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5章 愛している

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 食事が終わり、後片付けも二人で済ます。これも習慣になっていた。
「星夜、ちょっと書斎に来てくれるか?」
「?……はい」
 なんだろう? とは思ったが、星夜は素直に彰吾の後を付いて行き、書斎へ入る。
「先ずはこれを見てくれ」
 『秋好香』の画像を見せる。パソコンを覗き込んだ星夜の顔色がたちまち変わる。
「ちっ、違うっ――わたしじゃない! 違うっ!」
 取り乱し、叫ぶように言う。その激しい反応に、彰吾はさすがに驚き、狂乱したかのような星夜を抱きしめる。ここまでの反応を見せるとは……しかし、だからこそ星夜の過去が『秋好香』と物語っている。
 彰吾は、星夜を抱きしめて落ち着くように、優しく頭から背を撫でてやる。しばらく、かなりの時間そうしていると、星夜の脈打っていた心臓の音も、次第に落ち着いてくるのを感じる。
「大丈夫だ、心配いらない。俺はお前を、秋好香へと戻すためにこれを見せたのではない。お前が、死を選ぶほどに逃れたかった所へなど、戻す気持ちはさらさらない」
 星夜は彰吾を見上げた。その瞳は潤んで不安気だ。星夜は怖いのだ。秋好香に戻ることが……。ここに、このままいたい……けれど、自分が秋好香だと明かせば、それは叶わない。そう思っている。連れ戻されるのが怖い、だから決して自分の本当の名を明かさなかった。
 そして、最近は星夜と呼ばれることにもなれ、ひょっとしたら自分は昔から星夜だったのではと、ありもしない事を思ったりすることもあった。
 星夜になってからの、ここでの彰吾との暮らしは、秋好香だったころには決して味わえなかった、静かな安らぎがあった。
「俺はお前を、星夜をここにおいておきたいと思っている。俺はお前に魅かれている。愛しているんだ。だからお前にはここにいて欲しい」
 真摯な愛の告白だ。今まで、可愛いや、きれいは何度も言われた。だが、愛しているは初めて言われた。星夜は全身で喜びを感じた。しかし、それを受ける資格が自分にあるとは思えない。
「あなたは、わたしのことを何も知らないのに、愛しているなんて……わたしの何を知って愛していると……」
「確かに、ここへ来る前のお前を、俺は何も知らない。しかし、お前はここへ来てから、日々俺を魅了する。お前はきれいで、そして可愛い。愛さずにはいられない」
 そんなにもわたしを……嬉しい。星夜は心からの喜びを感じる。そして、自分の心にも彰吾への愛が芽生えていることを自覚する。けれど、それを伝える勇気はない。彰吾の愛を受け入れる資格が自分にはないと思うから……。
「わたしは汚れている……あなたに愛される資格はない」
 出来れば言いたくない。この人にこそ、明かしたくない。忌まわしい過去。この人に明かすくらいなら、ここを出て行った方がいい。ここにいたい、この人の側にいたいけど……。だが、自分は汚れている。
 星夜は、出て行こうと決心して、抱きしめる彰吾の腕から離れようとする。しかし、彰吾の腕は力強く、離してはくれない。星夜は一時、全力で抗ったが、そのまま崩れ落ちるようにして泣いた。それを彰吾が抱きかかえると、そのまま彰吾の胸で泣いた。
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