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10章
ルシアの死
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ルシアは、自室に駆け戻り護身用の剣を取り出す。亡き父が与えてくれたもの。装飾の美しい、身を守ると言うより、飾るための物と言ってよかった。
母もこれと同じような物を父に与えられ持っていた。そう、そしてその剣で喉を突いて逝ってしまわれた。僕もお父様とお母様の元へ参ります。僕さえいなければ、兄上様と王太子様が争うことはなくなる。罪深い僕を許して……ごめんなさい。
ルシアは、剣を喉にあてて一息に突いた。そこへルシアを追ってきたセリカが入って来た。セリカは驚愕して叫んだ。
「ル、ルシア様~」
その叫びに、フェリックス、そしてアレクシーも駆けつける。
「侍医を! 早く侍医を呼べ! ルシア! ルシア!」
「ルシア様……」
フェリックスがルシアを寝台に横たえるのを、アレクシーは青ざめた表情で見守る。フランソワ、そして側近達もそれを取り巻くように見守る。一様に表情は青ざめている。
侍医が転がるように駆けつけ、ルシアを診る。その表情は厳しく、青ざめている。侍医にできることはなかった。絞り出すように、震える声で告げる。
「既に……こと切れておられます……」
「馬鹿な! そなた侍医だろ、何とかせよ! ルシア! ルシア~」
ルシアに反応はない。侍医の診立てはあきらかだった。
「ルシア様! ルシア様~」
アレクシーも縋るように呼ぶ。なぜ? なぜこんなことに……。
この場にいるすべての者が、あまりの突然の悲劇に声も出ない。茫然自失の状態だった。
ルシアの足元に縋り付くように泣いていたセリカが、はたと思い立ったように呟く。
「そう言えば、確か伝説が……」
それをアレクシーが聞きとめた。
「伝説? 伝説とは何か?」
「オメガが自ら死を選んだ時、その日のうちなら蘇ることがあると……」
その言葉に、アレクシーは勿論、フェリックスも色めき立ち、二人同時に発する。
「どうやったら蘇る?」
「確か、運命の番のアルファが、息を吹き込めば蘇ると……ただうろ覚えで確かな事とは申せませんが……」
「うろ覚えでも、なんでもよい! 何もせねばルシアはこのままじゃ」
そうフェリックスが言った時、既にアレクシーは。大きく息を吸い込み、ルシアの口に吹き込んだ。
先を越されたフェリックスは、しかし、それを見守った。
アレクシーは、その後も何度か同じように、ルシアに息を吹き込むが、ルシアに反応はなかった。
「アレクシーどくのじゃ、ルシアの番は余じゃ。余がせねば蘇る事はない」
アレクシーは、悄然としてその場を父に明け渡す。そして、父がルシアに息を吹き込むのを見守った。
もし、これでルシアが蘇ったら、自分はルシアを諦めねばなるまい。運命の相手である己よりも、番である父との絆が勝るということだから……。
でもそれでもいい、蘇って欲しい。生きて欲しい。このままルシアが逝ってしまったら、自分は一生後悔する。運命の相手を死なせたのは己の責任だ。
アレクシーは、祈るように見守る。アレクシーだけでなく、この場にいるすべての人が、ルシアの蘇りを願い、固唾をのんで見守る。
フェリックスも必死だった。何度も、何度も「ルシア、帰ってくるのじゃ」そう念じながら息を吹き込む。
しかし、ルシアに反応はない。やはり、単に伝説なのか? それとも伝説は、運命の番であるアルファだ。それならば、フェリックスは、番だが運命の相手ではない。アレクシーは、運命の相手だが番ではない。
だから、だめなのか? もしそうならルシアが蘇ることはない。しかも、ルシアの体は明らかに温もりが消えていた。焦燥感と共に暗雲が漂う。
母もこれと同じような物を父に与えられ持っていた。そう、そしてその剣で喉を突いて逝ってしまわれた。僕もお父様とお母様の元へ参ります。僕さえいなければ、兄上様と王太子様が争うことはなくなる。罪深い僕を許して……ごめんなさい。
ルシアは、剣を喉にあてて一息に突いた。そこへルシアを追ってきたセリカが入って来た。セリカは驚愕して叫んだ。
「ル、ルシア様~」
その叫びに、フェリックス、そしてアレクシーも駆けつける。
「侍医を! 早く侍医を呼べ! ルシア! ルシア!」
「ルシア様……」
フェリックスがルシアを寝台に横たえるのを、アレクシーは青ざめた表情で見守る。フランソワ、そして側近達もそれを取り巻くように見守る。一様に表情は青ざめている。
侍医が転がるように駆けつけ、ルシアを診る。その表情は厳しく、青ざめている。侍医にできることはなかった。絞り出すように、震える声で告げる。
「既に……こと切れておられます……」
「馬鹿な! そなた侍医だろ、何とかせよ! ルシア! ルシア~」
ルシアに反応はない。侍医の診立てはあきらかだった。
「ルシア様! ルシア様~」
アレクシーも縋るように呼ぶ。なぜ? なぜこんなことに……。
この場にいるすべての者が、あまりの突然の悲劇に声も出ない。茫然自失の状態だった。
ルシアの足元に縋り付くように泣いていたセリカが、はたと思い立ったように呟く。
「そう言えば、確か伝説が……」
それをアレクシーが聞きとめた。
「伝説? 伝説とは何か?」
「オメガが自ら死を選んだ時、その日のうちなら蘇ることがあると……」
その言葉に、アレクシーは勿論、フェリックスも色めき立ち、二人同時に発する。
「どうやったら蘇る?」
「確か、運命の番のアルファが、息を吹き込めば蘇ると……ただうろ覚えで確かな事とは申せませんが……」
「うろ覚えでも、なんでもよい! 何もせねばルシアはこのままじゃ」
そうフェリックスが言った時、既にアレクシーは。大きく息を吸い込み、ルシアの口に吹き込んだ。
先を越されたフェリックスは、しかし、それを見守った。
アレクシーは、その後も何度か同じように、ルシアに息を吹き込むが、ルシアに反応はなかった。
「アレクシーどくのじゃ、ルシアの番は余じゃ。余がせねば蘇る事はない」
アレクシーは、悄然としてその場を父に明け渡す。そして、父がルシアに息を吹き込むのを見守った。
もし、これでルシアが蘇ったら、自分はルシアを諦めねばなるまい。運命の相手である己よりも、番である父との絆が勝るということだから……。
でもそれでもいい、蘇って欲しい。生きて欲しい。このままルシアが逝ってしまったら、自分は一生後悔する。運命の相手を死なせたのは己の責任だ。
アレクシーは、祈るように見守る。アレクシーだけでなく、この場にいるすべての人が、ルシアの蘇りを願い、固唾をのんで見守る。
フェリックスも必死だった。何度も、何度も「ルシア、帰ってくるのじゃ」そう念じながら息を吹き込む。
しかし、ルシアに反応はない。やはり、単に伝説なのか? それとも伝説は、運命の番であるアルファだ。それならば、フェリックスは、番だが運命の相手ではない。アレクシーは、運命の相手だが番ではない。
だから、だめなのか? もしそうならルシアが蘇ることはない。しかも、ルシアの体は明らかに温もりが消えていた。焦燥感と共に暗雲が漂う。
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