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5章 美しい医学生
①
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蒼は無事合格し、雪哉の母校である医学部に入学した。彰久も小学校に入学し、それぞれの新しい生活が始まる。
「蒼君大学はどお? もう慣れたころかな」
四月も下旬に差し掛かった頃、雪哉が様子を伺うように聞く。蒼の学生生活の様子を気にしていたのだ。
「はい、大分慣れました。高校の時の同級生がいるから心強いです」
「ああー、吉沢君だったかな、確かベータの。アルファが多い環境では心強いよね」
医学部は、圧倒的にアルファが多い。ベータが二割くらいで、オメガは多分蒼一人。多分と言うのは、公表していないオメガがいるかもしれないから。蒼も公表しているわけではないが、多分知られていると思っている。
「もし何か困ったことが起こったら、すぐに言うんだよ。僕も卒業生として、それなりに顔が利くから」
「ありがとうございます。今のところ大丈夫ですが、もし何かあったら相談させていただきます」
雪哉の気遣いが、蒼には何より嬉しいし、心強い。常に、蒼を気遣い、声を掛けてくれる。
「あおくん、しゅくだいできたよー」
「おっ、早いな! さすがだね!」
彰久も入学後、順調に通学している。最近は毎日宿題も出るようになった。分からないところはないのだが、必ず蒼に見せるのだ。
「うわあー全部正解! あき君えらいね! 学校は楽しい? お友達出来たかな」
「うん、たのしいよ。あのね、だいくんね、ゆきなちゃんがすきなんだって。かわいいからって」
だいくんってのは、確か大輔君で幼稚園の時からの友達だったな。ゆきなちゃんってのは? でも可愛いから好きって、最近の小学生はませてるなあと思う。
「へえーっ、そうなんだ。ゆきなちゃんって同じクラスの女の子? そんなに可愛いの?」
「うんそうだよ、ちがうようちえんからきたこ。かわいいのかなあ……ぼくにはわかんない」
「だいくんは可愛いって思ってるんだ。あき君は可愛いって思う女の子いるの?」
「いないよ」
「そうか、じゃあ好きな女の子はいないんだね」
「うん、いないよ。ぼくは、あおくんがすきだから! あおくんきれいだよ!」
そう言って抱きついてくる彰久。幼いながらに、ストレートに好意をぶつけてくる彰久を、蒼は心から可愛いと思い、ぎゅっと抱きしめてやる。
すると、彰久は顔を擦り付けるようにして、更に抱きついてくる。
後年蒼は、この彰久のストレートな好意を受け止めることに戸惑うようになる。そして悩むことになるが、この時の蒼は、彰久に対して可愛いくて愛おしいという気持ちしかなかった。
「蒼! 今から昼か」
「うん、お前も」
午前の講義が終わり、サンドイッチでも買って中庭で食べようかなと思っていた蒼に、高校からの同級生吉沢直史《よしざわなおふみ》が声を掛ける。直史はベータで蒼がオメガと知っている数少ない同級生だった。
二人は売店でサンドイッチとジュースを買い中庭のベンチに並んで座る。
「食堂はなんか落ち着かないよな」
直史の言葉に蒼も頷く。アルファの多い中なんとなく肩身が狭い。
「ところで、居候生活は慣れたのか? 大学も家でも肩身が狭いんじゃやってらんないんじゃ」
「ああ、それは大丈夫。むしろ申し訳ないくらいよくしてもらってる」
「そっか、じゃあ安心だな。自分の部屋、離れだって言ってたよな」
「そうなんだ、寝室が別にあるし、ミニキッチンまであるんだ。食事は母屋で一緒にとるのにね」
「へーっ凄いな! 至れり尽くせりだよな、安心したよ。晴香《はるか》も気にしてたから」
晴香も同級生で、三人は高校時代よく一緒に行動した仲だった。直史の彼女で、同級生なのに、何かと蒼の世話を焼く姉のようなところがある。直史もそんな晴香にやきもちを焼くでもなく、二人で蒼の面倒を見る所があった。蒼には、ほおって置けない、庇護欲をそそるところがある。
