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11章 四国へ出陣
④
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その後結城は、本当は久世自身が戻りたかったこと。しかし、さすがに四国へ戻ってすぐに、また城へ戻るのはいけないと自分が止めた。故に、自分が代わりに帰城したことを、成利に話した。
葉月達、細作の働きで木村の企みは掴んでいたので、とにかく急いで来た。間に合って良かったと、満面の笑みで話した。
それらを、聞いていて成利は率直に感心した。久世の主としての在り方も、結城の臣下としての在り方にも。
主従の互いに、強い信頼感のあることが、分かる。さすがは、短期間でここまで上がってきただけのことはあると、成利は思った。
今回のように新興ゆえの不行跡もあろうが、それも、産みの苦しみのようなものだろう。久世家は、これからもっと大きくなるだろとの予感を持った。
同時に、家臣に叛かれ、城を落ちた己の身を思った。主として何が足りなかったのだろう……。
結城は、直ちに四国へ使いを出し、久世に全てを知らせ、その後の指示を仰いだ。木村の処分は、久世の指示を待たねばならない。
結城の書状を読み、久世は激怒した。顔を真っ赤にして、書状を叩きつけた。
木村が、蔵に縄や猿ぐつわに使う布を用意していたとの記述にだ。何を企んだのか一目瞭然だ。
当初は、放逐では甘いか、やはり打ち首か、と迷う気持ちがあった。しかし、これは絶対に許せん! もし、葉月や結城が間に合わず、成利が餌食にされていたらと、考えるだけで恐ろしい。いまだ、駿河での傷が癒えていないのに、更に酷い傷を負うことになったであろう。
憤怒の形相の久世に、側に控えている力丸は、息が止まるかと思うくらい驚く。こんな主は、初めて見る。
成利と再会してからの久世は、とにかく明るく朗らかだった。側にいて自分まで気分が良かった。
ところが、城を出陣して、暫くすると、徐々に難しい顔になっていった。結城を、城へ戻してからは、それが増していった。
そして、これだ。書状にはなんと? とても恐ろしくて聞けない。上目遣いで仰ぎ見るだけが精一杯だ。
「力丸! 祐筆を呼べ!」
急ぎ呼ばれた祐筆に、久世は口上を述べていく。それで、力丸は事のあらましを知った。
久世は、木村に逆さ磔を命じた。
力丸は、これには心底驚く。磔でさえ、今まで、敵にすら命じたことはなかった。それが、その上をいく逆さ磔だ。おそらく、刑罰の中でも最も残虐なもの。普段の久世からは、考えられないことだ。
驚きのまま、次の久世の言葉を聞いた。
「よいか、木村の処刑は仙殿には知らせるな。あれは優しく、繊細じゃから気に病むといかん。決して知らせるでない。蔵で木村が企んだこともじゃ。ただ、帳簿の件不埒なるゆえ、放逐したと、そう思わせるのじゃ。よいな!」
久世の書状は、早馬で届けられた。
目にした結城は、さすがに驚いた。打ち首は当然と思っていたが、そこまでとは。
しかし、だからこそ久世の怒りの大きさを知る思いだ。普段、残虐性のない久世が、ここまでの刑を命じるとは。それだけ怒りが大きいということだ。
哀れと言うか、自業自得ではあるが木村の逆さ磔が粛々と行われた。
積極的にやりたいとは思わぬが、戦乱の世ゆえ、行う抵抗感はさほどでもない。
むしろ、結城が気を使ったのは、それを成利の耳に入れない事だった。久世から厳命されている。
木村への怒りの大きさで、いかに久世が成利のことを、大切に思っているかを知った。
二人の間に、過去、何があったかは知る由もないが、久世の思いは相当なものだと分かる。
葉月達、細作の働きで木村の企みは掴んでいたので、とにかく急いで来た。間に合って良かったと、満面の笑みで話した。
それらを、聞いていて成利は率直に感心した。久世の主としての在り方も、結城の臣下としての在り方にも。
主従の互いに、強い信頼感のあることが、分かる。さすがは、短期間でここまで上がってきただけのことはあると、成利は思った。
今回のように新興ゆえの不行跡もあろうが、それも、産みの苦しみのようなものだろう。久世家は、これからもっと大きくなるだろとの予感を持った。
同時に、家臣に叛かれ、城を落ちた己の身を思った。主として何が足りなかったのだろう……。
結城は、直ちに四国へ使いを出し、久世に全てを知らせ、その後の指示を仰いだ。木村の処分は、久世の指示を待たねばならない。
結城の書状を読み、久世は激怒した。顔を真っ赤にして、書状を叩きつけた。
木村が、蔵に縄や猿ぐつわに使う布を用意していたとの記述にだ。何を企んだのか一目瞭然だ。
当初は、放逐では甘いか、やはり打ち首か、と迷う気持ちがあった。しかし、これは絶対に許せん! もし、葉月や結城が間に合わず、成利が餌食にされていたらと、考えるだけで恐ろしい。いまだ、駿河での傷が癒えていないのに、更に酷い傷を負うことになったであろう。
憤怒の形相の久世に、側に控えている力丸は、息が止まるかと思うくらい驚く。こんな主は、初めて見る。
成利と再会してからの久世は、とにかく明るく朗らかだった。側にいて自分まで気分が良かった。
ところが、城を出陣して、暫くすると、徐々に難しい顔になっていった。結城を、城へ戻してからは、それが増していった。
そして、これだ。書状にはなんと? とても恐ろしくて聞けない。上目遣いで仰ぎ見るだけが精一杯だ。
「力丸! 祐筆を呼べ!」
急ぎ呼ばれた祐筆に、久世は口上を述べていく。それで、力丸は事のあらましを知った。
久世は、木村に逆さ磔を命じた。
力丸は、これには心底驚く。磔でさえ、今まで、敵にすら命じたことはなかった。それが、その上をいく逆さ磔だ。おそらく、刑罰の中でも最も残虐なもの。普段の久世からは、考えられないことだ。
驚きのまま、次の久世の言葉を聞いた。
「よいか、木村の処刑は仙殿には知らせるな。あれは優しく、繊細じゃから気に病むといかん。決して知らせるでない。蔵で木村が企んだこともじゃ。ただ、帳簿の件不埒なるゆえ、放逐したと、そう思わせるのじゃ。よいな!」
久世の書状は、早馬で届けられた。
目にした結城は、さすがに驚いた。打ち首は当然と思っていたが、そこまでとは。
しかし、だからこそ久世の怒りの大きさを知る思いだ。普段、残虐性のない久世が、ここまでの刑を命じるとは。それだけ怒りが大きいということだ。
哀れと言うか、自業自得ではあるが木村の逆さ磔が粛々と行われた。
積極的にやりたいとは思わぬが、戦乱の世ゆえ、行う抵抗感はさほどでもない。
むしろ、結城が気を使ったのは、それを成利の耳に入れない事だった。久世から厳命されている。
木村への怒りの大きさで、いかに久世が成利のことを、大切に思っているかを知った。
二人の間に、過去、何があったかは知る由もないが、久世の思いは相当なものだと分かる。
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