上 下
55 / 55
最終章 光の先に見つけた幸せ

しおりを挟む
「お前はここへ来た時から星夜だったけど、戸籍でも正式に星夜なって、初めてだな」
 星夜は今、彰吾の腕の中。そう、今夜は星夜になって初めて彰吾に抱かれている。
「凄く嬉しい……星夜になって初めてだから」
 彰吾の口付け、愛撫も何もかも初めてのような気がする。
 星夜は、彰吾の腕の中で、いつも以上に甘い陶酔を味わった。色づいた体で、喘ぎ、甘い声で強請る星夜に、彰吾の情欲も刺激される。
 この夜星夜は、初めて彰吾の上に乗り、自分から動いた。指を彰吾のそれに絡ませて、陶酔の高みに上っていく星夜は、扇情的で美しい。
「ああんっ……あっ、いくっ……ああーっ」
 星夜は体の中に彰吾の精を感じながら、陶酔の極みに登る。そして、彰吾の胸に抱きこまれる。
 そのまましばらく、お互いの温もりと鼓動を感じている。確かに生きている。愛する人と共に。
「良かったよ。お前は最高だ」
 彰吾が、星夜の乱れた髪を撫でつけながら、優しく言う。
「でっ、でも凄く乱れて、わたしのこと、はしたないと……」
「はしたないなんて思わない。今日のお前は、いつにも増してきれいで、そして魅力的だよ」
 耳元で囁くように言う彰吾。星夜の体は更に色付き、再び二人は一つに繋がり、とろけるような甘い夜を過ごすのだった。

 今日は入籍の日、星夜は、いつもより大分早くに目覚めるが、そのまま彰吾の腕の中で過ごす。この一時が極上の幸せ。
「うん……起きたのか? 早いな。今日は入籍の日だな。後から渡す物がある」
「渡す物? なんですか?」
「それは、後からのお楽しみ」
 えーっ、なんだろう? と思いながら星夜は、もう少し幸せを味わってから、起き出した。
 いつも目覚めてから、起きるまでの、この彰吾の腕の中で過ごす一時が大好きなのだ。
 正式に星夜になってから、一週間。この日を楽しみにしてきた。朝から、二人で役所へ行き、入籍届を出したら、その足で新婚旅行。
 星夜にとって旅行へ行くのは、高校の修学旅行以来。つまり、プライベートでの旅行は、中学生になってから初めてなのだ。
 行き先の北陸がどんな所か知らない。けれど、彰吾が連れていってくれる所ならどこでもいい。ワクワクして、今の自分は子供と同じ、なかば呆れながらそう思うのだった。

「支度はできたか? おーっ! よく似合っている、涼し気でお前にぴったりだ」
 この日のためにと彰吾が選んでくれた服。言わずもがな星夜も気に入っている。
「さあ、これだよ」
 じゃーんという感じで、彰吾が後ろ手に隠していた物を出す。
「えっ! 指輪!」
「そうだよ、結婚指輪だ。お前も薄々気づいてただろ?」
「ううん、全然……夢みたい……わたしが貰っていいの?」
「もちろんだよ、結婚指輪なんだから。俺がつけてやるよ」
 指輪は、スムーズに星夜の薬指にはまる。
「うん、ぴったりだ。前にサイズを確かめたからな」
 そういえば、彰吾に全てを告白した後、指のサイズを測った。けれど、まさかこの指輪のためとは、あの時は思わなかった。普通はそこで気付くだろうが、そうでないのが、世事に疎い星夜らしく、彰吾にはそこがまた可愛いところでもある。庇護欲も駆り立てられる。
 小鳥を守る、親鳥のような自分。全く、自分がこんな気持ちになるとはなと、彰吾は苦笑する思いだ。
「俺のは、お前がはめてくれるか」
 そうだ、結婚指輪だからお揃いなんだ、星夜は感激の面持ちで、彰吾の指に指輪をはめる。
「うん、よしっ! お互いの指輪に、相手の名前が刻印してあるから、いつも一緒にいるということだ」
 星夜はまじまじと指輪を見つめる。そして一度外して刻印を確かめる。彰吾の名が刻まれている。心の底から感動が湧いてくる。再び指輪をはめる。
 もうこれは決してはずさない。ならば、一生彰吾と共にいることが出来る。
「嬉しい……ありがとう。改めて、至らぬわたしを、どうかこれからもよろしくお願いします」
「ああ、俺もな。お前のことは一生離さないし、お前も絶対に離れるな」
 星夜は深く頷いた。もうこの人から離れては、生きてはいけない。愛している。こんなにも、人を愛するようになるとは、思いもしなかった。
 愛を知らない、冷たく乾いたところで生きてきた。そんな自分を愛し、愛することを教えてくれた彰吾。最愛の人、決して離れない。

