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3章 地獄の日々

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 三郎は、仙千代のおかれた境遇に驚愕し、怒りを露わに佑三に向けた。いったいこれはどういうことかと。
 佑三は、三郎の怒りはもっともと思うので、ただ頭を下げるしかできない。
 そんな二人のようすに、仙千代が割って入る。
「三郎、佑三殿を責めても詮無きこと。ここで若君様に逆らえるものはいないじゃないか」
「そうではありますが、あまりと言えばあまりな扱い……人質にこのような……太守様はご存じなのか」
「それは分からぬ。しかし、わしを若君様付きにされたのは太守様。ゆえにわしをどう扱うかは、若君様の意向次第ということじゃろ」
「わしは、太守様と直接お会いしたことはないが、若君様の言動で黙認されておる節は感じる」
 三人とも思うことは同じだった。太守がどう考えているかは分からぬが、少なくとも黙認がなければ、人質にこの扱いはない。
「若、国元の殿にご報告して、対応を伺いましょうか?」
「それは許さぬ!」
 仙千代のびしっとした物言いに、三郎よりも佑三が驚く。
 ここに来てからの仙千代は、青ざめ憔悴して常に弱々しい姿を見せていた。その仙千代が、激しく一蹴したのだ。
「父上には決して知らせてはならぬぞ!」
「しかし、それでは若がこのまま……」
「よいか、父上に知らせたところでどうなる? どうにもならぬだろう。高階が松川家に反旗出来るか? そのようなこと不可能とは、そなたも分かるじゃろ。知らされた父上が苦悩されるだけじゃ。ただでさえ、父上は大高の城を守るため日々苦心惨憺とされておるのじゃ。これ以上の懊悩を増やすでない!」
「はい、申し訳ございません……わしが浅慮でした。お許しください。しかし、わしは若が……」
 絞り出すように言う三郎へ、仙千代は諭すように言う。
「三郎よいか、わしは高階の嫡男。嫡男として、高階家をそして大高城を守られねばならん。それが清和源氏の流れをくむ高階の嫡男の責務じゃ。そのためには、我が身犠牲にせねばならぬこともある。そう思って耐えておるのじゃ。そう思わねば……耐えられることではないがな」
 最後の一言は小さく呟くように発せられた。それが本音だろうと思う。
 三郎は、主の言葉に何も言えなかった。黙って頭を下げている。

 佑三は、仙千代の言葉に深く感じ入っていた。未だ十二歳の元服前の少年の身。痛々しくて、守ってやらねばと思うばかりだった。しかし、内なる仙千代はこれほど強いのか!
 弱小大名とは言え、さすがは一城の主の嫡男。家を、城を守る気概をみた。
 決して守ってやるばかりではない、そのことに佑三は見直す気持ちを持った。惚れなおしたともいうべき思いだった。
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