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10章 再会

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 翌日、久世は早朝より安土へと向かった。朝頼に大高城の件を直接報告するためだった。同時に、成利の身柄を自分預りに願い出るためでもあった。

「久世! 大高城は、無駄足に終わったようじゃの。まあいい、あそこらは、来年まとめて取り戻す」
「はっ、まこと申し訳もございません」
「そなたの本分は四国じゃ。四国平定成すれば、問題ない」
「勿論、肝に銘じております、早速、明日四国へと出陣する所存でございます。それで、大高城主の高階のことですが」
「ああ、どうしておるのじゃ」
「我が城に、保護しております」
「家臣の統制を取れなんだ責めはあるからの」
 そうなのだった。謀反は、起こした家臣が責めを負うのは当然だが、起こされた主にも責はある。反転攻勢して、取り戻すのは、言わば自己責任の世界だ。しかし、身一つで落ちた成利にその力がないのは明らかだった。
 久世は、それを己の力で助けてやりたいと思っている。
「高階もそこは反省しておるようでございます。来年、東への攻勢の折は、高階には、我が兵を貸し与え、大高城を取り戻させてやりたいと考えます」
「ああ、それはかまわぬぞ。朝行を総大将にするから、あれにも、願い出るとよかろう」
 目的を果たし、安堵した様子の久世に、朝頼は、笑いを含みながら言う。
「それにしても、えらく高階に肩入れするな。なんぞあるのか」
 不意を突かれたことに、久世は慌てた。
「特別、肩入れをしているとは……」
「自覚がないのか! わざわざ四国から救援に行き、大切に保護し、今度は兵を貸す。立派に肩入れじゃぞ! どんな関係じゃ、言え!」
 結局久世は、高階成利と、旧知の仲であること。それは、松川にいた時だったことを、白状させられた。
「なるほど、そなたの思い人か」
「そっ、そのような間柄でございませぬ!」
「ふふっ、まあよい。好きに致せ。高階のことはそなたに任せる。そうじゃ、一度わしにも会わせろ」
 益々面白がるように言う朝頼に、平伏しつつ応えて、御前を退出した久世は、冷や汗ものだった。



 上様に会わせる! 絶対に駄目だ! それは出来ない。
 朝頼が、寵童を侍らせるの好むのは周知の事だった。今は、松寿への寵愛著しく、他の寵童はいない。そして、朝頼の好みは、松寿のような美少年で、元服し月代姿になった者は好まない。
 それからすると、成利が朝頼の気を惹くことは、無いとは思うが、油断はできない。
 久世からすると、今の成利は昔の美少年の面影を失っていない。どころか、むしろろうたけた美しさを増していた。上様の気を惹かれる恐れは十分にある。
 もし、上様に会わせて、成利が上様の気を惹いたら、考えるだけで怖い。松川のような鬼畜な扱いをするとは思えないが、成利には誰の手も触れさせたくない。己だけの、至高の花でいて欲しい。
 絶対に連れて来ない。会わせないと、固く心に誓う久世長澄だった。

「上様、本当に高階様とお会いするのでございますか?」
 上目遣いで、恨めし気に聞く、松寿の顎に手をやりながら、朝頼は応えた。
「なんじゃ、そなた。不満がありそうじゃな」
「あれほど、久世様が肩入れなさるのは、高階様によほどの魅力があるからだと」
 朝頼には、松寿のやきもちがどうしようもなく、可愛い。己を信頼し、一心に慕ってくる、この可愛い小鳥。
「そなたが心配することじゃない。わしの気持ちが誰にあるかは、そなたが一番知っておろう。高階はな、あの久世が、あそこまで一心なのに興味を引かれるだけじゃ。わしが、どうこうするわけじゃないぞ」
 実際そうだった。いまだ、正室も置かず、女の噂も聞かない。寵童を侍らせている話もない。その久世が、あそこまで執着する高階成利に、純粋に興味を引かれるのだった。

 安土から帰還した久世は、すぐに北の丸にいる成利に会いにくる。
「上様が、そなたのことはわしに任せると言われた。これで安心して、ここにおられる」
「お手数をお掛けし、ありがとうございます」
「わしも安心して、あすから四国へ行ける」
「私は、その間ここで」
「そうじゃ、東への侵攻は来年になる。それまでは、ゆるりと過ごすがよかろう」
「何もせず、暮らすだけでは申し訳ございません。何か、お役に立てることはございませんか?」
 確かに、それもそうだろうと、久世も思う。成利も、城主として、忙しい日々を送ってきただろう。それが、日がな一日なにもしないことも、苦痛であろうと思う。
 久世は、あることに閃いた。まさに一石二鳥と思えることに。
「仙殿、それでは頼まれて欲しいことがあるのじゃが」
「なんでございましょうか? 私に出来ることでしたら」
「城の内政を見て欲しいのじゃ。特に家計をな」
「内政、家計を」
「そうじゃ。恥ずかし話じゃが、俄かに大名になった故、そういう人材がおらぬのだ。皆戦働きは優れているがの。高階家は、長年の大名故、そう言ったことはお判りじゃろ。助けて下さらぬか」
 大名と言っても、高階家と久世家では規模が違う。そうは思ったが、歴史の無い、久世家に人材が足らないのは事実だろうと思い、成利は久世の申し出を受けることにした。
 自分にとっても、何かしら役立てることは心の安寧に良いと思った。
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