「物凄く緊張しました。無事に受理されて良かった」
「ははっ、横にいて、お前の緊張が伝わってきた。受理されないってことは絶対にないが、まあこれで安心だな。区切りもついたしな。今日からお前は、柏木星夜だからな」
 柏木星夜、なんて良い響きなんだろう。星夜は、柏木星夜、柏木星夜と何度も呟く。わたしは柏木星夜。
 秋好香として生きてきた。それが、神林香月になることを強制され、逃げてきた。あの日、秋好香は死んだのだ。そして生まれ変わって、秋好星夜になり、今日柏木星夜になった。
 柏木星夜……嬉しい。心がわくわくして、そしてときめく。
 あの日、ぼろぼろの瀕死の小鳥のようだった自分を、彰吾は助けてくれ、傷を癒してくれた。そして、安息の止まり木を与えてくれた。
 安息の止まり木をで知ったのは、初めての恋。星夜は、安らぎと、恋のときめきを同時に知った。それは、彰吾のおかげ。彰吾に出会って良かった。
 神を信じたことはなかったが、今は神に心から感謝する。
 あの日から、今日までの出来事を思いだすと、夢のようだと思う。本当に生まれ変わったかの如く、人生ががらっと変わった。
 絶望の淵に立たされた自分を、神も同情したのだろうか。救い出してくれたのは、感謝しかない。
 星夜は、愛する人に寄り添い、そして小さい声だが、はっきりと告げる。
「ありがと、彰吾さん。心から愛しています」
「ああ、俺も愛しているよ」


 完結しました。お読みいただきありがとうございました。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

美春と亜樹

巴月のん
恋愛
付き合っていた二人の攻防による復縁話 美春は先輩である亜樹と付き合っていたが、度重なる浮気に限界を感じて別れた。 しかし、別れてから積極的になった彼に対して複雑な思いを抱く。 なろうにも出していた話を少し修正したものです。

【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす
BL
Ωであることを隠して生きてきた少年薬師、エディ。 両親を亡くしてからは家業の薬屋を継ぎ、細々と生活していた。 しかしとうとう家計が回らなくなり、もっと稼げる仕事に転職することを決意する。 職探しをしていたエディは、β男性対象で募集しているメイドの求人を見つけた。 エディはβと偽り、侯爵家のメイドになったのだが、お仕えする侯爵令息が極度のΩ嫌いだった――!! ※※※※ ご注意ください。 以下のカップリングで苦手なものがある方は引き返してください。 ※※※※ 攻め主人公(α)×主人公(Ω) 執事(β)×主人公(Ω) 執事(β)×攻め主人公(α) 攻め主人公(α)×主人公(Ω)+執事(β)(愛撫のみ) モブおじ(二人)×攻め主人公(α)

すばる君♡BIIIIG LOVE!!!

野中にんぎょ
BL
 矢部睦月(31歳・昴を愛するがゆえ暴走気味な喫茶店店主)は、五年付き合っている年下の恋人・奥泉昴(27歳・愛情表現下手な美容師)に夢中。睦月は昴を全力で愛し全力でやきもちを焼き全力でサポートしてきたが、昴とヘアサロンの顧客の間に起きたトラブルに割って入ってしまい、昴から「次に同じようなことがあったら別れる」と宣告されてしまう。昴との別れに怯え本音を隠すようになる睦月だったが……?  愛なら、なんでもアリですか?エロス(恋愛)、ストルゲ(友愛)、マニア(偏執的な愛)、アガペー(無償の愛)。四つの愛が入り乱れる、すったもんだラブ!!

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも
恋愛
 その昔、精霊女王の加護を賜った少女がプルメリア王国を建国した。 彼女は精霊達と対話し、その力を借りて魔物の来ない《聖域》を作り出した。  人々は『精霊姫』と彼女を尊敬し、崇めたーーーーーーーーーーープルメリア建国物語。  今では誰も信じていないおとぎ話だ。  近代では『精霊』を『見れる人』は居なくなってしまった。  そんなある日、精霊女王から神託が下った。 《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》  その日エルメリーズ侯爵家に双子が産まれた。  姉アンリーナは精霊姫として厳しく育てられ、妹ローズは溺愛されて育った。  貴族学園の卒業パーティーで、突然アンリーナは婚約者の王太子フレデリックに婚約破棄を言い渡された。  神託の《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》は《長女》ではなく《少女》だったのでないか。  現にローズに神聖力がある。  本物の精霊姫はローズだったのだとフレデリックは宣言した。  偽物扱いされたアンリーナを自ら国外に出ていこうとした、その時ーーー。  精霊姫を愚かにも追い出した王国の物語です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初心者のフワフワ設定です。 温かく見守っていただけると嬉しいです。

お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
事故で死んで気がつけば俺はよく遊んでいた18禁BLゲームのお助けキャラに転生していた! 主人公の幼馴染で主人公に必要なものがあればお助けアイテムをくれたり、テストの範囲を教えてくれたりする何でも屋みたいなお助けキャラだ。 お助けキャラだから最後までストーリーを楽しめると思っていたのに…。 優しい主人公が悪役みたいになっていたり!? なんでみんなストーリー通りに動いてくれないの!? 残酷な描写や、無理矢理の表現があります。 苦手な方はご注意ください。 偶に寝ぼけて2話同じ時間帯に投稿してる時があります。 その時は寝惚けてるんだと思って生暖かく見守ってください…

溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル
BL
運命を受け入れたスパダリα(30)×運命の恋に拾われたΩ(27) ──愛してる。俺だけの運命。 婚約者に捨てられたオメガの千歳は、オメガ嫌いであるアルファのレグルシュの元で、一時期居候の身となる。そこでレグルシュの甥である、ユキのシッターとして働いていた。 ユキとの別れ、そして、レグルシュと運命の恋で結ばれ、千歳は子供を身籠った。 新しい家族の誕生。初めての育児に、甘い新婚生活。さらには、二人の仲にヤキモチを焼いたユキに──!? ※こちらは「愛人オメガは運命の恋に拾われる」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/590151775/674683785)の続編になります。

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

処理中です...