16 / 88
3章 地獄の日々
①
しおりを挟む
三郎は、仙千代のおかれた境遇に驚愕し、怒りを露わに佑三に向けた。いったいこれはどういうことかと。
佑三は、三郎の怒りはもっともと思うので、ただ頭を下げるしかできない。
そんな二人のようすに、仙千代が割って入る。
「三郎、佑三殿を責めても詮無きこと。ここで若君様に逆らえるものはいないじゃないか」
「そうではありますが、あまりと言えばあまりな扱い……人質にこのような……太守様はご存じなのか」
「それは分からぬ。しかし、わしを若君様付きにされたのは太守様。ゆえにわしをどう扱うかは、若君様の意向次第ということじゃろ」
「わしは、太守様と直接お会いしたことはないが、若君様の言動で黙認されておる節は感じる」
三人とも思うことは同じだった。太守がどう考えているかは分からぬが、少なくとも黙認がなければ、人質にこの扱いはない。
「若、国元の殿にご報告して、対応を伺いましょうか?」
「それは許さぬ!」
仙千代のびしっとした物言いに、三郎よりも佑三が驚く。
ここに来てからの仙千代は、青ざめ憔悴して常に弱々しい姿を見せていた。その仙千代が、激しく一蹴したのだ。
「父上には決して知らせてはならぬぞ!」
「しかし、それでは若がこのまま……」
「よいか、父上に知らせたところでどうなる? どうにもならぬだろう。高階が松川家に反旗出来るか? そのようなこと不可能とは、そなたも分かるじゃろ。知らされた父上が苦悩されるだけじゃ。ただでさえ、父上は大高の城を守るため日々苦心惨憺とされておるのじゃ。これ以上の懊悩を増やすでない!」
「はい、申し訳ございません……わしが浅慮でした。お許しください。しかし、わしは若が……」
絞り出すように言う三郎へ、仙千代は諭すように言う。
「三郎よいか、わしは高階の嫡男。嫡男として、高階家をそして大高城を守られねばならん。それが清和源氏の流れをくむ高階の嫡男の責務じゃ。そのためには、我が身犠牲にせねばならぬこともある。そう思って耐えておるのじゃ。そう思わねば……耐えられることではないがな」
最後の一言は小さく呟くように発せられた。それが本音だろうと思う。
三郎は、主の言葉に何も言えなかった。黙って頭を下げている。
佑三は、仙千代の言葉に深く感じ入っていた。未だ十二歳の元服前の少年の身。痛々しくて、守ってやらねばと思うばかりだった。しかし、内なる仙千代はこれほど強いのか!
弱小大名とは言え、さすがは一城の主の嫡男。家を、城を守る気概をみた。
決して守ってやるばかりではない、そのことに佑三は見直す気持ちを持った。惚れなおしたともいうべき思いだった。
佑三は、三郎の怒りはもっともと思うので、ただ頭を下げるしかできない。
そんな二人のようすに、仙千代が割って入る。
「三郎、佑三殿を責めても詮無きこと。ここで若君様に逆らえるものはいないじゃないか」
「そうではありますが、あまりと言えばあまりな扱い……人質にこのような……太守様はご存じなのか」
「それは分からぬ。しかし、わしを若君様付きにされたのは太守様。ゆえにわしをどう扱うかは、若君様の意向次第ということじゃろ」
「わしは、太守様と直接お会いしたことはないが、若君様の言動で黙認されておる節は感じる」
三人とも思うことは同じだった。太守がどう考えているかは分からぬが、少なくとも黙認がなければ、人質にこの扱いはない。
「若、国元の殿にご報告して、対応を伺いましょうか?」
「それは許さぬ!」
仙千代のびしっとした物言いに、三郎よりも佑三が驚く。
ここに来てからの仙千代は、青ざめ憔悴して常に弱々しい姿を見せていた。その仙千代が、激しく一蹴したのだ。
「父上には決して知らせてはならぬぞ!」
「しかし、それでは若がこのまま……」
「よいか、父上に知らせたところでどうなる? どうにもならぬだろう。高階が松川家に反旗出来るか? そのようなこと不可能とは、そなたも分かるじゃろ。知らされた父上が苦悩されるだけじゃ。ただでさえ、父上は大高の城を守るため日々苦心惨憺とされておるのじゃ。これ以上の懊悩を増やすでない!」
「はい、申し訳ございません……わしが浅慮でした。お許しください。しかし、わしは若が……」
絞り出すように言う三郎へ、仙千代は諭すように言う。
「三郎よいか、わしは高階の嫡男。嫡男として、高階家をそして大高城を守られねばならん。それが清和源氏の流れをくむ高階の嫡男の責務じゃ。そのためには、我が身犠牲にせねばならぬこともある。そう思って耐えておるのじゃ。そう思わねば……耐えられることではないがな」
最後の一言は小さく呟くように発せられた。それが本音だろうと思う。
三郎は、主の言葉に何も言えなかった。黙って頭を下げている。
佑三は、仙千代の言葉に深く感じ入っていた。未だ十二歳の元服前の少年の身。痛々しくて、守ってやらねばと思うばかりだった。しかし、内なる仙千代はこれほど強いのか!
弱小大名とは言え、さすがは一城の主の嫡男。家を、城を守る気概をみた。
決して守ってやるばかりではない、そのことに佑三は見直す気持ちを持った。惚れなおしたともいうべき思いだった。
1
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる