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8章 絶望

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 香が一人思い悩んでいると、東月が声もかけずに入ってきた。
「なっ、なにっ! 今は一人でいたい、出ていってっ」
「ふふっ、それは出来ない。お前が素直になれるよう躾てやるよ」
 そう言いながら香に近づき、逃れようとする香の手を掴み、着物をはぎ取り、持っていた紐で縛り上げる。
「いやっ! やめてっ!」
「だから言っただろ、躾だって。師に異論を唱える罰でもある。お前が素直に師に従うことが出来るようにとの、宗家と若宗家の考えなんだよ」
 東月の言葉に、香は驚き、そして心を挫かれた。何をされるのか、怖さで身がすくむ。
「大人しくなったな、その方がいいぞ。奥だから声は響かないと思うが、余り大声を出すと、口枷することになるからな」
 薄ら笑いを浮かべながら、組紐を取り出し、香の中心のものを縛めていく。東月は好んでこれをする。香をいけない苦しみに追い込むのだ。しかし、それだけではなかった。
 東月は尿道ジプーを取り出して香に見せる。
「今日はこれをお前のものに入れてやるよ。本来出すところに入ってくるのは辛いぞ。辛くないと罰にはならないからな」
 東月の言葉に、香は益々恐怖に身がすくむ。そしてすぐに、入ってくるそのおぞましい感覚に身を固くする。
「いやっ! あーっ……あっ、あっ……」
「そうだ、じっとしていろ。動くとお前が痛い目にあうだけだからな。ふふっ、全部入ったぞ」
 恐怖と、おぞましい感覚に、香は声もまともに出せない。その香を楽しむように、東月は、入ったジプーを戻したり入れたりを繰り返す。その度に香は、体中の神経を刺激されたような感覚を味わわされる。
「もう……もう許して」
 涙ながらに許しを請う。いつもは、東月に抱かれても翻弄させられることはなかった。それが、東月は、自分の師ではないという香の矜持でもあった。しかし今は、その東月に許しを請うしかできない。しかも、涙が溢れる……。
「ふふっ、さすがに堪えたようだな。いいかこれは罰だからな。よく覚えておくんだぞ」
 東月が部屋を出て行った後、香はベッドの上で泣いた。ここへ来た時決して泣かないと決めた。けれど涙が止まらない……。

 翌日香は、大学へ着くなり父へと電話をする。昨夜から父へ早く知らせたかった。しかし、神林から掛けると誰かに聞かれる恐れがある。
「お父様、助けてっ……」
 神林へ行ってから十年近く、決して泣き言を言わなかった香の悲痛な訴えに父桜也の心は痛んだ。もとより、秋好にとっても飲める話ではない。
「大丈夫だ、わたしから神林の宗家へは、考え直していただくようにお願いする。今日午後から呼ばれているのは、その話だろうからな」
 秋好にとって香は大切な跡目、それを誠実に訴えればわかってもらえると桜也は考えた。亡くなった父親の藤之助と比べれば、未だ世間知らずの青年のようなところのある人なのだ。
 香を神林へ行かせたのも、藤之助の考えに従ったまでにすぎない。桜也では、香を犠牲にする決断は出来なかった。
 己に冷徹さがない故に、他人のそれを理解できない。桜也はそう言う人なのだった。
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