「晴香ちゃんも大学大変だろうね」
「ああ、看護科も中々ハードだって言ってた。でもあいつ看護科は四年じゃん。二年も早く社会人になったら、益々姉さんぶるんじゃないか」
「ははっ、そうだね。でも面倒見が良くて世話焼きって、看護師が天職だと思うよ」
「あいつの世話焼きは筋金入りだもんな」
蒼と直史が中庭で静かに過ごしていたころ、食堂のざわめいた一画に数人の学生がひそひそ話をしている。皆今年入学した蒼の同級生だ。
「なあ、あいつ絶対にオメガと思わないか」
「ああ、西園寺だろ、俺も思った」
「西園寺って、オメガだろうってやっぱみんな思ってるよな」
「たださ、西園寺家に俺らと同級生になる人っていたか?」
「あそこは、嫡男と長女がいて、二人とも結婚してるよな」
「妾腹か? どう見たってオメガなんだから、オメガの妾が産んだじゃないのか」
「でもあそこの当主は養子だぞ。養子が妾持つのか?」
「養子だけど、先代が出来なかった嫡男をあげたから、まあ褒美的に妾くらい囲えるんじゃないのか」
中心にいる学生が、頷きながらほくそ笑む。
「お前、なんか企んでいるだろ」
「人聞きの悪い言い方するなよ。オメガなら欲しいと思ってるんだよ。あれだけの容姿だから、早いこと手を付けないと、誰かに搔っ攫われるぞ」
「って、まだ学生だろ。それにオメガを嫁にするのか?」
「馬鹿言うな! 番にするだけだよ。正式な配偶者は家柄のあるアルファじゃないと親も許さない。いくら名門西園寺家でも、庶子でオメガなら番にして妾だよな」
「だよな、確かにあれだけきれいだと食指動くよな。下手な女よりって、女でもあれだけの美貌は中々いないよな」
「はあっ、俺が最初に目を付けたんだよ。手を出すなよ!」
誰も頷かない。皆思っている、あのオメガが欲しいと。
アルファは複数の番を持てるが、オメガはただ一人の番しか持てない。つまり、早い者勝ちだと。誰が、あおの美しいオメガの項を噛むのか……これは争奪戦だ。
「蒼君大学はどお? もう慣れたころかな」
四月も下旬に差し掛かった頃、雪哉が様子を伺うように聞く。蒼の学生生活の様子を気にしていたのだ。
「はい、大分慣れました。高校の時の同級生がいるから心強いです」
「ああー、吉沢君だったかな、確かベータの。アルファが多い環境では心強いよね」
医学部は、圧倒的にアルファが多い。ベータが二割くらいで、オメガは多分蒼一人。多分と言うのは、公表していないオメガがいるかもしれないから。蒼も公表しているわけではないが、多分知られていると思っている。
「もし何か困ったことが起こったら、すぐに言うんだよ。僕も卒業生として、それなりに顔が利くから」
「ありがとうございます。今のところ大丈夫ですが、もし何かあったら相談させていただきます」
雪哉の気遣いが、蒼には何より嬉しいし、心強い。常に、蒼を気遣い、声を掛けてくれる。
「あおくん、しゅくだいできたよー」
「おっ、早いな! さすがだね!」
彰久も入学後、順調に通学している。最近は毎日宿題も出るようになった。分からないところはないのだが、必ず蒼に見せるのだ。
「うわあー全部正解! あき君えらいね! 学校は楽しい? お友達出来たかな」
「うん、たのしいよ。あのね、だいくんね、ゆきなちゃんがすきなんだって。かわいいからって」
だいくんってのは、確か大輔君で幼稚園の時からの友達だったな。ゆきなちゃんってのは? でも可愛いから好きって、最近の小学生はませてるなあと思う。
「へえーっ、そうなんだ。ゆきなちゃんって同じクラスの女の子? そんなに可愛いの?」
「うんそうだよ、ちがうようちえんからきたこ。かわいいのかなあ……ぼくにはわかんない」
「だいくんは可愛いって思ってるんだ。あき君は可愛いって思う女の子いるの?」
「いないよ」
