ダークストーリーズ

月夜

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童話編:呪いのお話

嫉妬と蛇の蛇の話(終)

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僕は、僕は.........
「力が、欲しい。何でも手に入る力が。」
そういうと化け物はニィ、と笑う。
「よく決断したねぇ。じゃあ、早速向かいなよ。」
洞窟の奥に、綺麗な水晶があった。
珍しかったから、鮮明に記憶に残っていた。
その水晶には、
何でだろう、なんて思っていたけど。
今ならわかる気がした。
水晶に手を触れる......
どこか、暖かかった。
「君の願いは何?」
掠れた声が聞こえる。
どこか、安心できる声。
なのに、涙が止まらない。
やっと、足りなかった何かが見つかった気がした。
知らないはずなのに。
どこか、血生臭い場所でこの声を聞いた。
忘れられないような光景とともに。
その光景は僕に多大なショックを与えたとともに何かのきっかけになったはずなのに。
何故か、思い出せない。
「願い事、ないの?」
その声に、反射的に答えていた。
「今度こそ、救いたい.....誰も彼も敵わないくらい、強い力を頂戴....!」
それが僕のだ。
理不尽な力にすら普通に対抗できるくらいの力。
誰にも奪われないようにするには、強力な力が必要だ。
だから、欲した。
「......いいよ、あげるよ。後悔しない?」
すっと言葉が出る。
「死ねないからだ.....。」
水晶の奥で息を呑む音がする。
僕は手を切り裂く。
血が、ぽたぽたと落ちる。
水晶が妖しく光り輝いた。
「ごめんね、雫。僕のために。」
「全然構わないよ。むしろ颯太に教えてあげればよかったんじゃない?」
「それは、だめかなぁ.......僕は颯太に会っちゃいけないから。」
もう、何もかも取り戻してしまった。
暖かな力とともに、怪物が僕に重なり、足りない記憶を補完したから。
あれは、僕自身だったんだ。
大昔の、僕の姿。
体が、熱い。
全身火だるまになったようだ。
頬に何かが刻まれる。
懐かしいな、なんて思った。
きっと頬には昔つけられたのと同じマークがあるだろう。
「行ってくるね。」
「行ってらっしゃい.....君の願いの対価は、『君の物語の補完』だよ。そして、君の第二の名前はシーナだ。」
それに対して僕は笑って答えた。
「懐かしいね、その名前は。」

大地を、駆ける。
戦場の中で。
何人もの人間を殺めただろうか。
最初は数えていたが、途中からやめていた。
指を鳴らして毒蛇を呼べ。
僕の手となり足となる蛇は戦場を縦横無尽に駆け回る。
敵味方関係なく殺めてしまえ。
あの日、賭けをしたやつだって、何もかも。
目的の人物を探す。
目隠しをし、メデューサの瞳は封印した。
それでも、問題なく見える視界は、
それでも、目的の人物のもとへ行くには、多くの肉壁を削ぎ落とさなければ......
仕方ない。
「僕の切り札の一つ.......さぁ、荒れ狂う嫉妬と恋慕をその身に宿し、襲い掛かれ『清姫』!!」
僕が分裂する.....
ニヤリと笑った僕は、どんどん体を変化させ、巨大な海蛇へと変化していく。
人間を食い散らかし、時には火すら吹く。
何人たりとも無力とかすこの存在。
僕がずっと憎んでいたもの。
僕に深く絡みついた
さぁ、奥へ、奥へ、奥へ....!
「待ってたよ。雫。」
「僕は探したよ、お前のことを。」
目の前の男はニヤニヤ笑っている。
これは本物じゃない。
僕の中の何かが叫ぶ。
「あ.....雫!なんでこんなところにいるの!?」
「僕のこと、気安く名前で呼ばないでくれない。」
え?と月が顔を歪める。
全てを思い出してしまった今では、彼女はただの人形だ。
「僕に夢を見せたままにしてくれたらよかったのにね。おかげで全て思い出しちゃったよ。」
月に噛み付く。
牙から毒が分泌され、月の体は醜く変わっていく。
顔も、何もかも。
「なん...で?」
「だって、思い出しちゃったんだ。僕が本当に欲していた人物を。所詮君は紛い物だ。また誰かに作ってもらえるんでしょ?」
なんて言っても多分もう聴こえていない。
「あのさぁっ.....月は生きてたんだよ?」
「お前も偽物に何求めてんの?まぁいいや。処分しちゃうね。」
一緒のところに埋めてあげよう。
偽物カップル同士相性いいでしょ?
目隠しを取る。
さぁ、固めてしまえ。
「何で僕の力が効かないの!!何で止まらないんだよ!!」
石になりながら〇〇は言う。
「さぁ、何でかな?考えてみたら?」
石にしたら、砕いて。
土の中に二人一緒に埋める。
この世界で、沢山人を殺そうか。
なんてことを思う。
どうせだったら、そうして命のやりとりをした方が、生きている実感が沸くかもしれない。
「よっ....と、さぁ、組んでくれる気になりましたか?」
「気分が変わったから参加しない。」
やれやれ....なんて颯太が呟くと、
「残念だな....私、雫と組めるって思ってたのに......」
アリスのような格好をした月が降ってきながらいう。
「先輩!落ち込まないでください!!」
励ましている颯太を、滑稽で、なんと阿呆らしいと笑ってしまいそうになる。
壊れた少年と、残りカス。
「じゃね。またどこかで会おう。」
ここまで見ていれば、違う世界に入ることは簡単なようだ。
ならば、飽きたら違う世界を荒らして、最終的には........
想像しただけで、面白いななんて思った。
「禁忌を実行するしかないなら、するしかないからね。」
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