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第一部
1,百倍返しの決意
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「アリーシャ・ソーランド、お前との婚約は破棄だ!」
バラード王国の第一王子であるキリル殿下の15歳の生誕を祝う会に娘のアリーシャとともに参加していた。
多くの貴族たちが私たちの姿を見かけても近くにやって来て話しかけるそぶりも見せず、現場を直接目にすることになってしまった。
アリーシャの婚約者であるアレン・バーミヤンが先ほどの言葉を声高らかに宣言したのである。
愛娘のアリーシャが汚泥に開く一輪の可憐な花のように一人立ち尽くして言葉を失っており、その目の前にはアレンと、おそらく新しい彼女のバーバラ・ローソン嬢が立っている。
アレンが私の姿に目に移すと、ふっと笑って侮蔑の眼差しを向けてくる。バーバラもそうだった。
「ちょうどよかった、ソーランド公爵閣下、今申し上げた通り、婚約は破棄させてもらう!」
私を名指しでアレンが言う。仮にも私は公爵なのだが、とは言うまい。
すでに娘が犯したとされる罪状を述べていた。
申し合わせたかのようにその時ばかりは場は静まり、アレンの声が響き渡っていた。
そして、その作られたかのような不自然な台詞の合間合間に聴衆は驚きと罵倒の声を挙げていた。
「はい。それでは失礼します」
それだけを言うと、無言のアリーシャを連れて、離れた場所にいる第一王子の元に向かった。
第一王子のキリル殿下は今起きている騒動を臣下から聞いているようだが、この距離なら何が起きたかもわかっているはずだ。
後処理は早い方がいい。
「キリル王子殿下、此度は殿下の祝いの席を汚してしまったこと、誠に申し訳ございません。勝手ながら私と娘アリーシャが退出することをお許しください」
深く頭を下げたまま王子殿下に言った。
「よい」と殿下が許可すると、続けて「顔を上げよ」と言った。
王子殿下の方を見る。
王子殿下は15歳ということだが、その表情は先ほどのアレンや他の者と同じく、私たちを見下している目をしている。とても濁った目だ。とても15歳とは思えない。これが次期王の姿というのか……。
不敵な笑顔は薄気味悪く、心の芯まで冷えそうである。
「ふふふ、オーク公爵よ、醜い顔だな。まあ今宵は面白いものを見せてもらった。追って王宮のみなにも私が自ら話をすることにしよう。ではもう下がれ、お前の姿は不快だ。こちらの目まで臭くなる」
王子殿下が「オーク公爵」と言うと、周囲からくすくすと笑い声が挙がった。
はい、とだけ返事をすると、アリーシャを連れてすぐに馬車に乗り込み、自邸へと向かった。
後日聞いた話では、私とアリーシャが去ってからも、私たちは会場内の人々の笑いの種になったということだった。
人々はアリーシャの不義を詰り、私の容姿を蔑み、我がソーランド公爵家など歯牙にもかけない、無礼と虚偽と不遜のオンパレードであったという。
数少ない人間はその光景に胸を痛めたというが、ほんの一握りに過ぎないのだろう。
今宵、我が娘をあざ笑った者たち、覚えておくがいい。
私の娘を傷つけたこと、絶対に許さんぞ。
バラード王国の第一王子であるキリル殿下の15歳の生誕を祝う会に娘のアリーシャとともに参加していた。
多くの貴族たちが私たちの姿を見かけても近くにやって来て話しかけるそぶりも見せず、現場を直接目にすることになってしまった。
アリーシャの婚約者であるアレン・バーミヤンが先ほどの言葉を声高らかに宣言したのである。
愛娘のアリーシャが汚泥に開く一輪の可憐な花のように一人立ち尽くして言葉を失っており、その目の前にはアレンと、おそらく新しい彼女のバーバラ・ローソン嬢が立っている。
アレンが私の姿に目に移すと、ふっと笑って侮蔑の眼差しを向けてくる。バーバラもそうだった。
「ちょうどよかった、ソーランド公爵閣下、今申し上げた通り、婚約は破棄させてもらう!」
私を名指しでアレンが言う。仮にも私は公爵なのだが、とは言うまい。
すでに娘が犯したとされる罪状を述べていた。
申し合わせたかのようにその時ばかりは場は静まり、アレンの声が響き渡っていた。
そして、その作られたかのような不自然な台詞の合間合間に聴衆は驚きと罵倒の声を挙げていた。
「はい。それでは失礼します」
それだけを言うと、無言のアリーシャを連れて、離れた場所にいる第一王子の元に向かった。
第一王子のキリル殿下は今起きている騒動を臣下から聞いているようだが、この距離なら何が起きたかもわかっているはずだ。
後処理は早い方がいい。
「キリル王子殿下、此度は殿下の祝いの席を汚してしまったこと、誠に申し訳ございません。勝手ながら私と娘アリーシャが退出することをお許しください」
深く頭を下げたまま王子殿下に言った。
「よい」と殿下が許可すると、続けて「顔を上げよ」と言った。
王子殿下の方を見る。
王子殿下は15歳ということだが、その表情は先ほどのアレンや他の者と同じく、私たちを見下している目をしている。とても濁った目だ。とても15歳とは思えない。これが次期王の姿というのか……。
不敵な笑顔は薄気味悪く、心の芯まで冷えそうである。
「ふふふ、オーク公爵よ、醜い顔だな。まあ今宵は面白いものを見せてもらった。追って王宮のみなにも私が自ら話をすることにしよう。ではもう下がれ、お前の姿は不快だ。こちらの目まで臭くなる」
王子殿下が「オーク公爵」と言うと、周囲からくすくすと笑い声が挙がった。
はい、とだけ返事をすると、アリーシャを連れてすぐに馬車に乗り込み、自邸へと向かった。
後日聞いた話では、私とアリーシャが去ってからも、私たちは会場内の人々の笑いの種になったということだった。
人々はアリーシャの不義を詰り、私の容姿を蔑み、我がソーランド公爵家など歯牙にもかけない、無礼と虚偽と不遜のオンパレードであったという。
数少ない人間はその光景に胸を痛めたというが、ほんの一握りに過ぎないのだろう。
今宵、我が娘をあざ笑った者たち、覚えておくがいい。
私の娘を傷つけたこと、絶対に許さんぞ。
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