「そうか、じゃあ好きな女の子はいないんだね」
「うん、いないよ。ぼくは、あおくんがすきだから! あおくんきれいだよ!」
そう言って抱きついてくる彰久。幼いながらに、ストレートに好意をぶつけてくる彰久を、蒼は心から可愛いと思い、ぎゅっと抱きしめてやる。
すると、彰久は顔を擦り付けるようにして、更に抱きついてくる。
後年蒼は、この彰久のストレートな好意を受け止めることに戸惑うようになる。そして悩むことになるが、この時の蒼は、彰久に対して可愛いくて愛おしいという気持ちしかなかった。
「蒼! 今から昼か」
「うん、お前も」
午前の講義が終わり、サンドイッチでも買って中庭で食べようかなと思っていた蒼に、高校からの同級生吉沢直史《よしざわなおふみ》が声を掛ける。直史はベータで蒼がオメガと知っている数少ない同級生だった。
二人は売店でサンドイッチとジュースを買い中庭のベンチに並んで座る。
「食堂はなんか落ち着かないよな」
直史の言葉に蒼も頷く。アルファの多い中なんとなく肩身が狭い。
「ところで、居候生活は慣れたのか? 大学も家でも肩身が狭いんじゃやってらんないんじゃ」
「ああ、それは大丈夫。むしろ申し訳ないくらいよくしてもらってる」
「そっか、じゃあ安心だな。自分の部屋、離れだって言ってたよな」
「そうなんだ、寝室が別にあるし、ミニキッチンまであるんだ。食事は母屋で一緒にとるのにね」
「へーっ凄いな! 至れり尽くせりだよな、安心したよ。晴香《はるか》も気にしてたから」
晴香も同級生で、三人は高校時代よく一緒に行動した仲だった。直史の彼女で、同級生なのに、何かと蒼の世話を焼く姉のようなところがある。直史もそんな晴香にやきもちを焼くでもなく、二人で蒼の面倒を見る所があった。蒼には、ほおって置けない、庇護欲をそそるところがある。
「晴香ちゃんも大学大変だろうね」
「ああ、看護科も中々ハードだって言ってた。でもあいつ看護科は四年じゃん。二年も早く社会人になったら、益々姉さんぶるんじゃないか」
「ははっ、そうだね。でも面倒見が良くて世話焼きって、看護師が天職だと思うよ」
「あいつの世話焼きは筋金入りだもんな」
蒼と直史が中庭で静かに過ごしていたころ、食堂のざわめいた一画に数人の学生がひそひそ話をしている。皆今年入学した蒼の同級生だ。
「なあ、あいつ絶対にオメガと思わないか」
「ああ、西園寺だろ、俺も思った」
「西園寺って、オメガだろうってやっぱみんな思ってるよな」
「たださ、西園寺家に俺らと同級生になる人っていたか?」
「あそこは、嫡男と長女がいて、二人とも結婚してるよな」
「妾腹か? どう見たってオメガなんだから、オメガの妾が産んだじゃないのか」
「でもあそこの当主は養子だぞ。養子が妾持つのか?」
「養子だけど、先代が出来なかった嫡男をあげたから、まあ褒美的に妾くらい囲えるんじゃないのか」
中心にいる学生が、頷きながらほくそ笑む。
「お前、なんか企んでいるだろ」
「人聞きの悪い言い方するなよ。オメガなら欲しいと思ってるんだよ。あれだけの容姿だから、早いこと手を付けないと、誰かに搔っ攫われるぞ」
「って、まだ学生だろ。それにオメガを嫁にするのか?」
「馬鹿言うな! 番にするだけだよ。正式な配偶者は家柄のあるアルファじゃないと親も許さない。いくら名門西園寺家でも、庶子でオメガなら番にして妾だよな」
「だよな、確かにあれだけきれいだと食指動くよな。下手な女よりって、女でもあれだけの美貌は中々いないよな」
「はあっ、俺が最初に目を付けたんだよ。手を出すなよ!」
誰も頷かない。皆思っている、あのオメガが欲しいと。
アルファは複数の番を持てるが、オメガはただ一人の番しか持てない。つまり、早い者勝ちだと。誰が、あおの美しいオメガの項を噛むのか……これは争奪戦だ。
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