見たら発狂しただろう。
昔の日本画の人物図の特徴である引目鉤鼻のような人間が実体化した姿を見てみたい気持ちもある。
第一王子の兄のキリルは普通だと思うが、アベル王子はそれに比べると品位が顔に滲み出ている、というのはひいき目か。
それともあのクソガキ王子への嫌悪感からの相対的美形を言祝ぎたいのか、まあどちらの気持ちもあるといえばある。
なんとかなんとかという人気のグループの子たちがテレビに映ると、そこに娘の好きな子がいるんだろうが、「これをしよ!」と、妻に話していて、いったい何をしようというのかが不明だったが、もしかしたら「これ義男」という古めかしい名前のことではないことはさすがに私にもわかる。
王子にもそういうことを娘は言うだろうか、いや娘はカーティスの方が好きだったな。
アベル王子は、11歳で家にやって来たカーティスの美とは異なるが、確実に王家の美の系譜に連なっており、ただしまだ10歳という年齢に可愛らしさや無邪気さも窺え、立てばラスカル座れば模範歩く姿は次の覇者を思わせる気風を帯び、涼やかな双眸の奥には潮騒のごとき好奇心が揺蕩っている。その曇りなき金色の瞳に映っているものは果たして何であろうか。
「これはなんという食べ物なのですか?」
足の早い洋菓子は王室まで持っていくのはなかなか大変なことなので、今日初めてみるスイーツもある。それを目の前に出されたアベル王子がアリーシャとカーティスに訊いている。カーティスは、特に何も言わずに妹に譲った。
「これはチーズケーキと言うんです。あの牛乳を特別に加工してチーズというものができて、その牛乳からは生クリームやバターと呼ばれるものもできるのですが、それらを砂糖や小麦粉、卵などとともに混ぜて焼き上げ、このような形にしたのです」
「へぇ、チーズも生クリームもバターもどれも牛乳からできているんですね」
「はい、牛乳からチーズができるのはそもそも加工される前の牛乳に……」
製造過程を実際に目にしたことのあるアリーシャがはじめてのおさらいをするかのようにアベル王子に説明をし、それを保護者のようにはらはら不安そうに見ているわけではないが見守るカーティスがいる。しかし、その説明に一切の淀みも怯えもない。
さらに馴染みのない話や単語を一度聞いただけで情報をまとめて、聞き返して確認をするアベル王子の言葉にも一切の無駄も漏れもない。なるほど、美形アイドルグループはその中身までも貴公子なのだろう。
そんなアベル王子も甘い物には耐性がないのか、特にチーズケーキを好んでいるようだ。
アリーシャの言葉の一つひとつを愛でるように聞いている。やがてチーズケーキから視線を移し、アリーシャの話す顔を、口を、目を、じっと見つめていた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
4,892
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる