転生…籠から逃げた小鳥の初恋

梅川 ノン

文字の大きさ
上 下
42 / 55
8章 絶望

しおりを挟む
 師走とは思えない暖かい日だった。香は大学から帰ると、宗家に呼ばれた。
「香さんお連れしました」
「入りなさい」
 古城に促され中へ入ると、既に秋月と東月もいたので、微かに違和感を覚えた。まだ夜ではないので、閨の務めではないだろうが……。
「皆揃ったところで今後の神林流に関する大事な話がある。皆、よいか」
 宗家の言葉に、一体何の話だろうと思いながら香は、気を引き締める。その後の宗家の話は、香の想像を超えていた。余りのことに、暫し呆然とし、言葉を失った。
「そっ、それは……」
「だから、言ったじゃろ。次の若宗家は、香、お前だ。神林流十五代目の宗家は、香月と改名したお前がなるのだ」
「でっ、でも、わっ、わたしは秋好の」
「何度も言わせるでない。お前は秋好流ではなく、その本家本流である神林の宗家を継ぐのだ。いいか、これは決定事項だ!」
「しっ、しかし……わっ、わたしは」
「くどいぞ香! 師の言うことに異を唱えるのか! お前の才能を見込み、この伝統ある神林の次代宗家にしてやるというのに、なんの不足があるのじゃ! 秋好は神林の枝ではないか!」
 いつにない、激しい宗家の叱責に、香は怯えたように身を固くした。古城はこんな時も、常の能面のような顔を崩さない。東月は、微かに薄ら笑いを浮かべる。
「まあ、宗家……香も急な事で心の整理が出来んのでしょう。少し頭を冷やせば、分かる事でしょう。香、部屋へ戻りなさい」
 秋月が宗家を宥めるように言い、ひとまずはこの場を納めると、古城が香を連れて部屋を出る。
「お前は、香に甘すぎやせんか」
 いつも従順な香が、意外だったのだろう、怒りを納めきれない昭月が息子に苦言を呈する。
「それは、ありません。香に一番厳しいのは私です」
 それは事実だった。どうしても東月の才能と比べるのか、秋月は香に対して、冷たく厳しいところがあるのだ。
「だったら厳しく諭さねばならぬぞ。師に逆らうなど論外であるとな。宗家になるお前の役目だ」
「お任せください。それで、秋好へはいつ伝えますか?」
「そうだな、早い方がいいだろう。明日にでも桜也さんを呼び出そう。お前も同席しなさい」

 自室へ戻った香の動悸は中々収まらない。香にとってあまりにも一方的な通達だった。宗家の言うように秋好は、神林の枝にすぎなく弱小流派であるのは確か。しかし、その秋好流のために、この十年を耐えてきたのだ。
 香にとって心の支えは、秋好流の次代宗家になり、秋好流を盛り立てること。それは亡き祖父との約束でもあった。いくら、伝統ある神林の宗家になると言えども、秋好を出ることなどありえないことだ。
 しかも、涼子との結婚も考えられない。香にとって涼子は、主筋の娘で、それ以上の感情はない。愛情もない人との結婚なんて思いの外だ。
 このことをお父様はご存じだろうか? おそらくまだだろう……伝えないと、そして何とか阻止してもらわないと……。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝
ファンタジー
 稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。  式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。  大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。 ★シリアス:コミカル=2:8

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

処理中です...