囚われの亡者

Bloody hood A

証明

もし、全部が嘘だったとしたら、僕は死んでしまうのでしょうね、なんて思いました。
それ以外の選択肢が何にも浮かび上がらないのですから。
僕には先輩が必要不可欠だから。もし僕にとっての先輩を一言で表すとしたら、心臓です。
この世界で生きるための心臓。
だから、かけていたら死んでしまうのです。
そこまで考えたら、とても胸が苦しくなって、死にたくなりました。
だとしたら、僕は虚構の中の先輩と死にたいです。
現実に先輩がいないなら、妄想の中の先輩を連れて消えてしまえたなら、僕はそれで充分なのです。
あなたが他の人の物になるのを見たり、あなたが手に入らない事が確定している世界なんて、生きる価値がないのですから。
そう思えるほど、僕はあなたを愛しているの。
全て縛って雁字搦めにして、もう他の誰のところにも行けないようにしてしまいたい。
そこまでしたいのは先輩だけなんですよ。
そこまで、自分に言い聞かせるように考えてしまえば、さっきまであった死にたい気持ちや息苦しい気持ちも全て雪解けのように消えて、溶けて、無くなっていきました。
なんだか気分も良い感じです。
頭のもやが晴れたような、そんな気持ちでした。
大好き、好き、愛してる。そんな陳腐な言葉じゃ足りないくらいドロドロした粘着質なあなたへの想いを、叶えてしまいたい。
この温度とはまた違うあの手で、もう一度この手を握ってもらうために。

井戸には泉よりも早く辿り着く事が出来ました。
この村にあるいくつかのスポットの中でも比較的近くにありますから。
井戸の水には日光が反射して、ゆらゆらと揺れる水面が白く輝いて見えます。
初めて井戸を見るであろう彼女は、その様子を見てはしゃいでいます。
そんな彼女に、この井戸の説明を行うことにしました。
この井戸は、物を入れると2倍になって返ってくるという不思議な井戸なのです。
ただし条件があります。
まず、金は増やせません。
鉱石なら可能ですが、通貨は入れても増えません。
硬貨だろうが、紙幣だろうが、井戸の底に沈んでいくのみです。
入れても無駄になるだけ、という事ですね。
そうそう、これにまつわる話で一つ面白いものが。
一時期井戸で金を増やそうとして、近隣の鉱山から根こそぎ金を発掘してきた富豪がいたのです。
彼が井戸に金を纏めて落とし込むとしばらく何も返って来ませんでした。
最初は失敗したのかと思われたのですが、徐々に何か降ってきたのです。
拾ってみると、金でした。