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四章 雪闇ブラッド

嘘をついた

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だからかな、友達と言ったら少し凪の目が輝いた気がした。
それに少し胸がチク、と痛んだ。
あの時の関係を一番分かりやすい形で言い表すとしたら、その言葉がピッタリだ。
間違えじゃない。
けれど、けれど。
そして僕らは、その友達に恋愛感情を抱いてしまっただけだ。
友達のままでいるのが一番楽で、僕らにピッタリな形のはずなのに、それ以上を望んでしまったわけだ。
そんな複雑な関係なだけ。
けれど、敢えてそこは伏せた。
そこを言ったら、凪は僕らを警戒する気がしたから。
都合の良いように記憶を弄っただけ。
だから雪は忘れられたという現実から目を反らした。
だって雪は、凪の親友だったから。
親友で、一番距離が近くて。
凪の隣で笑うのが好きだったから。

俺は強くなりたいです。
大好きな人を守る為に。
あの日、冷たい部屋の中でそんなことを誓った。
この家に縛られないで、凪と一緒にいれる道を目指すために。
そう思ってから何年経過した?
何年無駄にした?
例え弱くたって、傍にいたら、こんな風になっていなかったんじゃないか?
単純にあれは逃げの一手だったんじゃないのか?
暗い部屋で自問自答した。
自分自身を責めた。
生きていてくれてうれしかった。
正直ホッとした。
今すぐ抱きしめたくなったよ。
よかったって、泣き出したくなったよ。
けど、俺ら以外に友達なんて作って欲しくなかった。
そんな事を思う自分も嫌いだ。
全部全部大嫌いだ。
「お前が怠けただけだろう?やる気になればすぐに向かえたはずなのに。逃げることを選んだのはお前なんだよ。お前の所為なんだ」
内側からそんな声が聞こえた気がした。
嘲笑うように、僕に語り掛けてくる。
あぁ、うるさいなぁ…。
いつもの事だ。
いつもこういう時にだけ語り掛けてくるんだ。
無視しよう。
前髪で隠している瞳を手で覆う。
「…、そうされたら、話しづらくなるんだけどなぁ。あぁ、そうだ。先祖は好きか?」
「黙って。今すぐ」
そんなもの嫌いだ。
嫌いだってわかっているだろ。
こいつが僕の神経を逆立てる為に家族の話題を振ったのはわかっていた。
それも黙っていれば良かったのに。
黙り切れずに僕はそう叫んだ。
家族だって皆嫌いだ。
この体に流れる血が憎いと思ってしまうくらいに。
全員死んでしまえば良いと思っている。
だって、俺はあの家に、親に囚われているから。
あれが無ければきっと、どこまでも行けるのに。
なのになのになのに!!
それを防いでいるのは全部あの家だ。
「お前は醜い。美しいのにどこか不純だ。種に相応しい性質を持っているのに。どこか他人よがりで自己という物が未熟で。そうだな、これは不完全な美とでも言えようか」
「お前の美的感覚なんてどうでも良いよ。良いから、静かにしてくれないか。おれは今すごくつらいんだ。」
凪以外なんて最早どうでも良い。
そう思ってしまっている自分がいた。
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