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5章 地獄からの脱出
⑥
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「仙殿、眠れたか? 野宿ではよう眠れぬであろう、すまぬのう」
「佑さんが謝ることじゃない。わしとて武士じゃ。武士に夜陣は当たり前じゃないか。それに天気も良くて幸いじゃった」
「そうじゃな、雨に降られんだったのは幸いじゃった。このままいけば、日が暮れるまでには大高城に入れそうじゃな」
「ああそうじゃな、あとひと踏ん張りじゃな」
歩き詰めで、疲れているはずの仙千代だが顔色は良かった。そして、会話も弾んだ。出会ってすぐを思い出す。あの時の仙千代は、こうして気さくに話す人だった。
それが、段々と口数少なくなっていった。必要以上の会話をしない。時に視線で気持ちを伝えあう。それはそれで、気持ちが通じ合っているようで嬉しかったが、やはりこうして気さくに会話するほうが良いと思った。
あの忌まわしい呪縛から逃れてきたことが良かったのだと思わせた。微笑みさえ浮かべて話す仙千代に、佑三は心からの安堵を覚えた。
良かった! 本当に良かった! ここまで無事にこれたことを、神に、仏に感謝した。親を亡くして、松川に囚われて以来、神や仏などいないと思っていた。なのに今は感謝している。自分ながら現金な奴だと佑三は心の中で苦笑する。
しかし、実際ここまで雨に降られることも無く来られたことは、見えない力に守られていると強く思えたのだった。
佑三は、心の中であと少しだ。仙千代が大高城に無事入城するまで、どうか守って欲しいと願った。そして、出来ることなら、その後の仙千代も守って欲しいと願った。
自分が力をつけるまで、どうか仙千代を守ってくれ! 佑三は見えない力に心から願った。
同時に、仙千代を真に守られるだけの力をつけると心に誓った。そして、いつか必ず義政を討つ! と、静かに闘志をみなぎらせていた。
「では今日も頑張って行くか!」
佑三の掛け声で、三人は出立した。そしてこの道中同じように、佑三が仙千代の手を引いて先導し、三郎が後に続いた。
三人共体はへとへとだった。足は棒のようになり、豆はつぶれ、血もにじむ。しかし、顔色は明るかった。希望が見えていたからだ。
仙千代は、佑三の手を強く握った。佑三も強く握り返してくれる。この手に引かれて行けば安心だと思えた。
思えば、佑三の手はいつも優しかった。凌辱され振り乱した髪を、優しく直してくれた。穢れを、清めてくれたのもいつもこの手だった。
佑三の手は、仙千代の思いに反することは決してなかった。生涯離したくないと仙千代は強く思った。
早朝から歩いて、昼も過ぎた頃だった。
「早馬ではないか?」
三人は立ち止まった。すると、先方も三人に気付いたようで馬を止まらせ降りてきた。
「もしや……若? 若様ではございませんか!」
「そなた……羽島か?」
「はい、覚えておられましたか! 拙者これから駿河に行くところでございました。若様とこのようなところでお会いできるとは!」
「駿河へ? それじゃったら行き違いにならず良かった。城まであと少しじゃと思っておったところじゃ」
「そうでございましたか。ここで出会えてようございました」
羽島は自分が使者になった経緯を仙千代に語った。それを聞き仙千代は、やはり松川を脱出してきて正解だったと思う。
「そうか、父上も津田様に……わしが脱出してきて良かったな」
羽島は、三年の月日を松川で過ごした仙千代が、松川を見限っていち早く脱出してきたことに驚いた。同時に仙千代の言う通り、行き違いにならず、ここで出会えたことは幸いだったと思う。
「佑さんが謝ることじゃない。わしとて武士じゃ。武士に夜陣は当たり前じゃないか。それに天気も良くて幸いじゃった」
「そうじゃな、雨に降られんだったのは幸いじゃった。このままいけば、日が暮れるまでには大高城に入れそうじゃな」
「ああそうじゃな、あとひと踏ん張りじゃな」
歩き詰めで、疲れているはずの仙千代だが顔色は良かった。そして、会話も弾んだ。出会ってすぐを思い出す。あの時の仙千代は、こうして気さくに話す人だった。
それが、段々と口数少なくなっていった。必要以上の会話をしない。時に視線で気持ちを伝えあう。それはそれで、気持ちが通じ合っているようで嬉しかったが、やはりこうして気さくに会話するほうが良いと思った。
あの忌まわしい呪縛から逃れてきたことが良かったのだと思わせた。微笑みさえ浮かべて話す仙千代に、佑三は心からの安堵を覚えた。
良かった! 本当に良かった! ここまで無事にこれたことを、神に、仏に感謝した。親を亡くして、松川に囚われて以来、神や仏などいないと思っていた。なのに今は感謝している。自分ながら現金な奴だと佑三は心の中で苦笑する。
しかし、実際ここまで雨に降られることも無く来られたことは、見えない力に守られていると強く思えたのだった。
佑三は、心の中であと少しだ。仙千代が大高城に無事入城するまで、どうか守って欲しいと願った。そして、出来ることなら、その後の仙千代も守って欲しいと願った。
自分が力をつけるまで、どうか仙千代を守ってくれ! 佑三は見えない力に心から願った。
同時に、仙千代を真に守られるだけの力をつけると心に誓った。そして、いつか必ず義政を討つ! と、静かに闘志をみなぎらせていた。
「では今日も頑張って行くか!」
佑三の掛け声で、三人は出立した。そしてこの道中同じように、佑三が仙千代の手を引いて先導し、三郎が後に続いた。
三人共体はへとへとだった。足は棒のようになり、豆はつぶれ、血もにじむ。しかし、顔色は明るかった。希望が見えていたからだ。
仙千代は、佑三の手を強く握った。佑三も強く握り返してくれる。この手に引かれて行けば安心だと思えた。
思えば、佑三の手はいつも優しかった。凌辱され振り乱した髪を、優しく直してくれた。穢れを、清めてくれたのもいつもこの手だった。
佑三の手は、仙千代の思いに反することは決してなかった。生涯離したくないと仙千代は強く思った。
早朝から歩いて、昼も過ぎた頃だった。
「早馬ではないか?」
三人は立ち止まった。すると、先方も三人に気付いたようで馬を止まらせ降りてきた。
「もしや……若? 若様ではございませんか!」
「そなた……羽島か?」
「はい、覚えておられましたか! 拙者これから駿河に行くところでございました。若様とこのようなところでお会いできるとは!」
「駿河へ? それじゃったら行き違いにならず良かった。城まであと少しじゃと思っておったところじゃ」
「そうでございましたか。ここで出会えてようございました」
羽島は自分が使者になった経緯を仙千代に語った。それを聞き仙千代は、やはり松川を脱出してきて正解だったと思う。
「そうか、父上も津田様に……わしが脱出してきて良かったな」
羽島は、三年の月日を松川で過ごした仙千代が、松川を見限っていち早く脱出してきたことに驚いた。同時に仙千代の言う通り、行き違いにならず、ここで出会えたことは幸いだったと思う。
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