転生…籠から逃げた小鳥の初恋

梅川 ノン

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5章 愛している

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「よしっ、夕飯の準備だな、星夜お前も手伝え」
 彰吾が、掛け声をかけると、星夜もよしっ、とばかりにキッチンへ向かった。無論まだ彰吾がメインに造るのだが、初めの頃に比べれば、星夜も大分戦力になってきた。
 彰吾から指示されなくても、必要な食器を出したり、盛り付けをしたりは、出来るようになっている。二人で一緒の共同作業という感じになってきているのだ。
 今日の献立は、かつおのたたきに筑前煮、そしてスナップエンドウの出汁付けと言う、純和風だ。彰吾は、渡米経験がある割には、和食派なのだ。むしろアメリカで暮らしたからこそかもしれない。
 星夜も、あっさりしたものの方が好きなので、不満はない。どころか、彰吾の作る物は、なんでも美味しい。この人は、医者なのに料理も上手だと、いつも思っている。
「星夜、お前はかつおのたたきはいつも何で食べていた?」
 聞かれても分からない。何で食べていたのか? そもそもかつおのたたきを食べたことがあるのか……記憶にない。普通の刺身とは違うよな……。
「食べたことないのか?」
「覚えていなくて……」
 なるほど、これもか……とにかく星夜は食べることに関心がなかったのだろう。多分出されたものを食べていただけ、そんな感じがするのだ。それが、最近は美味しい物には、美味しいと反応し、関心も示すようになっている。これも、良い傾向だと彰吾は思っている。生きる意欲が湧いている証拠に思う。

「出来たな、さあ食うぞ。かつおのたたきはポン酢と塩、両方試してみろ。俺は塩の方が好きだがな」
 星夜は勧められたように、始めは塩、次にポン酢で食べる。
「あっ、ほんとだ。ポン酢もいいけど、塩の方が美味しい」
「そうだろう、塩の方が素材の良さが生きるんだよな」
 こうして出来上がった料理を、いつものように二人で食べる。最初の頃と比べると、星夜は格段に食べるようになった。そのせいもあるだろう、肌の色艶も良くなった。静かに、そして上品に食べる星夜を見ながら、彰吾は充足感を感じる。
 幸せだと思う。この幸せを持続させていかねばならない。そのためにも、食事が終わったら、今晩……。一度は通らねばならない道。
 事実を星夜に示せば、どう反応するか……それは彰吾にも分からない。しかし、おそらく食欲はなくなるだろう。だから、先ずは食事だと彰吾は考えたのだ。
「この、スナップエンドウみずみずしくて美味しいですね」
「ああ、美味いな。これはさっと茹でて、出汁に付け込むだから簡単にできるしな」
「そうなんですね。色も鮮やかできれいです」
「そうだな。スナップエンドウもきれいだが、そうやって食べているお前もきれいだぞ」
 星夜の顔がたちまち染まる。きれいって……食べてる男がきれいなんて、そんなこと……。
 頬を染めて、恥ずかしそうにする星夜が可愛くて、愛おしい。だが、これ以上指摘するのはやめておこうと、彰吾は自粛した。
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