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7章 大高城主
①
しおりを挟む仙千代が元服し、高階成利と名乗るようになってから、十一年の時が過ぎていた。
城主成定に呼ばれた三郎は、気が重かった。何を下問されるか分かっているからだ。
「三郎、なんじゃ、何を聞かれるか分かっている顔じゃな」
「はっ、……」
「で、どうじゃ成利は?」
「はっ、若殿は未だその……申し訳ございません……」
「まだか……」
このやり取りは、この十一年間何度も交わされた。つまり、成利が女を召す気持ちになったのか。ありていに言えば、女を抱く気になったかを、確認しているのだ。
成利は、正室を迎えることは勿論、側女さえ拒絶していた。近頃は、しかるべき娘をと勧める成定に対し、しかるべき男子を養子に迎えてはと、勧めるくらいだった。
確かに、成利がこのまま女を近づけないなら、当然子は出来ない。そうなれば、誰ぞ養子をとらねばならないのは、必然だった。
しかし、成定は我が子成利の血でこの高階家を継いでいきたかった。成利がこうなったのは、己が松川に対しての見極めを誤ったとの贖罪の気持ちが、その気持ちを強くした。
「そうか……きくのあとの侍女もだめだったしな……」
昨年、乳母のきくが亡くなった。それを機会に若い侍女をと勧めた。見目麗しい女子が側にいればその気になるのでは……という期待だった。しかしそれも成利は拒否し、結局老女がきくの代わりを務めている。
「まあよい、今しばらく待つか……今二十七だな、何とか三十までには……」
独り言のように言う成定に、三郎は平伏しながら、もう無理では? と考えていた。
三郎も、長年苦楽を共にしてきた成利が、正室を迎え子を成すのが一番とは思っている。しかし、側にいるからこそ、その望みは薄いと、思わざるを得なかった。
手を変え品を変え、色々と試しては見たが、全てことごとく徒労に終わった。万策尽きた思いが強い。
当初は、時間が薬になると思っていたが、さすがに十一年も過ぎると厳しいというのが率直な思いだった。
しかし、それを口にすることは出来ない。成定の思いも十分すぎるほど分かるからだ。
「お万は最期まで、孫の顔を見る望みを持っておった。わしも早く見たいものじゃがな……で、夜は穏やかに過ごしておるのじゃろ?」
「はい、静かに眠られておるご様子にございます」
夜半、うなされることは、無くなっていた。それは幸いだった。母のお万の方が亡くなり、乳母のきくも逝った。成利がうなされても、静める者がいないからだ。故に、三郎は成利の心を刺激したくなかった。穏やかに過ごして欲しいとの思いが強い。
三郎にとって、高階家も大事だが、それ以上に成利が大事だった。世継ぎは、最悪養子でもと、最近は思っている。無論、誰にも言えない事ではあるが……。
「父上に呼ばれたのじゃろ」
「はい……」
成利にも、三郎がなぜ父に呼ばれたかは分かっていた。この問題、常に矢面に立つのは三郎。主として、申し訳ない気持ちはあった。
「申し訳ないの、わしは親不孝者じゃな。母上には最期まで望みをかなえてさしあげられなかった。父上にも……いずれそうなるな……」
成利も、この十一年無為に過ごしてきたわけではなかった。何度か試みることもしたが、どうしてもだめだった。
成利の場合、単に両親に孫を抱かせてやれないというだけではない。むしろそれよりも、高階家の世継ぎの問題の方が大きい。
嫡男として、懸命に務めているからこそ、成利の苦悩も深い。世継ぎをもうけることは、嫡男としての大事な責務だとは、成利自身よく分かっている。
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