380 / 425
四章 雪闇ブラッド
伝統なんてほんと馬鹿らしい
しおりを挟む
そう言って、雪は軽く周囲を指差す。
「あの子もあの子もあの子もみんな俺の婚約者候補。五歳になるまでに婚約者の一人や二人作るつもりだから吟味しろよって親父から言われてんの。お前はそう言うのないでしょ?優秀な血を残す為だってよ。あぁ、しかも親戚から一人確実に選ばなきゃいけねぇの。『純血』を守る為だとよ。馬鹿らしい」
父は純血にこだわっている。
だからか、母も父の親戚だし。
特に白髪、赤眼は重宝される。
その上容姿も先祖返りしてる雪と結婚させたい人間など大勢いるだろう。
僕は今までただ雪を羨ましいと思っていた。
でも、それは間違いだったのかもしれない。
好かれていようが好かれてなかろうがそこには地獄が存在するのだ。
僕が本当に憎むべきことは、血影家に生まれてきてしまったことだったのかもしれない。
「でもさ、凪は違うんだ。俺のことを自分の中の理想と当てはめてみたりなんかしない。俺が純血だろうがなんだろうがどうだって良いって言ってくれる」
そう雪が言う。
「多分凪は他人にもう期待していないんだよ。他人がどうあったって、自分に関係あったとしてもどうだっていい。自分の運命は自分で変えるし、そう出来なかったらただ流されるだけ。そう考えているんだ」
きっと、その通りかもしれない。
「まぁ、咲として出会ったからかもしれないけれど」
両親は事故によって怪我をして。
それに巻き込まれて。
異国で暮らして。
散々いじめられて。
憎まれて命を狙われて。
元の場所に帰ることを夢見て日々暮らしているだけなのに。
そんな環境下でまともでいられるはずがない。
そして、そんな環境に凪を置いている僕も理久も人でなしだ。
少し考えればわかることだろう?
これは僕と理久の罪なんだ。
早く魔法を習得させて逃してやれば良かったのに。
そんなこともしないでずっとそばに居させる為に知恵を絞って。
僕だって、同じような地獄みたいな環境にいたくせに。
「俺ね。凪が闇奈の為に行動したのを見てさ。正直羨ましかったんだ。あの瞳の中に闇奈を浮かべているのを見てさ。俺の事ちゃんと見てないくせに闇奈のことはちゃんと見てるのがさ。ずるいなって思ったりもしたんだ」
羨ましかったんだ、とても。
そう雪が人間らしく溢す姿に、僕は何も言えなくなってしまった。
「わかるでしょ?見てほしい相手に見てもらえない苦しみ。闇奈が両親に対して思ったことと多分同じだ。いや、俺の場合はそれ以上かな…。だからさ、俺を映して欲しいって思ったの」
それは今回の作戦。
そう弱々しく笑った。
弱々しく笑う癖に作戦自体は悪質極まりない。
それを見て、聞いて。
「あの子もあの子もあの子もみんな俺の婚約者候補。五歳になるまでに婚約者の一人や二人作るつもりだから吟味しろよって親父から言われてんの。お前はそう言うのないでしょ?優秀な血を残す為だってよ。あぁ、しかも親戚から一人確実に選ばなきゃいけねぇの。『純血』を守る為だとよ。馬鹿らしい」
父は純血にこだわっている。
だからか、母も父の親戚だし。
特に白髪、赤眼は重宝される。
その上容姿も先祖返りしてる雪と結婚させたい人間など大勢いるだろう。
僕は今までただ雪を羨ましいと思っていた。
でも、それは間違いだったのかもしれない。
好かれていようが好かれてなかろうがそこには地獄が存在するのだ。
僕が本当に憎むべきことは、血影家に生まれてきてしまったことだったのかもしれない。
「でもさ、凪は違うんだ。俺のことを自分の中の理想と当てはめてみたりなんかしない。俺が純血だろうがなんだろうがどうだって良いって言ってくれる」
そう雪が言う。
「多分凪は他人にもう期待していないんだよ。他人がどうあったって、自分に関係あったとしてもどうだっていい。自分の運命は自分で変えるし、そう出来なかったらただ流されるだけ。そう考えているんだ」
きっと、その通りかもしれない。
「まぁ、咲として出会ったからかもしれないけれど」
両親は事故によって怪我をして。
それに巻き込まれて。
異国で暮らして。
散々いじめられて。
憎まれて命を狙われて。
元の場所に帰ることを夢見て日々暮らしているだけなのに。
そんな環境下でまともでいられるはずがない。
そして、そんな環境に凪を置いている僕も理久も人でなしだ。
少し考えればわかることだろう?
これは僕と理久の罪なんだ。
早く魔法を習得させて逃してやれば良かったのに。
そんなこともしないでずっとそばに居させる為に知恵を絞って。
僕だって、同じような地獄みたいな環境にいたくせに。
「俺ね。凪が闇奈の為に行動したのを見てさ。正直羨ましかったんだ。あの瞳の中に闇奈を浮かべているのを見てさ。俺の事ちゃんと見てないくせに闇奈のことはちゃんと見てるのがさ。ずるいなって思ったりもしたんだ」
羨ましかったんだ、とても。
そう雪が人間らしく溢す姿に、僕は何も言えなくなってしまった。
「わかるでしょ?見てほしい相手に見てもらえない苦しみ。闇奈が両親に対して思ったことと多分同じだ。いや、俺の場合はそれ以上かな…。だからさ、俺を映して欲しいって思ったの」
それは今回の作戦。
そう弱々しく笑った。
弱々しく笑う癖に作戦自体は悪質極まりない。
それを見て、聞いて。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる