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四章 雪闇ブラッド

伝統なんてほんと馬鹿らしい

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そう言って、雪は軽く周囲を指差す。
「あの子もあの子もあの子もみんな俺の婚約者候補。五歳になるまでに婚約者の一人や二人作るつもりだから吟味しろよって親父から言われてんの。お前はそう言うのないでしょ?優秀な血を残す為だってよ。あぁ、しかも親戚から一人確実に選ばなきゃいけねぇの。『純血』を守る為だとよ。馬鹿らしい」
父は純血にこだわっている。
だからか、母も父の親戚だし。
特に白髪、赤眼は重宝される。
その上容姿も先祖返りしてる雪と結婚させたい人間など大勢いるだろう。
僕は今までただ雪を羨ましいと思っていた。
でも、それは間違いだったのかもしれない。
好かれていようが好かれてなかろうがそこには地獄が存在するのだ。
僕が本当に憎むべきことは、血影家に生まれてきてしまったことだったのかもしれない。
「でもさ、凪は違うんだ。俺のことを自分の中の理想と当てはめてみたりなんかしない。俺が純血だろうがなんだろうがどうだって良いって言ってくれる」
そう雪が言う。
「多分凪は他人にもう期待していないんだよ。他人がどうあったって、自分に関係あったとしてもどうだっていい。自分の運命は自分で変えるし、そう出来なかったらただ流されるだけ。そう考えているんだ」
きっと、その通りかもしれない。
「まぁ、咲として出会ったからかもしれないけれど」
両親は事故によって怪我をして。
それに巻き込まれて。
異国で暮らして。
散々いじめられて。
憎まれて命を狙われて。
元の場所に帰ることを夢見て日々暮らしているだけなのに。
そんな環境下でまともでいられるはずがない。
そして、そんな環境に凪を置いている僕も理久も人でなしだ。
少し考えればわかることだろう?
これは僕と理久の罪なんだ。
早く魔法を習得させて逃してやれば良かったのに。
そんなこともしないでずっとそばに居させる為に知恵を絞って。
僕だって、同じような地獄みたいな環境にいたくせに。
「俺ね。凪が闇奈の為に行動したのを見てさ。正直羨ましかったんだ。あの瞳の中に闇奈を浮かべているのを見てさ。俺の事ちゃんと見てないくせに闇奈のことはちゃんと見てるのがさ。ずるいなって思ったりもしたんだ」
羨ましかったんだ、とても。
そう雪が人間らしく溢す姿に、僕は何も言えなくなってしまった。
「わかるでしょ?見てほしい相手に見てもらえない苦しみ。闇奈が両親に対して思ったことと多分同じだ。いや、俺の場合はそれ以上かな…。だからさ、俺を映して欲しいって思ったの」
それは今回の作戦。
そう弱々しく笑った。
弱々しく笑う癖に作戦自体は悪質極まりない。
それを見て、聞いて。
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