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8章 城落ちる

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「三郎、津田様からの返信は来たか?」
「はっ、先程届きました。出来るだけ早く将を選び、援軍を送るとあります」
 三郎の手渡す津田からの書状を、成利も自ら目を通す。出来るだけ早くか……確かに、津田様は今手一杯。それでも援軍を送って下さる。それは、ありがたいと成利は思う。
 あの羽島の言い様からも、羽島は松川たちと繋がっているのは明らか。この後、どう出るか……。素直に籠城準備に入るか、なんぞしかけるか……。 
 いずれにしても、こちらは、着々と籠城準備に入るだけだ。そして津田の援軍を待つ。津田の援軍さえ来てくれれば、抑えが利く。
 結局、己がこの城を掌握出来ていないことが、元凶だなと、成利は忸怩たる思いを抱く。
 羽島の動きを警戒しながら、ここまで増長させたのは、己の城主としての力不足は明らかと思うのだ。
 口惜しい気持ちに、歯ぎしりしたい思いに駆られるが、今は先を見るしかないと、己で気を奮い立たせた。
「三郎、籠城の準備じゃ。津田様の援軍到着まで、持ちこたえれば、勝機はこちらにある。あと、羽島の動きには気を配ってくれ。あれが、松川達に通じているは確実」
 もとより、三郎もそう思っていた。羽島の増長ぶりには苦々しいばかりの思いを抱いていた。
「はっ、心得ましてございます」

 大高城は、不穏な空気を内包したまま、慌ただしい動きが増していった。
 その中で、獅子身中の虫が蠢いていた。

「柴田殿、貴殿も籠城が最善と思われるのか」
「殿のご命令だ。実際、松川様の話を蹴れば、そうするよりほかあるまい」
「ですから、蹴らなければよろしいかと」
「殿の命に背くのか!」
「今、この城を松川様たちの連合軍に責められて、持ちこたえられますか? 無理ですよ」
「殿が、津田様へ援軍を要請されておる」
「津田は、西への守勢で手一杯。とてもこの城の援軍に裂く将はいませんよ。つまり、援軍は来ない」
 考える素振りで、下を向く柴田に、羽島はあと一息だと思う。
「籠城は、援軍が望まれる時にだけ有効です。それは柴田殿もお判りでしょう」
 確かにそうだった。必ずや助けが来ると思えばできることで、それがなければ、単に落城を遅らせるだけに終わる。つまり、無駄な抵抗だと言える。
「援軍も望めないのに、籠城するなど愚の骨頂! はっきり言って殿には、この城の主だと言う自覚がおありなのかと思います」
 余りに激しい言いざまに、柴田は驚き羽島の顔を見る。
「籠城の末、落城したら家臣一同は勿論、その家族の命はない。それを守るのが、城主としての務めでございましょう」
 羽島がとうとうと話すのに、柴田も、段々と籠城が無駄なことのように思えてくる。
「それで羽島殿、貴殿はいかがしろと?」
「殿に、駿河に行っていただく。それしかないでしょう」
「しかし、殿は行かないとおっしゃったではないか。昔人質で行かれた折に、随分と辛い目に遭われたと、それが原因やもしれぬ」
「それは幼い子供だったからでしょう。いまだ元服前の子供が、親元を離れた寂しい気持ち、心細さからそう思われたと。実際、松川様は殿と旧交を温めたいと言われております。松川様には、なんの遺恨もないようです。むしろ、殿との再会を待ちわびておられるよし」
「そうかもしれぬが、殿のお気持ち無視するわけにはいかぬじゃろ。あれほどはっきりと、行かぬと申されたのだ」
 ここで羽島は、柴田により近づき、声を潜めて囁くように言う。
「ここは、致し方なし。無理にでもお連れしましょう」
「そ、そのような事! 無礼にもほどがあろう!」
 
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