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9章 絶望の先の光

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 星夜は、彰吾の腕の中で目覚めた。愛する人の腕の中で目覚める幸せをかみしめる。こんなに幸せでいいのだろうか……。
 思えば、自分は恋の一つも知らずにここまできた。この年になって、初恋なのだ。……でも初恋は実らないって、言わないか……。
 星夜は、突然不安を覚える。……どうしようと考えていると、彰吾の目が開き、どきっとする。
「どうした? 何か悩んでいるのか?」
「悩んでいるっていうか……わたしは、えっと……彰吾さんが……初恋なんです」
「それは光栄だな! 俺もお前が初恋だぞ」
「えっ! そうなんですか?」
「ああ、本気で好きになったのはお前が初めてだから、初恋だろ。だけど、なんで初恋で悩むんだ?」
「は、初恋は実らないって……」
「ふっ、全くお前は。愛し合ってるんだから実ってるじゃないか。これから、この恋を確かなものにするからな。俺を信じて全て任せろ。悩むことは何もない」
 力強い彰吾の言葉に、星夜は頷く。そうだ、全てこの人に任せておけばいいんだ。星夜は、既に心からの信頼を、彰吾に寄せている。
「昨日も言った通り、改名と入籍の件を早速成瀬に依頼する。あいつは、仕事は出来るから安心だ。お前が柏木星夜になるまであと少しだよ」
「ほんとにいいのですか? 彰吾さんの親御様の承諾とかは……」
「俺がそうしたいんだよ。それに親のことは心配いらない。次男だから自由にさせてもらっている。まあ、兄貴がしっかりしているのと、俺、外科医の腕は確かだから病院へは貢献しているからな」
 そういえば、以前にそのような事を聞いた覚えがある。彰吾さん一流の外科医なんだ。
「さあ、そろそろ起きるか。朝飯の支度手伝ってくれるだろう」

 勿論手伝う。星夜は、食事の支度の手伝いが大好きになっている。ましてや、今朝はいつにもまして嬉しい。
 いそいそと手伝い、そして幸せな食卓を囲んだ。食事がこんなに楽しくて、幸せを感じるとは、ここへ来て初めて知った。彰吾が教えてくれた。
 出来るなら、自分だけで食事の支度をしたい。夕食を作って待っていたら、驚くかな……。喜んでくれるかな……。いや、それは美味しくないとだめだ。美味しい食事か……まだちょっと無理だな。ちょっとどころか、かなりハードルが高いなあ……。
 早く一人で、美味しい食事を作れるようになりたい。いや、絶対作れるようになって、彰吾さんに喜んでもらおうと、固く心に誓う星夜だった。

「成瀬からメールの返信がきた。早速今日の夕方、俺が帰った頃に来てくれるそうだ。あいつには全て知らせるが、弁護士としての守秘義務があるし、人間も信用できるから、心配いらない」
「わざわざ来ていただいて、申し訳ないです」
「お前の話を聞いて、籍を入れるまでは、なるべく外へ出したくないんだ。万が一邪魔が入ると、煩わしいからな。成瀬は信用できるが、それでもお前と二人にはしない」
 星夜は、彰吾の腕を掴んだ。それが、嬉しいという星夜の、精一杯の意思表示。それは、彰吾にも伝わる。彰吾は、星夜を抱きしめる。
「じゃあ、行ってくる。定時に上がって、急いで帰って来るからな。いい子にしているんだぞ」
 そう言って、額に口付ける。唇に……それは深くなる。そうなると、朝からやばい。さすがにそれは困ったことになると、額で我慢した。
 星夜は、それでもどきっとした。
 確かに昨夜、全てを彰吾へ捧げて、体の隅々までさらけ出した。だけど、これは違う。昨日までの朝の見送りと違う。ほんの額への口付け。それでもドキッとして、心がときめいた。
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